2009年からLINEの「中の人」として活躍。ソーシャルメディアコミュニケーションのプロ金子智美さんに、気持ち良いSNS運用の心得を聞きました。ユーザーとの関係構築はもちろん、サービス障害もデマも炎上も、何でも火消ししてきた金子さん。大切なのは、「ちゃんと傷つく繊細さ」だった?
全2本立てでお送りいたします。
【1】できること全部やり切った! 金子智美がLINEと歩んだ10年間
【2】サービス障害、デマ、炎上……SNSでどう対応する? LINE 初代「中の人」に学ぶ、SNSとの上手な付き合い方
2009年〜2016年は、Twitterを中心としたユーザーコミュニケーションをメインで担当していました。当時はあまり戦略的にやっていたわけではなかったのですが、振り返ってみると、「対話」は何より大切にしていたかもしれません。一方通行、1回切りではなく、とにかくユーザーさんと何度も対話して理解し合う。
たとえば「ここが使いづらい!」と怒っているユーザーさんがいたとき。必ず「すみません!」と話しかけにいき、「どこかダメだったか教えてください」と聞くようにしていました。
そうやって対話を重ねていくことで、最初怒ってたはずの人が最後には「ありがとう」と言ってくださることもあって。
よく「好き」の反対は「無関心」って言いますよね。不満があるってことは使ってくれてるってことだし、さらにその声を表に出してくださるのって、すごく貴重なことなんじゃないかなって。
見て見ぬふりをしたり、1度謝罪して終わらせたりするのってすごく簡単だと思います。でもリアルなコミュニケーション、友だちや家族に対してそういうことってあんまりしないですよね。
SNSとはいえ、画面の向こうにいるのは「人」。たまたま手段がTwitterだっただけで、普段のコミュニケーションと何も変わらないんだと思います。
【プロフィール】金子 智美(かねこ ともみ)
1985年、東京生まれ。エデルマン・ジャパンにてPRを経験した後、2009年にNAVER Japan(現:LINE)入社。ユーザーコミュニケーション領域の立ち上げメンバーとして、ソーシャルメディアの運営を中心にコミュニケーション全般の戦略・企画を担当。2017年に第1子出産。2020年3月 LINE退社。
もう一つSNSアカウントの運用で意識していたのは、「企業側とユーザー側のちょうど真ん中に立つ」こと。
個を前に出しつつ、企業の人間であることを忘れない。どっちかに偏ると、バランスが崩れちゃうんですよね。
企業としての発信になりすぎれば、ユーザーさんにとって「お決まりの答えしか返ってこない」存在になる。そうなると心が離れていってしまう。
一方でユーザー側に寄りすぎれば、「お友だち」になってしまう。「このサービスだから」「この会社だから」ではなく金子さん個人と仲良くなればいいやと思われてしまっては、自社への貢献にはつながらないかなって。
話している相手によって少し重心を右に寄せるとか、左に寄せるとか。バランスは保ちつつも、決してどちらか一方に足を踏み入れない。そういう立ち位置はずっと気をつけていたように思います。
ソーシャルメディアの担当って「メンタル強くないと務まらないよ」って言う人もいると思うんですけど、私はあまりそうは思わなくて。
誰かの嬉しい声や心無い言葉に一喜一憂できる心は、持っていたほうがいいと思うんです。
私自身、批判の声を見ては毎回毎回ヘコんで、悲しい気持ちになって。きついなぁとは思いつつも、だからこそ「なんで怒ってるんだろう」「どうしてこんな言葉を使ったんだろう」って相手のことを理解しようと思えた。
もちろん一人で抱えきれないこともあったので、そこは社内の仲間に「こんなこと言われてます」って共有して、全員に同じ気持ちになってもらったりもして(笑)。
罵詈雑言が来ても全く気にならない人って、きっとユーザーの心にも寄り添えなくなっちゃってるんじゃないかな。感じやすいって、それだけ心の機微に気づけるってことだから、逆に適任だと思います。メンタルが弱いから向いていないとか、自分はダメだって思う必要はないんじゃないでしょうか。
これは私が仕事をする上で大切にしていたことなんですが、「一つのことにハマりすぎないこと」と「ミーハーであること」は意識していました。つまり、「一般的な普通の感覚や目線で物事を考えられる状態」を保つってことですかね。
何かにハマるってすごく素敵なことだと思うし、私も結構、好きになるとどっぷりのめり込んじゃうタイプで。
でもハマりすぎると周りが見えなくなったり、大事なときに冷静な判断ができなくなってしまう。仕事においてだと、それがサービスに影響したり誰かに迷惑をかけたりすることもあると思うんです。
それに一つのことしか知らないと、発信できる情報も限定されたり偏ったりしてしまいますよね。これは「ミーハーである」ことにもつながるのですが、ジャンル問わずたくさんの情報に触れたり、流行っていることを押さえておいたりすることって、メディアに関わる人間としてはかなり重要だなぁと。
とくに年齢や社歴を重ねると、新しい情報のインプットを怠ってしまいがち。私も全然知らないし興味もないけどとりあえず新大久保に行ってみたり、ランキングに入ってる映画にひと通り目を通したりといったことは意識的にやっていますね。
誰に何を伝えたくてSNSをやるのか。ここは、何度も立ち返っていいポイントだと思いますね。
いまってSNSが当たり前の時代になってきたので、そこまで深く考えずに「じゃぁまずTwitterやろうか」みたいになることも多いと思うんです。
でもそもそも、誰に何を、なぜ伝えたいのか。その手段は本当にTwitterが適切なのか。5W1Hじゃないですが、基本的な部分って意外と設計されていなかったりする。
よく考えてみたらTwitterよりTikTokのほうが合うんじゃないかとか。SNSよりイベントでやったほうがいいんじゃないかとか。そういうことってあると思うんです。
SNSはあくまで手段の一つ。とりあえずで始めてもユーザーさんの何の役にも立たないし、自分も傷つくだけで、結局誰も幸せにならないから。
それに、コミュニケーションツールってどんどん進化していきますよね。私がLINEに入社した当初の2009年頃は、mixiが主要のコミュニケーションツールで、Twitterが少し出はじめたかなくらいだったんです。でも今は、Twitter、Facebook、Instagram、TikTok、YouTube、note……って、本当にたくさんのツールがある。
日々アップデートされていく手段に踊らされないためにも、会社として、サービスとして「誰に何を伝えたいのか」は常に明確にできているといいですよね。
>>>【1】できること全部やり切った! 金子智美がLINEと歩んだ10年間
取材 / 文 = 長谷川純菜
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