2019.04.26
「100年前の哲学書に、今に通じる知性がある」入門書からはじめる哲学のススメ

「100年前の哲学書に、今に通じる知性がある」入門書からはじめる哲学のススメ

デザインの審美眼を持ちつつ、財務諸表を読み解く。「ビジネスデザイナー」として注目を集める佐々木康裕さん。重要なインプット源は「哲学書」。ビジネスに欠かせない思考力を鍛える読書術とは?

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Takram 佐々木康裕に聞く、哲学のススメ

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【関連記事】財務諸表が読めて、デザインもできる。「ビジネスデザイナー」が求められる時代へ

哲学から「一般法則」を知る

ー正直まったく「哲学」にふれたことがないのですが...なぜ哲学なのでしょうか?

哲学書は、答えのない問いを与えてもらえる。内省できるのがおもしろいですね。

それに、ビジネスをつくる上で、「一般教養」の知識はとても重要だと考えています。文学、哲学、社会学、心理学、経済学、文化人類学など。いずれも共通して、人間が社会の中に組み込まれていく中で必要なルールや制度を知ることができる。

僕の好きな「ファスト&スロー」という本があります。その中には、人はいかに「認知」に影響を受けているかが書かれています。

例えば、こんな面白い事例が載っています。ある人に「白髪」「腰痛」「しわ」など、「老い」を連想するような単語を聞いてもらう。その後、隣の部屋まで歩いてもらうと、普段の歩く速度よりも遅くなったのだそう。

他の例でいえば、ダイエットの話。「あるダイエットが10%の人が失敗しました」と言うと、ちょっとそれをやらなくていいかなって思う。でも、逆に「このダイエットは90%の人が成功しました」と言うと、やってみようかなと思う。同じことなのに言い方一つでガラリと行動が変わるんですね。

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つまり、「人間はファクトよりもバイアスに影響を受けて行動を変える動物である」と。

そういうインプットを重ねていくことは、プロダクトやサービスづくりにおいてとても活かされています。色ひとつ、言葉遣いひとつ、どんな影響を人に与えるのか。ディディールにすごく目がいくようになります。

事象の裏側に、どんな一般法則や構造が隠れているのかを知る。そして、その法則を違う何かに当てはめることで、ビジネスの成功確率を上げていくことができるようになります。

まずは入門書を読もう

ー あまり哲学に馴染みのない人に向けて、オススメの本はありますか?

まずは「入門書」を読むのがおすすめです。

僕自身もアリストテレスとかニーチェの原作は読みません。あまりにも難解だし、これはどういうふうに解釈したら良いのかってわからない。解説してくれる人の本を読んで、無駄に遠回りをしすぎないように。

とくにおすすめは、『映画の構造分析』。哲学を用いて、ハリウッド映画の解説をしてくれています。「エイリアン」や「大脱走」などの大衆映画の裏にさえ、さまざまな哲学の考え方が反映されている。結構読みやすいですよ。

もうひとつオススメは、『ちぐはぐな身体』という本。コム・デ・ギャルソンなどを事例に、ファッションの解説を哲学を用いてしています。高校生向けの講演をまとめたものなので、言葉がやさしく分かりやすいです。

+++右:『ちぐはぐな身体』左:『映画の構造分析』

ほかにも、NHK出版が出している『100分de名著』シリーズもわかりやすくてオススメです。TV番組で放送されている内容を収録したもので、初心者でも楽しく読みめます。値段も手頃なので、はじめての1冊にいいかもしれません。

+++マルクス・アウレリウス『自省録』2019年4月 (100分 de 名著)
著:岸見一郎

小説で「感性」を考察

ー 哲学のほかには?

小説もよく手にとります。まず前提として、ビジネスデザインにおいて、さまざまな環境や属性にいる人の意見や感じていることを、ニュアンスも含めて丁寧に汲み取りながらやっていくことが重要です。

たとえば僕は、30代で日本人の男性っていう属性があって、20代の北海道に住む女の子の考えてること、感じてることって全然わからないわけですよね。

「しんどいな」と感じる瞬間も、「楽しい」と思えることも、全てが違う。

だからこそ、「他者」への想像力を常に養い続けたい。小説を読むと、自分が持っている主観がすごく良い意味で相対化されて、想像力を鍛えられると思います。

僕は男性なので、女性の作家の本をすすんで読むようにしています。女性から見た男性の不思議さや、なんで男ってこんなバカなんだって書いてあって、女性の目線だとこういうふうに見えるんだみたいなのとか。

男っていつまで経っても3人集まると、中学生に戻ったみたいなずっとくだらない話してんだろうみたいな。男性として当たり前のことが周りから見るとそうじゃないんだなみたいなところがわかったりして。

女性の作家の作品はすごく好きですね。

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月に1回、昔読んだ本を読む

ー 本の読み方にご自身なりの決まりごとなどはあるのでしょうか?

