ファッションブランド「17kg」など複数のブランドを展開するイチナナキログラム。若きスタートアップでCOO(最高執行責任者)を務める秋山洋晃さんに、その素養と必要性を聞いた。
2本立てでお届けします!
[1]COOは「How」のプロであれ|イチナナキログラム・秋山洋晃のCOO論
[2]平成世代の心を射止める、イチナナキログラムの採用戦略
夕暮れの、南青山。
イチナナキログラムのCOOを務める秋山洋晃さんは、軽やかな足取りで現れた。
オフィスへの道すがら、秋山さんは言う。
「ベンチャーの数が増えれば、それだけCOOも必要になってくると思います」
COOを日本語にすると最高執行責任者になる。あらゆる業務を執行する責任者であり、CEO(最高経営責任者)に次ぐ存在と目されることも多い。
起業家を対象にした「COOサロン」も開設した彼の思うように、日本のベンチャーにCOOが求められていくのだろうか。それならば、この誰もまとめていない「COOにとって重要なこと」にも、確かな価値があるに違いない。
社員は全員、平成生まれ。平均年齢25歳。
10代から20代女性に向け、韓国のプチプラファッションを届ける「17kg」を主軸に、さまざまなファッションブランドを運営しているイチナナキログラム。
新世代企業を率いる秋山さんの言葉から探っていこう。
──最高執行責任者という概念はありますが、まずはイチナナキログラムとしてのCOOというポジションの位置づけから教えてください。
そうですね、COOの役割は会社によって全然違うと思います。イチナナキログラムでは、CEOである塚原健司が「何をやるか(What)」を定め、COOの僕が「どうやるか(How)」を決めるのが、大きな役割分担ですね。
旅行に喩えると、塚原が「沖縄に行きましょう!」と言ったら、僕が「それならこの航空便に乗って、現地ではこんな観光スポットに行きましょう」と決める。塚原がいないと旅行は始まらないけれど、その旅路の良し悪しは僕にかかっている。そんなイメージですね。
──どういった経緯で、COOを務めることに?
学生時代に起業し、大学卒業後にはグリーへ進みました。その後に半年ほどリクルートに勤めて、フリーランスになりました。学生時代からの事業と、企業から個人で仕事をいただいて、食べるのに困らないくらいには稼げていたんです。
その頃に、週3日ほど働き、残りの4日で「人生をどうしていこうか。次に何の事業をやろうか」と考えて、ブログを毎日書いたりしていましたね。稚拙すぎて、もう消しちゃったんですけど(笑)。
そんなときに、有安伸宏さんのツイートでイチナナキログラムのことを知り、有安さん経由で塚原と会って……というのが出会いの流れです。
Twitter上では大手求人メディアに載っていない「掘り出し物」に巡り合える可能性がある。自分の場合も17kg参画のきっかけは有安さんのこのツイート。経営者からすれば求人メディアに余計なお金を支払わず、直接採用したいことは明白。つまり起業家・投資家をフォローしておくだけでチャンスが広がる。 pic.twitter.com/oP2A13GUpu
— 秋山洋晃 / 17kg (@akky0429) December 16, 2019
正式に役員として加入する前に、3か月くらい業務委託として携わるなかで、塚原ともお互いの相性が確かめられたんです。仕事をしていてもテンポが良かったし、価値観も近くて。だから、今でも意思決定で揉めることって、あまりないんですよね。
──もともとは、秋山さんもCEOだった。
そうですね。今でも、自分を「CEOである/COOである」と定義で考えたことはなく、そのプロジェクトが上手くいくやり方をすればいいと思っていて。
イチナナキログラムは塚原にやりたいことが明確にあり、旗を立てるタイプ。だから、僕はそこへ最短距離で行くための役割に徹した方が、会社としてうまくいくだろうと。
ユーザーのエンゲージメントが高く、熱量あるInstagramというプラットフォームでビジネスをするのは僕も考えていたんです。そのポジションを塚原が先に走っていたので、これなら一緒に取り組んだほうが、やりたいことも成し遂げられるんじゃないかと。そこが、まず合致していたのは大きいです。
──自分が加わることで、より早く目的にたどりつける。COOの必要性といえそうです。
僕がジョインしたのは創業5か月目くらいで、その時には社員1人のアルバイト5名という状態。3か月後には、40人近くの布陣になっていましたからね。
