記者会見の「ノーカット配信」といえば…代名詞になりつつあるインターネットテレビ局「AbemaTV」の『AbemaNews』チャンネル。宮迫博之さん、田村亮さんの謝罪会見で話題を集めた。チャンネルプロデューサーを務めるのはAbemaTVの山本剛史さん(29歳)。彼のシゴト論とは?
ーーAbemaTVの中でも『Abema Newsチャンネル』は特に注目を集めています。ノーカットで会見を全て配信する。今までのテレビと全く違うスタイルなので、驚きました。
ありがとうございます。ただ、正直、開局最初は手探りの状態でした。
そういった中で見えてきたのが『Abema Newsチャンネル』として掲げている「何かあったらすぐアベマ」、速報のニュースを「最速で、ノーカットで、ライブ配信する」という方針。
地上波テレビではできなかったいこと、これまでのネットのメディアにはなかったものとして、AbemaTVならではのスタイルを模索しています。
ーーとくに山里亮太さん・蒼井優さんの結婚記者会見は、『AbemaNewsチャンネル』の映像がいろいろなところで引用され、ネットでも広まったように感じました。
どうしてもこれまでのテレビだと編成の枠にとらわれるのは避けられず、放送できる時間に限りがあるので、番組側が「ここ!」といったところを拾って編集し放送するスタイルでした。
世の中の動きとしても、テレビのニュース番組で、ニュースの切り取られ方、編集のされ方に懐疑心が生まれていて。たとえば、会見での発言が部分的に切り取られてしまうことによって、前後のコンテキストが全部抜けてしまう。編集されてしまうことで、受け手に誤解を与えてしまう。そういうことに対する声というのが出はじめていました。
地上波やほかのメディアは尺の制限があるし、編集せざるをえない。でも僕らのインターネットテレビ局には枠に制約がない。インターネットテレビ局ならではの強みと社会のニーズがマッチしたと感じました。
最初、会見をまるっと放送したり、短い会見も番組の中で取り上げて討論する企画をやり始めたら、視聴者からものすごい反響があったんです。その時に改めて「編集せずに、ありのままをライブで届けることの価値」を再認識しました。
また、『AbemaNewsチャンネル』ならではの視聴体験として自動AI字幕を導入したり、他メディアとの連携なども工夫しているところです。
ただ、今も試行錯誤の連続です。同じ内容の会見は二度とない。毎回が“ナマモノ”で何が起こるかわからない。だからこそ、一回一回の「振り返り」はスタッフ同士で綿密に行なっています。そして、ルールやレギュレーションを柔軟に追加したり、変更したりもしています。そうすることによって、ノーカット配信のナレッジが蓄積されています。
ーーキャリアの話も伺いたいのですが、入社3年目にして看板となるチャンネルを任されるってすごいですよね。もともと映像をやりたくて学んでいたとか?
いえいえ、こういったシゴトをしているとは想像もしていませんでした(笑)
もともと、サイバーエージェントに入ったのは「経営者になりたい」と考えていて、事業について実践から学べると思ったから。入社1年目で運良く新規事業に携われてもらえました。
職種としては営業。いま振り返ると入社1年目の僕はほんとにダメ新人だったと思います。アポイントのための電話の掛け方さえわからない(笑)提案資料も作れないし、ダメ出しの嵐。初歩的なところでつまづいてばかりでした。
「ただただ前のめりな新人」っていると思うんですけど、僕もまさにその一人でした。なんでもそつ無くこなせる自負もあり「自分はできるやつ」と勘違いしていたんですよね。
ーーとくに何が足りなかったのでしょうか?
それでいうと…全てですね(笑)アイデアの引き出し、仕事のスピード、スキル、視座...先輩と比べて、ひとつも勝てるところがない。
今でも覚えているのが、事業責任者から事業の明暗を分けるような大きな案件を任されたタイミングで、提案資料をチェックしてもらったのですが「これはお前のすべてを賭けて提案できるのか」と聞かれ、思わず口ごもってしまったんです。自信を持って「できます」と言い切れなかった。考え抜けていない、その自覚がありました。何より「絶対提案を成功させるんだ、事業を大きくするんだ」という気概が足りなかったんです。
ーその提案はどうなったのでしょうか?
