「かねとも」の愛称で親しまれるLINE 金子智美さん。広報・PRとして2009年に入社し、NAVER Japan時代から成長を支えてきた功労者だ。2020年、春。彼女は大好きなLINEを卒業する。LINEを愛しつくした金子智美の10年、彼女が見てきた景色とは──。
ついにこれを書く日がきてしまった。
ふぅ、書くか。。。
このたび、10年間在籍したLINE株式会社を退職することにしました。
2020年、3月2日。
こんな書き出しからはじまった一つのnoteが投稿された。
金子智美さん。
PR部門の立ち上げメンバーとして、最前線でLINEのブランディング、ファンづくりを行なってきたキーパーソンだ。
そんな彼女がこの春、LINEを卒業する。
金子さんが入社したのは、2009年。『LINE』アプリがリリースされる2年前のことだ。
会社合併、LINEの急成長、商号変更、東証一部への上場…
無名のITベンチャーは、いつしか日本を代表するIT企業に。
「できること全部やり切ったので、LINEに忘れ物はありません!」
LINEにすべてを注いだ10年間。
すべての瞬間をそばで見守り続けてきた彼女が、見てきた景色とは? ── その物語に迫りたい。
全2本立てでお送りいたします。
【1】できること全部やり切った! 金子智美がLINEと歩んだ10年間
【2】サービス障害、デマ、炎上……SNSでどう対応する? LINE 初代「中の人」に学ぶ、SNSとの上手な付き合い方
【プロフィール】金子 智美(かねこ ともみ)
1985年、東京生まれ。エデルマン・ジャパンにてPRを経験した後、2009年にNAVER Japan(現:LINE)入社。ユーザーコミュニケーション領域の立ち上げメンバーとして、ソーシャルメディアの運営を中心にコミュニケーション全般の戦略・企画を担当。2017年に第1子出産。2020年3月 LINE退社。
── 2009年にLINEの前身である「NAVER Japan」に入社されたんですよね。10年前のLINE…あまり想像がつきません。
そうですよね。2009年はネイバージャパンという社名で、社員数でいうとだいたい100名くらい。サービスとしては、『LINE』はまだ生まれていなくて、『NAVER』(ネイバー)という検索サービスを新規リリースするタイミングでした。
── 検索サービスだったんですか!? GoogleやYahoo!も当時はありましたよね?
そうですね。当時からすでにGoogleとYahoo!の二大巨頭はいました。当然、真っ向勝負じゃ絶対に太刀打ちできない。
なので差別化のポイントとして「ユーザーと距離の近い検索、探し合う検索」を掲げていて。とくにソーシャルメディアを使ってユーザーとコミュニケーションをとり、“親近感のある存在”としてサービスのファンを増やしていこう、とSNS運用にチカラをいれていました。
そのPR部門立ち上げのタイミングで、私も参画することになったんです。少し内輪っぽいお話になってしまうのですが、舛田淳さん(現取締役CSMO)と矢嶋聡さん(現メルカリ)が立ち上げの責任者で。
ご本人たちに聞いたので間違っていないと思うのですが、「そもそもユーザーと直接向き合ってブランドの世界観を作っていくのが、僕たちおじさんで大丈夫か…?」という懸念があったらしくて(笑)。
もともと矢嶋さんは前職時代の先輩で私に声をかけていただいたんです。年齢的にも、キャラ的にも、合っていたんだと思います。「金子しかいない」と。もしかしたらちょうどよかっただけかもしれませんが(笑)。
正直…私自身『NAVER』なんて聞いたことなかったんですよ(笑)でも、おもしろい経験ができそうだったので、2つ返事で「行きます!」とOKしました。
── そこでは何を担当されのでしょうか?
2009年~2016年くらいまでは、Twitterを中心としたユーザーコミュニケーションをメインで担当していました。この役割はLINEのリリース前も後も変わらずやり続けました。
会社としては2009年に『NAVER』の一機能として『NAVERまとめ』がリリースされ、2011年には『LINE』がリリースされ、爆発的にユーザー数を伸ばしていったんですよね。社名も2013年にLINE株式会社に変わりました。
noteでも書いたのですが、この頃になると「四六時中」Twitterをチェックしていました。
とくに私がやっていたのが『NAVER』とか『LINE』でエゴサーチして、すべての投稿に絡んでいく、ということ。目的としてはアクティブサポートだったのですが、困っている人や感謝してくれている人はもちろん、怒っている人にも全て接するようにする。
私たちがずっと大切にしてきたのが、ユーザーさんの声。もうぜんぶ拾っていこうって。私がいち早くその声をキャッチアップできれば、エンジニアにも、企画にも、渡していける。サービスはどんどん前に進んでいく。1秒でもはやく、1つも漏れなく届けなきゃって。ある種の強迫観念みたいなものだったのかもしれません(笑)。
Twitter運用で忘れられない思い出 ベスト3
・真夜中のリプ事件
気になるツイートを見つけてしまって、つい夜遅くにTwitterでユーザーさんにリプライしちゃったんですよね。さすがに「見てもいいけど、夜中に返しちゃダメ!」と矢嶋さんに怒られちゃいました。
・困っている人に勝手に記事プッシュ事件
ユーザーさんと仲良くなるために、『NAVERまとめ』の記事を届けるということもよくやっていました。「探し切れない」や「見つからない」などの単語で検索して「突然失礼します。NAVERまとめに『都内でカフェラテが美味しい喫茶店10選』という記事がありますよ!」と記事シェアしていく。これはすごく喜ばれました(私がそう思っているだけ?)
