「転職サイト」満足度ランキングで3年連続第1位*、『エン転職』のPM組織はいかに運営されているのか 。PM責任者である岡田康豊氏のProduct Manager Conference 2020 登壇内容を全文書き起こしでお届けします。(*オリコン顧客満足度調査2018年~2020年)
※2020年10月27日に開催された【Product Manager Conference 2020】よりレポート記事をお届けします。
目次
・テクニカルスキルの寿命は短い
・PMに求められる「人間力」とは何か
・PMは、具体と抽象を行き来する旅人である。
・答えよりも「問い」を重視する
・feedback loopを回し続けられているか
・プロダクトを世に広めていくことの使命感を
本日は『エン転職』をはじめ、エン・ジャパンのPM組織についてお話します。
まず、数年前まで、「PMのテクニカルスキルを思うように伸ばしていくことができていない」という組織的な課題がありました。そこでPM向けのスキルチャートとして『HEX』を定義し、組織的に「PM自らが率先して自己研鑽していく」を促進することで、良い変化が現れてきました。
個々のスキル、プロジェクトマネジメント能力も高まり、目に見えて退職者も減らすことができて。内製化も進み、外部とのパートナーも増やすことができています。
ということで、私たちの組織はめでたしめでたし…今日の話はおしまい
…と、単純にはいきませんでした。
いま、新たな壁にぶつかっています。本日はこの話がメインです。
これは、みなさんも認識していることだと思うんですけど、「テクニカルスキルの寿命は短く、進化が早い」ということです。
テクニカルスキルの習得は、私たちの組織が示してきたようにPMにとって大事ですが、それだけで全てがうまくいくわけではないです。
認識しなければいけないのが、PMにとってはテクニカルスキルは必要です…が、それだけでは不十分、ということです。
実際にテクニカルスキルを有しているメンバーからも多くの壁にぶつかる声を聞いています。
・エンジニア陣が開発の進め方に不満をもっていてうまく進めない
・ビジョン・ミッションをうまく整理できない
・メンバーとの意思疎通がうまくとれない
ある種、テクニカルスキルだけでは解決できない悩みが浮き彫りになることが多くなってきました。
岡田康豊氏/ゲーム会社、Web制作会社など、4社にてデザイナー、ディレクターの経験を積み、2012年にエン・ジャパンに中途入社。プロダクトマネージャーとして数々のサイト運用と立ち上げを経験する。現在は『エン転職』のサイト責任者を務めながら、エン・ジャパンの全てのプロダクトの運用を手がける「プロダクト企画開発部」の部長としてマネジメントも携わる。
私は、ここにPMに求められる「本質的な力」があると強く認識しています。
世間では「人間力」が必要といった言葉で語られることがありますが、この「人間力」という言葉、くせ者だと思っていて。正直、よくわからないですよね。
まずは「人間力」とは何か、明らかにしていく必要があると思っています。そして大事なのが、その「人間力」という抽象的なスキルが鍛えられる場が、その組織にあるか。ここがとても重要になってきます。
そして、PMが成長できる組織には「3つの視点」が重要だと考えるに至りました。
逆にいうと、この3つが備わっていると、PMの成長を、組織が後押しできる。一つひとつ見ていきたいと思います。
ひとつめは「抽象スキルの共通認識を持つ」こと。
抽象スキルの共通言語が明示され、組織・チームで共通認識を持てているか。いわゆる「人間力」の言語化ができているかどうかです。
僕らPMは「具体と抽象を行き来する旅人である」だと、僕は捉えています。
具体的なテクニカルスキルを持った上で、抽象的に物事を捉え、他者とコミュニケーションをする能力。プロジェクトを進め、プロダクトをグロースさせるために、この能力がとても重要です。
では、この「具体と抽象」とはなにか。キャリアマネジメント論で出てくる有名な「Katz Model(カッツ・モデル)」を用いて説明します。
ロバート・カッツがつくったモデルは、自分の職位や役割が上がれば上がるほど、テクニカルスキルより、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルが重要である、ということを表現しています。ある意味、キャリアの指針を示したモデルです。
改めて、このモデルを分解してみると、青い部分のテクニカルスキルは、PMでいうと先ほどの『HEX』でカバーができます。
ピンクの部分は、いわゆる「人間力」と呼ばれる抽象化の能力です。
PMとして、ある時は「ボタンの色」や「デザイン」を決めたり、機能の要件定義をしたり、開発における具体的な話をしなければなりません。一方で、プロダクトのビジョンを示したり、チームを牽引したり、抽象化されたレイヤーの能力が求められます。
つまり、僕らPMは「具体の世界」だけでなく、「抽象の世界」で、物事や事象に関連性を見出し、他者と協力し、プロダクトの方向性を示していく必要もあるのです。
正直言って、この部分は独学で学ぶことが非常にむずかしいと考えています。だからこそ、チームや組織で共通の見解を持ち、双方に指摘しあい、高め合う必要があると考えています。
僕らはそれをどう解決しようとしているか、具体例をお伝えします。
エン・ジャパンでは、ヒューマンスキルとコンセプチュアルスキルのアクションのガイドラインを定義しています。要は、抽象スキルを「考え方」と「能力」の二次元に分け、それぞれに必要な社員、ここではPMとしてのあるべき行動・アクションを定義しています。「考え方」で7つ、「能力」で20、アクションガイドラインがあります。
たとえば、「自己変革性」というアクションガイドラインはこのように定義されています。
“自己の現状に満足せず、学習や研鑽に努め、自分自身の改善、革新に挑戦している”
といったように、言葉で定義されています。この定義に沿いつつ、上司やメンバーは、社員相互に自分自身が示された指針に沿ってアクションできているか。もしくは、できていないのか、指摘しあえる関係性が組織に出来ています。
組織全体でここまで定義ができればいいのですが、いきなりはなかなか難しい。そこで、おすすめの方法があります。
それは開発チーム単位で、チームクレドをつくる、ということです。これは録画面接サービス『Video Interview』という録画面談サービスにおけるプロダクトチームが自分たちで考えてつくったクレドです。
開発チーム内で、クレドに沿ったアクションが取れているか、確認しあえるチームになっています。
このようなチームクレドは開発を進める上で、非常に有効だと思います。
ここまで見てきたように「抽象化能力」に対して共通見解をチームで持つことは、PMを育てることにつながります。大事なのは共通見解を持った上で、相互干渉を積極的に行う、ということです。
ふたつ目は、「答えより問いを重視する」という個人と組織の姿勢です。僕らチームでは「問いの組織」と表現しています。
みなさんの中でも、こういった経験はないでしょうか?