──「最短距離を」という意味でも、特にスタートアップでCOOの重要度は高まりますか。
個人的には、ゼロイチのフェーズでは、むしろ入れない方が良いと思っていて。その段階はプロダクトマーケットフィットが最優先。ユーザーのことだけを考え、CEOがプレーヤーとして最前線に立ち、まずは事業を離陸させる。その段階はビジネスの型が出来ていないので、意思決定する人は少ないほうがいいでしょう。
ゼロイチを超え、ある程度のトランザクションが出てくると、CEOの役割が変わります。新しいビジネスの種を見つけたり、それを仕組み化したりして、未来につながる中長期の意思決定をしていくようにシフトする。そのタイミングで、経営パートナーのようにCOOがジョインするのがいいのでは、と考えます。
COOはCTOやCFOのように業務領域が明確に定められている訳ではない。特に創業初期はCEOの壁打ち相手だったり、戦術の立案・実行だったり、社内の「何でも屋」的なポジションになることが多いので、会社の成長の為自我を捨て、成果にのみコミットする「プロフェッショナル精神」を持った人が向いている。
— 秋山洋晃 / 17kg (@akky0429) June 30, 2019
もっとも、CFOやCTO、あるいはCOOを迎えて始まるスタートアップもありますから、僕の考えが一概に正解ではありません。ただ、バーンレートも上がりますし、ひとりの熱狂者からしかプロダクトやサービスは生まれないと思っているんです。
──COOには向き不向き、あるいは特性はありますか?
CEOとの相性に尽きてしまいます。ふたりの力を足して、きれいな和になるような組み合わせがいいでしょう。
塚原は、僕の意見をちゃんと聞いてくれます。もちろん、僕も塚原の意見を聞く。そのバランスが良いと思うんです。たとえば、CEOとして独裁的に進めたいタイプなら、僕のように意見を言わずに、粛々と執行するCOOと組んだ方が上手くいくかもしれません。
「CEOとCOO」の関係は「ボケとツッコミ」に似ていると思う。CEOのアイディアが会社の競争力の源泉であることは言わずもがなだが、そのアイディアを活かすも殺すもCOOの手腕にかかっている部分は大きい。
— 秋山洋晃 / 17kg (@akky0429) December 8, 2019
自分で解決したい課題が明確に無い場合は、COOというキャリアを目指してみるのも面白いのでは。
──CEOとしても、自分に何が欠けていて、誰と組めれば事業がドライブできるのかを理解していることが重要そうです。
おっしゃる通りですね。COOはある種のバズワードだとも思っていて。経営陣として足りないピースを言語化した上で、COOがハマるのが前提。つまり、COOは向き不向きではなく、CEOと相性が良い人がやるべき、という結論になるわけです。
COOはドリーマーであるCEOのアイディアを形にする仕事なので、自分発信で「この事業をやりたい」と言うべきではない。一方CEOも、業務執行の最高責任者であるCOOの「やり方」に関しては細かく口出ししない方がうまくいく。お互いの権限と責任が明確に分かれている「CEO・COOコンビ」が強い会社を築く。
— 秋山洋晃 / 17kg (@akky0429) June 18, 2019
ただ、強いて言うなら、CEOとはスキルセットが違う方がいいと思います。塚原は同世代の中では抜群に頭が切れるし、マーケティングのセンスも僕にないものを持っている。逆に、僕は前職で開発プロジェクトのPMを担当していたので、オペレーションの策定や大人数を巻き込んだ事業構築に強みがありました。
塚原が大枠のマーケティング戦略やブランドの世界観作りを担い、僕が採用、在庫管理や予算といった「ヒト・モノ・カネ」を見ています。お互いの強みや興味のある領域が違うんです。自分と異なる能力を持った人と一緒に働いた方が、自分も成長できますしね。
【プロフィール】株式会社イチナナキログラム取締役COO|秋山 洋晃
大学在学中に音楽イベントビジネスで起業。2014年3月早稲田大学法学部を卒業。2014年4月グリー株式会社に入社。マーケティング部に在籍後、2014年9月に株式会社Tonight(グリー100%子会社)へ出向し、同社のサービス運営及びM&Aを担当。2018年2月株式会社イチナナキログラム取締役COO就任。
──COOに必要なスキルはありますか?
