2019.01.25
メルカリのデータアナリスト 樫田光の成長論|「怠け者な自分をひたすら追い込む」

メルカリのデータアナリスト 樫田光の成長論|「怠け者な自分をひたすら追い込む」

メルカリのデータアナリストチームを率いる樫田光さん。プログラミングを学び始めたのは30歳になってからだった。外資系コンサルファームから現在のキャリアを裏支えしたのは、新人時代に得た数々の経験だ。そして、樫田さんのエピソードは、いつでも「新人」に戻ることの大切さも教えてくれるようだった。

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怠け者の自分を追い込む力

今の自分を変えたい、と願う。

日々の仕事に充実感がなかったり、「キャリア」という言葉に心が騒いだり。新たな進路を望むとき、敵になるのは「収入」や「運」ばかりではない。現状に甘んじてしまう「怠けてしまう心」の取り扱い次第では、小さくとも未来につながる一歩が開けるはずだ。転職は宝くじのようにはいかない。

いま、転職市場でも人気の企業として名を馳せ、多彩な人材で話題に事欠かないのがメルカリだ。

樫田光さんは、メルカリで「データアナリスト」チームを率いている。しかし、ここまでの進路は一本道ではなかった。

近年、注目を浴びるデータ分析職に身をおき、メルカリというトップ企業で活躍する姿からは想像できない、新人時代の歩みがあった。その裏側を支え続けたのは、樫田さんが持つ「怠け者の自分を追い込む力」だった。

年間1000枚の資料作りが実を結ぶまで

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理系の大学を出て、就職活動のときに経営戦略コンサルティングの仕事を知りました。僕は好奇心が強い反面、飽き性な性格でして、比較的短期間でプロジェクトごとに対象業種や内容が変わるコンサルティングの仕事は合っていそうだなと思いました。

それで、大学卒業後は外資系の戦略コンサルティングファームに入りました。入社2年半ほどで順調に社内でのポジションも上がった頃に「グローバルメンバーと一緒にやるプロジェクトにアサインしてほしい」と社長に頼んだことがありました。学生時代に海外経験などがあったわけでもなく、その当時は英語も全く話せなかったんですが、何を思ってか勢いだけで……そのプロジェクトはすごくツラかったし、すごく楽しかった。

英語が満足に話せないので、まずは相手の信頼を勝ち取ろうととにかく必死でした。具体的なアクションとしては、プロジェクトに貢献すべく会議の準備には特に力を入れていました。僕が基本的に心配性っていうのもあって、「これだと本当に言いたいことが相手に伝わらないんじゃないか?」「わからないんじゃないか?」と考えがちで、周到に資料などを準備したいタチなんです。大学の研究室時代でも、尊敬する教授から「説明して伝わらない研究は価値がまったくない」と教えられていたので、理解してもらうことの大切さは身に沁みていましたしね。

コンサルティングファームは、まさにその伝え方を学ぶのに最適な場所でした。僕はプレゼン用のスライドをつくるのが好きで、多いときは1年間で1000枚近く作ったんじゃないでしょうか。いろいろな仕事の中でも、数値分析は特に得意だったので、物事を数字に落とし込み、グラフにして資料にまとめる。これをずっと繰り返していると、当時の外国人の上司には次第に「言葉では何を言っているかは よくわからないが、少なくとも分析のアウトプットを出せるやつだ」と認識されていきました。

たとえば、「上司の時間を30分もらう」という機会では、自分が主張したいことや疑問点などを適切にまとめて持っていかないと、相手からの質問や指摘で時間はすぐに終わってしまう。ましてや、英語が得意でない自分にとっては、事前の準備は生命線でした。きっちり準備して、相手がパッと見てわかるようなドキュメントを用意しなければお互いの貴重な時間を無駄にしてしまう。

やがて上司から信頼を得られたことで、自信がついてくると、英語を含め自分が苦手なことに対しても質問がしやすくなるのを感じたんです。信頼を先に得られれば、他の弱点があったとしても、その弱点をさらけ出せるんだなと。

「なんでも見える形に落とすこと」「英語以上に世界の共通語である、”数字”をうまく利用すること」「とにかく事前に準備すること」「まず自分が貢献できる箇所を探して信頼関係を築くこと」……この4つは大きな学びでしたね。

キャリアを決める、たった1つの確かな軸

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27歳のときに、今後のキャリアを考えました。僕は今でもそうなのですが、「何が最も重要か?」を考える時には、「希少性が高いかどうか」で判断することが多いです。経済学の基本原理ですが、価値が高くなる理由はそれが希少だから、という考え方ですね。

現在の自分にどんな価値があるのか。それから、どんな経験に希少性があるのか。その当時、それを考えて出てきた結論は「4年間のコンサルティング経験」と「27歳という若さ」でした。

