2019.01.23
ググってもでてこない企業情報を武器に。『datavase.io』の野望

ググってもでてこない企業情報を武器に。『datavase.io』の野望

独自に企業や市場データを分析、提供する「datavase.io」。およそ年間1万社の国内外の企業を分析。そこにある情報は「ググっても出てこない」輝きを持ち、投資家の支持も厚い。企業のヒト、カネ、プロダクトのデータを蓄積する膨大な指標データプラットフォーム。そのスタートは、たった一人のブログだった。

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シリコンバレーを情報で沸かす「datavase.io」

いつからGoogleに「すべてが載っている」と思うようになったのだろう。

会社のことも、取材先のことも、まずは検索窓を叩いてみる。載っていない情報は、まるで「無いもの」として処理されるかのようだ。

「企業」の実態は、決して一面的ではない。水面下どころか、まだ深海の情報さえある。

投資や事業提携を行う際には、それらの情報を分析し、掴みとることが成果につながる。それを改めて教えてくれたのが、アメリカと日本を行き来するHACKJPN代表の戸村光が率いる、“企業版Google”こと「datavase.io」だった。

彼らは自分たちのことを「シリコンバレー版の帝国データバンク」とも評してくれた。

戸村氏は1994年生まれの24歳。高校在学中に日本全国をヒッチハイクでめぐり、500人以上の経営者、投資家、政治家とSNSを通じて対話を重ねた。

2013年に高校を卒業すると、シェアハウスの運営やフィリピンでの語学学校運営などで資金を貯め、周囲や両親の反対を押し切って単身渡米。「世界で最も成長できる場所」だと信じ、アメリカのシリコンバレーにある大学へ進学した。

彼自身も事業を立ち上げ、そのうちの一つが「datavase.io」に成長した。国内CVCが投資先を見定める他、丸紅など日本の商社による米国企業との代理店契約や、NTTグループといった事業会社が海外サービスの動向調査にも活用する。すでにIT企業の経営層を中心に投資家も参画し、その中には「けんすう」こと古川健介氏の名も挙がる。DeNaの南場智子氏も「彼が日本に帰ってくるたびに会っている」と過去のイベントで公言したほど、戸村氏とは数年来の親交を持ち、目をかける。

「datavase.io」の構想に至るまでの経緯や発想のヒントは、どこから生まれたものなのだろうか。現在は日本とアメリカでひと月の半分ずつほどを過ごす戸村氏。来日するタイミングで、話を聞いた。

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趣味で始めたブログがきっかけに


──「datavase.io」が生まれたきっかけは?


僕は2016年までスタートアップがひしめくシリコンバレーで暮らしていて、そこで「Hack Letter」というスタートアップのトレンドを紹介するブログを始めたんです。そもそも趣味で、事業化のためではありませんでしたが、実際に公開してみると、思った以上に反響が大きかったんです。

というのも、シリコンバレーには世界各国の企業人が集まってきていても、だいたい2〜3年周期でビザが切れて帰国してしまいます。シリコンバレーのネットワークに入り込めず、現地の情報も取れず、アプローチもできないという企業が多いからなんですね。

また、自国で成功したサービスでアメリカ進出を狙っている企業もあります。本来であれば、市場調査やローカライズなどの可能性を考えてサービスを展開していくのが先決ですが、スタートアップの情報があまりに少ないため、競合調査もままならない。そういった環境の中で、より情報を効率的に提供できればと、レポーティング事業を始めたんです。

すると、日本の大手企業から「データを売ってほしい」と依頼をいただき、試しに「2,000ドルです」と値付けをしたら売れ始めました。日系企業だけでなく、アメリカのベンチャー企業も含めて売れ出して、価格も3,000ドル、4,000ドルと上昇していきました。


──なぜ彼らはデータを欲しがったのでしょうか。


たとえば、現在も顧客である丸紅さんのような商社は、世界各国で代理店契約をして商品を仕入れ、日本市場で販売します。その際に、契約を結びたいスタートアップを協業目的で探したいというニーズがあり、私たちの紹介によって提携に結びついた事例が出来てきたんです。同様に、その他の商社やCVC、IT事業企業などが顧客になっていきました。

それこそ、アメリカで同種の事業を展開している企業がいたことを知らずに、アメリカで展開してしまう企業もたくさんいる。だからこそ現地の情報は求められ、企業の生き死にを握っているとさえいえるでしょう。

僕自身、留学生時代にチャットワークでインターンとしてお世話になって、日本企業がアメリカでシェアを広げる過程を見ていたし、そのための競合分析のノウハウも溜まっていました。それらの知識を総動員した結果が、「datavase.io」に落ち着いたイメージです。

ただ、ひとつ問題がありました。どれほどニーズがあったとしても、大きなお金をすぐに支払える企業は決して多くない点です。せっかく必要としてくれる人がいるなら、より多くの企業に提供したい。そう考えた結果、現在はSaaS型サービスにシフトしました。

