2000年のリリース以降、幅広い女性たちに支持されてきたのが、女性のカラダとココロの健康情報サービス「ルナルナ」だ。いわば女性向けのWebサービス・アプリにおける先駆者。女性に愛されるサービスの裏側には「徹底したユーザー調査」「組織におけるブランドビジョン共有」「多様性を認めるチーム」があった!
女性向けメディアやマッチングアプリなど女性をターゲットとしたサービスやアプリが次々と誕生しているWeb業界。しかし、長く愛され続けるサービスを作ろうと思うとそう簡単ではない。どうしたら女性たちの心を掴めるか。四苦八苦している企業や開発者も多いだろう。
そのような中、今回編集部が注目したのが「ルナルナ」だ。
2000年のリリース初期からユーザーの視点に立った機能の追加や情報提供を行い、多くの支持を獲得。女性たちの日常生活にとって欠かせない存在となっている(ダウンロード数900万以上※2016年2月現在)。
「ルナルナ」における企画開発の裏側に迫ることで、「女性に愛されつづけるサービスづくり」の手がかりがつかめるのではないか?そんなヒントを探るべく、ルナルナ事業部の日根麻綾さん(事業部長)のもとを訪ねた。
― ルナルナは女性ユーザーに長く愛され続けていますよね。ユーザーのことをよく理解するためにやっていることなどあれば教えてください。
私たちが力を入れているのはユーザー調査ですね。1年かけて女性約200名にヒアリングを行っています。なぜここまでたくさんの方を調査するかというと、初潮から閉経まで、女性の一生涯に寄り添うサービスを提供しており、ライフステージごとにセグメントを分けているからです。
たとえば、10代の思春期の層、大人になって避妊を希望する層、結婚して妊娠を望む層、妊娠中や育児中の層、40代以上の更年期の層などです。このようなセグメントごとに約20人、約2時間ずつ対面でヒアリングしており、合計すると200人という人数になってしまうんです。
― 200人に2時間ずつ…かなりすごい数字ですね。その調査ではどんな質問をされるんですか?
定性の調査では「普段の行動」を一つひとつ細かく聞いています。通勤・通学はどうしているか、学校や職場ではどんな過ごし方をしているか、ランチをどうしているか。細かな行動の裏側にある本質的な価値観を分析し、パターンに分類して。さらに定量調査に落とし込み、どのパターンが多いか、セグメントごとの行動傾向、セグメントが移行する際のキッカケなど洗い出していきます。
最終的には「女性のライフサイクルマップ」をつくるところまでやっていますね。マップにして可視化することで、どのセグメントだと健康意識が高いか、不安要素が強いか、こういったユーザーの動向や変化が把握できるんです。
― すごく緻密な調査をされているんですね。ユーザーに「どんな機能があるといいですか?」など直接聞くことはないのでしょうか?
もちろんありますが、意外と自分の欲求って言葉にできないものですよね。たとえば過去にヒットしたさまざまな商品も、その発売を望んでいた人はほとんどいなくて、市場が提案してはじめて受け入れられたものが多いはず。
ルナルナがスタートした時もまさにそうで、生理日を手帳につけて管理する習慣はあっても、「ケータイで手軽にお知らせしてほしい」と思っていた人はほとんどいなかったのではないでしょうか。だけど、世の中に提案したらニーズにハマった。そういった潜在的な需要を掘り起こし、形にしてお届けしたいと思っています。
― 続いてチームについても伺いたいのですが、どのようなチームで「ルナルナ」は運営されているのでしょうか?
うちのチームは幅広い層のお客様をターゲットにしているので、企画に携わる社員も年齢やライフステージがさまざまで、女性だけでなく男性もいます。
それぞれの感覚を全員で共有するために、自社のサービスのダメ出しとか、他社のサービスでよかったこととか、毎日朝会で言い合っていて。毎日のことなので大変ですが、継続することでそれぞれの考えが理解できるようになるので、チームビルディングにとても役立っていますね。
― バラバラの価値観を持つメンバーが集まると、どうしても対立が起きる…なんてことは、ありませんか?
