育児におけるママのお悩み解消アプリ『ママリ』が月間利用者数600万人(※1)を突破!じつに2016年に出産をしたママの約5人に1人(※2)が使っている計算だ。『ママリ』誕生のウラ側、そして愛される理由とは?
※1:メディアとアプリの月間利用者数の合算値。
※2:『ママリ』の初回登録時に入力された出産予定日と、厚生労働省発表「人口動態統計」から算出。
「人がどうしたらもっと『健やか』に生きることができるのか、それを考え続けた結果が今の『ママリ』なんです」
こう語ってくれたのが大湯俊介さん。「ママの一歩を支える」をテーマにしたお悩み解消アプリ『ママリ』の生みの親だ。
大学卒業直後の起業を経て、クリエイター向けのサービスをリリース。試行錯誤の末に『ママリ』の着想に辿りついた。彼らが目指すのは、子育てにまつわる悩みをもつママたちが、お互いに相談し合い、自信をもって一歩を踏み出せる社会を形作ること。
『ママリ』はどういった道を経て、今のカタチに辿り着いたのか。なぜ、ママに必要とされるのか。大湯さんへのインタビューを通じ、ユーザーに愛されるサービスづくりの本質が見えてきた。
[プロフィール] コネヒト株式会社 CEO 大湯俊介(@shunsuke00)
大学在学中に外資系コンサルティングファームに内定。そのまま入社する予定が、学生生活の最後に米カリフォルニア大学に留学、現地企業でのインターンを経験しそれが人生の転機に。帰国後、機械学習を専門にしていた島田(現CTO)と出会い、意気投合。2人で議論を繰り返す中で共に起業することを決意。内定を辞退し、2012年1月にコネヒト株式会社を設立した。
― 『ママリ』はもともとウェブメディアからスタートし、その数ヶ月後にはQ&Aアプリの『ママリQ』をリリースし、大きくカタチを変えていますよね。それはなぜだったのでしょうか?
若いママたちの課題を解決するためには、わかりやすいUIで情報を伝えていくことが大事。その仮説から、もともとはスマホメディアを志向していました。ですが、実際に蓋を開けてみてわかったのは、ママたちが抱えている課題に対して、記事を提供するだけではどうやら足りないぞ、と。
知り合いのママさんに話を聞いてみると、「ただ不安で辛いってことを誰かに話したい。聞いてほしい」といった声が想像以上に多かったんです。これを聞いて、子育ての“健やかさ”に向き合うためには、情報の提供にとどまらず、コミュニケーションによる不安の解消が必要なんじゃないかと思いました。
たとえば、「つわりが辛い」と悩んでいたとします。つわりそのものを無くすことは現実的には難しい。でも、辛いっていう感情を共有し、理解してもらうだけで心が軽くなるといったことです。
“心の健やかさ”をサポートしていく。これはグーグルさえもまだやりきれていないこと。できたらすごく意義があると思ったんです。抱えている課題の解決だけを模索するのではなく、共感によって”心の拠りどころ”を見つけられる場所をつくりたいと思いました。
― そのニーズの有無は、かなり検証をしたのでしょうか?
いえ、じつは『ママリQ』って2ヶ月くらいで実装から公開に至っていて。2週間くらいでいわゆる”側アプリ”で質問投稿と回答ができるだけのプロトタイプをつくり、ユーザーさんに出して反応をみていました。仮説を元に小さく作ってみて、世の中に聞いてみる。もしダメだったらスピーディに変えていく。やっぱりそれが早くいいものをつくるコツだったと思います。
― ちなみになぜQ&Aだったのでしょう?…先の「つらさを共有したい」といった声に応えるなら、SNSのようなアイデアになるのかなと思いまして。
ユーザーさん同士の会話が大事だとは思っていたのですが、あくまでコミュニティの中心にある考え方は「困っていることを軽減する」という形にしたかった、結果としてQ&Aというメタファーを採用しました。実際アプリ内で行われていることは、コミュニケーションに近いのですが、「Q&A」と表現することで回答をする人が「悩みを解消してあげよう」という気持ちで向かい合えるのではないかなと思っています。
― 他のQ&Aサービスとの違いはどこにあるのでしょうか?
サービスで実現したいことと、その結果としての「ユーザーの距離感」なのかなと思っています。こういった手のコミュニティサービスについて考えるときには、この概念がいつも大事だなと考えています。
『ママリ』では共感を生み出すということを目的にしています。なので「どんな属性のママか」ということが伝わるように考えて設計をしています。ちょうどよい距離感による「ゆるいつながり」が効いているのではないかなと思っています。
他のQ&Aサービスは「質問と回答」が主役。だからアプリのトップページにはユーザーさんのアイコンなどがありません。FacebookなどのSNSでは、誰が発言しているかという「人」が主役になっています。
― もうひとつ、すごく不思議だったのが、ずっと「検索」の機能がなかったですよね。なぜでしょうか? 求める声も多かったと思います。
そうなんです。じつはリリースしてから約2年半、過去の質問を閲覧できる「検索機能」をつけませんでした。ユーザーさんから絶えず「検索機能がほしい」という要望はあったのですが、ママリの提供価値は「コミュニケーションを起点として共感を生み出すこと」だと考えていたので、あえて付けないといった判断をしていました。
― 具体的には何を懸念されたのでしょうか?
