メルカリで働く若手PM、岡田貴琳(おかだきりん)さんを取材! 新卒入社3年目「今まさに奮闘中」と語る彼女。エンジニアとの衝突、リリースの失敗...苦い経験も体験しながら、彼女が学んだ「PMとして大切なこと」とは!?
ー PMとしての仕事を任される中で、とくに学びが多かったプロジェクトはありますか?
PMとして最初に担当したプロジェクトは、『宅配便ロッカーPUDOステーション』という宅配便ロッカーを活用して発送する新しい機能のリリースでした。
ミッションは運送業者さまの再配達率を下げることと、出品者さまの発送のUXを向上させること。機能の仕様を考えるところから、開発、リリース、その後の効果検証までを担当しました。
とくに悩んだのは、「MVP」*の定義です。最低限のUXを備えた機能を最速でリリースすることとは何なのか、よくわかっていなかったんです。
*MVP...実用最小限の製品:Minimum Viable Product.。低コスト・短期間で最小限のものを作り上げ、早いタイミングで顧客ニーズを検証するアプローチ。
「機能が充実している状態=お客様にとっていいこと」だと、思い込んでいました。なので最初の仕様書は、機能を盛り込みすぎてしまって...。上司とエンジニアに見せたら「最初からこの機能は必要ないのでは?」とフィードバックを受けて、がっつり機能を削ることになりました。
ー なるほど、自分としてお客さまにベストなUXを提供するのに必要と思う機能と、上司やエンジニアが思うそれにギャップがあったと。
そうなんですよね。当時、私自身は宅配ロッカーの空き状況がわかる機能は入れたほうがいいと考えていたんです。お客様が商品を発送しようと思って、ロッカーにせっかくいったのに満杯で使えなかったら最悪な体験になってしまうと。
でも、上司には「今のフェーズでその機能は必要ない」とフィードバックを受けて、最終的にその機能は削ってリリースすることになりました。
反響もありベストな形でリリースできたのですが、自分としてはなかなか腹落ちできていないところもありました。なんで重要な機能なのにいらないんだろう?って。
よく考えればわかることなんですけど、最初からいきなりロッカーが満杯なるケースがなかったんですよね。リリースしてみて、「最低限のUXを備えた一番最初の機能としては必要なかったな」と納得できました。
その後、利用者が増えた後に宅配便ロッカーPUDOの満空情報をリリースして、今では満空情報を確認できる機能もお客さまにご利用頂いています。
MVPは、ビジネス要件を満たし、かつ、お客様の課題を満たせる最低限の機能に絞る。このプロジェクトで学んだ大きな収穫でした。
ー そのあとは「あとよろメルカリ便」のPMも担当されたと伺いました。
そうですね、入社2年目に担当した機能で、「あとよろメルカリ便」は、出品者さまの商品が売れる前の保管と、売れた後の梱包・発送代行を変わりに行うサービスです。
PMとしてコンセプトのニーズ検証から開発要件の策定、そしてリリースまで、一貫してはじめて携わったプロジェクト。入社当初から、メルカリ内の新規サービスの立ち上げに関わりたいと思っていたので、チャレンジできる環境に恵まれ、意気揚々としていました。
しかし、実はこのプロジェクトで、自分のなかで大きな挫折があって....。
コンセプトのニーズ調査までは順調に進んでいたのですが、開発フェーズに入った途端に、エンジニアとの連携がうまく取れなくなってしまい...非常に苦労しました。
ある日、開発チームのエンジニアが私のデスクにきて、強いフィードバックを受けたことがあって。
「この仕様書はどういうことなの?」
「なぜこの機能がこの順番で必要なの?」
「PMとしてどういうつもりなの?」
次々に聞かれる質問に、全く答えることができなくて...PMとして強い危機感を抱きました。
エンジニアの言葉を自分のなかで反芻していくなかで、「PMとしての意志」が自分にすっぽり抜けてしまっていたことに気づきました。
「なぜ」「いま」「なに」を開発しなくてはいけないのか、まったく考えられていなかったんです。目の前の機能の仕様作成に追われて、上司がこういっていたからと、「誰かが言っていたこと」を鵜呑みにしていた。意志のない「雇われPM」に陥っていました。
また、短期的な直近の機能の開発に追われ長期的なゴールを見据えて開発することができていませんでした。
なので、エンジニアをはじめ、ステークホルダーに対するコミュニケーションもPMとして不十分で。「この日までに開発をお願いします」みたいな、いつも締切を起点にしたコミュニケーションに。
また、開発のこともよくわかっていなくて、エンジニアからの信頼は微塵もなかったと思います。
ー 指摘があってから、なにか変化はありましたか?
