2016.08.03
新卒説明会をヘビメタでジャック! GMOペパボ 佐藤健太郎と考える“ペパボらしさ”の本質

新卒説明会をヘビメタでジャック! GMOペパボ 佐藤健太郎と考える“ペパボらしさ”の本質

ぶっとんだ新卒会社説明会が話題のGMOペパボがまたやらかした。今年は役職者たちによるヘビメタバンドが登場。参加者を驚かせ、ネットを大いに賑わせた。GMOインターネットグループの上場企業が、なぜここまで自由なのか。理由を聞くために訪問すると、出迎えてくれたのは社長の佐藤健太郎さんだった…!

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会社説明会にヘビメタバンドが登場!ヴォーカルは…社長?

2016年4月21日。渋谷のセルリアンタワー裏に佇むホール。その日、その場所に集まった群衆たちは、当日の様子をこう振り返る。

「GIGだった…」。

しかし、このGIGの中心にいたのはロックスターではない。正確に言うと、見た目はロックスターなのだが、プロのミュージシャンではなくあるインターネット企業の役職者たちによるヘビメタバンド『PEPABO DEATH』だ。

ペパボの会社説明会の写真

      

ペパボの会社説明会に登場したヘビメタバンド『PEPABO DEATH』

             

ペパボの会社説明会に登場した代表取締役社長 佐藤健太郎さんの写真

      

ヴォーカルのKENは代表取締役社長 佐藤健太郎さん

企業の名前はGMOペパボ(以下、ペパボ)。ヴォーカルを代表取締役社長の佐藤健太郎さんが務め、バンドメンバーを取締役、執行役員CTO、マネージャー、シニアデザイナーが固めるという驚愕の編成。さらに驚くことに、このイベントはペパボの新卒会社説明会。オーディエンスは「ペパボを志望している学生たち」。正直「もう何がなんだか…」という印象である。

ペパボの創業者といえば、2014年の都知事選に立候補した家入一真さん。レンタルサーバー『ロリポップ!』やブログサービス『JUGEM』などを展開し、最近ではハンドメイド作品を販売・購入できる国内最大のマーケット『minne』などが好評。福岡でpaperboy&co.として起業した後、GMOインターネットグループに入り、上場、社長交代、社名変更などを経て今日に至る、WEB・IT業界で知らない人はいないといわれる企業のひとつだ。

そんなペパボは、なぜこの会社説明会を企画したのか。

この疑問を解決すべくオフィスを訪ねてみたところ、出迎えてくれたのはなんとメタルバンドのヴォーカル KENこと代表取締役社長 佐藤健太郎さん。paperboy&co.の創業時から、家入さんの右腕として支えながらも社内の風土づくりを推進してきた人物だ。なぜ佐藤さんは自ら仮装してステージに立つのか?そして自身が考える“ペパボらしさ”とは?

会社説明会も「もっとおもしろくできる」と思った。

― 会社説明会、すごく奇抜ですよね。ズバリ狙いってなんですか?

会社説明会って、ナビサイトや募集要項では伝わらない“企業らしさ”を伝える場だと思うんですね。ペパボの場合「普通の会社ではない可能性があるので注意してくださいね」って(笑)。

ペパボの会社説明会の写真

      

「普通の会社ではない可能性があるので注意してくださいね」

社長が変な格好をするということもそうなんですけど、ペパボの社員はみんなインターネットを使い倒していて、SNSにもバンバン上げるので、「個人のプライバシーが…」みたいなところを気にする人は社内で浮いてしまうわけです。

あと、僕らって社員同士がめちゃめちゃ仲が良いんです。定時に上がって飲みに行くことはもちろん、土日に旅行へ出かける人たちもいるほど。エンジニアは就業時間後に勉強会をやっていることもある。ワイワイ盛り上がることが苦手だったり、「稚拙だな」って思ったりする人は孤立してしまう可能性があるでしょう。

だから、会社説明会ではペパボの社風や雰囲気をおもしろいカタチで発信しています。せっかく入社しても、馴染めなければ本人にとっても不幸ですからね。

― …とてもマジメな理由ですね。いつからエンターテイメント性を取り入れるように?

