2014.07.01
失敗を共有する重要性|FailCon Japan イベントレポート

失敗を共有する重要性|FailCon Japan イベントレポート

「失敗を共有する」世界的なカンファレンス『Failcon』イベントレポート。クラウドワークス吉田氏、コーチ・ユナイテッド有安氏、グッドパッチ土屋氏の3者で行われたパネルディスカッション・オーディエンスからの質疑応答を、書き起こし形式でお伝えする。

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「失敗を共有する」FailCon Japan

Failcon-LOGO

素晴らしいアプリケーションやサービスを生み出し、華やか成功しているようにみえるWEB系スタートアップ。

成功は大々的に報じられ人々の目に触れるが、成功までに経験した地味な失敗や起業家のバックグラウンドは共有されずにブラックボックス化されることも多い。

6/18に行なわれたのは、「失敗を共有する」世界的なカンファレンス『Failcon』。国内スタートアップからは、nanapiけんすう氏、クラウドワークス吉田氏、コーチ・ユナイテッド有安氏、グッドパッチ土屋氏。海外からはIan Mendiola氏や、Jay Adelson氏などそうそうたる起業家たちが登壇した。

各々のプレゼンテーションは、既にリリースされている詳細な記事もあるので下記リンクより参考されたし。
http://thebridge.jp/?s=failcon&x=0&y=0

今回のCAREER REPORTでは、吉田氏、有安氏、土屋氏の3者で行われたパネルディスカッション・オーディエンスからの質疑応答を、書き起こし形式でお伝えする。


[記事ハイライト]
・起業の際の計画とリスクマネジメント
・最適な資金調達・資金政策とは?
・失敗に気付くタイミング、失敗をいかに伝えるか?


[登壇者プロフィール]

 吉田浩一郎氏

クラウドワークス CEO & Founder 吉田浩一郎氏
パイオニア株式会社、リード エグジビション ジャパン株式会社を経て、株式会社ドリコムの執行役員として東証マザーズ上場を経験。2011年に日本初の本格的クラウドソーシングサービスを手掛ける株式会社クラウドワークスを創業。



有安伸宏氏

コーチ・ユナイテッド CEO & Founder 有安伸宏氏
大学在学中に株式会社アップステアーズ創業。大学卒業後、ユニリーバ・ジャパン株式会社入社。同社退職後、2007年1月にコーチ・ユナイテッド株式会社をを創業する。個人レッスンのマーケットプレイスCyta.jp(咲いた.jp)を運営。2013年10月に同社をクックパッド社へ事業売却。



土屋尚史氏

グッドパッチ CEO & Founder 土屋尚史氏
Webディレクターとしてキャリアを重ねた後、2011年にサンフランシスコに拠点を置くコンサルティング会社btrax Inc.にて日本企業の海外進出サポート、SFNewTech JapanNightなどのイベント企画に従事。2011年、帰国後UI設計・デザインに特化した株式会社グッドパッチを設立。ローンチ直後のGunosyのUIデザインを手掛ける。


Q:起業の際、何カ年計画など立てたか?また、リスクマネジメントとしてどういうことを考えていたか?

有安:
僕の場合は、「今月の目標は食っていく!」っていうのを紙に書くことをやっていました(笑)。個人的には「いついつまでに、何億の目標を達成する!」っていうのは意味がないと思っていて。野心とか大事なんですけど、まずはいろんな仮説検証の方が大事。なので、あまり立ててこなかったです。

リスクマネジメントという意味では、例えばウチのサービス(Cyta.jp)では、習うところがあまりない「サーフィン」のレッスンが人気だったんです。けど、サーフィンって水難事故などで人が死ぬ可能性があるんですね。だから全部ストップして、その売上を捨てるとかってのは最初に行ないました。

ただ、基本的には、あまり考えててもしょうがない部分も往々にしてあるので、とにかく見切り発射で進めるっていう感じでスタートしましたね。

吉田さんはどうですか?