目的によって、読み方を変えています。

まずひとつめに、情報収集を目的にして、ビジネス書を読むときは、Kindleで購入してざっと速読しています。仕事で担当するプロジェクトごとに、知識や情報を大量にインプットするときにしています。

Kindleだと、キーワードを検索すると該当ページがバンバンと出てきて、辞書的に使えるので便利ですね。

ただ、個人的にはあんまり「速読」してたくさん本を読むことはあんまり好きじゃないんです。速読してインプットした情報って、自分の中で通り抜ける感覚があって、プロジェクト期間中は知識をキープした状態なんですけど、終わったらどんどん忘れてしまう。

哲学や小説など、「内省すること」を目的にしている本は、じっくり丁寧に何度も繰り返して読んでいます。

一つは人間の短期記憶ってすごく弱いので、大体1週間ぐらい経ってるとほとんど忘れてるんですよね。たとえばすごく良い本に出会って、誰かにおすすめするときに、「どこがよかった?」と聞かれると、1ヶ月後くらいにはだいたい答えられない(笑)。

読み返すことですごく思い出して、自分の中でシナプスが形成される。1回目に読んで気づけなかったポイントにも気付いたりして、本を深く理解できるようになります。

この『読書について』という本は、二十歳ぐらいから読んでいます。あまりにボロボロになったので、一回買い直してるんです。

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ー1度読んだ本は、なかなか読み返さないまま本棚に保存してしまいます...。

自分の中でルール決めたらいいかもしれないですよね。読書、3回やるとすると、3回に1回は過去の本を読み返すということをするとか。ここは心がけていて、平均すると10回に1回ぐらいは昔の本を読み返す読書をしています。

一ヵ月に5冊から10冊読むので、読むのは多いほうかなとは思うんですけど、その中でこの本良い本だなって出会える確率って、年に5,6冊ですよね。そう考えると、新しい10冊を読むよりは、昔の本を読んだほうが自分にとって気づきが多いと思っています。

躊躇なく本に書き込む

もうひとつ、本を読むときにしているのは、本にふとした疑問や気づきを直接書き込んでいます。読み返すことはあんまりないのですが、「書く」行為そのものが、一番脳が活性化して、思考がクリアになります。。

とくに「答えのない問い」を見つけたときは、「Q」という印をつけて書き残しています。ぼくは普段、一日に一問か二問、質問を考えることにしているんですよね。たとえば、人の音楽の好みを変えるのはどうしたらいいのか。日本の住居からテレビをなくすにはどうしたらいいかとか。普段の何気ない問いを立て、思考を深めることもビジネスデザイナーにとって重要な役割だととらえています。

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【プロフィール】佐々木 康裕 Takram ディレクター / ビジネスデザイナー
クリエイティブとビジネスを越境するビジネスデザイナー。ユーザリサーチから、コンセプト立案、エクスペリエンス設計、ビジネスモデル設計を手掛ける。デザイン思考に加え、認知心理学やシステム思考を組み合わせた領域横断的なコンサルティングプロジェクトを展開。Takram参画以前は、総合商社でベンチャー企業との事業立ち上げ等を担当。経済産業省では、Big dataやIoT等に関するイノベーション政策の立案を担当。 早稲田大学政治経済学部卒業。イリノイ工科大学Institute of Design修士課程(Master of Design Method)修了。

10ページ読んで違ったら次へ

これは私自身の悩みでもあるのですが、読書が習慣になっていない人たちに向けて、アドバイスをお願いします!

何ページか読んで「違う」と思ったら、無理して読み進めなくていい、ですかね。

読書が嫌いだとすると、読書が嫌いなんじゃなくて、今まで読んだ本が嫌いということかなと思うんですよね。良い著書に出会うことができたら、その人はきっと読書が好きになる。

だから、本って読み切る必要はないと思うんです。僕もよくやるんですけど、10ページぐらい読んで「違うな」と思ったら、もう読まない。そんなものに時間使う必要なくて、そしたらもっと他の著者の作品を読むようにする。自分が好きな著者を見つけると芋づる式に、その人の過去の著書が出きて楽しくなりますよ。

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文 = 野村愛


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