2018.11.13
財務諸表が読めて、デザインもできる。「ビジネスデザイナー」が求められる時代へ

財務諸表が読めて、デザインもできる。「ビジネスデザイナー」が求められる時代へ

今回編集部が注目したのは“財務諸表が読めるデザイナー”。デザインの審美眼を持ちつつ、定量データを見て市場分析する「ビジネスデザイナー」と呼ばれる存在だ。そのスキル要件にはこれからの時代をサバイブするヒントが隠されているはず。Takramでビジネスデザイナーとして活躍する佐々木康裕さんのもとを訪ねた。

数字がメッセージを語りかけてくるように、複雑な情報を構造化する

ー「ビジネスデザイナー」は新しい概念の職種だと思います。具体的には何ができる人を指すのでしょうか?


必要な能力の一つは「前例のない複雑な問題を、オリジナルのフレームワークで構造化し、チームのコミュニケーションや事業推進のドライバーにする」ということです。

資料作成一つとっても、この能力がフルに発揮されます。たとえば、財務分析の資料って分かりにくいですよね。ひと目みて、「これって儲かるんだっけ?」「これって人に響くんだっけ?」というのが分からない。解釈のズレが生じて、議論が前に進まなくなってしまうというのはありがちだと思います。

言葉とビジュアルを駆使して、数字がメッセージを語りかけてくるように、情報を構造化し、資料を作りこんでいます。ダイアグラムをつくったり、参考になる写真を集めたり。認知心理学や脳科学の知見を元にアレンジしたフレームワークを用いて、ディスカッションをクリエイティブに行えるように設計しています。

+++Takramによる音楽市場の定量分析サンプル

ビジネスデザイナーの役割は、情報の構造化のみならず、他のデザイナーとは異なる視点から考えることも含まれます。たとえば、お客さんの顧客満足度を上げるためのプロジェクト。従業員におもてなしの心を持って積極してもらうためには、人の配置をどうするか、接客をするためのツールはなにがあったらいいのか。舞台の裏側を考える。

どうやったら人が良い体験できるのか。どうやったらデザインを通じて感性が刺激されるのか。3つの観点でデザインとビジネスの橋渡しをしています。

1:ヒューマンファクター(人にとって本当に喜ばれるのかを考える)
2:ビジネスインパクト(わかりやすくいうと儲かるのか)
3:実現可能性(自分達でできるのか)

+++

【プロフィール】佐々木 康裕 Takram ディレクター / ビジネスデザイナー
クリエイティブとビジネスを越境するビジネスデザイナー。ユーザリサーチから、コンセプト立案、エクスペリエンス設計、ビジネスモデル設計を手掛ける。デザイン思考に加え、認知心理学やシステム思考を組み合わせた領域横断的なコンサルティングプロジェクトを展開。Takram参画以前は、総合商社でベンチャー企業との事業立ち上げ等を担当。経済産業省では、Big dataやIoT等に関するイノベーション政策の立案を担当。 早稲田大学政治経済学部卒業。イリノイ工科大学Institute of Design修士課程(Master of Design Method)修了。

MBAではなく、MFAの時代へ

ー佐々木さんはもともと商社のビジネスマンだったと伺いました。なぜビジネスデザイナーの道に?


入社5-6年目のときに読んだ、ダニエル・ピンクの『ハイコンセプト』にとても衝撃を受けたんですよね。そこに書かれていたのは、「MBAからMFA(Master of Fine Art)へ」。つまり、これからの時代はデザインやアートの力を生かしてイノベーションを起こしていくと。その一節をみて、デザインスクールに興味を持ち始めました。

実際に海外に身をおいてみると、海外と日本とではまったく異なる業界構造になっていました。日本ではまだまだ少ないですが、「ビジネスデザイン」の役割を担う人たちは、海外のデザインコンサルティングファームには2割程度いたりする。


ーなぜ日本には「ビジネスデザイナー」が少ないのでしょう?


まず日本では、「デザイナーは美大出身の、絵を描くのがうまい人の仕事だ」という誤った認識が広まりすぎています。海外、とくにアメリカのデザイナーは美大出身ではない人が非常に多い。なぜなら、デザインを「人の経験に刺さるかたちで、問題解決をしていくこと」だと捉えているからです。べつに絵が上手じゃなくてもいい。クリエイティブに、人の行為や心に寄り添ったものをつくることはできる。

+++

ビジネスとデザインの衝突を受け入れる

ービジネスとデザインの両方の感覚を身につけるって、なかなかハードルが高いですよね...。ビジネスマンがクリエイティブのマインドを身につけるはどうしたらいいのでしょうか?


自分のなかに多重人格性を持つことが大事だと考えています。たとえば、ビジネスでは合理性が大事、デザインでは直感も大事にする。ビジネスとデザインと、価値観レベルで相反するんですね。その相反する価値観を、自分のなかで両立していく。デザインの感覚とビジネスの感覚をコンマ1秒単位くらいで行き来するイメージです。

+++ビジネスとデザインの比較

ただ、注意したいのは、ビジネスサイドの人も、デザイナーも、自分のやり方が絶対ではないという自己否定、これまで学んだことを一旦捨てないとなかなか理解できないということ。

だからこそ、「謙虚さ」と「好奇心」が重要だと思います。謙虚さというのは「自分が間違っているかもしれない、他に答えはないだろうか」という姿勢。そして好奇心は、新しい視点や表現へのチャレンジ・欲求。その両方のサイクルがベースにあると思います。

+++

「クリエイティブ教養」のススメ

ー最後に、「ビジネスデザイナー」に必要な資質を教えてください。


海外のビジネスデザイナーに共通する資質として、リベラルアーツの感度がすごく高いんです。映画の歴史、映像史を知っている。哲学とか文学とかそういうことにすごく興味があるんです。

リベラルアーツの世界では、問い自体を自ら作っていく。自分や社会が本当にしないといけないのか。世の中を本質的にどう捉えているか、ビジョンをつくって、旗を立てていく。これはビジネスデザイナーにとって非常に大事な役割だなと思っています。

「問い」って、じつはとても身近にたくさん転がっているんです。僕はいつも、疑問が思い浮かんだとき、ノートにメモしている。書き留めてみると分かるんですけど、1日に10個も20個も疑問ってあるんですよ。たとえば、人の音楽の好みを変えるのはどうしたらいいのか。日本の住居からテレビをなくすにはどうしたらいいか。

自分のなかに新しいアンテナが形成されて、そのヒントになりそうなことが情報として入ってきたりする。見過ごしてしまいがちな疑問にこそ、思考力を鍛えられる種があります。どの角度からものごとをみるか、一般の人が着眼しないようなことをみつけて、それについて粘りづよく考えていくことはどんな人でも始められると思うのでオススメです。

+++


文 = 野村愛


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