吉田:
ZOOEE(※吉田氏がクラウドワークス起業前に立ち上げた会社)の時、スゴイ生々しい話をすると、2社から合計150万円のコンサル契約を半年でとってスタートしてるんですよ。まずはそれでしばらく回してみようみたいな感じでした。何やるかさえ決めていなかったので、事業計画もへったくれもないです(笑)。

クラウドワークスについても、計画はないんですけど、決めていたことはいくつかあります。僕はこれまで、営業をずっとやってきたので分かるんですけど、プロダクトがしっかりしていないと、営業はダメなんですよ。

プロダクトがしっかりしていない間に営業すると、プロダクトがどんどんぶっ壊れちゃう。なので、創業から2年は営業禁止にしてた。自分たちから積極的に営業することは一切しないということで、プロダクトにだけ力を入れて。「資本金ほとんどなくなってもいいから、ユーザーにとって善なことをしよう!」と。


有安:
でも、そうなると、吉田さんがすることがなくなるんじゃ?何してたんですか?


吉田:
ちょーっと待って(笑)!!待って待って!やってるよ(笑)!!!オレ経営者!営業マンじゃない(笑)!

えーっとですね…。2年はフェーズを切って、まずはユーザーエクスペリエンスを最大化しようと。1期目は、基本的なサービス設計をちゃんと作ろう!と決めていました。その間はSEOもリスティングも一切ナシ。サービスの会員登録をいかにスムーズにしてもらえるか?これしかやらないっていうのが、半年くらいあったんですね。

それが終わったら、基本的なSEOやろう!っていうので、全社挙げてSEOだけやっていたんです。そうするとオーガニックでこれくらいの流入で、これくらいの登録が見込めるっていう土台ができる。じゃあその次はSEM、リスティングを打とうと。リスティングを増減させて、PDCA回すと。それで、WEBでだいたいこれくらいのトラフィックだなというのが見えた段階で、営業解禁しました。

ベンチャーあるあるなんですが、不安だから「サービス設計もSEOもリスティングも営業も」って全部やっちゃうんですよね。そうすると何がキードライバーで、KPIが可変してるかっていうのが全然分からないんです。それを防ぐために、全社で1つの目標を3ヶ月もしくは半年スパンでクリアしていきました。

そういう計画はしていたんですけど、数字の計画(売上)は全然なかったですね。2年間、数字の目標さえありませんでした。2年経って事業が回るようになったな!っていう段階で初めて目標を作りました。


有安:
そういう会社多いですよね。1歳児の子に「東大入るか?スタンフォード入るか?」みたいなこと言ってもしょうがなくって。


吉田:
なかなか上手いこと言いますね~(笑)。


土屋:
なかなかFailしないですね~(笑)。


吉田:
たしかに中々Failしない(笑)。


会場:爆笑


有安:
それでは、土屋さんは?


土屋:
僕も数値計画は何もなかったですね。ただ最初に借入とかをするんであれば、ある程度何か出さないといけなくって。


有安:
でもそれ、エクセル遊びですよね(笑)?


土屋:
そうですね(笑)。エクセル遊びです。空想ですよ。


有安:
空想だから、いくらでも売上出せますからね(笑)。


土屋:
その売上に対して何の根拠もないですから。僕はそういうのを作らなくて。お二人が話された「食っていく!」っていうのもそうですし、やっぱり事業が回り始めないと全然イメージがわかなかったんです。だからまずは、事業を回し始めるというのが大切だなと。1番最初の起業の時、最初にやり始める事業ってだいたい失敗するっていうのが通説です。僕もそうですけど(笑)。僕は最初コワーキングスペースをやろうとしたんです。でも全然前に進まなくて、お金もないし、場所もない。その上、取るリスクが大きくてほとんど時間を使い切ってしまいました。

結局「UI」にフォーカスしたときは、すぐキャッシュが回る事業をやろうと思ったんです。UIに対する思い入れもあったんですけど、すぐに納品して、お金がもらえるっていうのが重要。それを考えてUIにフォーカスしました。

Q:皆さんが考える最適な資金調達・資金政策とは?

有安:
じゃあこれは吉田さんがプロなんで。


土屋:
そうですね。


吉田:
なんでまた(笑)。自分が考える時間作るよね(笑)?


会場:爆笑


有安:
だって、14億調達して国作ろうとしてるんですよ!!