・1000件以上のまとめ記事作成。伝説のキャンペーン
Twitter上でユーザーさんから希望を募り、まとめ記事をつくるキャンペーンを行なったこともありました。社内では“伝説のキャンペーン”として語り継がれています。1週間の短期キャンペーンだったのですが、約1500件依頼が来て。(NAVERまとめ編集長の)桜川さんたち編集チームのみなさんに、人力で1000件以上のまとめ記事をつくってもらいました。最初の2日間くらい、ひたすらTwitterの対応をしていて。「これは一人じゃ大変だからシフトを組んでくれ」と舛田さんに指摘された記憶があります。なんか私、やりすぎて怒られること多いですね(笑)。
※いずれも2009年~2011年での出来事です。
── SNSが全盛期を迎える前から企業アカウントの「中の人」として活躍されていたんですね。
「LINEの中の人」として認知してもらえることも多くなって、うれしかったですね。ただ、SNS運用はあくまでやっていることの一つだったんです。
たとえば、アプリストアでダウンロードする時の説明文だったり、CSチームが送るメールの文言だったり。これら一つひとつに目を通して表現を見直すこともありました。
「これだと冷たい印象があるから、語尾をこうした方が親切かもしれないです」と担当者の方にお伝えして。
なんだろう、エゴかもしれませんが、常に「社内でユーザーに一番近い存在」でいたかったんだと思います。
自分の中でとくに思い出深いのが、直接ユーザーさんに会える「オフ会」の開催。月に1~2回は開催していて。「お土産に」ってガタガタのアイシングクッキーを作って渡したりとかしていましたね(笑)
告知から参加者への連絡、準備、当日の司会まで全部やっていました。正直、体力的にはこれが一番大変だったかもしれない。ただ、めちゃくちゃ楽しかったですね。ここで体感したことが、いまの私のベースになっていると思います。
ユーザーさんに会うたびに、ものすごいパワーをもらえるんです。「あ、この人達のために頑張ろう」って。だから気持ち的には全然辛さは感じなかったですね。
じつは私、基本的にはものすごくネガティブなんです。いわゆる自己肯定感が低いタイプで。企画や、開発の人たちに対する劣等感がずっとあった。私は何もつくれない。だからせめて、素晴らしいサービスとそれを求めている人たちをつなげさせてください。200%でやります、って。何でも良いから、とにかく誰かの役に立ちたかったんだと思います。
── 最後に、いまの金子さんが感じている率直な気持ちを教えてください。
LINEを卒業することに、後悔はまったくありません。もちろん、寂しい気持ちはありますけどね。いまは「やり切ったぞ!」って胸を張って言えるんです。
2年前くらいからかな?チームメンバー一人ひとりがかなり強くなっていて。安心して任せられる仲間もいるし、組織としても整ってきた。「もう自分がいなくても大丈夫だ」って、純粋に思えるようになりました。
そんなときに、ちょうど情熱を注ぎたい先、大好きなLINEを去ってでも入りたい会社に出会うことができたんです。
やっぱり私は、ユーザーさんとの1to1コミュニケーション、そこにある“人間らしさ”が大好きなんだと思います。これからもずっと、ユーザーさんに一番近い存在として走り続けていきたい。
正直、若手のみんなが日々チャレンジしているのを見て、「私もまた頑張りたい!」って気持ちがムクムク芽生えてきちゃったんですよね(笑)。
── 金子さんにとって、「LINEが私に教えてくれたこと」とは?
人と人とのコミュニケーション、対話って、本当に尊いものだと思っていて。それを教えてくれたのがLINEでしたね。
ユーザーさんとの対話を通して新しい機能やキャンペーンが生まれたり、上司や仲間との対話を通して自分の考えに気づけたり。この10年間、一人でじっと考えて何かが生まれたことなんて、逆に一つもないと思う。
LINEのアプリだと、毎日毎秒「対話」が世界中で発生している。そんなアプリに携われたことは本当に幸せだった。
よく上司から、「お前はリアクションに生かされてるな」と言われることがあるんです(笑)一人で殻に閉じこもっているときは何も生み出せない。でも身近な人やユーザーさんから反応をもらうことで、何倍、何十倍の力を出せる。
LINEは、私を人間くさくしてくれた場所なんだと思います。
>>>【2】サービス障害、デマ、炎上……SNSでどう対応する? LINE 初代「中の人」に学ぶ、SNSとの上手な付き合い方
取材 / 文 = 長谷川純菜
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