2019.07.16
佐渡島庸平が選ぶ、新人編集者に捧ぐ5冊|ヒットを生み出せ。

佐渡島庸平が選ぶ、新人編集者に捧ぐ5冊|ヒットを生み出せ。

トップランナーの本棚 vol.2 佐渡島庸平

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「みんなさ、できそうなことばっかり考えてない?」


取材中、佐渡島庸平さんの言葉が、グサッと心に突き刺さった。記事の書き手として、「編集」という仕事に携わるひとりとして、自分の至らないところが次から次へと浮き彫りになっていく。


「最初からうまいことやろうとするから、おもしろくないんだよ。失敗しても、笑われてもいいからさ、極端になってみたり、常軌を逸してみたり、どんどん企画考えてみたらいいじゃん


今回、佐渡島さんのもとを尋ねたのは、「若手編集者に向けて読んでほしい5冊」を伺うため。本を通じて佐渡島さんは、「編集とはなにか」「編集者とはなにか」という問いに対して、まっすぐ答えてくださったように思う。

編集とは、みんなが興味を持つフックを探すこと、常識というメガネを捨て去って、新しい気付きを与えることーー。

編集に携わる人はもちろんのこと、「いい企画ってどうつくるんだろう?」と思い悩むすべての人へ。参考になる本をご紹介いただきました。

01 「ウンコロロ」
02 「ブレスト」
03 「表現の技術 グッと来る映像にはルールがある」
04 「小説的思考のススメ:『気になる部分』だらけの日本文学」
05 「儚い光」

01 「ウンコロロ しあわせウンコ生活のススメ」

+++ウンココロ ~しあわせウンコ生活のススメ 

寄藤 文平 (著)

この本が書店で平積みになっていたのを見た瞬間、「この手があったか!」と頭を殴られるような衝撃を受けました。

幼稚園に行って人気者になる方法って実はとてもシンプルで。「うんこー!」って叫びながら走っていけば、絶対にみんなの人気者になれますよね(笑)。だけど、大人になるとそれができなくなっちゃうんですよ。

同じように、うんこのネタが大ヒットするのはわかっている。でも、その切り口を多くの人は見つけることができない。

「体調管理をしっかりしよう」。その中の項目の1つとして、「うんこの状態を見よう」だと、誰も興味を持たない。だから、この本はうんこというところから入っていきながら、結局、人間の体調管理の仕方についての話をしていくんです。

これはつまり、一見狭く見えるような入り口から入って、深い本質的なテーマへとたどり着くという構成です。これこそ編集の真髄じゃないのかな。

良い企画って結局のところ、みんなが興味を持っているんだけど、どういう興味の持ち方か上手く言えないところとか漠然とした興味に切り込んだり、誰も光を当てたことがない側面に光を当てることができた企画だと思っていて。「その手があったか!」と膝を打つような企画ってパッと見、とてつもなく狭いことが多いんです。

「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」という本があるけど、例えばこの本のタイトルが「全員がわかる会計学の教科書」だったら、読んでみようと思いますか?僕はたぶん買わないと思う。

編集者がやるべきこと、それは常識というメガネを外すこと。常識というメガネを捨て去って、新しい気付きを与える。そのための第一歩が、社会の中で「こうすべき」、「こうするのが当たり前」とされていることが偏見の塊であることを知ることです。

そして、極端になってみる。

もしも、僕が料理本を考えるとしたら「塩だけで美味しさを変える100の方法」とか、「秘訣は砂糖」とか。とにかく何か言われて驚くことはないか、周りの人にアイディアをぶつけてみます。

そうやってアイディアをぶつけていって、みんなが一番驚いてくれることが見つかったら、それについて話せる人を探してファクトチェックをしていく。

みんなが興味を持つフックがどこにあるのか、誰もが探していますよね。そして、それは実はすごい狭いところにあるんですよ。

+++

02「ブレスト」

+++ブレスト

川村元気

僕らはとてつもないチャンスがやってくるのを待っていて、その時が来て初めて企画を考えてしまいがち。でも、企画って本来は前もって考えておくから、そのチャンスがやってきたときに生かすことができるものですよね。

この本の中にはハリウッドの大スターたちを使って、どんなものを作るかという妄想が登場します。川村元気さんは、その妄想具合が重要だと僕らに教えてくれています。事前にどれだけ妄想することができるか、その妄想の質と量がその人の人生を決める。想像していないことは絶対に起きません。