吉田:
いやおかしい!混ざってるから(笑)!
※クラウドワークスは創業以来、総額14億円以上を資金調達。吉田氏はパネルディスカッション前のプレゼンテーションで、クラウドワークス起業前に10億で国を作ろうとしたが契約書がマレー語で諦めた話を披露していた。


会場:爆笑


有安:
じゃあ僕から!資本構成とか、誰がどれくらい株持つとか、誰にストックオプション持たせるか?とかってスゴイ難しいんですよね。僕も分からなさすぎて…。

ストックオプション自体もスゴイ難しいんですよ。税制適格に税金的なことも考えて、ちゃんと条件を満たすようにストックオプションをどう発行するか?とか。売却した時にストックオプションって全部紙切れになるんですけど、そうなった時にちゃんと買い上げてもらえるようにするためにはどうしたらいいか?とか、とくにかくいろいろ大変で分からない。

僕はそれを諦めて、株は全部僕が持つってしたんです。その代わりに、上手くいったときには給与やボーナスでメンバーに返そうと。結論としては、大きい勝負をして勝ちきるために、必要な資本構成があって然るべきだと思っているんです。

Cyta.jpのビジネスだと、受講料という形で早めにキャッシュが生まれるんです。先生から受講生にお金が支払われるので、最初の方にキャッシュの必要性がなかったから、自己資本でいけたんですね。でも、そうでないビジネスの場合は、当然リスクマネーが必要で、場合によっては運転資金で融資を受けるとか。もうケースバイケースかなと思います。

大きいビジネスをやるんであれば、リスクマネーをしっかりと準備する。つまり、融資ではなく「投資」でお金を用意するというのが大事だと思います。

吉田さんは最後まとめてくれるので、次は土田さんお願いします。


土屋:
僕も株を100%持つというのだけは決めていました。共同創業者がいたんですが、渡さなかったんですね。元々最初の資本金ってばあちゃんの遺産みたいなものなんですよ。それを元手に起業してるんでそれは100%自分で持つというのは決めてました。

昨年、デジタルガレージさんから1億の出資を受けたんですけど、受託の会社で1億の出資を受けるってあまりない例なんですね。その時はいろいろ考えて、もっと大きいビジネスを狙いたいと思ったんです。受託だけで終わるつもりは全くなくて。でも一方で、受託をやめるつもりもない。

さっき吉田さんがプレゼンの中で言ってましたけど、「出資を受けるっていうのは、あるエコシステムの中に入るための切符である。」というのを言っていて。僕もそれは全く同じように思っています。そのために、もらえるのであれば1億ほしいなと思って。そこに、綿密な計画性はなかったんですけど、1億以下であれば借入しようと思って、「1億ください!」と言って、それが何とかいろいろな要件で通って今に至っています。


有安:
そうですね。必要に応じてだと思います。


土屋:
新たな市場だとか、もっと大きいところを狙うというものじゃなければ借入の方が資本コストが安いので、借入でちゃんと返して何のしがらみもなくやったほうが楽っていうのがあったりしますけど。ちょっと答えになっているか分かんないですけどね。


有安:
じゃあ吉田さん。


吉田:
ドリコムの時に営業担当役員として数字を作って頑張っていたんですけど、やっぱり自分自身の実感としては、ちょっと少ないという風に思っていたんですね。

資本政策が進めば進むほど融通は利かなくなるんですけど、クラウドワークスでは、創業時の仲間に対して「けっこうもらったな!」というような資本構成にしたいなと思ったんですね。

社長ってどんどん違う次元になっていくんで、明確に社長のオーナーシップは必要だということで資本構成は組みたいと思っていて。

給与の考え方も、「お前の言い値でいい!」と。だから皆ほぼ「言い値」でそのままあげてます。その方がマネジメントコストがかからないんですよ。毎日毎日、「ちょっと給与少ないな…」みたいに思われるよりは絶対にいい。創業当時のスタートにしては高いかなとは思いますけど。最初、私は給与はとらないんで、皆の欲しいだけ取ってくれっていうことでやってました。

その後の話でいくと、基本的には株式と給与っていうのをオフバランスにしていて、株式に興味があるっていう人は給与を抑えていますし、株式は全然いらない!今キャッシュがほしい!っていう人にはキャッシュをあげてます。

