「WEB編集者」や「プロブロガー」が注目されるなか、改めて「編集とは何だろう?」「優秀な編集者とは?」と素朴な疑問が湧いてきた。多くの編集者・記者と接点を持ち、やり取りしてきた人物ならきっと答えてくれるはず。そんな思いでログミー川原崎晋裕さんのもとを訪ねました。川原崎さん、編集ってなんだと思いますか?
WEBの世界における「編集」とは何だろう。
記事の企画を考えること、ライターをディレクションすること、記事校正・修正すること、ネットにある情報をまとめること…全部といえば全部の気もするし、それだけではない気もする。いったいWEBの時代における「編集」とは?そして「編集者」は、どのような存在になっていくのか?
そんなヒントを探るべく、ログミー川原崎晋裕さんのもとを訪ねた。
じつは川原崎さん、サイゾーで働き、日刊サイゾーの立ち上げに携わった経歴から、よく「編集者」だと誤解されるそう。しかし、「才能がなくて編集者にはなれなかったんですよ」と自身を分析。ログミーも編集メディアではなく、「書き起こし=ログ」という新しい形で独自のポジションを築いている。この8月にはみんなでログ投稿ができる「logl(ログル)」(α版)という新サービスをリリースした。
あえて編集の当事者ではなく、メディア立ち上げに携わってきた「プロデューサー」という立場から、「編集とは?」そして「優秀な編集者とは?」川原崎さんにぶつけてみた。
【プロフィール】
川原崎晋裕 Nobuhiro Kawaharasaki
1981年生まれ。3年間、ネット求人広告の営業として働いた後、2007年に株式会社サイゾーに 入社。サイゾー初のWebメディアである「日刊サイゾー」を立ち上げ、自ら編集・運営・マネタイズなどを担当。その後、サイゾーウーマンなど計10メディア以上を立ち上げ、合計1億5000万PV/月以上の事業へと育て上げた。2013年8月に独立して株式会社フロックラボ(現・ログミー株式会社)を設立。さまざまな企業のWEBメディアをプロデュースしつつ、動画書き起こしメディア「ログミー」を立ち上げ、現在に至る。
― いきなり本題なんですけど、川原崎さんが思う「編集者」とは、どういった人のことを指すのでしょうか?
最近はいろんな仕事が編集と呼ばれているので、どういった人、というのは難しいのですが、僕の知っている優秀な編集者というのは、編集者という「生き方」をしている人だと思っています。
僕も編集者志望でサイゾーに入社したんですが、入ったばかりの頃、当時の編集長に「これからは編集者として生きなさい」ということを言われたんです。たとえば、電車の中吊りがありますよね。その見出しを見て、そのまま受け止めるのではなく、ニュースの裏側でどんなことがあったのか。もっと掘り下げたら一般人は何を知りたいのか。なにを追加取材すればいいか、どうやるか。とにかく「編集者の目で物事を見なきゃだめだ」と言われました。
政治、ジャニーズ…なんでもいいんですけど、特定の分野について誰にも負けないくらい知っていることは当たり前。加えて、旬の情報が手に入るネットワークやコミュニティ、記者やライターとつながりを持っている。それくらい対象物に強い興味やこだわりを持っている人じゃないと、優れた編集者にはなれないと思っています。そういったものがないと、そもそも独自の企画って生まれないんじゃないでしょうか。
― 川原崎さんご自身、日刊サイゾーや、その他多くのメディアを立ち上げた実績がありますし、ログミーもWEBのメディアなので、「WEBの編集者」という見られ方もするのではないでしょうか。
誤解されることは多いですね。でも、僕は編集には向いていませんでした。編集の才能がなかったんですよね。ネタの質も、対象物への熱量も、編集の人たちには勝てませんでした。どっちかといえば、僕はプロデュースやお金儲けのほうが得意だったので、当時サイゾーの社長とも話し合って、そっちのほうに一本化していったという感じです。
― 川原崎さんが思う「編集者」と、いまWEBの世界で言われている「編集者」は、けっこうギャップがあるようにも感じます。
単純に、編集と呼ばれる仕事が多様化しているのに、それらをいっしょくたにしているせいだと思いますよ。たとえば、新卒1年目で「プロデューサー」という肩書きを設けている会社ってありますよね。でも、旧来の「プロデューサー」って、プロジェクトや事業の最終責任者であり、その責任を負えるだけの実績や能力を持っている人なわけで、同じ呼び方をしていても内容は全然違う。それと同じで、企画を考えるのが仕事の編集者もいれば、記事タイトルを10文字に短縮するのが仕事の編集者もいる、そういうことだと思います。
― では、より具体的に、どういった編集者の市場価値が高まっていくと思いますか?