今すぐ使えないアイディアを考えるのは無駄だからって考えもしない人のところには、すごい企画をやるチャンスすら来ませんよ。

誰もが発想するときって、自分の常識の枠の中から考える癖がついてしまっている。さらに、その中からできそうなことが何かを考えますよね。でも、自分の身の回りで考えられるような簡単な企画って誰でも思いつくようなものばかりなんです。でも、川村さんはその逆。最もハードルの高い企画から考えていくんです。

OKが出る企画ばかり考えていてもしょうがない。多くの人を「常識」の枠の外へと連れ出して、ハッとする体験を届ける。それが企画ですよね。

僕は編集者というのも企画をいっぱい持っている人であるべきだと考えています。多くの人が頼まれたら企画を考える人になってしまうけど、そんなところから生まれる企画の質って平凡な場合が多い。

少なくとも僕は企画を無限に持っている人間でありたい。そのための準備をどれだけしておくか、それだけです。

+++

03「表現の技術」

+++表現の技術―グッとくる映像にはルールがある

高崎卓馬

映画を見ていて、「あ、いま『泣きボタン』を押してきているな」って露骨にわかってしまったら嫌ですよね。

たとえば、同じ難病を取り扱っていても、グッとくる物語とそうでないものがある。大きく分けてしまうと、泣ける設定が無理やり入っているものと、そうでないもの。

本当に心を動かされるものって、その手前で驚きを感じる設定が入っているんですよ。喜びを感じる手前でも、悲しみを感じる手前でも、1度「あっ」と驚いて、「え?」という感情を感じさせてから喜んだり、悲しんだりする。

人間ってついつい驚いた瞬間を忘れてしまって、喜んだことや悲しんだことだけを記憶している生き物です。だから、その感情だけを切り取って再現しようとするんだけど、その手前に実は「驚き」という感情が隠れている。

こういうすごいクリエイターの人たちの持っているノウハウを紹介する本を読んで、それだけ満足していてもダメです。やっぱり、すぐ試さない人って多いでしょ。でも、しっかりとやってみることが重要だったりするんですよね・・・。

すぐに忘れていきますから、何もかも。とにかくすぐに試して、自分のものにしていった方が良い。

他にも、すぐに試せる具体的な知識の手に入る本としてオススメは、高瀬敦也さんの『人がうごく コンテンツのつくり方』と細谷功さんの『メタ思考トレーニング』、大沢在昌さんの『売れる作家の全技術』です。

04「小説的思考のススメ:「気になる部分」だらけの日本文学」

+++小説的思考のススメ: 「気になる部分」だらけの日本文学

著:阿部 公彦

そもそも、「深く読むことができていない人間にコンテンツは作れるのか?」と僕は思ってしまう。自分が物を読んだり、理解したりする力があるのかどうか。コンテンツって深く読めないと意味がないですから。

良い人の物の見方を盗みにいく。それを丁寧にやってみる。

その力を鍛えていかないといけないと思います。例えば絵画とかの見方もそうですよね。とにかく自分が読めてないという前提に立って、ものを見る練習をしてみると良いです。

+++

05「儚い光」

+++儚い光

著:アン マイクルズ

本当に心が動く体験をしたことがある人だけが、それを再現することができるはず。妄想できない感情は作れないし、知らない感情は作れない。

いま、世の中にある心が動く瞬間のほとんどが「役に立つ!」と感じた瞬間ですよね。でも、そういった心の動きと小説を読んで生まれる心の動きって全く別物だと僕は思います。

その深い心の動きを得るために、まずは樹形図的に読み進めて行きたくなる作家を見つけることをオススメします。

読みたい本を探すときって、ついつい今ヒットしているものは何かを本屋で探してしまう。でも、次に読むべき本って本当は目の前の作品の中ですでに提示されているはずなんですよ。

誰かを好きになったら、その作家に影響を与えた作家の本やその作品に関係している物語を読みに行く…こうして樹形図的に読み進めることで、深く読むことができると思います。

同時に、自分の感動の度合いもしっかり言語化してほしい。読書会でも良いし、仲間にその本について語ってみることでも良い。とにかく言語化してみる。それができないうちは、自分でも正しく理解することはできていません。

僕はこの「儚い光」の良さを語り合える人と出会いたい。この感動体験を深く、しっかりと話し合ってみたいと思うんです。


文 = 千葉雄登
取材 / 編集 = 野村愛


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