中村友哉さん(アクセルスペース)は、超小型衛星の打ち上げ・地球観測網の構築を目指すイノベーターだ。「別に宇宙が好きというわけじゃないんです」そう語ってくれた中村さん。では、なぜ宇宙事業を?
これまで「宇宙」というテーマは、どうしてもロマンとセットで語られることが多かった。解き明かされていない謎がそこに。何光年も彼方に知的生命体がいるかも。人類の憧れ。そんなストーリーを期待していたのだが、よい意味で裏切られた。
「いや、別に宇宙って特別なものじゃないですよ。10年後にはすごく身近で当たり前の存在になっているはずです」
そう語ってくれたのが、超小型衛星の打ち上げ・地球観測網の構築を目指すイノベーター、中村友哉さん(アクセルスペース)だ。2015年には総額約19億円を調達し、「地球観測画像データ」事業に乗り出した。
中村さんらアクセルスペースが開発するのは、次世代型超小型地球観測(リモートセンシング)衛星であるGRUS(グルース)。2017年に3機を打ち上げ、その後、数年間で多くの衛星を軌道に投入する予定。地球観測網を構築し、地球観測に役立つデータ提供を行う計画だ。
これが実現すれば、農業における作付面積・生育状況の把握や森林の違法伐採、大規模なインフラのモニタリングなどがかなり容易になり、イノベーションが起こる。
「憧れるだけ、手の届かない世界、そう思っていたらイノベーションは起こせないですよね」
これが中村さんの持論。起業家・イノベーターの祭典「Slush Asia」に登壇された中村さんにお時間をいただき、キャリアの原点、そしてイノベーターにとって大切なことを伺った。
宇宙ビジネスに可能性はあるのか?中村さんは10年後の展望をこう語る。
宇宙ビジネスって「夢があっていいですね」と必ず言われるんですけど、10年後には「ふーん」ってなる。それが僕の夢です。宇宙でビジネスをするなんて当たり前にしたい。そのためにはやっぱり宇宙はもっと普通の場所にならないといけないなと思います。宇宙旅行であるとか、HAKUTOがやろうとしている月面探査とか、より普通になるということが重要ですし、そうなっていくと思います。
テクノロジーの視点においても宇宙って10年後はもう当たり前の技術になって、いまのITみたいになっていると思うんです。多くの衛星やロケットが打ち上がり、インフラが整ったあと、ビジネスにつなげるベンチャーが増えていくはずです。今の、宇宙から取得できるデータは「地球観測」という側面だけで見ても新しい視点なんですよね。地上のセンサーでどれだけ頑張っても取れないデータが取れる。ただ宇宙のデータだけで全てができるとは思っていなくて、地上で取得したミクロデータと宇宙から取得したマクロデータ、それぞれのデータを組み合わせることで新しい意味を持たせることができると考えています。
続けて、「宇宙のデータ」の活用が広がっていない背景について言及も。
宇宙のデータにはすごく価値があるのに広がっていません。それは「使えるだけの情報」が揃っておらず、単価も高いからです。そこが数年かけて私たちが解決していきたい部分です。私たちが目指す姿を今のITの業界でたとえると、私たちがアップル社のような立場になっていくということだと捉えています。アップルがiPhoneというデバイス、そしてOS、ベースとなるソフトをつくる。APIを公開することでさまざまなITベンチャーがそのプラットフォーム上でアプリをつくって販売していく。こういった発想と同じで「宇宙データ」のプラットフォームをつくりたいと考えています。そしてさまざまな事業者が参入し、宇宙から得られるデータに独自の付加価値をつけて顧客に販売していく。そうすることで宇宙データのエコシステムを生み出していきたいと考えています。
そもそもなぜ「宇宙」に興味を持ったのか。いかに起業に至ったのか。バックグラウンドに迫った。
もともと高校の時に化学(ばけがく)が好きで、化学をやろうと東大に入ったんですよね。ただ、だんだんと高校時代に感じていた化学の面白さが感じられなくなっちゃいました。そのような状況の中で学科を選ぶときに、航空宇宙工学科のある先生が「学生たちで人工衛星を作る」と宣言していてびっくりしたんです。学生が作るもんじゃないと思っていたのですが、でも、きっと誰もやっていないことだよなと。人と違うことができる、そこにすごく興奮しました。そこから6年間、衛星開発にどっぷり浸かりました。
