2015.07.21
ライゾマティクス 齋藤精一のクリエイティブ考|「アーティストにKPIを求めるなんてバカげてる」

ライゾマティクス 齋藤精一のクリエイティブ考|「アーティストにKPIを求めるなんてバカげてる」

ライゾマティクスの代表取締役 齋藤精一さんへのインタビュー。真鍋大度さんら国内トップクラスのメンバーが所属するコレクティブを束ねる齋藤さんにクリエイティブの価値についてお聞きしました。「KPIだけでは語れない」と話す齋藤さんの真意、そしてライゾマティクスのこれからとは。

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ライゾマティクスは、どうクリエイティブと向き合っているのか。

2015年4月に開催された六本木アートナイト2015。メディアアートディレクターとしてイベントをオーガナイズしたのが、ライゾマティクスの代表取締役でありクリエイティブディレクターの齋藤精一さんだ。

ライゾマティクスといえば、齋藤さんに加え、真鍋大度さん、石橋素さんをはじめとする国内トップクラスのクリエイター、プログラマが在籍するクリエイティブ集団。アーティストとして作品を発表する社員も多く、世界で唯一無二の存在感を放っている。

前例のない取り組みを通じて世界中にインパクトを与えるクリエイターやプログラマを束ねる立場にある齋藤さんは、クリエイティブシーンをどのように見ているのか。

アートと広告の“中間値”を扱えるプロデューサーがいない。

― 六本木アートナイト2015の講演で「アートにKPIはいらない」というお話をされていたのが印象的でした。もう少し詳しく教えてください。


今、行政も民間も、アート、アートって言うんですよ。アートを絡めて自分たちの価値を高めたいと考えているところが多いですよね。ただ、実際はアーティストが踏み台にされていることのほうが多くて。行政の取り組みでアーティストたちが一人でも多く食べられるようになっているのか、アート文化が向上しているか、っていわれるとまだそうではないと思います。

アートって、機能的価値か情緒的価値でいったら、情緒的価値じゃないですか。それなのに「これをつくると何人くらいの人が来るんですか?」って。そもそもアートの魅力って、アーティストが自由な発想を発表できるところで、作品は世の中への問題提起になっています。アートは先を進んでいるべきなのに、数字で押さえつけて自由にやらせてくれない場合もある。アーティストにKPIを求めること自体が間違いなんです。KPIはプロデューサーやオーガナイザーにつきつけるべきものだと思います。


― なぜ行政も民間も、アートにKPIを持ち込もうとするのでしょう?


お金を払っている以上は対価が欲しいってことでしょうね。要はROIなんですよ。お金を払うと、ブランド価値や商品価値の向上を期待してしまう。今いる土壌を良くして後々もっといいものが生まれる文化をつくるとかは考えていないと思うんですよね。

ただ、否定するつもりはなくてですね、今はROIが求められる時代なんですよ。だから、アートの畑を耕そうとしているクライアントや僕のようなプロデューサー、あとはアーティスト自身が変わる必要があります。自分が好きなものをつくるだけではなくて、自分の作品が世の中にとってどんな意味があるかっていうのを考えなきゃいけないと。


― なるほど。ライゾマティクスでは、アートと広告を両軸で手がけていますよね。広告だったらどうなんでしょう?


いわゆる広告案件で、ブリーフを無視してアーティストぶっていい作品をつくろうとしたり、カンヌで賞を獲ってやろうとしたりするのは間違いですね。広告の場合はクライアントが設定したKPIをクリアしなきゃいけないと思います。どれだけ実利が生まれるか。お金を預かっている以上、商品広告だったら売上につながるものをつくらなきゃいけない。その辺りを忘れがちじゃないか、と。

同時に、今はいい意味で対極にあったアートと広告において「真ん中の概念」ができています。”広告なんだけどアート”みたいな中間値が。これをちゃんと位置づけないといけないような気がしていて。アーティストが広告業界に参入して、クライアントからお金を預かって、作品を発表することも増えてくると思うんですよ。むしろ増えていくべきだと思います。

その場合はKPIとKGIを提示しなきゃいけないんですけど、アートと広告の中間値の場合は、結構難しくて。今後クライアントがどう位置づけて、アーティストやクリエイターがどう昇華していくか。ちゃんと議論しなきゃダメ。アートはアートで育てなきゃいけなくて。アートってアイデアのタネなんですよ。なので、その火は消しちゃいけないと思うんです。


― アートを発表する場ってすごい増えているじゃないですか?そこはどう捉えていますか?