今後、編集職としての市場価値を上げたいのであれば「その人だからできる仕事」をしないとダメなのかなと思います。
WEBにおける編集って、何でもかんでもうまくやろうとし過ぎですよね。たとえば、日本代表サッカーが盛り上がったら、Twitterのコメント拾って「こんな風に盛り上がっていました」「何派の意見が多かったです」と、やってもここまで。選手や監督にインタビューする、あるいは元サッカー選手を集めた座談会で、関係者だからわかるウラ話をしてもらう。そういうことをしないと、なかなか独自性のある情報は入手できないんじゃないかと思います。
― 優秀な編集は、独自性のある企画が実現できる、と。
もともと紙の世界でやってた人たちは、WEBの世界でもすごいという印象がありますね。たとえば、NewsPicksに行かれた佐々木紀彦さん、cakesの加藤貞顕さんって「彼らじゃないとできないこと」をやるじゃないですか。
加藤さんは、KADOKAWA・DWANGO川上量生さんの連載を長くやっていましたけど、一発のインタビューならともかく…あんなに何度も話を聞かせてくれて長く付き合ってくれるのって、川上さんから加藤さんへの信頼があるからなんだろうなと思います。
こういう仕事って手間とパワーがかかるし、ノウハウや人脈もいる。WEBだと誰もやりたがらないんですよね。それで結局、みんなが同じようなものをつくってしまっている。
ログミーは、そういうものに対するひとつのアンチテーゼでもあります。全文書き起こしなのに、けっこう読まれてしまっている。書き起こしよりも読まれる編集記事をつくる、というのは、けっこう難しいことなのかもしれません。
また、ログミーがあることによって、記者の方たちの手間を省くこともできると思っていて。たとえば、記者会見というのは、多くの記者が同じ場所に集まって、みんなでいっせいに同じ話を聞いて、同じようなニュースを流していますよね。でも実は、事実をそのまま伝えるだけであれば、ログミーがあれば足りてしまう。代わりに記者の方たちは、事実をもとに追加取材をしたり、ファクトの組み合わせで新たな切り口を見つけたり、そういった人間にしかできないコンテンツをつくることにリソースを割けるようになると思うんです。
― そういうコンテンツをつくれる編集者がいれば、価値の高いメディアが生まれるのでしょうか?
以前、ある著名な編集者と飲んでいた時に教えてもらった言葉があって。「媒体が編集者を選ぶ」というものなんですけど。
当時はよくわからなかったんですが、今なら少しわかる気がしています。それは、あるメディアと、ある編集者が運命的に出逢わないと、本当にすごいメディアはできないんだよ、というような意味じゃないかと思っています。
そこまで大げさな話じゃないとしても、たとえば生まれつき猫が好きで、犬にはまったく興味がないという人がいたとしますよね。その人に「犬のメディアをやって」といっても上手くいかない可能性が高い。好きでもない犬に会うのが面倒だから、取材はせずに、WEBだけで情報を集めて記事をつくってしまうかもしれない(笑)。
また逆に、猫をあまりに好きすぎる人が、猫好きにとって最適なコンテンツをつくれるとも限らないので、そのあたりはもう運じゃないかと思います。そもそも、自分が好きなものをみんなも好きとは限らないですし。
― 自身の興味が世の中からズレていたら、それは「仕方のないこと」と割り切るしかないのでしょうか。
売れないミュージシャンは幸せか?と同じ話で、「好きなことで金儲けまでしようなんて、都合が良すぎる」という見方もできるかもしれません。実際、出版業界は一部の版元を除いて薄給・激務が普通ですし、それでもやりたいという人たちがいるから成り立っている世界なので。
― 興味のある分野に携わりつつ、自身の市場価値を高めるためにできることはあるのでしょうか。
僕もそうですが、世の中99%以上は普通の人ですよね。普通の人でも自分がやりたいこと、興味のあること「+α」何か能力を手に入れることはできます。
自分のことを冷静に考えてみても、すべて中途半端にしかできないんですよ。編集もできないし、営業だってずば抜けてできるわけじゃない。デザインも、開発も、ほとんどわからない。でも、全部において20%ずつくらいはわかるつもりで…だから、今、編集とWEBの間を取り持つためのハブとして、僕のような人間の需要も生まれています。1%未満の超すごい人になるのはとても難しいけれど、組み合わせによって自分にしかできないことを見つけるというのは、普通の人にもできるんじゃないでしょうか。
― 職種の名称にとらわれず、どう自身の価値を高めていくことができるか?ここを考えるきっかけ、示唆をいただくことができました。本日ありがとうございました!
文 = 白石勝也
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