多様性、そしてLGBTの理解促進を目指すLetibeeの榎本さんにインタビュー。「WEB・IT業界の企業こそ率先してLGBTフレンドリーになるべき」と語る彼女の真意とは。
「あなたの会社ではLGBTへの理解が進んでいますか?」
この問に対して「YES」と答えられる人はどれほどいるだろうか。
LGBTとは女性同性愛者(Lesbian)、男性同性愛者(Gay)、両性愛者(Bisexual)、性同一性障害含む性別越境者など(Transgender)の人々の接頭語をとったもの。(また、彼らを支援する異性愛者をストレート・アライという)
LGBTの割合はおよそ20人に1人、左利きと同程度と言われている日本ではさきごろ、“同性パートナーシップを結婚に相当する関係として認める”条例が渋谷区で成立し、高い関心を集めたのは記憶にあたらしい。
2014年の男女雇用機会均等法改正時には「同性間の言動でもセクシャルハラスメントにあたる」つまり、同性愛者や性同一性障害などの性的少数者も対象となるという見解を厚生労働省が示している。
こと欧米ではLGBTを含む人権問題は常にホットだ。特に世界的なIT企業は各社毎年こぞってDiversityReportを公開している。
※海外テック企業がダイバーシティレポートを出す理由。|CAREER HACK
日本でも、企業単位での積極的な取り組みが求められているいま、ガイアックスは社内規定や人事制度を変更し、社内にLGBT委員会を設置するといった「LGBT支援宣言」をIT業界ではじめてリリースした。
今回お話を伺ったのは、ガイアックスとともに取り組みを行うLetibeeの榎本悠里香さん。なぜいまこそLGBTの理解促進が企業に求められているのか。その背景と思いに迫りました。
【プロフィール】
株式会社レティビー 取締役
榎本悠里香 Yurika Enomoto
2012年に新卒で株式会社ガイアックスに入社。海外のカスタマーサポート事業部の運用を担当したのち新規事業本部で営業系のクラウドソーシングサービスなどに従事。2015年5月にレティビーに取締役として参画。自身も性的マイノリティーであることをオープンにし、LGBT とアライアンスのための生活を豊かにするメディア「Letibee LIFE」の運営やアプリ開発、企業向け研修などのプロデュースを行なう。
― なぜLetibeeとガイアックスは性的マイノリティー向けに様々な支援を行なうことになったのでしょうか。
根源にあるのは企業内における多様性の実現と理解を促進させたいという思いです。その中で、LGBTが大きな要素を占めているという考えです。
私はLGBTの当事者ですが、ガイアックスはもともと「フリー・フラット・オープン」という社風が根付いており、自分のセクシャリティをオープンにしても誰も特別気にしない環境がありました。ですので、私自身がセクシャリティに関わることで強いストレスを職場で感じることはありませんでした。
けれど社会人を2-3年経験して、自分の働く環境がすごく恵まれているなと、いろんなことを通して気づいたんです。同じ性的マイノリティーの中には日々差別的な発言や行動を受けていたり、隠し続けてすごく居心地の悪い生活を送っている人がいると。
企業から変えていくことで今後そういう思いをする人が増えないようにしたい。その思いから、ガイアックスの有志とともに取り組みをスタートさせました。
― 具体的な問題、LGBTの人が抱える課題とはどんなものなのでしょうか?
ひとつは可視化が進んでいないことだと思います。
「7%の人がLGBTなのか」と驚く人も多いと思いますが、その大きな理由は性的マイノリティーの多くが自分のセクシャリティをオープンにできていないからです。私たちは、個人のセクシャリティをオープンにできる環境を整えるためには、セクシャルマジョリティであるストレートの人たちを少しずつ変えていくことが重要だと思っています。
― 具体的にどのような行動が必要なのでしょうか。
「支援する姿勢」を提示することからはじめてみることです。セクシャルマイノリティは言わないとわからないことが多いですが、逆にLGBTに対して好意的な意見を持っているかどうかも言わないとわからないんです。例えば個人単位では、LGBTや多様性の象徴であるレインボーのステッカーを人から見えるところに貼ったり、ソーシャル上でLGBTに関するニュース、研修の内容や感想を発信したり。この記事をシェアするだけでも態度の表明にも繋がるはずです。企業では、支援宣言のような形で明文化して社員研修を行なうなど、社会全体での雰囲気の醸成が大事だと思います。
― 今年の6月に全米で同性婚が合法化された際、日本でもFacebook上でプロフィール写真をレインボーにして祝ったりしていました。そのような行動でも支援する姿勢になるんですね。
― LGBTの理解や支援の先にあるもの、もっとも重要なのは「多様性」というお話がありました。日本で「多様性」というと、真っ先に挙がるのは企業内における「女性活躍」と言った文脈です。
企業の担当者の方とお話しすると、「まだ女性の活躍がね」「その次は障害者だし」と仰られる方もいらっしゃいますが、順番なんてないんですよね。はっきり言って「まだ」といっているところは、いつまでたってもできないと思います。
ただそういう感想を持たれる理由も、可視化が進んでいないことが背景にあると思います。女性も、障害をお持ちの方も見た目や障害認定でわかるもの。でも性的マイノリティーはわからないことがほとんどです。
― だからこそ、性的マイノリティーはより、自分の意志でオープンにできる環境づくりが大事だと。
中には、オープンにしない生活に満足している方もいらっしゃいます。私たちはもちろん今のままで満足している方たちを無理に「オープンにさせたい」わけではありません。しかし、たとえば思春期を迎えて自分のセクシャリティを確立する人たちにとって「自分のセクシャリティを隠すほうがいい」と思わせる社会は不健全です。
― そもそもの疑問なのですが、欧米ではかなり力強くLGBTを支援する動きが活発に映る中、日本ではその盛り上がりはあまり感じませんでした。その理由は何なのでしょうか
LGBTに限らず、人種、宗教も含めて、ヘイトクライムなどによる抑圧があり、自分たちの権利を獲得しようと歴史的に戦ってきた背景があるからだと思います。グローバル企業は優秀な人材を獲得したり、自分たちのサービスをより魅力的にするために、多様性を重視しています。
― 今回、ガイアックスは「IT業界全体でLGBTフレンドリーを目指していく」と発表しました。なぜIT業界こそLGBTフレンドリーであるべきなのでしょうか。
業界・産業が若く、イノベーティブな思想が共通意識としてあり、保守的で大きな企業よりも身軽に自分たちを変えていける文化があるからです。
また若い人が多く、発信力が強いため、IT業界が率先して多様性とLGBTフレンドリーを打ち出していくことで社会を大きく変えていく推進力になると考えています。
私たちは、多様性が認められ誰しもが自分らしく生きることができる社会を実現させたいと思っています。繰り返しになりますが、その大きなインパクトとなるのが私自身も当事者であるLGBTに対する理解の促進と発信です。
まずはできるだけはやく、企業や個人がLGBT支援の姿勢を打ち出していないこと自体が社会的なマイナス評価となってしまう。そんな世の中を作っていきたいと思います。
文 = 松尾彰大
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