まずひとつは、意思決定に対する考え方が、大きく変わりました。
いままでは、「●●さんが〜言っているから」という理由で決めたり、自分の頭で考えず他の人の言っていることを伝書鳩のように共有していて意思決定できている“つもり”になっていたんです。なので、「なんでこの機能がなぜ今必要なのか」と聞かれても、答えに詰まってしまう...。
それから心がけるようになったのは、自分の意志を持つこと。
たとえば、上司に相談するときに、「A案とB案があります」と提示するだけでなく、理由を添えて「私はA案がいいと思います」と意見を言えるようにする。
機能のUI上に表示する文言ひとつとっても、なにがいいのか、なぜいいのか。納得いくまで調べて、考え抜くことを怠らないようにする。
ひとつずつの意思決定を自分ごととして捉えるマインドに切り替えました。
あと、もうとにかくたくさんインプットしよう、知識をつけようと勉強することにしました。
私を叱ってくれたエンジニアから、「この本を読むといいよ」とたくさん本を教えてくださったんです。自分には圧倒的にインプットが足りないのだと、そのときハッと気付かされました。
おすすめしてもらった本は、すぐにポチって全部読みました。そこから手当たり次第に本は買って読むのを癖にしました。
あと、「もっと開発知識をつけたほうがいい」とエンジニアからフィードバックをもらっていたので、社内のエンジニア向けの勉強会(Gopher道場)に参加して、地道に勉強を続けていました。
ー 経験値のないPMでも「意思決定」を求められる場面がたくさんあると思います。大切にされているポイントがあれば教えて下さい。
私が偉そうにいうのもとてもおこがましいのですが、とにかく「わからないことは聞く」これに尽きると思います。
たとえば開発のことで分からないことが出てきたときに、「自分には理解できない。エンジニアさんに任せよう」と一線を引いてしまうことってあると思うんです。私も実際にそうだったんですが、そうすると、PMが意思決定できなくなってしまうんです。自分が意思決定できるところまで聞くことは、難しいことですが、いまも心がけています。
ー まずはエンジニアやデザイナーとの「共通言語」を持つの大切になりそうですね。
そうですね。PMは、デザイナーやエンジニアとコミュニケーションを取ることが多いので、まずデザインとエンジニアリングについての基本から勉強をしました。
開発知識が全くない場合は、Webの仕組みから最初に学んだほうがいいと思います。『Webを支える技術』という本は基本がまとまっているのでおすすめです。
メルカリ岡田さんがPM一年目に読んでよかった本リスト
INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント
《おすすめポイント》個人的に、プロダクトマネジメントのバイブル的書籍だと思っています。「何を」「なぜ」「どのように」つくるのか。プロダクトマネージャーとしてのマインドセットをインプットすることができるオススメの一冊です。
Webを支える技術 -HTTP、URI、HTML、そしてREST (WEB+DB PRESS plus)
《おすすめポイント》より専門的な機能仕様策定のために必要な1冊。エンジニアとのやり取りにおいて、最低限知らないと会話が成り立たない程度の知識の習得ができます。
※これを読む前に、「この一冊で全部わかるWeb技術の基本」「この一冊で全部わかるサーバーの基本」を一読すると内容が理解しやすいです。
《おすすめポイント》UX(ユーザーエクスペリエンス)の理論とプロセス、デザインのための手法が解説してある本でオススメです。中身の濃い本なので、全てインプットできている自信がないのですが、インタビュー手法などに迷ったときに辞書のように参考にしています。
ー 最後に、PMにこれからなる人や、1年目の方に向けてのメッセージをお願いします
私は、PMは、ビジネス目標を達成できてかつ、お客さまの問題を解決できるプロダクト(価値交換システム)を最速で提供する仕事だと思っています。
1年目で宅配便ロッカーPUDOからの発送を担当していた当時の自分には、そのためにできることを、コンセプト策定から開発仕様・デザインの一言一句まで落ち着いて自分の頭で考えて、一つづつ決めることを意識すると良いよ、と伝えたいなと思います。
取材 / 文 = 野村愛
4月から新社会人となるみなさんに、仕事にとって大切なこと、役立つ体験談などをお届けします。どんなに活躍している人もはじめはみんな新人。新たなスタートラインに立つ時、壁にぶつかったとき、ぜひこれらの記事を参考にしてみてください!
経営者たちの「現在に至るまでの困難=ハードシングス」をテーマにした連載特集。HARD THINGS STORY(リーダーたちの迷いと決断)と題し、経営者たちが経験したさまざまな壁、困難、そして試練に迫ります。
Notionナシでは生きられない!そんなNotionを愛する人々、チームのケースをお届け。