たとえば、赤ちゃんの夜泣きに困っているママがいるとします。その質問を「Q&Aをすること」を目的とした場に投稿すると、「過去に何千回とされた質問なのに、なんで調べてから聞かないんですか? そんな努力もできないあなたは…」という回答が返ってきたりします。その質問をする人の意図って、ほんとは辛くて助けて欲しいだけだったりするんですが、場によってはそれが求められていなかったりする。
これは「回答者の性格が悪い」といった問題ではなく、サービスに何を期待するかといった構造の問題だと捉えています。そこで『ママリ』では検索を提供しないことによって「検索できないなら質問するしかないよね」という、「検索しない言い訳」を作ろうと思ったんです。回答する人は、質問するしかないんだから仕方ない、答えてあげよう、と。コミュニケーションを生むための策でした。
ただ、2年半かけてやっとユーザーさん同士がコミュニケーションする文化がアプリの中でできてきたので、最近検索機能をつけました。今はその世界観が維持できているかな、と思っています。
― すごく理想的なコミュニティが築けているという印象です。
ありがとうございます。ただ、けっこう失敗もしていて(笑)たとえば、いまは無き「ありがとうボタン」は今でもよく思い出します。この「ありがとうボタン」は、回答をもらった質問者の人が押すと「ありがとう」という言葉とカワイイ絵文字が自動的にコメント返信されるというものでした。
― とても素敵な機能のように感じます。
じつはこの機能、ものすごくユーザーさんからの評価が低かったんです。原因はシンプルで、「ありがとうの気持ちが全く伝わってこない」と。『ママリ』ではやり取りに思いやりがある人も多く、回答ではスマホで書いたとは思えないほどの長文を投稿する人も少なくありません。これに対して質問者のリアクションに「ボタン一つ」を推奨してしまった。画面の向こう側で誰かが文字を打ってくれているという温もりが大切だったのに、それに思い至らず短絡的に質問者のリアクションを増やそうという考えから企画をしてしまったため、ものすごく反省しました。
『ママリ』って朝から晩まで見てくれているユーザーさんも多いんですよね。1日に何度も訪れて10時間にもわたって使ってくれるような方もいます。中には「自らの言葉ではない、機械化された『ありがとう』ならいらない」という趣旨で1000文字にわたる長文のお問い合わせをくださった方もいて。運営一同すごくハッとさせられたことを今でも鮮明に覚えています。リアルに泣きそうでしたね。笑
数字指標の変化もみた結果、すぐにこの機能はお蔵入りとなりました。この出来事があって以来「ちゃんと人の温もりが感じられるプロダクトにしよう」と、大きな学びになりました。
― もうひとつ、すごくユニークなのが一緒に起業をしたCTOのご経歴です。学生時代には機械学習を学ばれていますよね。『ママリ』の運営にも活きていますか?
はい、そう思います。「ママ向けサービス」「温かみ」といったイメージには合わないかもしれませんが、実は技術を用いてこの「温かみ」を実現していこうとしています。
たとえば、質問者と回答者のマッチング。「1歳の子が寝てくれない」のと「3歳の子が言うことをきいてくれない」という悩みでは、質問したい相手がぜんぜん違います。同じ境遇にいたり、すでに経験をしたママさんのほうが答えやすい。
そこでユーザー属性を起点に、子どもの年齢やもっと細かく月齢ごとに、悩みを解消しやすい相手とのマッチング精度を高めていく。そういった切り口から技術を活用しユーザー体験の向上に努めています。
機械学習という観点では、投稿内容を監視するアルゴリズムを活用しています。目的は、コミュニティの風紀を保全すること。コミュニティサービスには避けて通れない課題として、望ましくない投稿や荒らし問題があります。具体的なケースとしては悪意を持った業者による勧誘投稿ですね。このようなスパムを投稿の内容を解析し自動で判断できるようにしています。
― 最後に『ママリ』のこれからについても伺わせてください。
ぼくらは『ママリ』のことを、「人の生活になくてはならないインフラを作っている」と考えています。大きいことを言っているようですが、すでに見えている未来もあって。たとえば、投稿の内容や傾向から家庭ごとの「家族に関連した消費行動や購買意欲をキャッチできるチャンスがある」と思っています。
『ママリ』ってじつはライフステージの変化に伴った「消費」の質問もかなり多いんです。「子どもが生まれたから保険に入りたい」とか「子育てがしやすい環境で家を買いたい」など。大きな消費と家族ってものすごく紐付いています。ユーザーさん同士のアドバイスで、クルマの購入を決めた方もいらっしゃいました。
つまり、やりとりされているQ&Aから、消費における意思決定をデータで解き明かし、分析することができるということ。本当に役立つものはなにか。どういった世帯に、どういったモノやサービスが必要とされているのか。すごく大切なことですよね。ここを考えていけるのが、『ママリ』ならではの面白さだと思います。なんといっても、月間150万件以上にのぼる「ママたちの生の声」が共有されている。人の生活になくてはならないサービスを、技術とユーザーへの深い洞察で作っていく。これまで以上にわくわくする展開があるはずなので、ぜひ期待していただければと思います!
文 = 大塚康平
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