初めて新卒採用を実施したときからです。企業理念として「もっとおもしろくできる」を掲げている会社なので、普通に会社説明会を企画してもおもしろくない、インパクトを出さないといけないという考えがありました。

最初の説明会会場として、今は『minneのアトリエ 世田谷』がある世田谷ものづくり学校の教室をお借りして、「学校でやるなら授業風の説明会がいいんじゃない?」「じゃあ先生のコスプレをしよう」…みたいなアイデアが次々と生まれて。そんなことを毎年繰り返しているうちに、会場も大きく、演出にも凝るようになって今に至るという感じですね。

なぜ佐藤健太郎はエンターテイナーになったのか。

― 佐藤さんがあえてステージに立つのはなぜですか?過去にも新サービスローンチ時にはコスプレしてくす玉を割ったり、クワガタになってUstreamを配信したりしていますが…。

正直、目立ちたがり屋の部分はあると思います(笑)。

でも、最初から前に出るタイプじゃなかった。どちらかと言うと、メンバーの失敗に対してキツく責めたり、数字で詰めたりするマネジメントスタイルでした。僕のマネジメントの餌食になったのが、現バーグハンバーグバーグの社長 シモダテツヤくんです。他の人は僕のことを「ケンタロさん」「健太郎さん」って呼ぶんですが、シモダくんだけは今でも「佐藤さん」と呼んでくる(笑)。

僕がムードメーカー役を意識するようになったのは、ある出来事がキッカケです。GMOインターネットグループに入り、東京進出して少し経った2005~2006年くらいの話ですね。

当時ってクリエイター気質の人がたくさん入社したタイミングで新サービスをドンドンつくろうって雰囲気だったんですけど、僕らの仕事の大半はサービス運用がメインなわけです。「新サービスをつくろう」と鼻息荒いメンバーがいる一方で、運用を担当している福岡と東京の一部のメンバーは「やらされている感」でいっぱい。社内に明らかな温度差が生まれて、愚痴をこぼす人がいたり、揉める人たちがいたりで、雰囲気は最悪でした。

経営において、社員同士の揉め事って一番の損なんですよね。仲悪いだけで経営者も時間を割かなきゃいけないし、メンバーのモチベーションも下がっちゃう。

そんなとき、ある若手社員がイベントを企画してくれました。家入さんが借りたマンションの一室で夏祭りをやるという企画で、みんなで浴衣を着て、お酒を飲んだり、焼きそばをつくったりしながら夜通し遊んだんです。運用担当のメンバーもたくさん参加して、すごく楽しい夜でした。そうしたら、不思議なことに社内の雰囲気がガラッと良くなったんです。

GMO代表 佐藤健太郎さんの写真

― イベントで何があったんですか?

みんなで楽しい時間を過ごしただけなんです(笑)。

でも、たった1回のイベントでこれだけみんな変わるなら、僕も何か変わらなきゃいけないと思いましたね。みんなを笑顔にする役を演じていこう、と。「ここは自分の会社だ」という意識が芽生えた瞬間だったのかもしれません。福岡にも頻繁に足を運んでコミュニケーションを密に取れる体制をつくったり、飲み会やイベントを増やしたりして、「みんな楽しくしようぜ」って。その延長線上にあったのが、会社説明会のステージだったという(笑)。

家入一真と僕。

― 佐藤さんのキャリアについても話を聞かせてください。上場後、家入さんから社長に指名されました。カリスマ経営者の後を継ぐときって、どういう心境だったんですか?

