10代・20代女性向けに韓国プチプラファッションを届ける「17kg」を主軸に、ファッションブランドを運営するイチナナキログラム。平均年齢25歳、平成生まれの心を射止める採用戦略とは?
2本立てでお届けします!
[1]COOは「How」のプロであれ|イチナナキログラム・秋山洋晃のCOO論
[2]平成世代の心を射止める、イチナナキログラムの採用戦略
学問に王道がないように、採用に王道なし。
景気、時代背景、象徴的なニュース、未来予測……あらゆる観点が「変数」となって存在する採用の世界で、資金やネームバリューに乏しいスタートアップは戦い方にも工夫がいる。
「これからは採用もD2Cの時代です」
そう話すのは、イチナナキログラムのCOOである秋山洋晃さん。10代から20代女性に向け、韓国のプチプラファッションを届ける「17kg」を主軸に、さまざまなファッションブランドを運営している。
60人あまりの社員は全員が平成生まれ、平均年齢は25歳。若い力を原動力に進む彼らは、いかにして自社の求める候補者と出会い、仲間とするのか。
平成世代の心を射止める、その採用戦略を聞いた。
──以前のインタビューで、COOでジョインしての数ヶ月間で、社員数が何倍にも増えたと聞きました。しかも、年齢もみんな若い。イチナナキログラムは、どのような採用戦略を取っているのでしょうか。
まず「2018年」と、「2019年」で、戦略は大きく変えています。
2018年は専任の採用担当はおらず、僕が人事責任者としてリソースの6割くらいを採用に割いていました。そのときの施策は大きく3つで、SNS、Wantedly、リファラルです。これで合計50名近く採用したんです。職種にもよりますが、人数だけの内訳ならばSNSが23名、Wantedlyで15名、リファラルから12名でした。
──採用サイトであるWantedlyよりも、SNSが最も多かったと。
Instagramでどんなふうに商品を見るのか、どういった商品が欲しいのかは、消費者が最もわかっているものです。だからこそ、まずは僕らが持つ顧客基盤であるInstagramとLINE@を活用して、「お客様」から採用するのが結局は効きました。
基本的に、僕らは人材エージェントを使わないスタイルです。その資金があるなら、社員が会社をより楽しめたり、給与水準を上げたりするところに使いたかったですしね。
エージェント経由で年収600万の中途を採用する場合1名あたり約200万、5名採用する場合は約1000万が手数料としてかかる。
— 秋山洋晃 / 17kg (@akky0429) May 14, 2019
つまり年5名Twitter経由で採用できれば、Twitterには1000万円分の広告価値が存在することになる。
Tweetに要する時間を考えても、ベンチャー経営者がTwitterをやらない手はない。
【プロフィール】株式会社イチナナキログラム取締役COO|秋山 洋晃
大学在学中に音楽イベントビジネスで起業。2014年3月早稲田大学法学部を卒業。2014年4月グリー株式会社に入社。マーケティング部に在籍後、2014年9月に株式会社Tonight(グリー100%子会社)へ出向し、同社のサービス運営及びM&Aを担当。2018年2月株式会社イチナナキログラム取締役COO就任。
──そして、2019年になって方針が変わった?
専任の人事担当者も入社しましたが、大きく変えたのはターゲットです。
今までは転職を検討している顕在層が反応してくれましたが、本当に優秀な人を採用しようと思うなら、それだけでは足りません。今すぐスタートアップには転職しないかもしれないけれど、将来的に転職しそう……と思える潜在層へのリーチを広げようと頑張っています。
中途採用向けの会社説明会を開催したり、僕がTwitterを通じて経営陣としての考えを発信してたりしているのも、その一貫です。優秀な人は転職するとなればすぐに声がかかりますし、市場から消えていってしまう。そこに先回りして、イチナナキログラムを転職先の選択肢に入れていただきたい。
──秋山さんはTwitter、精力的ですね。狙いなど、ありますか。
具体的なペルソナの設定です。若手の社会人や学生で将来起業したいと思っている層を、経営幹部人材として今は一番に採用したいです。だから、そういう人たちが興味を持ってくれそうな内容をツイートするように心がけています。
──転職しよう、自分が何かを始めようと思ったときに、「イチナナキログラムって面白そうな会社があったな」と、ちゃんと想起されたいと。
おっしゃる通りです。ですから、Twitterで採用に関するポストを積極的にしているわけではなく、あくまで候補の一つとしての認知を得るのが目的です。
Twitterでベンチャー経営者をフォローしている時点で、その人は僕らのペルソナに近いはずです。自分から能動的に情報を取りに来ている人を、刺していきたいわけですから。
──Twitterでマネジメント指針や給与テーブルも明かされているのは驚きました。ただ、この考え方に照らすと、出してしかるべき資料だったのですね。
そういう情譲を発信してくれるからこそ興味を持ってくれると思いますし。きれいな建前のビジョンを語られても、結局は給料って気になるわけじゃないですか。ならば、先に見せておきましょうと。
──Twitterの活用は、秋山さんのような経営陣に限らず、社員みんなで実践するべき?
