エンジニアにとって「派遣」という働き方にはどんなメリットがあるのか。派遣のITエンジニアとして、10年以上に渡り、様々な企業で勤務してきた平島氏と一緒に、そのメリットと魅力、そして厳しさ、キャリア形成のポイントに迫った。
【プロフィール】
平島 陽子(ひらしま・ようこ)
エンジニア派遣の株式会社VSNに所属するITエンジニア。サーバエンジニアとして外資系企業に派遣された後、国内大手SIerにおけるプロジェクトのリーダーや請負案件でのプロジェクトマネジメントを経験。同時に若手エンジニアをプロジェクトマネージャーとして次々と育て上げる。現在は国内大手SIerにおいて、対象者が“日本在住者全員”という大規模システムの導入に携わるキーマンとして日々走り回っている。
突然だが、みなさんは「派遣エンジニア」というキャリアを考えたことがあるだろうか。
特にIT業界ではプロジェクト単位で組織が動くため、期間を区切って雇用できる「派遣」という形態は重宝される。さらに近年、企業のIT投資意欲の向上により、ITエンジニアの需要は増加。それにともなってIT系の派遣時給も過去最高を記録している。
ただ、その中には「登録型派遣」と「常用型派遣」が存在していることは意外に知られていない。
「派遣」といえば、派遣労働者の約9割を占める「登録型派遣」をイメージする人が多い。「登録型派遣」とは、まず派遣会社に登録し、紹介された案件に就業。その契約期間が終了するまで雇用契約を結ぶ就業形態のことだ。
一方、「常用型派遣」とは、派遣会社が正社員もしくは契約社員として雇用する社員を顧客先へと派遣する仕組み。専門知識を要するITエンジニアなどにはこの形態で働く人が多い。一般派遣と異なり、一つのプロジェクトでの契約が終了しても、次の契約が開始するまで派遣会社との雇用は継続され、給与も支払われる。
「派遣」なのに「正社員」。この働き方は意外と知られていない。派遣エンジニアとして10年間のキャリアを積み、スキルアップしてきた平島氏はこう語る。
「一概に比較はできませんが、全体的にみて常用型派遣での平均契約単価の方が登録型派遣の平均時給よりも高く、クライアントから求められるスキルや知識や、エンジニア本人の関わる工程も、常用型派遣で働くエンジニアの方が高いと言えます」
次々と新しい技術や製品が生まれ、トレンドもどんどん変わる現代において、正社員としての雇用を確保しながらも仕事の内容や就業する場所を変えながら様々なキャリアを積むことができる。「派遣」というキーワードだけに引きずられがちだが、改めてその働き方を見つめてみてもいいのかもしれない。
リーマンショック以降、「派遣切り」という言葉が社会に溢れ、「派遣」という言葉には「不安定」「スキルが低い」「言われたことをこなすだけ」など、ネガティブなイメージがつきまとってきた。そのイメージは正しいものなのだろか。
「さまざまな環境で働くことになるので、『一か所で落ち着いて働きたい』と思う人にはあまり向かない働き方かもしれません。実際に就業先が変わる度に新たな文化、環境に自分を慣れさせなければなりませんし、職場の人間関係も一から構築することになり、本当に行いたいことを始めるまでに時間を要することも。関わるプロジェクトによって働く時間が大きく変わるなんてよくあることです。また、情報命のIT業界では当然のことですが、セキュリティに関してもかなり高い意識が求められます」
そう平島氏が語るように、こういった部分は多少なりともストレスとなって、頭を悩ませる種になるかもしない。
だが、同氏がキャリアを振り返った時、「派遣」という働き方だからこそ得られるものが多くあったそうだ。下記、得られた3つのメリットをまとめた。
▽派遣で働くメリット①:色々な方達の指導を受ける事が出来る
会社に就職したら自社の先輩社員に指導をして貰い、スキルアップしていく事になるのですが、派遣の場合は色んな方から指導を受けることが可能。派遣先には案件によって多種多様な人材がアサインされていて、ときには業界で有名な方とともに仕事をする機会もある。人によって重視するポイントは様々。多くの「エンジニア論」に触れることは、自身の視野を広げ、より高い視点でキャリアを描くことができる。
▽派遣で働くメリット②:沢山の会社で経験を積む事が出来る
好きな会社を転職・採用という手続きを踏まずに選択できる。同氏の場合、これまでに有名大学の採用が好まれる大手企業の某外資系企業・某日本企業どちらともの職場を、手間隙かかる転職なしに経験することが出来たという。ITは顧客業界を選ばない。どこにでもあるため色々な会社で経験を積める可能性が広がっていく。
