国内で10年ぶりの証券会社、FOLIOを立ち上げた甲斐真一郎さん。ローンチまでの歳月は、約2年間。金融を取り扱うプロダクトだからこその苦労もあったという。フィンテックならではの開発メソッドをお届けする。
[プロフィール]株式会社FOLIO代表取締役 CEO 甲斐 真一郎
京都大学法学部卒。 2006年、ゴールドマン・サックス証券に入社し金利デリバティブトレーディングに従事する。 2010年、バークレイズ証券に転籍しアルゴリズム・金利オプショントレーディングの責任者を兼任する。 2015年11月に同社を退職し株式会社FOLIOを創業。12月より現職。
資産運用に革命を起こすーー。そんな思いのもと生まれた株式会社FOLIOの勢いが止まらない。ローンチから約半年で70億円を調達。さらには、LINEとの業務提携。いまフィンテック界で、もっとも目を離せないプロダクトのひとつだ。
順調に成長を遂げてきたかに見えるFOLIOだが、プロダクト開発過程において、金融ならではの苦労があったのだという。
「当初はリリースまで3ヶ月の予定だったのに、実際には丸2年掛かってしまいました。その要因として、金融ならではの特徴が3点あると考えています」
1. 確固たる完全性と堅牢性が求められる
金融という社会インフラとしての性質上、そこには非常に精度の高い完全性と堅牢性が求められます。
顧客の資産や個人情報を直接取り扱う点において、機密性を高めることはプロダクトを作るに当たって必要不可欠。また、市場で起こりうる株式のあらゆるパターン、企業のアクションに対応していくという点でも、完全性が求められます。
2. いかに非コモディティのものにするか
金融業界は運用技術が安定期に入っている産業です。つまり、プロダクトがコモディティ化しやすい。いかに非コモディティのものにしていくか。ここがが大きなチャレンジです。
たとえば、株。単体だったら、どの証券会社から購入しても同じですよね。FOLIOでは「テーマ別でカンタンに買える」という差別化をしました。
金融業界と同じように、自動車産業もコモディティ化が進んでいますよね。そんな中、独自のブランドを生み出し、エッジを効かせていく企業もある。我々も同じように革新的なことを、金融の世界でやっていきます。
3. 攻めと守りのバランスが大事
金融プロダクトマネジメントとして、攻めと守りの天秤をどちらに傾けるかが重要な論点となります。
当社で特徴的なのは、デザイナーの近くにコンプライアンス担当者がいるという点。UIUXを作っていく中で、コンプライアンス要件をいかに満たしてサービスを提供するのかが、大きな論点になってきます。日々、バチバチとディスカッションが行われていますよ。
2018年10月、11月、立て続けに新プロダクトをリリースしたFOLIO。開発において、新たな課題に直面しているという。
「現在進行している3つのプロダクトは、それぞれ提供している価値が異なり、ターゲットも違います。しかし、裏側のシステムや機能面では共通部分があり、開発、運用が複雑に。
たとえば、プロダクトごとに独立したKPIがあるなかで、それらが依存したバックエンドとフロントエンド、何を共通化するのか、何を分断するのか。その決断と管理には単一プロダクトのときにはない難しさがあります」
「この現状からできることは、各プロダクトごとに優先順位をつけて管理するということ。フロントエンドを少しいじったり、デザインを変更するだけなど、ビジネスサイドの改善は比較的簡単に対応できます。比べて、顧客勘定のフローが変わるなど、バックエンドの開発が伴う瞬間に巨大な開発となってくる。こういった時に、臨機応変に優先順位を明確に管理できるプロダクトマネージャーが必要となってきます。プロダクトマネージャーというよりは、“プチ社長”と言っても過言ではないですね」
常に、何を、なぜ作り続けるのかを追求しプロダクトを展開していく。そういった役割、存在がプロダクトマネージャーになり得るのだと、甲斐さんは言う。
「当時NAVERの新規事業開発プロジェクトチームが、東日本大震災の時にコミュニケーションが取れなかったというきっかけで、コミュニケーションツールを作ったのがLINE誕生のきっかけです。
それを現在に至るまで広げてきて、ひとつの会社になった。プロダクトが会社になって、運営者が社長になった良い例です。FOLIOとしても、ひとつひとつのプロダクトが会社になるくらいの意気込みで、しっかり作り込んでいきたい」
文 = おかだもえか
編集 = CAREER HACK
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