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近未来の義手『handiii』に賭ける思い|「成功も失敗もしないままじゃ終われない」

2014-12-08

近未来の義手『handiii』に賭ける思い|「成功も失敗もしないままじゃ終われない」

ソニー、パナソニックを退社し、自分たちで筋電義手を開発する3人の若者がいる。プライベートプロジェクトからスタートし、2014年10月に法人化。なぜ起業という道を選んだのか。大手メーカーと個人開発(メイカー活動)についてどう捉えているのか。開発に込められた思いに迫る。


[記事ハイライト]
・150万円以上する義手を手の届く価格へ
・巧みさを増強するロボット技術
・大手メーカーにいることの危機感
・メイカーズムーブメントで終わらせない

150万円以上する義手を手の届く価格へ

「筋電義手」をご存知だろうか?

手を失われた方々が腕に残された筋肉の電気信号を介し、直感的に操作できる義手のこと。この「筋電義手」のプライベートプロジェクト開発を経て独立。量産を目指しているのがexiii(イクシー)だ。

彼らは「150万円以上する市販の筋電義手を、3Dプリンタやスマホなどの最新技術を活用することで手の届く価格まで下げる」ことを目的に掲げる。プロトタイプ段階では材料費を3万円程度に抑えられているというから驚きだ。


また、筋電義手を「腕時計」や「スニーカー」のようなデザインを楽しんだり、嗜好が反映されたアイテムにしたいと語る彼ら。そのデザイン性も評価され、「JamesDysonAward国際2位」や「Gugenコンテスト大賞」、「文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞」を受賞。『筋電義手handiiiをまず二人の協力者に届けたい!』と題したクラウドファンディングで、70万円の目標を早々に達成。280%を超える達成率となっている(12月8日現在)。

注目を集める彼らだが、なぜ起業という道を選んだのか。大手メーカーと個人開発(メイカー活動)についてどう捉えているのか。『handiii(ハンディ)』の開発に賭ける思いに迫るべく、CEOである近藤玄大さんにお話を伺った。

※トップ写真/左からデザイン担当の小西哲哉さん、ソフト担当の近藤玄大さん、メカ担当の山浦博志さん

巧みさを増強するロボット技術

― そもそも筋電義手に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?


人間の身体機能や知能を、ロボット技術でどう拡張させるか?サイボーグや攻殻機動隊の世界に近いかもしれませんが、そこに興味があって。特に「手」はいろいろなことを表現できるインターフェイスだと思っていて大学で研究していました。

もともと高校でバスケをやっていたので、身体の動きだったり、使い方だったり、そういうところに関心があって。ある高校のバスケ部だと古武術、忍者はこういう動きだったみたいなのを取り入れて強くなったんです。

普通、西洋的な筋トレでマッチョになり、当たり負けしないように…というアプローチだと思うんですけど、いかに俊敏に体を動かすかみたいな「巧みさ」で成績を残していった。

ロボットに置き換えると「筋トレ」って高性能なモーターをどんどん搭載する、そういうアプローチだと思うんですけど、そうではなく、安い値段の中でいかに「巧み」なロボットにできるか。もしかしたら通じる部分かもしれません。

専門用語でも「巧みさ」といったり、英語だと「Dexterity」といったりしますが、人が道具とかインターフェースを上手に使いこなすとかそういうのが好きなんだと思います。

― 義手の場合「社会的貢献」という意味合いでフォーカスされることも多いですよね。

そうですね。ただ、最初は単純に「楽しいからやる」「興味があるからやりたい」というきっかけで…「社会貢献してて偉いね」と言われると、ちょっと違うというか、申し訳ないという気もして。

このプロジェクトの発端も趣味みたいなもので。週1、2回スカイプで会議をして、必要だったらメンバー同士で「物」を送りあったりしていたのがきっかけで。


― そこからどういったきっかけで起業をしようと?


僕はソニーで働いていて、一緒に起業した山浦と小西はパナソニックで働いていたんですけど、大きな会社だと「自分で考えて発表し、直接ユーザーの評価を受ける」という機会がほとんどないんですよね。プロジェクトは少なくとも10人くらいで動いているし、3年目や4年目だとまだまだ下っ端。それなら自分たちで直接やってみようと。あとは山浦と小西が大阪に住んでいて、僕が東京だったので、どうしても距離があって本業と並行するのがもどかしくて、起業に至ったという感じですね。


― 他の二人も同じような動機での起業だったのでしょうか?


本当のところは二人に聞いてみないとわからないのですが(笑)よく話すのは、実際に手を失われた方に『handiii(ハンディ)』を使っていただき、喜んでもらった時のことですね。

じつはそれまですごく不安だったんですよ。僕たちの義手は人の肌に似せない義手なんですね。これまで義手は「手が失われたことを隠すもの」が主流で、僕らが目指したのは腕時計やスニーカーのようにデザインを楽しめるもの。健常者の方には、そのコンセプトを認めてもらえていたけど、手を実際に失われた方がどう思うのか。で、使ってもらった時、「こっちのほうが全然いい」って言ってもらえた。それが自信になりました。会社に残るよりエンジニア・デザイナーとして充実感がありそうだった、というのは聞いたことがあります。

大手メーカーにいることの危機感

― 先ほど大きな会社にいると「直接自分の作ったものの評価を得られない」というお話がありましたが、それはなぜなのでしょうか?


