代官山 蔦屋書店とランサーズによる共同企画イベント-"複業"時代の到来「2枚目の名刺を持つ生き方とは?」の模様をレポート。ランサーズ代表の秋好陽介氏、スプリー代表&コラムニストである安藤美冬氏、そして2枚目の名刺を持って働く3名のゲストのリアルから「複業」の在り方を考えます。
1つの場所で1つの職業に就くのが当たり前?「場所×職業」の在り方がいま、変わろうとしている。
クラウドソーシングの広がりにより、場所や時間にとらわれない新しい働き方が注目され、「副業」ではなく「複業」としてキャリアを描く人々が現れた。そう、“2枚の名刺”を持って働くビジネスパーソンが増えているのだ。
そんな中、2015年8月22日、代官山・蔦屋書店にて、株式会社ランサーズ主催『"複業"時代の到来「2枚目の名刺を持つ生き方とは?』のトークイベントが行なわれた。
前半は株式会社ランサーズ代表の秋好陽介氏と安藤美冬氏(株式会社スプリー代表&コラムニスト)による複業をテーマにした対談が。後半は秋好氏&安藤氏に加え、プロのウェイクボーダー選手として活動しながらも映像クリエイターの顔を持つ田口勇樹氏、山形県で雑貨店を営みながらクリエイターとして活躍する高橋天央氏、そして代官山蔦屋書店にてデザインコンシェルジュとして勤務する傍らグラフィックデザイナーとして働く籔田千晴氏の計5名によるトークが繰り広げられた。
秋好:名前に秋と冬が入って「秋冬コンビ」と言われている二人での対談になりますね(笑)
安藤さん、最近お仕事のほうはどうですか?
安藤:そうですね、今日のテーマは「複業」ということで、私も色々な仕事をしています。コラムニストとしての仕事もあったり、大学で講義をしたり。最近は海外で本格的に仕事をしようと思ってたりもしていまして、英語も本腰を入れて勉強してます。なので、わたし「英語の名刺」を作ったんです!名刺が増えてしまいました(笑)
秋好:英語の名刺!複数名刺を持つこともそうだけれど、いまパレレルキャリアや複業がとても話題になっていて。複業を禁止するどころか逆に推奨する事例が増えてきているよね。株式会社エンファクトリーさんをはじめ、良いシナジーが生まれているなぁと。
▼参考
「大企業こそ副業を推奨せよ!?「専業禁止」を掲げるエンファクトリーの成果」
(https://careerhack.en-japan.com/report/detail/461)
秋好:これ、なぜエンファクトリーさんが専業を禁止しているかというと、社員に会社の外で知識を吸収して、主体的な選択肢を持ちつつ、キャリアを築いていって欲しいからなんですよね。
安藤:なるほど。わたしは複業ではなく、パラレルキャリアということを先に知りました。一つの会社で一生働き続けることは、いまの時代すごく難しい。
秋好:そういえば、今日生まれた赤ちゃんの半分以上は今ない職業につくって言われてますよね。
安藤:はい。秋好さんの話を補足しますね。米デューク大学のCathy Davidson氏は「2011年にアメリカに入学した小学生の65%は、大学卒業時には今は存在していない職に就くだろう」と言っているんです。だから、これからもっともっと新しい職業が生まれてくるということなんでしょうね。
秋好:そうですね。iPhoneアプリを開発するエンジニアなんて過去にはいなかったわけですし。これからITの発展と同時にもっと多くの職業が生まれてきそうですね。
安藤:わたし自身は複業の時代は本当に来ていると思っています。昔から本業以外に職を持つ人はいましたが、5年くらい前までは「副業している人」ってどこか怪しいと思われがちでしたよね。
秋好:昔はね。でも、本業以外に仕事を持つ人はいないわけではないんだよね。
安藤:ふとん屋さんの横で同じ人がタバコを売っていて、その横で文房具取り扱っている。そして、店名が「村上商店」みたいな。そういう商売スタイルって地方では普通にあるじゃないですか。だから、そういう面で考えるとわたしは「安藤商店」ですよね(笑)
秋好:なぜ、「怪しい」って感じがなくなってきたのだろう。何かが変わってきたんですかね?
