働き方の変革が進む中、「副業推進」が議論されることも増えてきた。いまの日本で副業・兼業はスタンダードになり得るか。ポジティブなインパクトをもたらすのか。スポットコンサルのマッチングサービスを手がけるビザスク、代表取締役CEOの端羽英子さんにお話を伺った。
今、大手企業を中心に正社員の副業・兼業を解禁するケースが増えている。
政府が推進しているのが「働き方改革」。厚生労働省の『モデル就業規則』では副業・兼業に関して「原則禁止」から「原則容認」に変えるといった方針が掲げられている。
[参考]モデル就業規則について
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/(厚生労働省HPより)
安倍首相も副業・兼業について「普及は極めて重要だ」との認識を示す。
[参考]正社員の副業後押し 政府指針、働き方改革で容認に転換
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS25H1D_V21C16A2MM8000/(日本経済新聞 電子版より)
副業・兼業は本当に広まっていくのか。
広まるとしたらどういった形になるのか。
これからの「働き方」を考える上で、その影響について考えることは意義深いはず。副業・兼業の普及が叫ばれる今、注目を集めるスタートアップ企業の一つとして知られるビザスクの代表取締役CEO、端羽英子さんにお話を伺った。
▼ビザスク 事業概要
「世界中の知見をつなぐ」をビジョンに、1時間からのスポットコンサルサービスを展開。もともと女性向けのサービスとして考案されたが、代表である端羽さんの原体験をもとに「1時間のスポットコンサルのサービス」にピボット。個人のビジネス知見と課題を抱える個人・企業が対面/電話でつながる。 2017年2月現在、30,000名超のアドバイザーが登録されている。https://service.visasq.com/
▼端羽英子 プロフィール
東京大学経済学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券投資銀行部門にて企業ファイナンス、日本ロレアルにて化粧品ブランドのヘレナルビンスタインの予算立案・管理を経験し、MIT(マサチューセッツ工科大学)にてMBA(経営学修士)を取得。ユニゾン・キャピタルにてバイアウト投資に5年間携わった後、ビザスクを立ち上げる。米国公認会計士試験合格。グロービス・マネジメント・スクール講師
― 今回は、副業推進は本当に進むか?というテーマなのですが、まずはビザスクが展開しているスポットコンサルというサービスについて伺わせてください。マーケットや時代の変化を感じていますか?
そうですね。マーケットの定義の仕方にもよりますが、私たちのサービスが徐々に受け入れられているというのが個人的な実感です。
立ち上げまもない2012年頃には「こんなサービスが日本で流行るわけない」と言われることも少なくありませんでした。ですが、一昨年くらいからシェアリング・エコノミーの流れが出てきて、さらには政府が推進する「働き方改革」の流れが加わった。その結果、受け入れられる環境が整ってきていると感じていますね。
もちろん、保守的な業界だとまだまだビザスクの利用には至っていません。ですが、そんな業界に所属する方々も、個人レベルでいえばコンセプトは確実に受け入れていて。
ざっくりした言い方になりますが、「自分の会社ではまだ利用できないが、世の中の動きを踏まえるとアリだと思う」といった肯定的な捉え方をされることが増えています。
少なくともサービス開始直後のような「絶対的なタブー」ではなくなっており、非常に興味深い変化だと思います。
― もともと「副業」を意識された事業だったのでしょうか?
それでいうと、副業サービスをつくりたかったわけではありません。もともと自分が1時間のスポットのアドバイスを頂いた際、大変価値があり、役立ったことがきっかけ。なので「1時間のスポットコンサルのプラットフォームをつくりたかった」というのが創業の背景です。
転職のピークを過ぎた年齢だったり、子どもを産んだ直後のタイミングだったり、すこし保守的にならざるを得ないタイミングは誰にでもあります。それまでのキャリアで獲得したスキルや知見が活かされないのは非常にもったいない。誰でも使える知見をつなぐプラットフォームをつくる上で、「1時間」という部分にはこだわっています。
― 発注サイド、つまりクライアント側のニーズも「スポットコンサル」にあった?
そうですね、前職でユニゾン・キャピタルという投資ファンドに在籍しており、いろいろな業界における調査・インタビューの必要性に直面することが多くありました。そういった背景もあり、企業が「スポットコンサルを使いたい」というビジネス上のニーズが存在することはもともと認識していたんです。
加えて、自分が起業を志した際、本当にわからないことだらけで。さらに周囲に起業している友人がほとんどいなかったですし、アドバイスしてもらえる方を探すのが本当に大変だったんです。結局、2ヶ月くらいかけて探して。「人脈には谷がある」と表現される方もいますが、知見を持つ面識のない方と出会うのは本当に難しい。
私たちは「組織・世代・地域を超えて知見をつなぐ」というビジョンを企業として掲げているのですが、本当にこの3つは大きな壁で。この壁を取り払っていきたいですね。
― どういった方がアドバイザー(登録者)に多いのでしょうか。
一概にいえないのですが、役職定年を迎えた方や、セカンドキャリアを考えている方、現職の知見を他でも活かしたい方、結婚されて子育てしながらの方、さまざまですね。
― 近年で増えているアドバイザーでいうと?