「プロダクトの方針、開発案件の優先順位、企画の妥当性...そういったものを上司の頭の中を覗きに行ったり、「答え」を聞きに行ったりしてしまう」
僕らの仕事は、組織や上司に「答え」を聞いても、正解が出るような簡単な仕事ではありません。僕らは常に自分のプロダクトが相対しているマーケットに対し、「問い」を投げかけ続けなくてはいけません。
向き合うべきはマーケットであり、上司ではない。具体的にいうと、上司に「答え」を求めるのではなく、「達成したい事象」に対し、どれだけ確度の高い問いを多く自分自身に投げかけられるか。これがとても重要です。
たとえば、
ユーザー数を増やすにはどうしたらいいか?
という質問に対しても、多くの「問い」をつくることができるはずです。
僕らのやっている仕事は、自分の上司でさえ答えがわからない仕事です。
上司は一緒に考え、ともに道を歩む、ある意味「仲間」。ともに探究する相談相手として接するのが「プロダクトファースト」だと僕は考えます。上司は上司で、それに答えられるだけの知見を身に着ける必要もあります。
最後に、組織としてフィードバックのループを回し続けられているか、です。要はどれだけの回数、自分自身が他者の評価に晒されているか。PMの成長スピードはその回数に比例すると考えています。
大事なのは、「質より量」です。量は質に転化します。生産性や効率化はもちろん大切です。ですが、クオンティティ=量をひたすら追い求める姿勢も重要だと捉えています。
具体的に、エン・ジャパンでは毎日個人がデイリーレポートを書きます。自分自身のその日の気付き、上司から指摘されたことなど、いろんなことを表現するのですが、上司もレポートを見るので、毎日アウトプットすることを求められます。
また、週に1回、水曜日にいわゆる「朝会」をやってます。ただ、朝会と言ってしまうとおもしろくないので、『www(What a Wonderful Wednesday)』という名称にし、前向きになるようにしています。
毎回、誰かしらが15分間でピッチを行います。自分の成果を発表し、他者に一般化していく。内容は、自分のプロジェクトの発表だったり、成果だったり。自分自身が他者にさらされる機会をつくり、それに対してフィードバックされる環境を整える。そして承認・称賛につながる、そして自分の成長につながると考えています。
さらに、僕らがPMが働く上で、もっと大事なことがあると思っています。それは「仕事価値観」です。
どれほどテクニカルスキルが高く、どんなに成長ができる組織だとしても、目指す方向性が間違っていたら、マーケットから共感されません。そのプロダクトがNo.1になることはないと思っています。
組織や個人が正しくマーケットから共感される「仕事価値観」を持っているか。結局はそこが一番大事になってきます。
要は、自分はなんのために働くのか。誰のどういう課題を解決するのか。この個々人の価値観が、結局のところ、自分のプロダクトに反映されていきます。
具体的にいうと、たとえば、「コーリング」は英語で、天職といった意味合いなのですが、僕らは「インナーコーリング」という仕事価値観を持っており、「世のため人のために働くことで、自分自身を豊かにする」という考え方です。
人材業界という性質上、求職者、募集する企業のために頭を使い、他者のために働く、というのが当たり前にもなっています。天職というか、ある種の使命感で働く、といっても過言ではないはずです。
これは、みなさんにもきっとあるはずです。自分のプロダクトを世に広めていくことの使命感を考えていただくといんじゃないかなと思います。
私自身、HR業界で働くことの使命感を強く持っていますし、僕らが求人を社会に提供することで日本の雇用を守り、人と社会の成長を支える、作りだしている。ある種の社会インフラだと自負しています。なので、プロダクトを通じ、社会を変革できるPMこそ、日本を良くできる人たちの集まりだと思っています。
個々人のPMが活躍し、その組織をつくることは、日本を良くすることと同義。ひとりのPMである私としても、そんな仕事が続けていければと思います。
講演のスライドはこちら↓
参考資料
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『これからのVUCA時代を生き抜くための「仕事価値観」と「どこでも通用する力」―I&WとCSA―』
https://corp.en-japan.com/success/24155.html
取材 / 文 = 白石勝也
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