2017.05.10
いくつ知ってる? Tech業界で働くなら押さえたい、新生バイオテック|2017年シリコンバレー潮流

いくつ知ってる? Tech業界で働くなら押さえたい、新生バイオテック|2017年シリコンバレー潮流

シリコンバレーのバイオテックはここまできた!臓器プリンター、培養ミート、バイオセンサー。2017年、注目すべきシリコンバレーのスタートアップをご紹介。日本でも注目され始めているバイオテック分野。Tech業界で働く人が押さえておくべきシリコンバレーの潮流とは?

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盛り上がるバイオテック。2017年 注目すべきスタートアップとは?

イスラエル、ドイツ、シンガポール―。世界の各地でスタートアップ誕生の土壌ができつつあり、盛り上がりを見せている。同時に、依然としてシリコンバレーでは新領域でのスタートアップが続々と誕生。過去、多くのスタートアップにおける失敗、そして成功を見届け、そのケーススタディやナレッジが蓄積されている。


「シリコンバレーで無数のスタートアップが生まれて消えた。その栄枯盛衰を人々はみてきました。そんな歴史から学ぶことはもちろん、スタートアップに携わってきた人からの学びもあります。教育機関のレベルが高く、優秀な人材を輩出している背景もあり、人の層が厚いことがシリコンバレーの特徴です」


そう語ったのは、シリコンバレーを拠点に置く『Vivaldi』のCOO 冨田龍起氏。Slush Tokyoに参加するため、日本へ一時帰国していた彼にシリコンバレーのいまを伺った。


▼冨田氏のインタビューはコチラ
ガラパゴスはむしろ武器。日本人起業家がシリコンバレーを目指すべき理由|Vivaldi 冨田龍起

冨田龍起氏がCOOを務める『Vivaldi』は細かな設定が可能でエンジニアに支持されている新進気鋭のWebブラウザ。2016年春にリリースされて以来ユーザー数は伸び続け、現在、150万ユーザーを獲得。2017年内に300万ユーザーを目指す。https:vivaldi.com/

なぜ今、バイオテックが熱いのか?

特に編集部としてフォーカスしたのがバイオテック。それは、食糧危機など世界的な人類の大きな課題を解決していくからだ。

バイオ分野は日本の研究レベルも高いという。しかし、事業として発展するケースは多くない。冨田氏はその背景について語る。


「たとえば、日本でも培養肉など作ろうと思えば作れるはずです。ただ、なかなか実現しない。その原因として投資に対する日本とアメリカの価値観の違いがあると思います。未開拓分野で投資に大きなリスクを取らないのが日本。もし成功すれば時代が変わるくらいのインパクトがあることに投資するのがアメリカ。価値観も、仕組み的にもそういった前提があると思います。

また、アメリカでは屠殺反対のためにベジタリアンになる人がいるなど、自分の主義主張に伴って行動する。培養肉に関しても“倫理的にどうか?”と以前から議論されてきました。賛成者たちが最初の供給先となり、投資をしてくれることもある。だから事業が育ちやすく、進めやすい」


こういった背景のなか、冨田氏が注目しているバイオテックのスタートアップ3社を伺った。

・[1] 臓器がつくれる3Dプリンター|Organovo
・[2] 培養によって生み出す人工肉|Memphis Meats
・[3] 食糧生産に革命を起こすバイオセンサー|Prospect Bio


[1] 臓器がつくれる3Dプリンター|Organovo

  


まず冨田氏に伺うことができたのが、人体組織を作成する3Dプリンターを作っている企業。


「正常な人体組織と同じレベルに機能する3D組織を作ることを目指しているスタートアップです」


もしこれが実現すれば、新薬の実験で生きた人間に薬を投与する前に、プリンティングしたヒト組織で臨床実験の前実験を行える。人体の損傷や以上がある組織を修復や交換するための人工組織を作ることも可能になるだろう。

