「福島に住む、70歳のおばあちゃんがスマホで決済できたんです」。優しい笑顔で語ってくれたのは、荻原充彦さん。アプリで大事にしたのは分かりやすさと親しみやすさだ。
「お財布」がいらなくなる未来は、もうすぐそこにきているのかもしれません。
レジで、スマホをかざすだけで支払えたり、
振込だってわざわざ銀行に行かずにアプリでできたり、
ちょっとしたお金を友達に渡すのだって、スマホで。
いま少しずつ広まっているスマホ決済アプリですが、そのなかでも、ポップさで一際目を引くのが、株式会社pringが運営する新サービス「pring(プリン)」です。
「お金に関するあらゆることを解決したい。広い層につかってほしい。じつは福島に住む、70歳のおばあちゃんがスマホで決済できたんです」
優しい笑顔でこう語ってくれたのが、株式会社pringの代表 荻原充彦さん。
とてもユニークなのが、操作がカンタンで、デザインがポップなところ。スマホ時代、これからのサービスには「ポップさ」が欠かせない? 荻原さんにお話を伺いました。
「pring(プリン)」は、ぼく自身がもっと「金融」を身近なものにしたいという思いからスタートしたアプリなんですよね。もともと10年くらい金融業界に身を置いてきて、金融業界の中にいる人と消費者の間には大きなギャップを感じていました。
そもそも「金融」って、どういう言葉の意味を持つのかいまいちピンとこない人もたくさんいると思います。「決済」とか「為替」とか「融資」とか、あまり馴染みのない漢字ばっかりだし。でも、ひらたくいうと「決済」は「お金をはらう」だし、「為替」は「お金をおくる」です。そのほうが、頭にスッと入ってきますよね。
そもそも、お金って本来はもっと身近な存在にあるもの。毎日お財布を持ち歩いていたり、なにかしら買い物をしたり。だからこそ、金融業界特有の上から目線をなくして、もっと身近で柔らかいものに変えていきたいなとずっと思っていました。
金融業界でもネット化が進み始めた段階で、ネットバンクを立ち上げるプロジェクトにアサインされたんです。ただ、スマホアプリを作る提案を役員にしたら、「アプリは誰も使わない」という一言で議論が終わってしまって。それが、すごく衝撃的だったんです。
僕らは既にLINEとかアプリを日常的に使ってたけれど、年齢が10歳以上離れている役員たちはそもそもスマホを持っていなくて。こんなにもスマホが当たり前になった時代に、アプリやウェブサービスの面白みや事業としての可能性を全く理解できていなかったんです。
もちろん、 既存のルールや規制を遵守し、厳しいセキュリティを担保するという金融業界ならではの良さはある。けれど、一方で世の中のトレンドを掴み、サービスをアップデートしていくことに対して、保守的な部分もあるのかもしれません。
僕自身は、もともと板前もやっていたし、ソーシャルゲームをつくったりもしていて。金融というとてもハードな世界からカジュアルな世界まで、広く見てきたからこそ、金融サービスをもっと身近にわかりやすくしたいと思っていました。
振り返ってみると、もともと「こずるいやつが得をする社会」っていうのが嫌で、ここはずっと自分の中に持っていたものでした。
たとえば、カードの年会費。1年目の年会費無料とあおっといて、2年目から1,000円かかりますとかってよくあります。消費者が解約することに気づかないと、ずっと1,000円取られ続けます。つまり、寝た子を起こすな制度。
金融とか儲けの仕組みをわかってないと損をしてしまう制度が、世の中に多すぎると思います。
せめて知らなくても損をしない世の中にしたい。その思いが根底にあります。「pring(プリン)」でつくりたいのは、正直者が得をする世の中です。
現金を減らして、キャッシュレスな社会になるのは、国が進めていること。身近なところだと「お金の履歴」が私たちの生活であたり前になると思っています。
いままで現金の世界って履歴は残りませんでした。「2,000円貸して、2,000円返ってこない。そのまま黙っていたら返してもらい損なった」ということがあって。借りたことを忘れるふりするちょっとズルい人もいたり(笑)。そういうとき、よく言われるのが「貸したほうが悪い」って。
現金からスマホでの支払いなど、キャッシュレスへとシフトすることで、お金のやり取りの履歴が残ります。「お金を返さなかったら、あの人返してくれないんだよね」って誰の目でも明らかになる。
中国の『アリペイ』というサービスがあるのですが、「信用スコア」の機能もつけていて。スコアが高いほど現実の社会で本当に得をする仕組みになっています。
例えば自転車をレンタルするときに普通は5,000円のデポジット入れないといけないんだけど、デポジットがいらなくなるとか。
信用まで数字になってしまうのはこわい、人間味がない、そう感じる方がいるかもしれませんが、信用の見える化は正直者が得をする世界です。この流れは世界的にも進んでいくと考えています。
ここまでプロダクトの思想をお伝えしてきましたが、ここからは具体的に制作プロセスにおいてこだわったポイントについてお話したいと思います。
『pring(プリン)』では、なによりも「わかりやすさ」を優先してデザインをしてきました。
スマホが当たり前に使われていますが、スマホでの決済に慣れてない人、やったことのない人がほとんどです。誰にとっても違和感なくアプリを使ってもらえるように工夫しました。
たとえば、聞き馴染みのない専門用語はありません。
アプリ内に出てくる言葉もこう置き換えました。
「入金」→「お金をおくる」
「送金」→「お金をもらう」
「支払」→「お金ではらう」
福島で実証実験をしているのですが、70歳のおばあちゃんが実際にスマホで決済をしている場面に立ち会えたのはすごくうれしかったですね。
あとは、できるだけ機能をシンプルにする。ぼくらが大切にしているのが、引き算の発想。ボタンを一個追加するのに1ヶ月ぐらい議論することもあります。それくらい増やしたくない(笑)。なにかを増やすより、今ある機能を磨くほうが大事だと思っています。
これはこぼれ話ですが、じつはロゴやキャラクターもすごく好評いただいています。親しみを持てるようにしています。
じつは「プリンちゃん」っていう名前もついているんですよ。かわいいでしょ?(笑)
金融系のサービスって、無機質でクール、味気ないものになってしまう。あくまでも私たちが目指すのは、日本に住んでいる人たち全員が使ってくれること。だからこそ、ポップで楽しい印象を持ってもらいたい。
もちろんお金を扱うサービスなので「信頼性」も重要で、そのバランスは注意して見るようにしています。初期のロゴはキャラクターが、少しかわいすぎてしまうので、ロゴでは王道感、メジャー感をデザイナーさんと一緒に考えていきました。ただ、それも正解ではない。ユーザー数が増えていくタイミングでもあるので、試行錯誤しながら、より愛されるサービスへと育てていきたいと思います。
(おわり)
文 = 野村愛
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