そもそも、僕は自分にスキルがあるとは全然思っていないんです。むしろ大切なのは、今までの経験をアンラーニングして、その場で学習していけるスキルじゃないでしょうか。これはCOOに限らずですが。
スタートアップなんて、必要な知識も時々で変わってくるわけです。たとえば、Instagramは2年前と比べても、仕様から何から全く違う。2年前のInstagramをいくら熟知していてもダメですよね。
──2年前だと、ちょうどストーリーズ機能が出始めた頃です。
その時々でのスキルや知識を、頑張って修得できる「素直さ」が必要かなと思います。僕も「自分は何もできない」という自己認識のもとに、必要な知識を補うようにしています。常に「今やるべき最善手は?」とゼロベースで考え、その上でやりたいことをやるんです。
──イチナナキログラムは、ワークスタイルも含めて、その「やりたいこと」を叶えている印象です。
まさに、「フルフレックス、フルリモート」や「エンジニアを持たない」といった、以前にキャリアハックさんでお話した内容は特徴的ですね。
関連記事:『17kg(イチナナキログラム)』60人全員が平成生まれ|COO 秋山洋晃が掲げる“持たない経営”
それらも過去に成功例があったわけではなく、自分が見聞きしてきたものをミックスさせ、進み方を作っていきました。スキルとして挙げるならば、スタートアップの経営陣に入る意味でも、常にゼロベースで考えられる素直さがやっぱり必要だと思います。
──スタートアップを含め、COOとして参考にしている人はいますか?
……あまりいないですね。COOという肩書きも、対外的でわかりやすいから名乗っているだけであって、自分は経営者として会社を引っ張っているつもりもあるので。だから、「COOとして」の観点ではなく、経営者として尊敬する人なら、もちろんいます。
たとえば、イチナナキログラムの株主でもあるLayerXの福島良典さんは、投資先が集まるFacebookグループでもよく投稿されていて、僕らとしてもすごく勉強になる。福島さんは戦国時代の武将かのように、すごく先の未来まで見据えたうえで戦略を考え、ロジックを積み立てていると感じます。
目先の売上や利益も大事ですけれど、僕も中長期を見据えて施策を打っていける経営者になりたいです。常に百通りの打ち手を考えておけているかというと、まだまだと感じますから。Instagramに決済機能がつき、購買までInstagramで完了するタイミングが来たら? ユーザーがInstagramを使わなくなった時に、どういう消費行動になるか?
そういった先回りを、もちろん考えていないわけではないです。もっともっと勉強して、確実に来るであろう未来に備えたいですね。
──ますます面白い展開がありそうです。2020年以降のビジョンなど、どのように考えていますか。
コスメを商材の軸として展開していきたいです。圧倒的なリピート商材ですし、LTVも高くなるので、プロモーションをかけてでも売り上げの柱にしたい。これまではローコストオペレーションを重視してきましたが、2020年は逆の動きも見せていくつもりです。
あとは、試着室のように機能する店舗の展開ですね。今はラフォーレ原宿にありますが、2020年の2月末からは名古屋PARCOで2号店をオープンします。商品を手にとってみるまで不安を覚える層が一定いますので、各主要都市での試着の場は大事だと捉えています。
ブランドにどうやって資産を貯めていくかも考えていて。Instagramのフォロワー数も資産だと思いますが、もっと顧客のデータを貯めながら、リピートユーザーの満足度を高めていきたいです。今後の5年や10年につながる資産を積み上げていくための施策を常に考えていますね。
連載『となりのCOO』
最近よくスタートアップでも聞くようになった「COO」というボジション。そもそも何をやる人? どんな人が向いている? 何ができたらいい? COOとしての気苦労って? こういった素朴な疑問を、さまざまなスタートアップのCOOに聞いていく連載企画です。さて、今回突撃したスタートアップは?
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