Organovo


[2] 培養によって生み出す人工肉|Memphis Meats

  



「数年後、培養肉を食べるのが当たり前になっているかもしれません」


続いて伺えたのが、Memphis は動物細胞から本物の肉を生産する方法を開発している企業。昨年の春には実験室から生まれたミートボールが話題となった。

このさきの数十年で肉の需要が倍増し供給が追いつかなくなると予想されている。また牛などの動物を育てるために必要な土地や水、排出される温室効果ガスは地球規模で問題視されている。人の手で作られた培養肉が課題解決の糸口になるのかもしれない。

人工的に肉(タンパク質)を生み出すバイオテック企業には、ビル・ゲイツやTwitterの創設者2人も投資している。

Memphis Meats


[3] 食糧生産に革命を起こすバイオセンサー|Prospect Bio

Prospect Bio

企業サイト(http:www.prospect.bio/)より


最後に紹介してもらったのが、食糧生産に革命を起こすバイオセンサー『Prospect Bio』だ。

バイオセンサーとは、正物体が特定の分子に反応することを利用した検知システムのこと。従来は糖尿病の検査など、診断に用いられることが多かったが、食品の産地の識別などに用いる研究も進んでいる。


「ワインの原材料となるぶどうの産地を偽って、ブランドになる産地に書き換えているようなケースは世界規模で見ると少なくない。

ただ、そこに嘘が書かれていても、それを検査するシステムやツールが何もないのが現状です。そういった時にバイオセンサーが役立ちます。調査したい物体に検査用のセルを入れると、産地ごとに異なる細胞を判断し、産地を割り出すことができるんです」


Prospect Bio

シリコンバレーで感じた人脈の重要性

インタビューの最後に伺えたのは、シリコンバレーで働きながら見えてきた、重要な「人脈」についてだった。


「シリコンバレー界隈の大学では、学校側が卒業生のネットワーク作りにすごく力を入れています。授業で学んだことも大事なんですが、同窓生が互いに支え合ったり、ビジネスで成功を収めた卒業生が後輩をサポートする、そうすることで成功する同窓生がさらに増える。大学のバリューは卒業後発揮されていくんです。それが認知されると入学生の質もどんどんあがって、大学の価値がどんどん上がっていきます」


日本の大学よりもさらに繋がりが強固なのが、シリコンバレー界隈の大学だという。もちろん大学の同窓生ネットワークだけがすべてではない。


「もう一つ、ネットワーク作りに大きなものが、会社の同僚ですね。一緒に働いた仲間が、転職した先でいろんなところで活躍したりして。お互いに新しい人脈を紹介したりとか。それも大きな価値になっていると思います。

そしてSlush Tokyoのような似た人が集まってきそうなイベントに参加する。ここまで大規模なものでなくても、自分が興味持ってる分野のイベントに参加して、そこの参加者とじっくり話すなんてことも情報収集には良い」


2年前のインタビューでシリコンバレーで挑戦すべきと語っていた冨田さんだが、一方で甘くない現実を教えてくれた。


「シリコンバレーは社会としてオープンなことは確かで、誰でも挑戦することはできます。ただ誰にとっても素晴らしい場所ではありません。

シリコンバレーを拠点に7年ほどやってきて感じたことですが、非常に誰とネットワークを持っているか、自分の周りに誰がいるかが重要です。

イベントに参加した初対面同士の間に生まれる繋がりより、大学とか会社の同僚の繋がりのほうがどうしても強い。そういった人の繋がり無くして、シリコンバレーに突然やってきて、そこで新しい事業を始めるというのは、相当大変なことだと思います。

もちろん、成功しないわけではないですが、そもそも上手くいかないスタートアップの方が多いなかで、少しでも成功確率を上げるために、大学の仲間や会社の同僚などと深い関係を築くことが強い味方になってくれることを、シリコンバレーでは特に感じます」

(おわり)


文 = 大塚康平


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