近藤玄大


どうしても隠したがりますよね。僕は研究所で働いていたのですが、新製品の情報はほぼ外に出せないですし、ヘタしたら一生世に出ない秘密兵器みたいなものも多い。一概には言えませんが、技術を社内で温めるのが当たり前で。その温めてきた「秘伝のタレ」みたいな技術があれば、これまでは世界中を席巻できたけど、今はもう違いますよね。コモディティ化が凄いスピードで進むから、月並みですが、どう新しいアイデアを出していくかだと思っています。


― そういった意識もあり、『handiii(ハンディ)』を開発して世に発表していたんですね。プライベートな開発は社内でどう見られていたのでしょう?


もちろん賛否はありますが、社外で実績を作ると、会社でも認めてもらえる…というか話を聞いてもらえるようになった気がします。それは目立ったからではなくて、個人で物をつくって発表する“メイカーズムーブメント”なんて言いますけど、「どういうカルチャーなの?」「3Dプリンタってどうやって使うの?何が出来るの?」と偉い方からヒアリングされる機会も増えて。


― 業界を牽引するメーカーにいたら、知っていて当然といったら失礼ですけど…。


僕が知る限りですが…ほとんど状況はわからないと思います。ものづくりの業界って大量生産のモデルが崩れていくまさに転換期で。大手もビジネスモデルを変えないと厳しい時代ですし、決算にもそれが表れていますよね。危機感はあるけどなかなか実態はやってみないとわからないですよね。


― 逆に大手メーカーの良さはどこだと感じましたか?


色々な専門家が社内にいることですね。量産はどうやればいいか。販売ってどんな仕組みか。マーケティング、セールス、カスタマーサポート、法律まわり、知財…電話ひとつで相談できるのはすごい。そういうところでいうと僕らは素人なので、企業の力を借りるのもひとつの道なのかなと思っています。


― ソニー、パナソニックといえば新卒でも人気の企業ですし、少し我慢して出世すればやりたいことに近づけるという選択肢もあると思うんのですが…?


どこまで本音で話せばいいか微妙ですが(笑)ソニーに限らず、大きな会社であればあるほど、年齢別の人口ピラミッドは逆三角形になっています。たとえば、250人の同期がいたとしても、年齢が10上だと2000人とか雇われている。で、「2014年は新卒入社が100人です」という状況だったりするわけです。普通に考えたら、自分が死ぬ前までこの逆三角形のピラミッドは続いていく。上に立てるチャンスは来ないんだろうなと。重宝されて、可愛がってもらえるかもしれないですけど。

大学時代、義手の研究を続けるかすごく悩みましたし、誤解を恐れずにいえば、一生勤めるつもりで入社していない。それにまずは企業で働いてデザインやビジネスの視点を学びたいという思いもあったんです。

メイカーズムーブメントで終わらせない

― 最後に今後の展望を教えてください。


近藤玄大


展示会で終わりたくない、メイカームーブメントの「メイカー」で終わりたくないという思いがあって、実用化までいきたいですね。…そう思うと、途端にハードルがあがるんですよね。自分の目の届くところで製品を1分動かすのと、目の届かないところで365日動かすのは、求められるクオリティが雲泥の差。山のようにある課題を一つひとつ潰していければと思います。

細かい話をすれば、防水性をどうするか、壊れた時にどうメンテナンスするか。特に注力してるのは、装着、ソケットと呼んでいる部分ですね。手を失われた方って、失われた形が人それぞれ違うので、既成品の場合、専門家がカスタムメイドしているんです。だから値段が高くなってしまう。ここをどう汎用的なものにするか。アイデアは2、3種類あってあとは繰り返し試すしかないですね。


― 『handiii(ハンディ)』以外に、受託なども考えているのでしょうか?


それも選択肢の一つですよね。ただ、どうしてもバランスが難しくて。時間をお金に換えるということになると思うんですけど、儲けたとしても起業した意味がなくなっちゃいますし。


― やはり自分たちのプロダクトで勝負がしたい、と。


はい。投資してもらった方から頂いた、忘れらない…というか、起業の最後のひと押しになった言葉があるのですが、「成功も失敗もせずにトラウマとするのはもったいない」と。

どこでも同じだと思いますが、大企業の研究所でおもしろいプロダクトをつくっても、世に発表できないまま、さまざまな要因でお蔵入りしちゃうことってすごく多いんです。それって自身にとっての成功でも失敗でもなくて。

自分のなかでケリがついていないのに、ある日突然「プロジェクトは終わり」と。世の中に受け入れられたかどうかもわからないまま終わるのは、トラウマでしかない。やり場のない怒りというか、歯がゆさだけが残る。次の成長につながらないのは「もったいない」と思うんです。

で、僕たちの活動は、たとえ失敗したとしても、必ず全てオープンソースにしようと思っていて。そうしたら、次の人がつないでくれるかもしれない。金銭的な成功や失敗じゃなく、いつか社会的にインパクトを与えられると信じています。そういう意味で「失敗」は無いのかもしれませんね。…とはいえ毎晩胃が痛いんですけどね…お金どうしようかなって(笑)


― ちなみに生活は起業してけっこう変わりましたか?


変わりますね。でもすぐ慣れますよ。牛丼を食べる頻度が増えたりしましたが、そんなに苦じゃないです(笑)


― もちろん価値観はそれぞれですが、やりたいと思ったことに情熱を注げる、そのためにチャレンジしやすい時代になったという見方ができるのかもしれませんね。本日はありがとうございました!


[取材・文/白石勝也]




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