全体的には、さっきも話しましたが、お金って「コモディティ」なんです。どちらかと言うと、IT業界の昔の経営スタイルで言う、なるべく給与を抑えながらマネジメントをするというよりは、やっぱりスタートアップって何かを変えるために短期間で勝負していく必要があるんですね。だから、ある程度給与の納得がいくものを払いながら、その分の資金調達をしていくとみたいなマネジメントをやっていくと私は考えています。

一方でCFOは現場現場で、面接の度に「核」を見るために給与を下げて提案はしていると思いますね。今は。

実は最近、創業半年とか1年くらいのスタートアップから「No2から給与交渉をされたんです!」っていう相談を受けました。そこで僕が言ったのは、「そいつが信用できるんでだったら、言い値をそのままあげた方がいい!その代わり、次黒字になるまでそれを言わないでね!」っていうこと。そうしないとマネジメントコストがかかるんですね。

あげちゃって、「あなたから言われたことはやったよ!じゃああなたは何をコミットするの?」って仕掛けた方がいい。そのためのバーンレートが先に早くなる。つまり「会社がどん詰まりになるのが早くなるからそれだけ実績を上げてくれ!その代りオレはファイナンスをする!」っていう方が、今のIT業界のファイナンスの状況を考えるといいかなと思います。


有安:
分かりやすいですね!

Q:失敗に気付くタイミングと、その失敗をいかに社員や共同経営者に伝えるか?

有安:
ちっちゃい失敗っていうのは日々沢山あるんで。例えばシビアな話で言えば、あの採用方法は失敗だったとか。難しい判断ですが、あそこと組んだのは失敗だったとか。すごいいろいろあるんですが、そういう話は役員間では徹底的に話しますね。失敗だったのか、それとも失敗ではなかったのかをどう判断すべきなのかっていうのはすごい話します。それで仮に失敗だったとしたら、次にどう活かしていくのか?ってことを議論していきます。

会社を経営していると、同じような局面が出てくるので、次の時に失敗しなければ、その失敗が活きますよね。お二人はどうですかね?


土屋:
僕の場合は種類にもよるんですが、失敗についてはほとんど共有しますね。その場で。何か起こったらけっこうスピーディに共有します。預金残高も、売上も利益も。社員個々の給与はクローズドですけど。全部数字は共有しているんですね。2年前に銀行残高が4万になった時、社員が6人いたんですけど、そうなった瞬間に「銀行預金残高4万円になりました!」って共有して。


吉田:
苦笑


土屋:
その時、入社してまだ5日のやつがいたんですけど。入社して5日目で会社の銀行預金残高が4万になりましたって言われてるんですよね。ホント衝撃的なんですが、それくらいスピーディに共有しています(笑)。


会場:爆笑


有安:
吉田さんが今すごい黙っていて。言うことを考えているんすか?


吉田:
いえいえ。あっまあそうですね(笑)。

1回目の起業の話ですが、失敗はホントに人が離れていかないと気付かなかったですね。ホントに腹立つんですけど(苦笑)。役員が辞める時に「私が辞めて良かったと思う日がきますよ!」って言われたんです。でもね。今では良かったと思ってます。辞めないと事業を止めることができなかったんですね。何となく人より能力があって頑張ってちょっと黒字にしてみたら、「もうこの事業捨てられない」ってなっちゃうベンチャーって沢山あるんですよ。ただ、やっぱり大きく失敗すると、リセットできるんですよね。だから大きく失敗した方がいい。

クラウドワークスになってからは比較的、大きな失敗はないですね。あと、部下が失敗した場合は、責めないです。「我々(経営陣・チーム)の失敗」という形で常に議論する。その人の失敗としてしまうと、どんどん萎縮しちゃうんで。今の時代は、ボトムアップでそれぞれがモチベーションを持って勝手に働くっていう環境をいかに作るか。そういう意味だと、部下の失敗があっても絶対につめない。組織としての責任なんで。


有安:
失敗するっていうことはチャレンジしていることですからね。


[取材] 松尾彰大



編集 = 松尾彰大


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