安藤:企業が変わったのだと思います。3M(スリーエム)社が付箋であるポストイットを生み出したのも、GoogleがGmailを生み出したのも、本業の業務とは違う時間だった。きっと企業も、主な研究領域・業務内容から一歩外に出たときに、新しい発見やサービスが生まれることに気づき始めたと思うんです。
秋好:なるほど。企業側の意識が変わったことが変化をもたらした、と。実際に安藤さんは2枚、もしくは2枚以上の名刺を持って働く生活はどうですか?
安藤:まずは、毎日が楽しいですよね!もちろん、1つのことに集中して「職人のように働くことが良い」って人も中にはいると思う。ただ、わたしのように元が飽き性だと、日々3つ4つの仕事をやるのが楽しいし向いていると思う。しかも、1人で完結しない『ルパン三世型ワークスタイル』が好きなんだと思う。
秋好:プロジェクト、事件ごとに集結ってことね(笑)
安藤:わたしはいつもと違う別の環境に自分を置いたときに、自分の才能が開花していく人って一定数いると思ってて。環境が要因になって才能が開く人っていると思いませんか?
秋好:バッターボックスは1つだけじゃないということですよね。いくつものボックスがある中で、どれかのボックスがきっかけになって、才能が開花するって僕もあると思う。
秋好:ここからは2枚目の名刺を持っている3名のゲストにも加わっていただきたいと思います。
まずは、複業を始めたきっかけをお伺いしてもいいですか?
田口さんは、プロのウェイクボーダー選手をやりながら映像クリエイターってことですがきっかけは?
田口:僕は基本的にはウェイクボーダーとして年4回大きな「戦い」が決まっていて、クリエイターもやりながら両立させています。移動が増えてカメラを回して作っているうちに趣味から入って……という流れになったかな、と。
秋好:なるほど!具体的に映像クリエイターが趣味ではなく、仕事に変わったのはどのタイミングですか?
田口:本腰を入れて複業化を決めたのは「ウェイクボードのDVDを作って欲しい」っていう問い合わせをもらったことがきっかけですね。予算もいただいて、それこそ僕一人では完結しない仕事になったので。
秋好:なるほど!そういう流れだったんですね。高橋さんは?
高橋:はい、僕は捨てられる材料を見ていて、「これを使って雑貨屋さんをやりたい!」と思い立ちまして。結果、クリエイターをやりつつ雑貨屋さんも複業でやることにしちゃいました(笑)
籔田:私は当時勤めていた会社での仕事がなくなっちゃったことかな。振り返ると「あれも良い転機だったのかも」って思っているのですが(笑)
で、仕事を探していたときにちょうど蔦屋書店で「デザインコンシェルジュ」の求人があったんです。
私は、グラフィックデザイナーとしても働いていきたかったので、蔦屋書店のスタッフとして働きつつ、複業でグラフィックデザイナーとしても活躍できるスタイルを選びました。
秋好:あ、会場の皆さん「苦労話」に興味があるみたいですね。籔田さんは複業で苦労した点はありましたか?
籔田:私は朝が苦手で(笑)蔦屋書店では早朝勤務があるのですが、グラフィックの仕事もしたかったので、あえて朝7時からのオープンスタッフに志願したんです。ただ、今でも早朝勤務に慣れてなくて。毎日が努力ですね(笑)
秋好:僕もエンジニアリングをしていたときは、本当に朝に弱かったのでお気持ち、すごい分かります……!
高橋さんは、雑貨屋店をオフィスにしながら、クリエイターの仕事もやっているじゃないですか。「複業」をする中で困ったことはありますか?
