2015年12月に「MTRL KYOTO(マテリアル京都)」をオープンしたロフトワーク。Web、空間、プロダクト、イベントなど実績を積み重ねてきた同社が「MTRL KYOTO(マテリアル京都)」で実践する試みとは?目指すプロダクティブな空間とは?立ち上げメンバーである森内さんと岩崎さんに伺った。
京都・五条河原町近くに、クリエイティブラウンジ「MTRL KYOTO(マテリアル京都)」は誕生した。
120年前に建てられた物件を、ロフトワーク京都の新オフィスとしてリノベーション。自社オフィスとして利用するだけでなく、クリエイティブワークを必要とする全ての人が気軽に利用できるオープン空間&サービスとして提供する試みだ。
特にユニークなのが、いわゆるシェアオフィス・コワーキングの枠に収まらないコンセプトと設備。たとえば、モノづくりに活かせる「西陣織」「丹後ちりめん」「飛騨の山中和紙」といった伝統的な素材が用意されていたり、同時に「3Dプリンター」や「レーザーカッター」などの最先端ツールが利用できたり。
クリエイターやエンジニアのみならず、大学生・伝統工芸品の職人など、さまざまな年齢・立場の人が訪れており、京都から少し離れた神戸や和歌山から訪れる利用者もいるそうだ。
いったいこの場所から何が生まれようとしているのか?
京都と東京、その土地や風土にあったクリエイティブな空間とは?
そして、これからのクリエイティブワークや働き方はどう変化していくか?
立ち上げメンバーである森内章さん、岩崎達也さんにお話を伺った。
― MTRL KYOTO(マテリアル京都)について伺うまえに、改めてロフトワークについて聞かせてください。「Webの制作を行う会社」と思っている方も多そうですよね。
岩崎:
そうですね。Webの制作がメインですが、それ以外にもプロダクトのデザインやイベントの運営、東京ではFabCafeなどカフェ運営も行っています。単なるWeb制作会社というより、クリエイティブカンパニーという言い方が近いかもしれません。
森内:
Webにしても、進め方はちょっと普通とは違うかもしれません。たとえば、クライアントから「Web サイトのデザインを刷新したい」という依頼があった時、通常は1度か2度打ち合わせして「いくつかのデザイン案から決めましょう」となりますよね。
でも、ロフトワークだと課題解決のプロセスを大事にしていて、初回のデザイン案を出すまでに1か月半以上、打ち合わせが中心ということも珍しくありません。お客さまとのコミュニケーションの量が非常に多い。一緒に考えるプロセスから入り、納得のいくアイデアへと共に落とし込んでいくようにしています。もしかしたらデザインを出すだけでは終わらないかもしれません。「考える場」をファシリテーションする。だから、Webは課題解決のイチ手段であってイベントやスペースの運営も同様の考え方です。
もしかしたら「寄り道」が多いとも言えるのかもしれませんね(笑)でも、じつはそこから得られるものも多いんです。たとえば、イベントやスペースなどの運営をしているとプロダクトデザイナーや建築家などともつながることもあって、「MTRL KYOTO(マテリアル京都)」の立ち上げの時にもご相談できたという経緯もあります。
オンラインでのつながりだけでなく、オフラインでのつながりも大切にしています。いろいろな「寄り道」から新しいクリエイティブの種を生み出せていて、それがロフトワークの強みですし、カルチャーだと思います。
― ということは、お二人ともディレクターという肩書きですが、担当される仕事の領域もかなり広いものになるのではないですか?
岩崎:
そうですね。私の場合、「MTRL KYOTO(マテリアル京都)」を立ち上げる時には、空間づくりとプロジェクト管理がメインで。施工管理のようなこともやりました。
最近だと、西陣織などの工芸品、北山丸太などの自然素材を調達したり、ソニーのMESHやオムロンの顔認識センサーなどの最新のデバイスや、はたまた岡山の帆布や西陣織など、ローカルや伝統と向かい合ったものがテーマになることもあり…本当にいろいろです。
森内:
私の場合は広義の「編集」を担っているといってもいいかもしれません。これもWebに限った話ではなく、MTRL KYOTO(マテリアル京都)という場所をどのような空間にして、どんなイベントを誰とやっていくか。何をどう発信していくか。ありがたいことに「MTRLでこういうことをやってみたい」といった相談をたくさんいただいていますが、幅広いチャレンジをしている中で全体を通してみると、 MTRL KYOTO(マテリアル京都)が目指す新しい価値観やのビジョンが見えてくるようにしなければならないと考えています。その裁量が委ねられている所が今の仕事の一番面白いところだと捉えています。
― ロフトワークはユニークな働き方をしている社員さんも多いですよね。たとえば、本業以外のサイドワークをしていたり。
岩崎:
もちろんみんながみんなサイドワークをしているわけではなく、やりたい人はやってもいいという感じです。それぞれ独立したプロとして成果を出すことで本業にも活きてきますし、自分らしい働き方をしていこうという方針がロフトワークにあるからだと思います。個人的には、最初に入った会社でも副業がOKだったので、サイドワークをするのが普通だなと思っていました。
― サイドワークに夢中になって、本業が疎かになることはないんですか?
