100万DL突破した音楽コラボレーションアプリnana。特筆すべきポイントはユーザーが主体的にライブやオフラインミートアップを行なうなど、アプリ内外で「コミュニティ」としての色が非常に強い点だ。nanaがコミュニティを育むために大事にしている思想やプロダクトに込めた思いとは。代表の文原明臣氏にお話を伺った。
― 現在では世界中から毎日、3万曲の投稿がある《nana》を開発するきっかけは?
2010年ハイチ沖地震が起こった際に歌われた、『We are The World 25 for Haiti』に感動したのが一番最初のきっかけです。
でもこのWe are The Worldの動画を見て気になる事があったんです。それは、世界中の人とセッションを通して歌でつながることは、とても難しいということ。
― 具体的には?
オフィシャルの動画だけでなく、有志のアマチュアアーティストが集まって歌う作品を作るには、それなりのコストがかかってしまうことです。
それを解決できると思ったのが、当時出たばかりのiPhone 3GSでした。ネットにつながっていてボイスメモも録れる。スマートフォンが世界とつながるマイクに変わったら、「We Are The Worldを世界中の人と一緒に歌う世界観」が本当の意味で実現できるんじゃないかと。
そんな構想を抱いたのが2011年の初頭です。Twitterやイベントで出会ったエンジニアやデザイナーたちを集め、シード投資を受けて起業。12年8月にnanaをローンチしました。
― nanaのユーザーは自主的にオフ会を開催するなど濃密なコミュニティが育っています。運営側は狙ってこの状況を生み出したんですか?
正確に言えば、狙っていたわけではありません。ただアプリ内におけるユーザー間コミュニケーションを促す仕組みが、オフ会などの場に発展しているんじゃないかと思います。
nanaは基本的に、他の投稿者の音源をオーバーダビングして、新たに投稿するという仕組みなんです。
― つまり、完成された音楽を投稿するのではなく、コラボレーションを前提にしたプロダクト設計だと。
コラボレーションを前提とするものにも、いろいろなアーキテクチャがあると思います。例えば、『◯◯をやりたい』スレッドに各パート募集が出て、集まったら作りはじめるもの。でもこの形はなかなかうまくいかないんです。「まず先にグループ組みましょう」ってすごくハードルが高い。
そうではなく、ユーザーからすると、あくまでも「ソロプレイ」を投稿するものという位置づけにしたんです。一人で遊んでるんだけど実は裏側でつながってるのがnana。
歌う側からすると「カラオケ」の感覚ですね。でも音源を使ったユーザーと、音源を提供したユーザーとの間で自然とコミュニケーションが生まれ、いつの間にか「仲間」になる。さらにアプリ外でのコミュニケーションにも発展したという形かと思います。
― 8月には大型イベント『みんなでつくる音楽祭 nanaフェス』を品川ステラボールで開催されるそうですね。
単なるライブイベントではなく「歌う・弾く・聴く」というすべての音楽体験ができる参加型の“お祭り”です。nanaのアプリだけでは提供できない体験価値をユーザーの方々と一緒に共有できたらと思って企画しました。
― 運営側公式のオフラインイベントの開催にも力を入れているんですか?
定期的にいろいろな試みをしてみようと考えています。
初めて公式で50名規模のオフ会を開催したのが2013年の夏頃でしょうか。リアルなユーザーの方々の顔が初めて見えて、一緒に歌ったり、お話したり、すごく楽しんだんですね。でも実は当時、nanaには全くお金がなく、ほぼ丸1年間は新しい開発も全くできずサーバー代を工面するのに必死な状態だったんです。
その時、苦しい中でもこんなに愛してもらえてるサービスを絶対に終わらせたくないという思いを強く持ちました。いまでは世界で100万DL、毎日3万曲の投稿があるサービス、コミュニティになったのも様々な方の応援やユーザーの方々のおかげです。
― 最後に、nanaにとって「海外」も大きなテーマだと思います。コミュニティが大きく育った日本のユーザーと海外のユーザーの違いがあれば教えてください。
nanaの海外版はまだまだ発展途上ですが、「We are The World」の世界観はあらゆる国の方に使っていただくことで実現できるものです。開発当初から海外で利用していただくことを強く志向していましたし、2014年にはSXSW(South by Southwest)にも出展しました。
日本のユーザーとの大きな違いは、投稿するモチベーションでしょうか。文化の違いが大きく現れていると思います。日本は同人文化、共創文化が強く、先ほどお話したように「ひとりで遊べる」「オケに乗せて歌う」ことが広く受け入れられる一方で、海外ユーザーは「自分の歌をプロモーションする」という意味合いでよく使われる傾向があるかと思います。そういったユーザーの文化的背景も踏まえつつ、nanaが何千万人、何億人と使ってもらえるサービスになるよう、今後もユーザーに寄り添える運営・開発を続けていきたいと思います。
文 = 松尾彰大
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