アラタナ社がスタートさせた企業間留学制度《クロスターンシップ》。社員は会社を辞めずに他社を知り、企業は同業他社の取り組みを知れるというこの取り組み。この制度を運営している人事広報担当者とWEBデザイナーとして企業間留学した方に話を伺った。
WEB・IT業界は人材の流動性が高い。そのため、採用・定着施策として様々な制度が生まれてきている。
今回取り上げるのは、宮崎に本拠を構えるアラタナ社がスタートさせた「クロスターンシップ」という企業間留学制度だ。
この制度は、アラタナと制度に参加する企業との間で一定期間、社員が入れ替わって業務に就くというもの。
参加企業は、新しい視点を取り入れて自社の業務を改善することができ、社員はまるで「転職したかのような環境」に身を置き実際に業務に就くことで、自身のキャリアアップにつながる、という企業側・社員側、どちらにもメリットを生むことを目指している。
※現在の参加企業はリブセンス、ピクシブ、LIGの3社。今後も制度に参加する企業を募集していくという。
モデルケースとして留学制度を利用したアラタナ社のWEBデザイナー・櫻木ハンナさん、制度運用を補佐する人事・広報の守屋亜理沙さんに話を伺った。
― そもそもクロスターンシップはどんな経緯から生まれたんですか?
守屋:
もともとエンジニアを中心に、「首都圏の同じ業界の企業と、より一層コミュニケーションをとっていきたい」という話が盛り上がったのが発端ですね。
というのも、アラタナが6月に買収したセキュリティ事業を手がけるゲヒルン社は東京にあって、アラタナ社員とゲヒルン社員が交流を深めていく中でそういった話が出てきました。現場からの声に答える形で、人事・広報部門が制度として整えた形です。
もともとお付き合いのあった、ピクシブ、LIG、リブセンスにお声がけしたところ快諾いただき、この夏に第1弾のモデルケースとしてアラタナからエンジニア、デザイナーをアサインして送り出しました。
― 現場発のアイデアだったとはいえ、人事・広報としては自社採用面でのアピールも考えられたんじゃないですか?
守屋:
そうですね。宮崎に本拠を構えるIT企業ですので、情報・技術の遅れをイメージされる方もいらっしゃいます。アラタナはUターン、Iターンで入社する人も多いのですが、応募いただく際に、何ですかね…、若干「諦め気味」に宮崎にいらっしゃる方もいるんですね。
実際は、宮崎まで社外の方をお呼びして勉強会を開催するといった活動を積極的に行なっているのですが、より一層アピールしていこうと。社員が「会社間留学」という形で他社の取り組みを身をもって学んでくるという試みは、あまり聞かない制度で面白いんじゃないかって(笑)。
まだ手探りではありますが、こういった制度をアラタナの魅力の一つに今後していけたらという狙いはあります。
― 櫻木さんはクロスターンシップの第一陣、モデルケースとして今回、ピクシブとLIGにいかれたそうですね。
櫻木:
はい。クロスターンシップが制度化される前から機会があれば行ってみたいという話をしていて、運良く公募で選んでいただけました。
本来クロスターンシップは、1ヶ月程度、受け入れ先の企業に入るということを趣旨にしているのですが、今回はモデルケースということで数日間の日程でした。
私はアラタナに新卒で入社して5年目なのですが、東京のWEB企業、製作会社って憧れの対象だったんですね。もう羨望の眼差し…というか(笑)。
そんな気持ちでドキドキしながら一緒にお仕事させていただいたんですが、感想としては「たいして中身はアラタナと変わらないんだな」って(笑)。逆に驚きました。というのも、同じ業界、同じ職種の人が携わる業務内容や考えてるベクトル、悩みどころなど、どこも共感できたんです。
― そういったことを知れるのも現場に入る機会があるからこそですね。
櫻木:
はい。レベル的にも引けを取らない、知らなかったことを知れただけでも自分に自信がつきました。住んでいる場所、働いている場所は決してクリエイターにとってデメリットにはならないって。
クロスターンシップがいい影響を及ぼしたのは、決して自分だけではないんです。ピクシブ、LIGで学んだことを社内に共有すると、アラタナの同僚も自信を持てたって言うんです。やっぱり、新卒で入って他の企業を知らずにずっと働いていると、「自分のスキルは社外で通用するのか」、とやっぱり不安も思っていることが多いんですね。自分の立ち位置を知る、個人個人のキャリアを考える上でも、非常にいい機会でした。
また、ピクシブさんは世界的なイラストコミュニケーションサービス、LIGさんは国内でも屈指のオウンドメディア運営とアラタナにはない要素を持っている企業。デザイナーの視点でみると、その会社ごとにコミュニケーションツールや仕事の進め方にそれぞれ特徴があったんです。特に、仕事で重宝するアプリケーションに関しては、社内で共有してさっそく導入を検討しているところです。
クロスターンシップはまだまだ始まったばかりの制度ですが、エンジニアクリエイターのキャリア、企業の成長どちらにも寄与できる制度。参加企業が増えてシナジーがいっそう生まれたらもっと面白いことが起こっていきそうです。
採用難、定着難が続く業界内では様々な制度が日々生まれてきている。そんな中、個人・企業双方にメリットをもたらし、活性化させる企業間留学制度:クロスターンシップのような取り組みは今後広がっていくのかもしれない。
特に個人にフォーカスを当てると、転職という選択をとらずに他社を知る機会は貴重だ。WEB・IT業界は勉強会など社外とのつながりを個人で持つことも多いことから、制度採用企業は増加していくのかもしれない。
一方で企業側にとって懸念されることの一つが、人材流出のきっかけになり得ることだ。目標をきちんともって、自社の魅力づけを併せて行なっていかなければ、制度採用目的と真逆の結果をもたらしかねない。
[取材・文] 松尾彰大
編集 = 松尾彰大
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