LINEのディレクター 伊井壮太郎 氏は、プラットフォームの企画と開発ディレクションについて語った。プラットフォームの企画には「想像力」が重要だという。LINEのプラットフォーム事業はいかにして企画・開発されているのか?
※2017年3月に開催された「DIRECTORs' SCRAMBLE vol.1」よりレポート記事をお届けします。
法人向けサービスを企画開発するチームに所属する伊井氏はこれまで、『LINE TAXI』や『LINE Beacon』など、数々のサービスを担当してきた。こうしたプロジェクトを通じて「プラットフォーム事業の企画にはイマジネーションが大切」と気づいたそうだ。
なぜイマジネーションが大切なのだろうか。
「プラットフォームはいろんな企業やユーザーがそれぞれのサービスを展開できるようにしないといけません。そういった汎用的なものをつくるにあたって、想定される具体的なユースケースや今後の事業展開など、あらゆる可能性を事前に想定・想像して、それをもとに企画に落とし込むことが大切だと思います」
実際に伊井氏は『LINE Beacon』の企画する際に、プラットフォームの汎用性を意識しながら進めていったそうだ。
「Beaconにもいろんなタイプがあってボタンを押した時にBluetoothが起動する「ボタン型」や常時Bluetoothを発信する「常時配信型」など、様々なタイプがあります。私が最初にアライアンスを組んだパートナー様との仕事では、初期の開発スコープに入っていたのは、あくまでもボタン型のBeacon対応だけでした。
ただ、ボタン型だけの対応をしてもプラットフォームとしての汎用性はなかなか発揮することができないので、常時配信型Beaconの対応を進めていくことが必要だと考えていました」
結果、企業の導入窓口が広がり、社内でもオープン化の機運が高まり、2016年7月半ばには『LINE Beacon』のオープン化が決定。同年9月にリリースされた。
直前の土壇場にオープン化が決まったにも関わらず比較的スムーズに対応できたのは、想像力を働かせていたからだ。個人が使える商用アカウントの『LINE@』でも『LINE Beacon』が対応できるようにパケットに自由度を持たせるなどの工夫や準備をしていた。
「パケットという、Bluetoothの電波の中にどういった情報を積み込むかというものがあります。例えば、端末の識別シートだったりだとか、パスワードとか。そのパケットの中で7バイト空いてる領域がありました。
これをどう有効活用させようかっていうところはけっこう社内でも議論したんです。ビーコン端末の電池残量をここに表示させるとか、あるいは湿度とか温度とか。ただ、今後おそらく開発者に一般にオープン化する可能性も見込んで、入れるモノを何も定義せずに、自由に設定できるような仕様にすることに決めたんです」
さまざまなユーザーが想定されるプラットフォーム事業はリスクヘッジの観点も重要である。続いて、『LINE Beacon』が不正利用されることを防ぐための設計について語った。
「『LINE Beacon』はそれ自体もプラットフォームですが、あくまでLINEという巨大なプラットフォーム上にあるサービスです。なので『LINE Beacon』の不正利用によってLINEのユーザビリティやUXが阻害されることだけは絶対に避けなければならないと強く思っていました。
一番気をつけなければいけなかったのは、悪意あるハッカーによるリプレイアタックです。Bluetoothをコピーされてしまうと、意図した場所とは異なる場所で情報が配信される可能性がある。例えば、小売店の店舗内でコピーしたBeaconを電車の車両内で行使すると、小売店の情報が電車に乗っているユーザーにガンガン配信されるみたいなことが起こり得る。
それはまずいので、例えばパケットの中にワンタイム性のあるパスワードを仕込むことで、コピーしてもリプレイアタックは原理的にできないように対策を講じました」
しかしそれだけでは対策として不十分だと考えたという。本体が盗まれる可能性もゼロではない。
「もし仮に小売店に置いてある『LINE Beacon』の本体が誰かに盗まれて、スクランブル交差点の真ん中で、電源がオンになったらどうなるかというと、交差点を歩いているユーザーにメッセージがどんどん配信されて、サイバーテロみたいなことが起こり得るわけです。そのようなことが起きないように、『LINE Beacon』の受信条件を強める対策をとりました」
規模の大きなプラットフォームサービスを企画する際は、事業展開やユーザーニーズ、不正利用など、様々な観点からサービスの要件を想像した上で、様々な可能性を考慮して企画を考えることが重要と言えるだろう。
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