高橋:そうですね。僕はしかめっ面から笑顔を作るのが苦手なんです。「お店なのに何言ってるんだ」って話ですが、集中してクリエイションしているときでもやっぱりお客様が来たら、対応って欠かせないじゃないですか。そこの切り替えが難しいかなって思っています。
田口:僕が一番苦労しているのは、時間の使い方ですね。昼はウェイク、夜は映像クリエイターとして編集しているっていう働き方だから、時間の管理が大変。あと、映像系の知り合いがいなかったのも苦労した点です。
これから人脈も広めていかないといけないなって強く感じているのですが、ウェイクボードはまだまだマイナーなスポーツだと思っていて。本業の中で、映像系に強い人と知り合うことができない。
秋好:本業の中で複業のコネクションがないってことですね。
田口:本当、ウェイクボード界で映像クリエイターって全くいないんですよ(笑)
秋好:やっぱりみんな時間については悩みの種なんですね。
安藤:そうですね。わたしは時間というより、目標を軸にして動いているかな。何十年後の長期目標ではなく、中期で目標管理をしています。時間の管理はヘタですね。デジタルで管理しつつ、それだけだと心もとないので、手帳もダブルで使っています。
高橋:同じく、僕も管理できているかっていうと自信がないですね。スケジュールが決まっているときはスマートフォンで小まめに見る。もうスパンを短くして確認するしかできてない。
薮田:私も二足の草鞋を履くうえで、蔦屋書店で早朝勤務して13時に帰る生活をしているのですが、早朝勤務のわりには寝るのが深夜1時だったりするので、なかなか難しいなぁと。夕方寝てしまったりして、時間との付き合い方は模索中です。
秋好:みんな時間管理が課題なんですね(笑)モデレーター泣かせな展開ですが、ここに新しいビジネスがあるかもしれません。クリエイター×時間管理みたいな!
イベントの終盤、来場者から質問が寄せられました。
質問者:いろいろな地方が選択肢としてあったのですが、なぜ山形を選んだんですか?
高橋:僕は子供ができたのがきっかけですね。この働き方では父親にはなれないって思って。妻も山形出身だったので、出身地にUターンしたんです。
質問者:地方だと都心と比べて仕事の量や単価が違うと思うのですが、実際どうですか?
高橋:そうですね。でも、僕は地方って変わってきていると思ってて。以前は下請け企業が多くて、東京で企画したのが下りただけっていう会社さんが多かった。
でも、今は地方でも「自社ブランド」を作って、マーケティングしていこうっていう風潮が出始めてきた。僕は、そういう会社さんを助けていて、これからブランディングをする人の力になりたいと思っています。
質問者:田口さんへ質問です。映像のほうで結果が出ないときはどうやって対処していますか?
田口:僕は、ウェイクで結果が出ないの状況と映像で結果が出ない状況は似てると思ってて。出ないものは出ない。
何かを作る、ウェイクで結果を作ることと映像をクリエイションするということは、同じ「Make」なんです。だから、結果が出ないときこそ、違うジャンルを意識して「実はこういう視点もあるのかも?」って別の軸で思考することが重要かな。
ウェイクがアウトドアなのに対し、映像の編集でインドアになりがちなので、交互にバランスを取るようにもしています。結果が出ないときに「本業だから」や「複業だから」は理由にならない。
安藤:あと、課題はルールや作法的なところにもあるよね。ITやクリエイティブ業界のルールとスポーツ選手等の業界のルールってやっぱり違うじゃない?ルールの違いで自分が戸惑ったとき「ほら、中途半端になるでしょ?」って言われる。
秋好:なるほどね。分かります。
安藤:私、かつて名刺を複数持っていた人の「怪しさ」ってここなんじゃないかと思った。「ほら、中途半端になるでしょ?」っていう可能性が少なからずあることはちょっとデメリットかな。もちろん、複業はいいこともたくさんあるけれど。
秋好:分かる。あと良い面でいうと、いきなり海外で事業をやるってリスクがあるんですよね。
そういうリスクがあったときに「複業」という働き方であれば、失うものが1つじゃないから、やりやすいっていうのがあります。「複業」であれば、何かに挑戦しやすいのは最大のメリット。今後も「複業」をきっかけにチャレンジする人が増えていって欲しいなと思います。
複業と2枚の名刺。個人の生き方や働き方が時代と共に変化してきており、クラウドソーシングの需要も格段と増えてきた。企業自身が「複業」について考え、受け入れる姿勢が整ってきている今。何かを始めようと考えている人にとって、「複業」はうってつけのキャリアスタイルなのかもしれない。
文 = 鈴木美雪
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