だんだんWeb業界の方にもご利用頂くことが増えてきました。サービスのメディア露出が増え、Web界隈の方々にも認知されるようになってきたというのもあると思います。依頼側の内容でも、Webマーケティング、スタートアップの広報、SEOなどさまざま。
依頼側でいうと、社内に知見が存在しないということもあり、新規事業関連の依頼は多いですね。サービスの仮説検証の場として利用されるケースが多いです。また、起業を目指す方におけるリサーチやヒアリングの場としてご利用いただくことも多いです。
― アドバイザーの年齢はどうでしょう。やはり年配の方が多いですか?
比率的にはそうですが、若い方が登録するケースも増えていますね。一般的には若いうちってどうしても「自分なんてペーペーだから教えられることはない」と受け身になりがち。でも、決してそんなことはないんです。会社で働いていたら、誰しも知らず知らずのうちに何らかの知見は貯まっています。だから、20代の若手であっても「誰かにとっての知見者」になりえると考えています。
また「これって何に活きるんだろう」というスキルや知見であっても、後々に活きてくるケースが往々にしてあります。だからこそ、未来に向けて自分自身の貴重なスキルや知見を丁寧に「ストック化」していくスタンスが大切で。それらを可視化し、マーケットに価値を問う意味でも「スポットで働いてみる」「アドバイスしてみる」ということが有効なんですよね。
― ここ最近、副業推進が注目されていますが、浸透はしていないですよね。まだまだ副業を禁止している企業のほうが多い。
さまざまな理由があると思いますが、変化の過渡期にあって。極端に言えば、日本経済が順調に成長していた時代、企業側としては社員に働いてもらえばもらえるほど業績が伸びていたわけです。とにかく集中的に働いてもらうことが優先で、副業を禁止する合理的な理由が存在していた。
社員側としても、終身雇用であり、年功序列の社会では副業する必要があまりありませんでした。でも、制度として終身雇用は限界を迎えています。また目まぐるしく変化する世界において、大企業だからといって未来永劫「安泰」とは限らない。にもかかわらず、私たちの寿命はどんどん伸びている。「パラレルキャリア」が脚光を浴びている背景にも、そういった要因があるのかもしれません。
多様化する価値観のなか、いずれにしても、これからの時代においては「自分のキャリアを自ら主体的につくっていく」という意識は誰しも持ったほうがいい。変化の激しい世の中で、不安に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、見方によっては何回でも違った人生にチャレンジできる。前向きな変化でもあると思っています。
― あえてパラレルキャリアに準え「複業」としますが、そういった「複業時代」がくると仮定し、大切なことは何でしょうか?
その方自身に備わった魅力や能力、提供できるものがあるかどうかが本質的には大切だと思います。同時に、自分には何もないと思っている方であっても、誰かにとってすごく価値のある知見やノウハウを必ず持っている。そこがマッチングの面白いところですよね。
「誰かに提供できること」が見つかる喜びって想像以上に大きいもの。やっぱり「ありがとう」と言われるとうれしいですし、相手から求められた時にこそ自分の強みが一番感じられます。すると「働くことが楽しい」と感じられて。
私は90歳まで働きたいと思うほど仕事が好きな人間なのですが(笑)これからの人口減少の問題もありますし、「働くことが楽しい」と思う人が増えていくことが、究極的に言えば、これからの日本にすごく大事なんだと思います。
― 最後に伺わせてください。CAREER HACKには20代の読者が多いのですが、これからの時代を生きていく若い世代に「持っておくといいマインド」があれば教えてください。
自分の「好き」や「得意」を見つけていく、選択肢を広げていくためにチャレンジを頑張ってほしいと思います。なにしろ20代は「好きをものにする」という時期なのかなと。
私の場合、23歳での出産がありました。みんな遅かれ早かれ、がんばりたくてもがんばれなくなるタイミングが来る。だからワークライフバランスは人生のトータルで見るべき。
もちろん「苦しんでがんばれ」とか「死に物狂いで働け」とか、そういうことを言っているのではありません。自分の「好き」を見つけ、「喜びポイント」をたくさん持っておいたほうがいい。可能性を広げるために、一番チャレンジできるのが20代だから。
あと、若いうちって「教えてください」と誰にでも質問できるし、どんどん「失敗できる特権」がある思っていて。それをフルに活かしてほしいですね。
(おわり)
文 = 勝木健太
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