2016.08.19
失敗の概念はない。全てはトライアル|シリコンバレー発「Square」の仕事哲学

失敗の概念はない。全てはトライアル|シリコンバレー発「Square」の仕事哲学

ジャック・ドーシー率いる「Square」はアメリカ、カナダ、日本、オーストラリアに事業拠点をおくモバイル決済のスタートアップだ(世界約1700名規模)。今回は彼らのワークスタイルに注目した。どんな働き方をしているのか? 企業カルチャーとは? 本社とのやり取りは? 日本のカントリーマネージャである水野博商さんに伺った。


[プロフィール] Square Japan カントリーマネージャ 水野博商
学生時代の留学を経て、新卒で国内大手SI企業に入社後、外資企業へ。PayPalの日本法人一号社員として入社し、日本ビジネス立ち上げを経験。PayPalアジア本社(シンガポール)にてアジア地域のEnterprise Sales統括に従事。その後、Square Japanに入社し、日本法人のカントリーマネージャを担う。

ジャック・ドーシーは「干渉しない」を徹底

Square Japan

スマートデバイスを用いたカード決済サービス「Square」。Twitter創業者であり起業家のジャック・ドーシーが2009年に創業。2013年に日本市場に進出し、順調に加盟店数を増やしている。


― 本日はSquare社の働き方やワークスタイル、メンバーたちの仕事観に迫っていきたいと思います。まず組織・体制における特徴とは?


明確に責任範囲が分かれている、ということはあると思います。多くの外資に共通するかもしれませんが、Squareでもビジネスを見る役員、ファイナンスを見る役員、ハードウェアを見る役員、ソフトウェアを見る役員などファンクションで担当が分かれます。特定の分野における責任者は1人。その人が全体の指揮を取り、意思決定に基づいてチーム全体が動く。だからこそ、意思決定のプロセスがとてつもなく早いです。


― 日本企業における意思決定プロセスとの違いでいうと?


日本における大企業の場合、どうしても意思決定のタイミングで「意識を統合させるプロセス」が発生することが多いと聞きます。いろいろな意見を持つ方がたくさんいるなか、それぞれが納得するように裏で話をつけたり、根回ししたりする。そして最終決議の会議に入り、みんなが「No」を言わない状態で物事を決定する。全員の合意が取れる良いカタチだと思うのですが、決して効率がいいとは言えないですよね。特にスピード勝負の世界では大きな差が出てしまいます。


― たとえば、企業の代表が独裁的に決めていけば、意思決定のスピードは早められるのでしょうか?


そうとも言えないのが難しいところで。ある急拡大した日本企業では、CEOが「俺の知らないところで何が起こっているんだ?」と不安になり、いちいち確認しないと気が済まなくなったという例を聞いたことがあります。ここで大事なのが「任せきること」だと思います。

上司は大きく、マイクロマネージが好きな「干渉タイプ」と、好きなようにやれという「委譲タイプ」がいて。個人的な経験では「委譲タイプ」のほうが効率的にチームはまわると思います。マイクロマネージは上司が不安だからそうなるんですね。自分が知っている範囲であればなおさら干渉したくなる。逆に言えば自分が知っている範囲でしか事業が拡大しないということでもあります。

多くのシリコンバレーのマネジメントは「委譲タイプ」です。権限を委譲すると同時に責任と自由が一緒にくっついてくる。「責任を達成するために必要なものは言え。言わないんだったらそれでやれ」ただそれだけの話です。Squareの話でいえば、ジャック・ドーシーは日本のマーケットのことや戦略に関して口を挟むことがほぼありません。インターナショナルのビジネスを見ている役員に任せていますし、その役員はさらにカントリーマネージャに任せていく。まったく口を出さないわけではありませんが、権限の委譲に関してはっきりとしていますね。

「失敗」ではなく「トライアル」として捉えていく

Square Japan


― Square本社の役員とのやり取りで気をつけていることなどありますか?


人に依存する話ではありますが、一番注意しているのは「その人が何を今気にしているか?」ということ。彼女ら、彼らに適切なタイミングで適切な情報をわたして常にアップデートしていく。あとは結果がすべて。彼女ら、彼らも私よりひとつ上の大きな数字の責任を持っていることを頭に入れて、必要なときにだけコミュニケーションをとるようにしています。


― 「報告の義務はない」「自由にやっていいが結果が全て」これは失敗できないプレッシャーも相当では?


もちろんプレッシャーはあります。同時に、できる範囲のことを選択肢として事前に並べ、その上で最善の策を選んだのであればと「判断を誤った」とはなりません。まわりが判断を理解していれば「しょうがなかった」と施策についての責任は問われない。やったことのないことをやろうとしているのだから、思い描いた結果が必ず出るとは限らない。これがSquareのカルチャーですね。

つまり「失敗」ではなくて「トライアル」として捉えていく。この会社がおもしろいのはそれをとにかく速く回すこと。よく聞く話ですが「途中でやめるから失敗するのであって成功するまで続ければ成功にしかならない」をそのまま体現しているイメージ。「what we learned」ですね。なにを学んだかが重要で、ここに本質があると思います。


― そういった環境において、日本人が活躍するために大切なことなどありますか?


