2020.01.16
未来の社員に「手紙」を書こう。ミラティブに学ぶスタートアップの採用術

未来の社員に「手紙」を書こう。ミラティブに学ぶスタートアップの採用術

いい人材が集まらない、定着しない、時間もお金もない……! 課題が多いスタートアップの採用活動。採用担当者は何をすべき? ミラティブCHRO(最高人事責任者)の鈴木修さんに「実践」に焦点をあて、採用術を聞きました。

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「100」にアプローチできることを

── ミラティブといえば『採用候補者様への手紙』が話題になりました。詳細に書かれた会社説明資料を「手紙」と謳うのもすてきでした。ただ、ああいった資料をつくり、公開したいと思うものの、工数の問題もあって進められないことも多いと思います。

じつは資料を公開する前は、ミラティブも全く同じ状況だったんですよね。当時人事担当者が1人。会社説明資料も、作れたらいいけど、どうしても目の前の面接調整などが優先になり、1~2ヶ月ストップしていた。

で、CEOの赤川がよく言うのですが「複利で効くことを優先してやっていこう」と。「対1の仕事に向き合うことは大事だけど、1回頑張ってやれば、100にアプローチできることもあるから」と人事の廣田メンバーに伝えたんですよね。その言葉に廣田も動かされたようで。優先度を上げて約1ヶ月後に、あの資料が完成しました。

2019年2月に公開された『採用候補者様への手紙』。公開日の応募数は、通常の4倍ほどになった。

この資料ですが、PVでみると21万くらい(2020年1月現在)。それだけ多くの人に会社のことを知ってもらえるって、そうないですよね。そして応募者の量だけでなく「質」、いわゆるセルフスクリーニング機能としても強い

ミラティブは、人を大切にする会社。「手紙」って表現を使うくらいですから、スライドには会社データだけでなく「思い」のボリュームが多いんです。きっと「好き」と思ってくれる人もいるけど「ちょっと違うな」と感じた人も必ずいるはず。資料であらかじめミラティブという会社をオープンにする。手紙を読み、ミラティブに共感していただいた方と面談や面接でお会いしています。

赤川がTwitternoteでの発信を大事にしているのも、トップに立つ自分やミラティブへの「共感性」が採用において非常に重要だと捉えているから。

会社が掲げる「性善説経営」だったりミッションの「わかりあう願いをつなごう」という話は、一緒に働く仲間の理解があってはじめて成立するもの。そういった意味でも、あのような資料や赤川の発信が常に外に出ているのは価値があります。

面接で「思い」を語ってもらう必要はない

── 面接での「見極め」に課題を感じている人事担当者も多いと思います。会社にフィットする人材か、確かめる上で有効な質問はあると思いますか?

職種やポジションによって聞くことは変わるので、一概には言えませんね。そして奇を衒った面接は必要なく王道をやりきるのみ、という前提の上ですが、まず面接で「何を見極めるのか」の認識が社内でそろっていることが大事なのかなと。

僕たちの場合、面接では「仕事と仲間への向き合い方」をまずはしっかり深掘るようにしています。目標達成への責任感があるか、その責任感を実行へ体現できているか。いわゆる個としてのプロフェッショナリズムがあるかどうか。

そしてそれが個として成立しているだけでなく、ミラティブが大切にする「支え合うプロ集団」のキーワードのように、仲間へのリスペクトや献身性、全体の成果としての意識を持ち行動できるかどうか。僕個人としてはそれを、サッカーで一流のストライカーが試合の後のインタビューで言う「自分がゴールを決めたことは自信にはつながりますが、チームとしては勝てなかったので意味がなく悔しい。次の試合に向けてもっと鍛錬します。」という感覚でとらえています。

あとは自身のノウハウやナレッジ、スキルを客観視して言語化できるか。言語化できないことはポータブルスキルになっていないし、再現性が効かないと考えています。実際の成果に至ったプロセスを引き出していく中でそれを判断する。面接自体は、履歴書の内容に沿って進めたり、その中における印象的な成果や失敗をテーマに深ぼるいたってベーシックなものです。