僕としては色んな職種の人が本当はやるべきだと思っていて。たとえば、デザイナーが、どういった考えでデザインをしているのかを発信する。考えが伝わりますし、会社の他のメンバーも想いに触れられます。
さらに、そのデザイナーが今後に独立していく、個人で仕事を受けるといった時にも効くはずです。前提として、イチナナキログラムに貢献してくれることが一番ですけれど、独立や出戻りも超ウェルカムで、副業も許可ではなく推奨しているんです。なぜなら、他社に仕事をもらえるくらいに自分でビジネスを作れる人と働きたいからです。
これだけSNSが発達し、個人で仕事が得られるようになっていくと、結局は会社が「自己実現するための箱」に変わっていくんじゃないか、と。会社もプラットフォームになっていくんです。イチナナキログラムという会社のブランドを使って、個人がやりたいことを自己実現してもらう場だと思っていて。
だから、社員みんなが発信したらいいのにな、とは思っています。ただ、発信し続けることにもそれなりの労力が必要なので、無理強いはできませんが。
──その捉え方は、SNSを禁止するような会社とは真逆といえそうです。
そうしないと優秀な候補者は採用できません。だって、彼らにとっては、そんな会社で仕事するメリットはないじゃないですか?
僕は会社も「ひとつのプロダクト」だと思っています。たとえば、会社をサービスとして捉えると、候補者をしっかり理解して、その人の需要を満たさなければいけません。「自分が働く側だとしたら、こんな会社がいいな」という形を用意したくて。リモートワーク、フルフレックス、副業推奨、成果連動の報酬、大きな裁量権といったことも、その考えからです。
頑張った人が、ちゃんと報われるべき場所で、「こういうところなら、わざわざ入社する意味がある」と感じられる。そのための仕組みを作ってきたんですね。
企業としては社員にSNSで個人ブランディングされて独立されてしまうと痛手。だからSNSを禁止する企業がいまだに多い。とはいえこれからの「個の時代」においてこの流れは止められない。経営者が考えなくてはならないのは、優秀な個人が「あえて残る会社」を創ること。金銭報酬も意味報酬も必要不可欠。
— 秋山洋晃 / 17kg (@akky0429) November 17, 2019
──実際に効果や手応えは感じていますか?
良くも悪くもイチナナキログラムをわかって来ていただけるので、面接でも相互理解が進んでいるから話が早いです。以前のキャリアハックさんの記事なども読んで入社してくださる方も、元々知っていて入社して下さる方も、たくさんいます。
今後、採用もD2C化すると思っていて。プロダクトだけでなく、本当に良い案件は広告ではなく口コミで広がっていくんです。
──そういった方針が、若い世代に刺さっている感覚はありますか。
はっきりと、ありますね。自分でサラリーマンを経験して良かったのは、「普通の会社」には僕らミレニアル世代からは違和感を覚えることがたくさんあると知れたことです。イチナナキログラムでは、それを徹底的にバリアフリー化しようと思っていて。
ちょっと前に話題になった「忘年会スルー」を引き合いに出すと……イチナナキログラムは飲み会も任意参加ですし、就業時間中にやります。費用も100%会社負担です。でも、そんなの当然だと思っていて。それが若い人の価値観なんですよね。
若手に無理矢理飲み会の出し物をやらせる会社って時代遅れですよね。上は「俺らも若い頃はやらされた」「会社に溶け込む為の儀式」って思ってるかもしれないけれど、普通にやらされる側が嫌だったらパワハラ。
— 秋山洋晃 / 17kg (@akky0429) October 29, 2019
これからの時代は社長が一発芸して喜ばせるくらいでないと。例えばあいみょん真似るとか。
──どういう価値観だと見ていますか。
簡単に言ってしまうと「満たされた世代」。大きな経済的な不自由も感じず、親にも大事に育てられてきた層が求めるのは、出世や給与、名誉ではないんですよね。取り組むことで個性を表現でき、自分がやる意義や意味をすごく求めています。
イチナナキログラムのビジネス特性から考えても、それを求める層を採用した方がいい。仕事なのかプライベートなのかわからないくらい、みんな熱中しているわけです。それは、自分たちが形作ったブランドが世に広まり、自分の作った作品がいろんな人に認められることが、やっぱり楽しいから働いている。まさに、このあたりが刺さっているなと思います。
──楽しいから働く、というのは、根底の価値観の違いとして挙がりますね。
「Instagramの運用代行をしてください」みたいなお話が来ても、全部お断りしていて。それは、みんながやりたくないから。やっぱり楽しいことをしていたいんです。理想は「仕事だと思わずにやっている」こと。