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競合は帝国データバンク。でも、僕らのようにはきっとなれない


──データベースをゼロから作るとなると、先行して事業を進める巨人たちとの差別化が課題でしょうか。


僕らの競合としては「entrepedia」や「帝国データバンク」が挙がります。彼らのデータベースも非常に大きいですが、「datavase.io」が目指すかたちとは異なっていて。

それらのデータベースは、独自リサーチによる企業情報を掲載しています。それ自体は悪いことではないのですが、自分勝手に調査して、自分勝手なデータを集めているともいえる。それに、スタートアップが自社のデータを持ち寄ることもないんですよね。

だからこそ「datavase.io」のあるべき姿は、スタートアップ、投資家、VC、大企業、それぞれが活用したくなるプラットフォームだと考えました。言うなれば「企業版Google」を作りたい。企業データ、ファイナンスデータ、成長レートなどを検索するためのプラットフォームですね。

僕らはスタートアップがデータを持ち込むことに価値を見いだせる仕組みを取り入れています。たとえば、投資家の評価機能や資金調達時のレピュテーションなどを閲覧できる機能も、その一つです。

目指すのは「良いスタートアップがデータを持ち寄ることで、良いキャピタリストが集まる」。もしくは「良いキャピタリストが集まることで、良いスタートアップが集まる」環境の構築です。現在では年間1万社を超える国内外の企業分析や、1000以上を市場分析を実施するまでになりました。


──datavase.ioの勝ち筋としては、どういった点が挙がりますか?


「属人性の高さ」は強みだと捉えています。

スタートアップといえど集める情報は膨大ですが、datavase.ioでは「機械学習によるクローリング」と「人力作業」を併用しています。インターネットで明かされるデータは集められても、スタートアップには未上場企業も多く、そもそも情報を公開していないことさえある。従業員数を掲載するにしても、オフィスの住所から間取りを特定して、推定値を概算することもあります。

僕らは日本、アメリカ、中国、EU市場におけるファイナンス情報を、国内外の専門家と連携しながら、データの更新を日々実施しています。現地のVCやメディアとの提携したり、世界の主要カンファレンスに足を運んでデータを得たりします。ネットに介在する情報を超えた、信頼できる情報の提供を行えるのです。

日本市場に限ったところでは、弊社の株主が投資している企業をまとめてみると、シード期にあたるスタートアップの8割ほどを網羅できるんです。そこで、彼らからも直接情報をいただくことで、データが集まる仕組みを構築しつつあります。

datavase.ioを通して、スタートアップの価値がしっかりと伝わるようになれば、資金調達の市場はもっとスムーズに回ると思うんです。投資家のレピュテーションや、投資家の実績による成長の期待を考慮せずに調達するスタートアップが多いようにも感じています。それらを事前に分析できれば、より健全な資本主義社会になっていくはず。

以前に、関西でコニカミノルタ出身のエンジニアチームが独立して起業する際、東京までVCに会いに行き、提示された金額が4000万ぐらいだったそうです。現在は優秀な学生であっても、1億ぐらいのバリュエーションは珍しくありません。そういった情報はブラックボックスになっていますし、情報をもとに資本戦略を立てられたら、もっと起業の成功確率は上がっていくと思うんです。そのための価値の底上げをdatavase.ioがでは担っていきたい。

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「投資が冷え込む波」が迫る今、生き残るべきスタートアップを救う存在に


──datavase.ioの飛躍を経て、戸村さんが願う未来は、いったいどのようなものなのでしょうか。


まず、ざっくり分けると3つのフェーズがあると思っています。第1フェーズは、ちょうど今。データベースをより充実させることで、プラットフォームとしての価値を高めていきたいと思っています。

第2フェーズでは、資金調達時のデューディリジェンスに関わるサービスを展開していきたいです。企業のビッグデータを持つ僕たちだからこそ、適切に企業分析できるようになると思っているので。あとは、人材紹介事業なども、HRの企業と提携しながら進めていけたらいいですね。

そして最後は、自分たちでファンドを組成して、スタートアップに向けた確度の高い投資を実施していきたいと思っています。現在は5,000社ほどのスタートアップの情報をデータベースに登録していますが、最低でも1万社ほどには増やしていくつもりです。2020年を目処に、このフェーズまでより早く事業を伸ばすことが当面の目標ですね。

アメリカでは2016〜17年にかけて、スタートアップに向けた投資が一気に冷え込む時代が訪れました。デューディリジェンスが甘かった影響で、スタートアップの事業低迷が続いたからです。

そして、この波は2019〜20年頃、日本にもきっと訪れるはずです。だからこそ、来たるタイミングに備えて、スタートアップの事業を盛り上げられる世界観を作りたいですね。投資を必要とするスタートアップに、適切に投資ができる。datavase.ioで、そんな世の中を作っていきます。

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文 = 鈴木しの
編集 = 長谷川賢人


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