若さは人生で二度と得られない希少価値のひとつで、その希少価値の受け入れ先として、友達から誘われていた「ベンチャー企業で働くこと」は、より希少価値があるだろうと決断できました。自分が持つキャリアの選択肢でも、最も希少性の高そうなものに飛び込んだ、という感じですね。結果的に、そのベンチャーでは取締役も務めることになりました。

ベンチャー企業を退職してから、「この21世紀に生きているんだったら、やっぱりIT系の企業に入りたいなぁ」と思うようになりました。そして、できればコンサルティングファームの仕事の延長線上に近い経営企画や財務のようなポジションではなく、プロダクトやサービスづくりに密接に関わる仕事をしたい、と強く感じていました。

エンジニアなどのスキルが有れば話は早いのですが、自分は残念ながらそうじゃない。何か出来ることはないのかと思っていた時に、Harvard Business Reviewの『データサイエンティストは21世紀で最もセクシーな職種である』という記事を読んだんです。コンサル時代の経験からデータ分析が好きなことはわかっていた。これなら自分もプロダクトをつくっていくことに深く関われる、自分に向いているんじゃないかと感じました。

この当時29歳。プログラミングなどはこの時点では全く触ったこともなかったのですが、とりあえずR言語とPythonを独学でやりはじめたら、めちゃくちゃ面白かった。「これは自分の仕事だ!」と感じ、データ分析を専門にしているブレインパッドへ入社して、新しい仕事をスタートしました。

新人時代は「貢献」こそが大事

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ブレインパッドは年齢層が若く、僕が関わったプロジェクトも、僕の他に35歳くらいのプロジェクトマネージャーが1人いて、あとは23歳や24歳のプログラマーたちでした。自分がプロジェクトの全体像をまとめ、顧客への提案を考えることでチームに貢献する代わりに、彼らからプログラミングを教えてもらうようになりました。「クライアントとの折衝は俺がやるから、君は安心してプログラミングしてくれ!」という状況にして自己効力感を担保しつつ、ギブアンドテイクできている感覚もありましたからね。さっきの話と繋がりますが、やはり自分の中で『ここに関しては自分は誰より貢献できている』という自負が、どこかで築けているとやりやすくなります。

このときは、18時くらいまではビジネス面の資料づくりをして、そこから夜23時半くらいまでコードを書く日々でしたね。自分のプロジェクトでもデータ分析や簡単な機械学習の仕事を任せてもらい、コードを書いてみて、ずっと年下のプログラマーたちにレビューをもらっていく……という繰り返しでした。社内の勉強会でも「こんな課題に自分は取り組みます!」と宣言しておいて、コードを書いて説明できる状態になるまで、一生懸命に予習したり。

IT系だと特にそうですが、プログラミングに限らず何かを始めようとするときには「自分より若くても自分より詳しい人」がたくさんいます。そういうとき、彼らに頭を下げられるか、変なプライドを捨てて、彼らの仕事から学ばせてもらう姿勢を取れるかは重要ですよね。

あと、僕はやるべきことを細切れにして、自分を追い込んでいくのが上手なんです。いきなり大きなことをやろうとすると、途中で心が折れてしまうので(笑)。まずは小さな一歩を踏んで、またその次に取り組む意味があると信じて頑張る、とか。僕はすっごい怠け者だし、怠けるのが上手なんです。追い込まないと怠けてしまうのがわかっているので、過剰に高いゴールをセットするんですよ。

だから、そこにたどり着くために日々息を吸うように勉強すべきことを意識していて、それが積み重なっている部分が大きいんだと思います。道を歩きながらトレーニングするみたいなものですね。

振り返ってみると、20代は「その仕事が好きかどうか」よりも、「得意なこと」や「できること」を磨いていくために力を使うのはありなのかな、と思っています。若いうちから、『好きなことを仕事に』とか『意義があることをやりたい』と、ちょっと力が入ってしまっている人は多い気がしますが、20代は焦らずに得意領域を深ぼる時間にするのも、価値があると思います。特定領域で力を身につけて周囲に貢献し、自信をつけていければ、30歳や40歳になったときに「好きなこと」や「意義のあること」に、よりじっくりと取り組めるはずです。

やはり、何よりも「貢献(コントリビューション)すること」が大事ですね。最近の意識高い系なんて言われる若者は生き急いでいる人が多いのかな、と感じます。もちろん自分も20代の頃は周囲から見ると結構生き急いでいた部分はありますが....。20代で着実に力を積んで、30代から好きなことを楽しみ始めても、人生にめちゃくちゃ大きな差が出るわけでもないかもしれないですよ。生き急がなくても、人生は結構長いですからね。


文 = 大木一真
編集 = 長谷川賢人


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