ミラティブは「エモさ」を大事にしている会社ですが、面接にはあまり感情を持ち込みたくないですし、感情面でのアピールに引っ張られないよう注意しています。赤川は「エモさを言い訳にするやつは嫌いだ」とさえ言っていて(笑)。

「頑張ったから、良くないですか?」 とか言われると、「は?」 みたいな感じになるというかw。自分の仕事が、広義のお客様・顧客に対して価値を提供していてその対価として、給料もらったりそれで会社が続いていく構造になっている以上、想いを持っていることは大前提で、そのうえでプロとして責任もって結果を出すのは、僕にとっては当たり前のことなんです。なので、エモい会社だけど、エモさをはき違えてもらっては困るみたいな感覚ですw。(201901ロングインタビュー_赤川より)

もう一つ聞くとしたら「野望」ですね。プロの共通項は「自分の未来に対する明確な意思」を持っていること。ニュアンスの違いになってしまうかもしれませんが、「思い」より強烈な「野望」が責任感や実行力を生み出す、それがプロとしての仕事の仕方につながるのでは、と考えています。

たとえば「コミュニケーションサービスが好きなんです」という「思い」を超えた、「中国勢にすら負けないコミュニケーションプロダクトをつくって世界を獲りたいんです」という「野望」があるかどうか。

ルール化しているわけではないのですが、面接を担当しているCxO陣の評価コメントを見ても、応募者に「野望」を質問していることがかなり多くあります。

ちなみに僕も赤川と初めて会ったとき、「修さんの野望って何ですか?」って聞かれましたよ(笑)。

【プロフィール】ミラティブ CHRO 鈴木修(42) インテリジェンス、サイバーエージェント、グリーにて組織・人材開発や採用などに従事。その後SHIFTでの取締役を経て、2019年10月よりミラティブにジョイン。最高人事責任者としてこれまでミラティブにはなかったHR本部を立ち上げ、採用強化や人事制度構築、組織文化づくりなどを統括している。

面接だけじゃわかりあえないから

──「面接で好印象でも、一緒に働いたらなんか違う」ことはありませんか?

「面接だけ」で会社にマッチするかどうか見極めようとするとそうですよね。だからミラティブでは、面接のあとに、体験入社「わかりあいワーク」の機会を設けています。あくまで入社する意思がある方に限りますが、期間を決めて、その間普通に一緒に働くんです。「わかりあいワーク」を行うかどうかは、会社側から提案することもありますし、候補者の方から提案されることもあります。

僕たちは「面接で相手のすべてを見極めるなんて不可能だ」という前提に立っています。「たった30分~1時間、かつ一部の人間だけの印象で決めてしまうのはもはや傲慢」と、赤川も言っていて。

「わかりあいワーク」ではSlackにも招待し、できうる限り情報をオープンにする。リアルなミラティブのワークスタイルをオープンにする、と言ってもいい。

ミラティブが社外に発信している情報と社内の状況は一致しているか。それだけでなく、日々日々、仕事の中でどんな時にどんな会話が、どんな速さや量で行われているか。どんな言葉やスタンプが使われているか。これらをリアルに体感していただきます。face to face以上にオンラインコミュニケーションが多い今だからこそです。もちろんミラティブではface to faceを重要視していますので、それもしっかりと体験していただいている前提ですよ。

「わかりあいワーク」というお試し期間をつくっていることで、現状「入社後のミスマッチによる退職意向」はほとんどあがって来ていないですね。まだまだ少人数だからということもありますが、僕のこれまでの経験ふまえても、確率としては低い実感があります。

「わかりあいワーク」後に入社に至らなかった、ということもあります。感覚としては1~2割ですかね。応募者の方、僕たち双方が「わかりあう」ための時間なので、辞退の方もいらっしゃれば、お断りさせていただく場合もあって。

── それは、どういった観点で?