本当に感謝しかないのですが、最後まで僕に任せてもらえたんですよね。休日返上で付き合ってもらって、何とか仕上げ切ることができた。上司からすると、僕から仕事を巻き取って、代わりに仕上げることだってできたけれど、そうしなかった。「できない理由ではなく、できる理由を考え抜くこと」、あの時にもらった言葉は今でも大切にしてます。つくりたい未来を、どう実現していくか。あらゆる道筋を考え抜く。一切の妥協をしない。あの体験が今にもつながっている気がします。
もうひとつ、新人時代の印象的なエピソードがあって(笑)
1年目の頃、僕があまりにもずさんなTODO管理をしていて、出すべき成果をなかなか出せず、さらにはトラブルまで起こし、上司を激怒させてしまったんです。
僕の手元には、パソコンのメモにざっくりしたタスクしか書き出されてなくて、成果を出すための優先順位も具体的なアクションにも落とし込めていなかったんです。
上司からしたら、「ただパソコンに向かってなんとなく仕事している」ように見えたんだと思います。なんか仕事してる風だけど、なにしてんの?って。「仕事はTODO管理が全て。ゼロから作り直して提出しろ」と、その場で、PCのとディスプレイの電源を抜かれて、没収されてしまいました。
成果を出すための逆算で、1ヶ月、1週間、1日単位でやるべきことを洗い出していくところからやりました。1日に関しては、15分刻みでつくって上司と擦り合わせました。
ビジネスの基本中の基本ですが、新人時代に徹底して叩き込んだからこそ、1分1秒の全てを成果につながるように意識することができています。
ーーそこからどのようにして「AbemaNews」に抜擢されたのでしょう?
詳しく理由を聞いたわけではないので、実際のところはわかりませんが...(笑)
話をもらったときは、全く予想もしてなかったので驚きました。立ち上げからやっていた事業も市場No1を奪取できたタイミングで、このまま次のフェーズを仕上げていくんだと思っていました。
AbemaNewsの業務内容を聞き、自分の実力以上の大きなチャレンジの機会だなと思ったのが正直なところです。今考えると、おそらく期待してもらえていたのは、成果への執着心と実行力だったのではないかなと思っています。
かなり難易度の高いミッションを任せてもらったと思っています。AbemaTVを伸ばしていくにあたり、視聴の習慣化とメディアとしての信頼を築くために「ニュース」の使命はとても大きい。
せっかくのチャンス、期待を超えて結果を出したいと思い異動を決断しました。
ーー当時はどんな状況だったのでしょうか?
当時は、本当にうまく前に進まないことだらけでした。「AbemaNews」はテレビ朝日とサイバーエージェントの社員が出向しチームが構成されています。僕自身、報道経験がないのもありましたが、僕自身の実力のなさが大きかった。テレビ朝日の報道幹部の方に比べ、社歴も圧倒的に浅く、シンプルにビジネスマンとしての差を感じました。
とくに、テレビ朝日の方々には番組制作においてかなり多くのことを学ばせていただきました。1カット1カットにどんな絵作りをするか、内容にはどういった目線を入れていくかとか。放送直前まで、最善のものになるようにこだわり抜くんです。
ただ、災害などがあればすぐに切り替わります。何があっても伝えるんだ、という気合いが半端ではない。とにかく1秒でも早く届ける。そのために手段を開拓していく。
「情報を届ける」スピードへの意識はここで持てるようになったと思います。「ニュースを届ける意義はなにか?」「報道に求められていることはなにか?」。最初自分自身の中でふわってしていましたが、報道のプロフェッショナルであるテレビ朝日のみなさんに背中で教えていただきました。
ただ、「AbemaTV」自体、まだ道半ばで、もっと多くの人に見ていただけるようにならないといけない。1000万WAUは達成できましたが、さらに大きなメディアを目指していき、さらに「AbemaNewsチャンネル」としては“何かあったらアベマ”と思ってもらえるようにならないといけないと思っています。ぜひご期待いただければと思います。
取材 / 文 = 野村愛
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