ただ、研究室の仲間たちの多くは結局大企業やJAXAに就職しちゃうんですよ。宇宙業界と関係のないコンサル・金融業界とかに行く人も多かったです。私はその6年間がすごくおもしろかったし、「いい思い出」で終わらせるのがすごくもったいないと思ったんです。何とかこの技術を生かせないか。社会に役立てられないか。そう思って調べてみたのですが、世界中で実用的な小さな衛星を作っているところは世界中にどこにもありませんでした。だったらもう自分たちで作るしかないと思って準備を始めました。ただ、ベンチャーを立ち上げるための国からの助成金はあったものの、思っていたよりもずっと大変で特に顧客の開拓にはかなり苦労しました。ウェザーニューズさんとお会いできて、超小型衛星を使った新ビジネスについて半年ほどディスカッションを続けた結果、先方がプロジェクト化に対してGOを出してくれたのを受けて、やっと起業することができました。
大学、そして大学院の博士課程に進み、起業もされて、衛星の開発に心血を注いできた中村さん。さぞかし「宇宙への愛」が溢れているのでは?と、おもいきや・・・。
僕は別に宇宙が好きというわけではなかったんですよ。もちろん星が好きとか人並みにありますけど、衛星をつくりはじめたのも「宇宙で動く物を自分が作る」ということに惹かれただけでした。
宇宙好きからすると、すごく異端児に見えるかもしれません。でもそれが宇宙ビジネスをするうえでは役立っていると思うことはあります。宇宙をビジネスにする時、「それって宇宙じゃなくて地上でやったほうがいい」ということはやるべきではないと考えています。地上でもできることを宇宙でやると、地上ビジネスにコスト面で絶対に敵いません。宇宙であることの価値を最後まで吟味して、これならいけると思うことだけをやる。宇宙が「目的」になってしまってはいけないと思うんです。宇宙が好きなのはいいことですが、ビジネスにしようと考えたとき、お金を払うのは人間じゃないですか。でも人間って地上にしかいなくて、宇宙にはいません(笑)。だから、地上にいる人間にとって価値あるものにしていくことがすごく大事で、「宇宙」はツールだと考える必要があると思います。まだ誰も使っていないすごく有用なツール。それが僕の宇宙に対する見方です。そういう意味では宇宙オタクじゃなくて良かったのかもしれません(笑)
これまで、夢物語と思われることも多かった「宇宙ビジネス」。その背景には、宇宙業界における問題点もあるという。
宇宙って他の業界とのインタラクションがほとんどないのが問題だと思っています。宇宙事業は官需がほとんどで、国の予算の中で事業を行うことに主眼が置かれる世界になっている部分がどうしてもあります。これってすごく狭い村社会的な構造で、「宇宙村」とも呼ばれることもありますが、新しいビジネスをする上では、その村社会の中での居場所を考えるのではなく、まったく外の世界、別の業界から宇宙業界に連れてくることが大事になる。だからこれまで宇宙業界と全くかかわりのなかった人たちに宇宙の魅力を伝えていく必要があるんですよね。そこを上手くつなげられれば、宇宙業界そのもののパイ自体が大きくなり、新しい産業につながっていくと考えています。だから今の壁を壊したい。既存の価値観やビジネスのやり方とは異なる方法で新たなユーザーを獲得し、多くの人に宇宙をビジネスの場として見てもらえるように変えていきたい。その第一歩を踏み出すのは、やっぱり私たちのようなベンチャーにしかできないことだと思うんです。
インタビューの最後に伺えたのは、いかに「壁をつくらずに挑戦ができるか」という部分だった。
もともとウェザーニューズさんと仕事をさせていただいた影響もあるのですが、彼らのスローガンに「無常識」というものがあります。非常識になってはいけないけど、無常識になろう、と。常識を打ち破るのではなく、そもそも「常識を無くす」ことができれば、まだ誰も到達したことのない領域に到達できるという考え方です。壁があった時、それは自分で作った壁であるということに気づいていないこともあります。モノゴトに対して疑問に持ち、自身で確かめるクセをつけていく。そうすると新たな発見というのがあるんじゃないかなと思います。
あたり前だと思っていることを考え直す。自分自身からまずは壁を取っ払って物事に向かう。こういった視座をいただくことができた。業界や職種に関わらず、活かせる部分。ぜひ参考にしていきたい。
文 = CAREER HACK
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