イチナナキログラムのミッションは“Create & Lead the World Trend.”で、世界のトレンド創造し、牽引していくことです。自分たちがトレンドを作らないと意味がないわけですね。だからこそ、受託仕事はビジネス的に儲かるとしてもやらないということを徹底しています。
──言わば、仕事と思わせてしまうことを排除しているともいえそうです。
そうですね。かといって、飲み会を禁止しているわけでもない。やりたい人がいるなら、その場を用意してあげる。やりたくない人には強制しない。両方を許容することが大事だと思うんですよ。
リモートワークと言いつつ、顔を合わせながら仕事がしたいという社員もいるからこそ、来られるようにオフィスも用意しています。言い換えると、多様性の許容ですね。
とはいえ、裁量を渡し、自由度が高いだけに、責任として数字を出すことは重要視しています。
──「これはやらない」と決めているようなルールはありますか。
これも多様性の許容から来る文脈だと考えていますが、基本的に業務を口頭で行うことを禁止したんです。つまり、すぐ隣にいても業務に関してはチャットワークで連絡すること。
理由は2つあります。まずは、口頭での連絡を許すと、リモートワークとオフィスで仕事をする人との情報格差が生まれてしまうから。それは出社を強いる無言の圧力として働いてしまいかねない。リモートワークの人に合わせて、会話をチャットのみにしています。
また、基本的に業務の伝達を文章で進めると、マネジメントコストが低くなるからです。口頭で仕事の流れが分断されてしまうと、マネージャーの方が総じて人件費は高いので、単純にロスが出てしまう。部下が上司に配慮し、非同期コミュニケーションであるテキストベースの情報共有をすればいいわけですから。
議論はあったのですが、社内での口頭コミュニケーションを「禁止」し、チャット上のコミュニケーションを義務化しました。リモート勤務の社員との情報格差を生まないという目的や、作業に集中している社員が途中で業務を中断されないようにする目的での実施です。どれだけ業務が効率化されるか楽しみ。
— 秋山洋晃 / 17kg (@akky0429) November 7, 2019
──目的が明確でいいですね。それは失敗から始まったりしたのでしょうか?
実際に僕が許可をしていないサンプル品が発注されてしまったことがありました。会社のフローも見直しましたが、口頭でのコミュニケーションに起因したケースです。裁量は渡していても、何かあれば会社として責任を取らなきゃいけません。極論だとか思われるかもしれませんが、僕はミスなく仕事を出来ることを大事にしたい。
それに、チャットでのやり取りなら検索できますし、会社にも貯まっていきます。口頭の会話は消えちゃうので、資産性がないんですよね。
──このあたりのワークスタイルへの考え方ひとつとっても、若い世代には惹かれるものがありそうです。「隣の芝生は青い」ではないですが。
実際に、元大手銀行にいたような人材も入社しています。給与などは保証されていても、個性が出るような仕事ではなく、システマチックなところへ入社してしまった人が、1年くらい経ってから駆け込んでくるんです。
ゆとり世代の多くは、歳上からマウントを取られることに耐性ができておらず、マウントを取られた瞬間に心を閉ざしてしまう。
— 秋山洋晃 / 17kg (@akky0429) November 26, 2019
このことを理解せず、「俺たちも昔そうだった」という理由で若手に接する会社は、いつしか相手にされなくなる。こういう会社から優秀な若手が転職してくるので、ありがたい。
──若い世代が減り、労働人口も減少していることは、採用の難しさとして話題によく上がります。その背景には「東京一極採用」とも呼べる、首都圏と地方の就職格差もあるのではと考えるのですが……。
たしかに、僕らの場合はデザイナーの採用には、やはり苦戦します。優れたデザイナーは、どこも欲しいですから。でも、イチナナキログラムでいうと、名古屋で1年半あまりデザイナーとしてリモートで働き、最近になって東京へ引っ越してきた優秀な社員がいますね。
──その1年半があるからこそ引っ越せたのでしょう。イチナナキログラムのようにリモートワーク前提で地域関係なく働ける会社の存在は、人材活用でも有効かと感じました。
過去にもさまざまな地方の人と働いてきました。「どこで働くか」は気にしていませんから、トータルで見て、優秀な方であれば欲しいですよね。首都圏と地方で差を感じることはありません。
能動的で、どこにいても自分を磨けているのであれば、仕事もバイネームになっていく。だから、地域差で何かが生まれるわけではないと思っています。そもそも、イチナナキログラムでは採用時にも居住地や出身地などを見ずに、その人が良いかどうかを判断しますから。
取材 / 文 = 長谷川賢人
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