高度なスキルを持っていることを前提に、シリコンバレーに限っていえば、特にスピードが重視されます。日本人の場合「100%のアウトプットを期日までに出そう」となりがち。それより「80%の完成度で3日早く出す」ほうが優秀とされる。不完全でもどれだけ速くマーケットに出せるか。ここに注力するといいと思います。

あとは日本人特有の真面目さは完璧だと思うんです。日本人のエンジニアがSquareの本社で働いていて、評価がすごく高い。それは成果物や納期を一度コミットしたら、やり切るから。とても信頼されています。もちろん海外メンバーが不真面目というわけではないです。やる時はやる。おそらく仕事観の違いだと思います。

自由の代わりに責任を負う。リモートワークは当たり前

Square Japan


― Squareにかぎらず、外資では「人材の流動性が高さ」が前提にありますよね。


そうですね。自分が貢献できる場がその企業にあるか。逆に企業がほしいスキルと自身のスキルがズレていたのなら求められるところに行く。もっと価値が高いところ、買ってくれるところに行けばいいという価値観が前提になっています。

「人材市場」とはよく言ったもので「市場」といった捉え方ですよね。自身が提供できるもの、企業がほしいものがマッチし、それに対していくら企業が払えるのか。だからこそ高いプロフェッショナリズムが求められる。そこに権限が委譲され、自由を手にする代わりに、責任を負っていく、と。


― その「自由」にはワークスタイルも入るのでしょうか?


そうですね。たとえば、リモートワークにしても特別ではなく、むしろ当たり前なんです。どこにいても与えられたミッションは変わらない。勤務時間にタイムスタンプを押してくださいという話もない。

ただ、Square Japanだとけっこうみんなオフィスにくるんですよね。たぶんプロとして考えた時に仕事を効率的に進めるには会社にいたほうがいいと思うからかもしれません。

本社のオフィスでいえば、スタンディングテーブルがいっぱい置いてあったり、ベンチが置いてあったり、寝転がって仕事ができるようになっていたり、さまざま。ミーティングにしても大きな招集をかけることはほとんどなく、そのへんの人をつかまえてディスカッションするなど小さなミーティングがほとんどです。

ただ、日本とシリコンバレー本社のやり取りがつねにリモートだけということもありません。たまに出張で本社に行くのですが、行くことのメリットはやはり大きい。フェイス・トゥ・フェイスで話をすると、エモーショナルな部分も伝えやすいです。ホワイトボードに書きながら説明したり、何かわかんないことがあったらその辺を歩いている人に聞けたり。この環境は強い。

だから定期的に行って人間関係の構築を大切にしていたりはしますね。これはどの外資系にしても日本人はみんなやっていることかもしれませんね。

日本を変える自信がある。むしろそのためにやる。

Square Japan


― 最後に水野さんが仕事で実現したいことについて教えてください。


私自身、若い頃って仕事で何を実現したいのか迷った時期がありました。お金なのか、自己実現なのか。結局、いま思うのは人に役に立つこと。きれいに言うと社会への貢献を実現したいと思うようになって。貢献できた時に「あぁ自分の存在には価値があるんだ」と…最終的にはそんな自己の満足感につながっていくんですけどね(笑)

あと仕事に取り組むスタンスとしては「遊びみたいにできたらうれしい」というのはずっとあります。自分たちがやっていることにすごくプライドがあるし、日本を変える自信があります。むしろ日本を変えるためにやっている。それがすごく楽しいから、つらい時も乗り越えられるんですね。

遊びに夢中になると時間を忘れる時がありますよね。子どもが砂遊びに熱中して日が暮れてしまうのと同じ。何をしていても「あっ、これ仕事で使えるかも」と思いながらやる。きっとメンバーみんなも仕事を仕事とは思っていないのかもしれませんね。


― イノベーションを起こしていくために必要な仕事との向き合い方、そのヒントを伺うことができた気がします。また、急拡大中のSquareの組織について伺えたのも、とても貴重な機会となりました。本日はありがとうございました!


文 = 白石勝也


関連記事

特集記事

リモートワーク時代の戦い方

新型コロナウイルスの影響によって進むリモートワーク。とくにテック企業でいち早く導入され、日々アップデートされている。リモートワークが当たり前となるなかで、いかに働き方を変え、さらに組織として戦っていくか。各社の取り組み、工夫、リモートワークのやり方などに迫ります。

AFTER 2020

時代は平成から令和へ。そして訪れる「2020年以降」の世界。2020年からの「10年」をいかに生きていくか。より具体的に起こすべきアクションのヒントを探る連載企画です。お話を伺うのは、常に時代・社会の変化を捉え、スタートアップと共に"一歩先”を見据えて歩まれてきた投資家のみなさんや、未来を切り拓く有志者のみなさん。それぞれが抱く「これから10年間で現実的に起こり得ること」と「新しい生き方」の思索に

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから