クックパッドのデザイン体制はユニークだ。事業部を横断して、より使いやすく、愛されるサービスづくりに臨む。マネージャーとして束ねるのがデザイン戦略部部長の倉光美和さん。デザインシステム「citrus」の設計やデザインスプリントの組織導入など、全社で信頼を集める彼女。一体どんな新人時代を過ごしてきた?
まずは新卒で働かれていた会社でのお話から伺ってもよろしいでしょうか。
そうですね。もともと、新卒では家庭用ゲーム制作会社でデザイナーとして働いていました。そのときの経験が、とても大切な一歩だったように思います。
1年目のこと。今でも鮮明に覚えているのが、とある新規プロジェクトのUIデザインをいきなり全部任せてもらえて。
いきなりの責任者!大抜擢ですね。
はい…ただ、UIの実装スケジュールが大炎上して苦い思い出に(笑)じつは納品〆切直前になり、このままでは数千枚のデザインデータの作成が到底間に合わない、ということが発覚したんです。非効率なワークフローを選んでしまっていた私の責任でした。
…なんと。なぜそんなことに?
当時の私にはUIデザインの知見がなく、プロジェクトの進行も初めて。一体なにをどうしたらうまくいくのか、さっぱり分からない状態。なのに、周りの人に言われるがままに、なんとなくスケジュールを引いてしまってたんです。
一番の反省点としては、知ったかぶりをしたこと。「どうすればいいかわからない」と周りに伝えられず、わかるフリをしてしまったんです。無知なのに。
せっかく任せてもらえたんだから、自分でなんとかしなくちゃ。そんな気持ちが邪魔をしたんでしょうね。誰にも相談できず、ひとりで抱え込んでいました。いま思えば、かっこつけたかっただけですね...。
この経験を通じた学びは、自分が理解できていないものは、ちゃんと聞くこと。なにが完成なのか、どういうワークフローがいいのか。
わからないなら、「それってどういうことですか?」って、ちゃんと聞かないとダメ。「わからない」と伝えることも新人の大事な仕事なんだと、それ以来、肝に銘じています。
もうひとつ、新人時代に学んだのは「自分はどうしたいのか?」と考える癖をつけることです。
きっかけになったのは、プロジェクトが全然前に進まず、八方塞がりになってしまったとき。リリース直前になっても、担当していた機能が全然完成していなくて。上司に相談しにいったんです。
プランナーは仕様を変えてくるし、エンジニアは思った通りの表現を実装してくれない。クライアントの意向がころころ変わる。どうにもならない現状を上司に伝えました。
上司は一通り私の言葉に耳を傾けて、静かに口を開きました。
「それで、君はどうしたいの?」って。
私は言葉に詰まってしまった。「ああ、結局自分はただ苛立ちをぶつけていただけだったんだな...」って気づいたんです。
「こうしたいんです」っていう意見が、私にあれば、きっと上司もアドバイスや意見をくれたはず。問題解決のためには、まず自分がどうしたいのか、意見を持つことが大事なんだと学びました。
「意見を持つことは大切」とよく言われます。ただ、新人だと経験も、知識も、ないので、自分の意見に自信が持てないことも…。
それは、いきなりベストな案を出さなきゃいけない、と思っているからかもしれません。いきなりベストな案を出すのは不可能なので、とにかく案の数を出す。考えうるアイデアをどんなに小さなことでも出していく。自分の中だけで考えるのはアイデアの引き出しが少ないので、リサーチも同時にしていました。
ただ、注意したほうがいいのは、全ての案を並列に見せて、相手に判断を委ねようとしないこと。
よく、これはメンバーにも伝えていることなのですが、数を出し切ったら、自分が絶対にいいと思うものがどれかを言えるようにする。自分の考えた案すべてを見せてしまうことってありがちなのですが、相手にとっては作ったデザイナー本人すら信じることのできない捨て案はノイズでしかありません。
まずは自分の中でこれだと思うものを決める。それが無いのであれば、その案は全部正解ではないのかもしれません。
自分でなんの案もひねり出せない...苦しい…そんなときはどうしたいいのでしょう?
そういうときってだいたい情報が足りていないとき。一人で考えようとせず、まずは必要な情報を集めて、上司が判断しやすいように意思決定の支援をするのがオススメです。
あとは「決める機会の多い環境に身を置く」とイヤでも鍛えられますね(笑)
私の場合、UIデザインの担当が一人だったこともあり、「決める」というシーンが多かった。プロジェクトをデザインでさらに前進させるために、なにが必要なのか、常に突きつけられていたと思います。これは自分の意見を持つトレーニングになっていたのかもしれません。
新人のうちって「できないこと」ばかりで挫けそうになることも。倉光さんはどう向き合っていましたか?
私は少しでも早く「介在価値」を発揮したかったので、それが原動力になっていたかもしれないですね。自分がこの仕事に携わっていたから、この表現が生まれた。そんな風に、毎回の仕事のなかで、自分の存在価値を残したいんです。
「個性を出す」というのとは違って、ユーザーの求めていたものをつくれたり、ユーザーの行動が前向きに変化したり。
自分が関わったことによって、プロダクトを通じてユーザーに楽しさを届けられたら、ものすごく幸せだなと思うんです。
日々の仕事は泥臭く、試行錯誤の連続ですよね。でもその先には必ず、ご褒美みたいにユーザーさんから「声」が聞こえてくるはず。その「声」に耳をすませてみるといいのかもしれません。
取材 / 文 = 野村愛
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