各自治体がモチベーションを自分たちで見出して動き出すこと自体はいいんですよ。でも、イベントやカンファレンスをやろうとしたときにオーガナイズできるプロデューサーが圧倒的に少ないんですよね。やり方を知っている、馬力がある、今までキャリアを積んできたとかっていう人が。プロデューサーが増えると、まあアーティストとしては発表する場も増えて、もしかしたらマネタイズでの方法も増えてくると思うんですよね。

ライゾマティクス 齋藤

最初からイグジットプランを考えるようなスタートアップは信じられない。

― 齋藤さんが考えるプロデューサーに求められる資質とはなんでしょう?


僕は、本当に目が澄んできれいな心をもっている人じゃないとできないと思うんですよね。クライアントが3000万円渡すからこれだけの人を集めてって要望するのもわかるけど、それって結果論じゃないですか。広告で最終的にカンヌを獲ってって言っているのと同じ。それよりもまず困っている人を助けて笑顔を増やしていくことのほうが大切です。だから、目のきれいな人じゃないと絶対できないと。


― 齋藤さんの経営者としての立場を考えると、すごいバランス感覚ですね。


経営者に向いているかはわかんないですね(笑)。お金を儲けたいというよりも、世の中を平和にしたいと思っているんで。もちろん、僕のなかにはいろいろなエンジンがあって、「いいものをつくりたい」ということと、「社員の生活を支えていきたい」、他にも「日本をよくしたい」「アーティストが食べていける世の中にしたい」、あとは「XXが欲しい」とか個人的な欲求もあります。有象無象の欲があることは誰しも変わらないと思うんですよ。でも、根本にあるのは「世の中を平和にしたい」という気持ちですね。…僕、偽善者なんですかねぇ(苦笑)。


― いやいや(笑)。


ちょっと話がずれますけど、日本のスタートアップでピュアにモノづくりを楽しんでいるところやサービスで世の中の課題を解決したいって考えているところにはバンバン活動して、もっと外に出てほしいと思っています。でも、一部のスタートアップやVCにはアプリつくって将来一攫千金してやろうって人たち、いるじゃないですか。最初からイグジットプランを企画書に入れているような人たちは信じられないですよ。

結局、彼らにとってはクリエイティブじゃなくてビジネスなんです。クリエイティブの土壌で語ってもらいたくなくて。目が“¥マーク”になっている人たちの数が増えていて、「なんだかなぁ」って思いますね。お金が必要なのはわかりますけど、やっぱり僕には目が汚れているように見てしまうんですよね…。


― 齋藤さんがそう考えたきっかけというか、原体験ってあるんですか?


全世界で生きている人類がピンポイントで感動する部分って絶対あると思うんですよ。たとえば、1000人、もしくはそれ以上の人々が同じ行動して、「おっ、すげえ」って。日本のお祭りで全員で見る花火とかって、感動以外の何でもないじゃないですか。

僕が2003年の越後妻有トリエンナーレでつくったのは、光る風船を道路に3000個ぐらい置いた作品だったんですけど、美術でお祭りを超えられるのかっていうテーマが僕のなかにあって。国道を1.5キロ封鎖してやったんですね。で、参加者全員笑顔なんですよ。そこで感動を与えられることに快感を覚えたのかもしれないですね。きゃりーぱみゅぱみゅと増上寺と東京タワーを使ったKDDIのコマーシャルも、その場にいる全員で共有できると楽しくて。まさに、情緒的価値ですよね。KPIも関係ないじゃないですか。こういう次元の現象を起こせることに魅力を感じているのかもしれないですね。


― 同じ場所にいるとはいえ、バックグラウンドの違う人たちが感動するためには心のつながりが必要で。どうすればそれが生み出せるのでしょうか?