やはり中途採用においてポイントとなる「仕事のスタイル」に相違があることが多いですかね。ミラティブはスタートアップ環境なので、たとえば開発においても、要件定義がきれいになされていて、緻密なWBSが引かれていて、役割が明確に分かれていて……みたいな感じではないプロジェクトもあります。

そういった中で、やはり役割やゴールが明確な状況でないと力を発揮できない方もいらっしゃいます。これは良い悪いの話ではなく、単純に「スタイルの違い」です。「やれる」と思っていても、実際やってみたら合わないことは誰にでも絶対ありますから。

いずれにせよ、自分の強みが発揮でき、人生の貴重な時間を捧げるだけの価値がある企業なのか。候補者の方には、「体験」を通してシビアに判断してもらいたいと思っています。

「空気」へのフィット感を無視しない

──「わかり合いワーク」では、社内イベントにも参加してもらうのですか?

もちろんです。ミラティブでは月に1回「プレミアムエモイデー」というイベントを開催していて、それに参加してもらっています。

「プレミアムエモイデー」は、事業戦略や進捗を全社で共有する会。アルバイトや副業メンバー、入社予定のメンバーもみんな集まります。まず最初に、参加している全員が「最近あったエモい話」をするんです。

たとえば、「離れて暮らす兄弟が、実はMirrativのユーザーだった」というミラティブに関連する話もあれば、「何気ない家族の一言に幸せを感じた」というような、仕事やプライベート関係なく話していますね。一緒に働く仲間がどんなことに心を動かされる人なのかを知ることで、相手への理解が深まり、組織内の心理的安全性が高まる効果があるんです。

オフィスでケータリングを頼み、お酒を飲みながら行なわれるプレミアムエモイデー。鈴木さんに印象的なエピソードを伺うと、「久しぶりに親戚に会ったらMirrativを使っていた、みたいな話はエモかったですね。やはりプロダクトカンパニーなので、プロダクトを使っている人を見るって、とても嬉しいなって」と笑顔で教えてくれた。

このエモイデーは、ミラティブらしさを象徴する大切な時間。象徴であるからこそ、「判断基準」にもなる。つまり、エモイデーの雰囲気がまさにミラティブの「空気」であり、ミラティブが大切にする仲間の関係性なんですよね。

もちろん初めての人も入りやすい工夫はしていますが、そもそもこの空気を「なんか違うな」と感じる人もいるでしょう。空気の合わない空間にいることって、結構つらいじゃないですか。そもそも合わないなら、無理する必要なんて全然ないと思うんです。

そこの感覚、エモさとか愛への共感性をすり合わせるためにも、「わかりあいワーク」は大事。定性的な「感情のフィット感」は、双方にとって無視できないポイントだと思います。

経営陣とフェアな関係性を築く

── 最後に、採用活動において人事が大切にすべき「スタンス」を教えてほしいです。

そうですね、「経営陣と人事が常にフェアである」のは大事だなと思います。

人事って経営の直下にくることが多いので、どうしてもトップダウンで指示が降りてきやすい。「今期は○○名採用してほしい」「うちの会社もあの会社のように○○な施策をやりたい」といった決定事項があったときに、現場の人事が、いかに人事としての立場でフラットにフェアに対話できるか。

反射的もしくは従属的に「分かりました!やります!」と、意思も思考も持たずに走り出すのではなく、その目標や施策が効果的なのかどうか、どこまでは現実的に追えそうか、代わりに何かできることはないかなどを伝える。人事としての責任を持って、時には経営陣に要望する。当然ですが、人事もプロとして実行するべきですからね。

もちろん経営陣と現場では見ている景色も違うので、そこは僕のような立場の人間がつないでいくことが大切です。

言うまでもなく、人材採用は経営に大きく影響するテーマです。だからこそ経営陣自らが人材採用に責任を持ち、コミットメントするよう仕掛けるのが人事の役割。結果的に、経営陣のコミットメントが人材採用を加速させます。実際ミラティブの採用は赤川自身のコミットメントも大きいですし、いまリファーラル採用は、CxO陣にメインで動いてもらっています。

一方で、社員に対しては採用に参加したくなる環境を整える。リファーラルで声をかけやすいようイベントを開催したり、トークスクリプトを作ったり。ここは僕たちもまだ課題に感じている部分なので、今後さらに注力していければなと。

HRにとっては、「会社」そのものがプロダクトみたいなものです。会社というプロダクトがスケールすればするほどHRとしての難易度は高くなっていく。だからこそ、僕たち自身がどんどんアップデートし続けていきますよ。


取材 / 文 = 長谷川純菜


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