実は、上場準備をしている2007~2008年くらいに代表取締役に就任していました。家入さんは若干ペパボに飽きている雰囲気を出していたのである程度察していたのですが、上場直前でイヤイヤがピークになってしまって…どうにか上場まで待ってもらいました(笑)。

だから、正式に社長に就任してからもプレッシャーみたいなものはありませんでしたね。もちろん、家入さんのように新しいサービスをつくりたいという気持ちはありましたけど、自分はゼロをイチにする仕事よりもイチを育てていく仕事のほうが得意だと思っていたので。家入さんからも"家入一真の分身”としての期待は特になかったと思います。

GMO代表 佐藤健太郎さんの写真

―ぶっちゃけた話、寂しくなかったですか?元々は仲の良い友だちだった家入さんと別々の道を歩むということに。

上場前後のタイミングから家入さんが六本木とかで豪遊するようになったんです。僕はもちろん、みんなが「もう昔の家入さんじゃない」と思うようになって、少しずつ距離を置くようになっていて…だから、家入さんが新しい道を歩むことに対しての寂しさは正直ありませんでしたね(笑)。

社内では「“家族を捨てたお父さん”みたいな存在だよね」という話をよくしています。家入一真の会社だと思って入社したけど、いつの間にかいなくなったから、自分たちでがんばろう、と。家入さん自身も彼がつくってきたサービスも確かにすごいけど、「今までを超えるサービスをつくろう」という意識の社員ばかりなので、いなくなって困るということはなかったですね。

― 家族を捨てたお父さん…。

“GMOペパボらしさ”ってなんだろう。

― 佐藤さんが考える“ペパボらしさ”って何だと思いますか?

僕も含めて、インターネットを通じて自己表現したい人たちの集合体だと思っています。僕らって十何年もインターネットで自己表現するためのインフラをつくっている会社なわけです。自己表現することがユーザー視点を身につけるための近道なんですよね。だから、「こういうことは禁止」ということは言いません。実名で、ペパボの名前を出して活動しても構わない。みんな自由にやっていますよ。タレント化している社員もいますしね。

家入さんの想いも一緒なんじゃないかな。『ロリポップ!』がまさにそうで、家入さんが個人サーバーのビジネスを始めたのも、自分でWebサイトをやって楽しかったからだと思います。

一方で、運用の仕事は地道さや正確さが求められる。だから、「マジメな仕事をしているけど、人に見られる部分はおもしろくしようとする」ってところなんだと思います。GMOインターネットグループに入ったり、上場したりして世の中からの見られ方は変わっていったけど、僕らの根っこにある部分はずっと同じなのかもしれませんね。これからは僕らが大事にしている“ペパボらしさ”を維持しながら、世界で通用する企業に育てていきたいと思っています。


― お話をうかがって感じたんですが、ペパボって佐藤さんの人格そのものですね。

どうなんでしょう?まぁ、家入さんの頃からは少し変わったかもしれませんね。

でも、家入さんの頃から変わらずに根底にあるのはコンプレックスの強さだと思います。僕は社長だからちゃんとしているつもりだけど、人見知りがひどいほうで会話とかもそんなに得意じゃないんです…(笑)。社員も同じタイプが多いように思いますね。"リアルの世界だと声を張れずに、インターネットで頑張っちゃう”とか、“話すとシャイだけど、カメラを向けるとみんな張り切って写っちゃう”とか。僕が会社説明会のステージに立つのも、コンプレックスが根っこにあるのかもしれませんね。

― 最後に、来年の会社説明会でどんな演出を企画しているのか教えてください。

僕、知らされていないんですよ。会社説明会の企画も人事がまるっと考えてくれるようになったのは嬉しいんですけど、「来年は何をやらされるんだろう」ってドキドキです(笑)。

GMO代表 佐藤健太郎さんの写真

― いい意味で社長が社員から“いじられる”というのは会社としての一体感を増す方法のひとつなのかもしれませんね。佐藤さん自らが風土づくりに取り組むことをうかがい、あらためてステキな会社だと思いました。来年の会社説明会も楽しみにしています。今日はありがとうございました。


文 = 田中嘉人


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