みんなラクしていると思うんですよ。コマーシャルのたった15秒で全国民を説得できると思っていること自体が奇跡なんです。僕が紙コップを誰かに売るとしたら10分あれば良さを伝えて買ってもらえると思うんですよね。5分で2人、ギリギリ1分で15人くらいはいけるかもしれない。だからといって、映像にして、有名俳優に出演してもらって、全日本国民にってのは違う。だけど、それが流儀になってしまっています。

本来であれば一人ひとりの説得から始まって、“うねり”をつくっていかなきゃいけないんです。地域のお祭りだってそうじゃないですか。自治体から始まって消防団や町内会とコンセンサスを得て、横のつながりができて…って。本来なら、ある種の「クリエイティブの強度」を高めるには時間がかかるのに、一気にやってしまおうとしても無理が生じるんです。ラクはするなってことですよね。だから、何が一番適切な表現で、ベストタイミングなのかを決めるプロデューサーが大切です。プロデューサーがいないと強度は生まれないし、最適なカタチにはならないと思いますよ。

ライゾマティクス 齋藤

もう二度とライゾマティクスはつくれない。

― ライゾマティクスの話も聞かせてください。どのように仕事を請けて、どのように割り振っているんですか?


基本的に営業がいないので、反響による依頼、ケーススタディとクレジットが命ですね。お客さんによっては「これつくったこの方にお願いできませんか?」という指名がくることもあります。

「○○の演出をお願いしたい」と指名ではなく、プロジェクトで依頼がきたときは、誰が一番熱をもって仕事に取り組めるかとかで判断しています。だから「この前こんなのつくってたから、今度こういうふうにつくれない?」みたいなコミュニケーションをして。あとはスケジュールとの兼ね合いです。

あんまりヒエラルキーのある組織ではないんですよね。稼働状況とかをある程度把握していても、だれがどういうのに興味あるのかは直接会話をしなきゃわからないし。そもそも、モチベーションが高くないと、プロジェクトが“飛ばない”んです。自然とフラットな関係で話し合いができる場所になってきていると思いますよ。

あとは、ありがたいことにみんな辞めなくて(笑)。取締役連中もそうだし、みんなで意見を出しながらつくってきた雰囲気と方向だから、こういう感じでできているのかな、と。もう1回つくれって言われたら絶対できないです。この絶妙なヤジロベエみたいなチームは。


― 絶妙な関係ですね。最後に、齋藤さんが「ライゾマティクス」をひと言で表現するとどうなりますか?


世界トップクラスのクリエイター集団・コレクティブです。自分の会社を褒めてもしょうがないですけど、水準の高さと総合知識はどこにも負けないと思っています。広い知識をもったコアな技術者や研究者の集まりっていうのが多分ライゾマですね。

あるときは、表現側の人たちと産業側の人たちにとっての翻訳家みたいな、通訳みたいな感じでもあって。前々回のW杯のときに、NIKEの『WRITETHEFUTURE』っていう闘莉王選手の像が彫られていくプロジェクトを川崎重工のロボティクスの人たちとやったんです。最初に川崎重工へ行ったときは「そんなの無理だよ」って感じだったんですけど、2、3回通って「やってみよう」って言ってもらうことができて。コミュニケーションを重ねるうちにロボティクスのベテランエンジニアたちがみんなNIKE履いて、やる気満々になってて。それも、感動ですよ。全く違うところにある点をつなげるという意味では、まさに社名の由来にでもあるリゾームです。


― 今後についても教えてください。


扱える単位を増やしたいですね。もちろんミリメートル、ナノメートルってあるけど、まだキロメートルを扱えている感覚はなくて。いろんな技術や知識を違う形にできるっていうようにはなりたいんですね。よく指輪から飛行機までとかっていうじゃないですか。ライゾマにこれだけの人がいたら、不可能はないと思います。

ライゾマティクス 齋藤

― 「世界を平和にする」とおっしゃってましたが、そのためにも扱う単位を増やすというのは大切な一歩ですね。今後もぜひ注目させてください。今日はありがとうございました。



(本文テキスト一部訂正 ※7月22日 10:00)


文 = 田中嘉人
編集 = 白石勝也


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