森内:
もちろん本業を疎かにしないことは大前提ですよね。
私は「ディレクター」という肩書きで仕事をしているのですが、ディレクターのクセのようなもので「同じ仕事であれば、どれだけ早くできるか」を考えるんです。
たとえば、会社から与えられた仕事しかできない人は、わざと仕事を遅くやるかもしれない。早く仕事が終わってしまったらやることがなく、サボっているように見られてしまうから。…でも、それってホントにもったいない話だなって思うんですよ。
早く仕事が片付いたら空いた時間で何をやろうか?そう思った時、サイドワークはひとつの選択肢になり得ます。生きていく上で自分の時間を自分でマネジメントする。サイドワークを選択肢として捉えれば、やってもいいし、やらなくてもいいし、コントロールできるようになる。ある意味、こういう「アップデートした会社員の働き方」があってもいいんじゃないかって思っています。
もう1つ、僕はサイドワークにしても、本業にしても、働くことに対して「楽しそう」ってまわりに思われたい。実際、楽しいんですよね。いまもWebディレクターだけど丸太を磨いたり、コーヒーの淹れ方を学んだり、楽しんでいるし(笑)
岩崎:
個人的には、もうサイドワークと本業にあまり垣根をつくらないようにしています。私の場合、サイドワークとして個人で雑貨屋を経営しているのですが、そこに来てくださるお客さんにロフトワークの話も自然にしています。ライターさんだったり、カメラマンさんだったり、そこから記事や写真の仕事につながりました。なによりMTRL KYOTO(マテリアル京都)のロゴをデザインしてくださった方も、雑貨屋をやっていたから出会えたデザイナーさんなんですよね。
森内:
サイドワークのおかげでロフトワークの仕事がいい感じになっているのに「雑貨屋なんてやるべきじゃない」なんて誰も言えないですよね。岩崎はそういった人との接点を作るのがうまいので、非常に助かっています。
― お二人とも一度、東京で働かれて、そこから関西に移ったそうですね。「地方で働くこと」で得られるものがあれば教えてください。
森内:
僕は東京にいる人がみんな地方に来たほうがいいとは思わないんですよ。それぞれの価値観がありますし、環境もあるでしょうし。
ただ、スキルの幅を広げたいと思うなら地方はいいかもしれません。
京都くらいの地方都市でも人材が不足しており、専門分野ごとに人を配置することができていない。ひとり一人に任される領域が広くなりますし、裁量も大きくなる傾向があります。デザイナーでもバックエンドについて詳しくなっていけたり、エンジニアがデザインについて勉強したり。
― 何でもやらなきゃ…とネガティブに捉えるのではなく、スキルの幅を広げると捉えるとポジティブですよね。また、その環境にムリにでも身をおけば、必然的にスキル習得につながりそうですね。
森内:
そうですね。スケールは小さいですが、ロフトワーク京都でも似たことが起こっています。たとえば、本社にいると人事や総務がいるので、そういった仕事はしなくていいんですけど、京都だとみんなが人事であり、総務なんですよね。
採用活動はもちろん、トイレットペーパーの調達から防火訓練の調整までやる。当然、MTRL KYOTO(マテリアル京都)をどう運営していくかも考えるので経営にも近い。本社機能がある東京とのつながりも活かしながら、事業の全般が見れる京都オフィスはってすごくいい環境だと感じています。
― 「京都」という土地も働く場所として、とても刺激がもらえそうですね。
岩崎:
京都ってすごくちょうどいい、絶妙のバランスで成り立っている街と思うんですよね。石を投げれば国宝に当たるというくらい古い歴史が街中にあるのと同時に、任天堂や島津製作所のような最先端テクノロジーを生み出す会社もある。個人経営の小さな書店やカフェも共存している。表面的には相反するような領域が上手くマッチしていると感じています。
森内:
人々の多様性という意味でもすごくおもしろいです。本当にいろいろな人が京都の街にはいるんですけど、観光で来ている外国人の方、大学生もいれば古くからの職人さんもいるし、近所に住んでいるおばあちゃんまでMTRL KYOTO(マテリアル京都)にふらっと遊びにきてくれたりして。
先日「3Dプリンターを使って和菓子を作れないか」といった相談がありました。てっきり僕は若い方のアイデアかな?と思ったのですが、70歳を越えている代表の方が3Dプリンターをテレビで見て直感的にひらめいたそうなんです。老舗の和菓子屋の経営者、年配の方であっても、その道の一人者は本当の意味で創造性とチャレンジ精神に溢れていて、京都にはそういった方との接点が生活の中にあります。
― 歴史と新しい技術、そこで起こる化学変化のようなものが新しいクリエイティブにつながっていくのかもしれませんね。どんな場所で働き、どんなことを生み出していきたいか。考えるきっかけをいただけたと思います。本日はありがとうございました!
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