「私の社会人人生はシステムエンジニアとして、システムの監視・リモートサポートという仕事から始まりました。運用・保守業務から、徐々に上流工程の構築業務、設計業務、企画・提案へと派遣契約を変えながら色々な企業(10年で約6企業、業務で関わった企業数だと10数社)へお世話になり、多くのスキルを実業務で得てきました」
同氏が扱った機器を参考までに列挙すると、
▼サーバ製品
【OS】
・UNIX
・Windows
・Linux
【ソフトウェア/ミドルウェア】
・オープンソース(Sendmail、qmail、Squid、BIND、Apache、Majordomo等)
・クラスタ製品(SunCluster、Veritas Cluster、Serviseguard等)
・データベース製品(Oracle DB、PostgreSQL等)
・AP製品(Tomcat、WebLogic等)
・監視製品(OpenView、OMNIbus、OMU等)
・データ連携製品(HULFT、JP1FTS等)
・バックアップ製品(NetBuckup等)
【ハードウェア】
・ストレージ(SANRIZE、NetApp等)
・サーバ機器(SPARC、HP製品等)
▼ネットワーク製品
・ルータやスイッチ(Cisco製品、YAMAHA製品等)
・ロードバランサ(F5ネットワークス製品等)
・ファイアーウォール製品(FireWall-1、IPFilter、NetScreen等)
・アプライアンス製品(プロキシ:Blue Coat、帯域制御:PacketShaper等)
エンジニアは進化していく技術に合わせ、自身のスキルを高め、広げることが必要になる。技術の最前線に常にいられるのはエンジニアとして喜びがあり、強みとなるはずだ。
「現場で経験をしないと身につかない、技術力以外に得られた実体験も大変貴重です。各社文化・業務の流れを把握できたことで、様々な局面で必要な調整の際も先読みが出来るようになりました。各社の内部事情を押さえた経験により、スムーズに交渉することが自然と出来るようになっていたのです」
当然、このような経験を通じて、自身の給与アップにもつながっていく。やはり様々な文化・背景・環境で経験を積んだスキルは評価されるということだろう。クライアントからのニーズや自身の市場価値が高まれば、自然と契約単価は上がり、一般企業と同等もしくはそれ以上の対価が給与という形で支払われるというわけだ。技術派遣は技術をベースとするが、派遣先企業の業務次第で契約内容も変わり、状況によって営業支援(プリセールス)やコンサルタントのような活動もするため、さらに高い視点でスキルを伸ばすことも可能だ。
▽派遣で働くメリット③:個人の人脈を広げることが出来る
多くの顧客を相手にする営業マンでない限り、一般社員では仕事で知り合える人数に限界がある。派遣という働き方では異なる企業の文化を経験できるだけでなく、かなり多くの人と知り合うことができるのもメリット。平島さんのこれまでの経験では、1社あたり平均40人〜100人(自社以外の人達)とともに仕事をしてきたと言う。10年で6社を経験すれば最大600人、これを20年、30年続けると仮定すると直接接することができる人数は1800人にもなる。さらに上流工程になればなるほど洗練されたエンジニアと接する機会は多い。個人の性格・タイプによるし、さすがに大げさな数字と感じるかもしれないが、築いたネットワークがきっかけで、さらにキャリアの可能性を広げるような新たなプロジェクトに関わることもある。
「より多くの人との出会いは、その分多種多様な問題と出会うことにもなります(変わった人ってどこにでもいますからね)。ただそこは今までの経験を活かして、現場の状況を鑑みて解決すればいいこと。また、多様な問題=修羅場を経験すればするほど、問題解決力がぐんぐんとアップしていくので、逆境こそチャンスであるということを、身をもって経験できました」
問題というのは大体どこでも起こっているものだ。作業ミスの増加は現場に適した作業フローと必要なチェックポイントを抑えればどの現場でも活用でき、体制に問題があるとわかれば今まで経験してきた組織のどのパターンが合うかを提案できる。欠員があったとしても、過去の人脈で適任者を呼び寄せればいい。
現場で起こる問題の原因、“勘所”のようなものが身につく。人脈から話は逸れたが、こういった“多種多様な”経験は派遣という働き方ならではだろう。
派遣というとどうしてもネガティブなイメージがあるが、こうしたメリットをちゃんと活かすことで市場価値の高いエンジニアへと成長することが可能だ。いま一度自身のキャリアを振り返り、どういった道を歩んでいくのか、見極めた上で「派遣」を選択肢に入れてもいいのかもしれない。
文 = CAREER HACK
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