意外とそんなことはなくて、いろいろな立場の人がいることで、逆にフラットに付き合えているのかもしれないですね。
いま明確に設定しているのが「女性の生き方の多様性を受け入れよう」というサービスにおけるスタンスです。このブランドビジョンをチームで共有できていると思っています。
ユーザーがおかれているライフステージは「結婚」「妊娠」などセグメント分けしてはいますが、そのとおりに生きなきゃいけないっていう押しつけは絶対しちゃいけないし、誰にもできないと思います。
それぞれユーザーが選んだ生き方のなかで、そのときに必要となる情報を提供したり、手助けしたりできるように、というのが今のルナルナの方針です。そういったこともあって、チームの在り方も多様性を重視しているんです。
― 多様性を尊重するチームはすばらしいですね。ただ、同時にいろいろな意見が出てきて大変そうだとも感じてしまいました(笑)チームの方針などはどんな風に決めているのでしょうか?
私ひとりでなにかを決めることってほとんどなくて、メンバーの意見は絶対聞きますね
じつは私、2012年にいきなり事業部長になったんです。ディレクションもプロダクトオーナーも全くやったことがなかったのに(笑)メンバーたちのやっていることがわからない崖っぶちのような状態でポンと置かれてしまった。
この状況をなんとかするために、「メンバーの仕事を理解して気持ちよく働いてもらえることに徹しよう」と思ったんです。だからコミュニケーションを大切にしていますね。
たとえば、対面でのディスカッションも多いです。ブレストを目的とするディスカッションの時はパソコンを持ち込み禁止にしたりして。あ、あと3年前からはメンバー全員が戦略合宿も行っています。ワークショップをしたり、1年間の改善計画を立てたり、みんなで課題をあげて、全員が何かしらの課題解決を担う。責任をもって改善していこうねっていうスタンスで。組織をどう自分事として捉えてもらうか、ここが今の私のチャレンジなんです。
― 「自分とは違う人たち」をちゃんと理解していこうとする日根さんご自身のスタンスもありそうですね。
だって私、若輩者ですもん(笑)。はじめてマネージャーになったのはここに来る前、27歳の時だったのですが、部下が全員年上という状況だったんですよ。役職についたのは一番仕事ができるからじゃなくて、たまたまマネージャーという「役割」が私にフィットしたっていうだけの話なんですよね。いまの事業部長という役職もそうです。私が主役ってことじゃない。メンバーそれぞれが主役になれる環境や働きやすさを作れるのが、一番いいマネージメントなのかなって。まだまだ課題ばかりですが、そんなチームを目指しています。
― 最後に「愛されるサービスづくり」について、大切だと思うことは何ですか?
私たちは会社のなかでも、マーケットにおいても「女性の健康市場」を誰よりもわかっていなきゃいけない。「幅広い層のユーザーが日頃どんな行動をして、なにを求めているのか」を知る努力を怠っちゃいけないと個人的に思っています。
ルナルナの場合、私自身もターゲットであり、その感覚ももちろん大事にしているんですが、一方で自分と違うタイプの人のことは机上で考えているだけでは絶対にわからないし、企画を出すにしても説得力が全くないんですよ。
もちろん最初からこういったユーザーと向き合うことができていたわけではありません。何度も改善を重ねてきたのですが、過去、データ移行がうまくいかず多くのユーザーに迷惑をかけてしまったことがありました。その時、社内での対応が遅れてしまった。「くわしい原因がわかるまでは発表ができない」という方針だったのですが、それでは毎日アクセスしてくれているユーザーの不安は募る一方ですよね。その結果、たくさんのユーザー、社内ではお客様と呼んでいるのですが、お客様からご意見をいただくカタチになってしまいました。
その時に学んだのが「正直であること」が何よりも大切である、ということ。信頼してデータを預けてくださったお客様に対して、いいことも悪いことも正直にお伝えする。そのトラブル以降、バックアップ体制の強化はもちろん、SNSでの反響について、すぐ経営層に伝わるエスカレーションフローができあがりました。
― 経営層がユーザーの方向を向いているというのはすばらしいですね。
ユーザーに無理解な施策を進めようとすると、社長からストップがかかりますね。広告事業に関しても、うちのクライアントさんはトラフィック重視というより、わりとブランドで買ってくださることが多いんです。そうすると、私たちがユーザーを大切にしなくなった瞬間に、そのビジネスはうまくいかなくなるだろうと思います。お客様を大事にしているから人が集まるし、ブランドがある。なのでバランスを保ちつつ、広い視野で見たときにブランドへの信頼を損ねない選択を一番大事にしていきたいですね。
― いかに愛されるブランドをつくっていくか。経営層を含めてブランドビジョンを共有し、ユーザーと向き合っていく。こういったことの大切さを感じることができました。本日はありがとうございました!
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