2021.06.21
「マクドナルド公式アプリ」躍進の立役者 飯沼亜紀のPM1年目

「マクドナルド公式アプリ」躍進の立役者 飯沼亜紀のPM1年目

日本マクドナルドにもPMがいるのをご存じだろうか?「マクドナルド公式アプリ」のプロダクトマネジメントを担っている飯沼亜紀さん。昨年、スマホで注文と決済ができる「モバイルオーダー」をリリースし、コロナ禍でも大きく売り上げに貢献。そんな彼女の活躍を支える「駆け出しPM時代」に迫った。

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+++『マクドナルド公式アプリ』内の機能「モバイルオーダー」。スマホで事前注文とキャッシュレス決済が可能。店頭で注文の列に並ばずに、商品を受け取ることができる。2020年1月から全国展開がスタートしている。

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▼目次
・エンジニアを確保できない...!メンバー集めに苦労した3カ月間
・リリースを急いだ結果、エンジニアの言いなりに...
・転職先でぶちあたった「ビルドトラップ」
・海外の現地スタッフから気づかされた「お客様が本当に求めていること」

エンジニアを確保できない...!チームづくりに苦労した3カ月間

ー 最初に、飯沼さんが「PMになる前」のお話から伺ってもよいですか?

まず、簡単に私のキャリアサマリをお話しますね。日本マクドナルドで働く前に、2社経験しています。

1社目はゲーム機やカメラなどのハードウェア、音楽・映画などエンターテイメント領域で知られる大手メーカーのグループ会社に入社しました。ソフトウェアの企画・開発に特化した新会社で、最初は経営企画、途中からPMに転向しています。その後、PMとして2年ほど勤めて、次の会社に転職しました。

2社目はグローバルにも展開している国内大手のアパレルメーカーに入社し、公式アプリの開発に携わりました。

ー まず1社目でのご経験から伺いたいのですが、経営企画からなぜ「PMを任される」ようになったんですか?

経営企画では新規事業の立ち上げに携わっていて、自社開発のアプリに注力しているタイミングでした。新しい商品の企画案を出したところ、「自分で推進して、まず試作品をつくるなら」という条件付きで承認されて。そこからPM的な役割を担うようになりました。

ー 実際にPMになってみて、どんな壁にぶつかりましたか?

いま振り返るとホントお恥ずかしい話なんですけど、プロダクトをつくる以前に「チームをつくる」ことにとても苦労しました...。

エンジニアもたくさんいる会社でしたし、声を掛ければすぐにチームはつくれるだろう!と高をくくってたんですけど、なかなかOKが貰えなかったんです。

プロジェクトの真っ只中でキャパ的に難しかったり、本人がやりたいと思っても上司の許可が下りなかったり。こんなにもリソースを確保するのが難しいのか...と思い悩んでいました。

最終的には同期のエンジニアが参加してくれることになったんですけど、仲間集めだけですでに2~3ヶ月も経ってしまっていました。

リリースを急いだ結果、エンジニアの言いなりに...

ー プロダクト開発がスタートして、リリースするまでにはどんな壁がありましたか?

本当にいろいろな壁がありましたね...。フォトビューアーアプリといってスマホで撮影した画像を、保存・管理できるアプリをつくっていて。当時は、スマートフォンが売れ始めたタイミングで類似のアプリも少なく、社内でも初めての取り組みだったので、すべてが手探りの開発でした。

一番の反省点は「開発チームの言いなりになってしまった」ことですね。

チームをつくるまでに想定以上に時間が掛かってしまったので、「やばい、リリースを早くせねば...!!!」とものすごく焦ってて。「プロダクトのあるべき姿」よりも「エンジニアがつくりやすい形」を優先してしまったんです。

エンジニアから「この機能は実装むずかしい」と言われると、「別案考えます!」みたいな...。なぜ実装が難しいのか、どのくらいの工数が掛かるのか。一歩踏み込んでディスカッションすることもせず、すぐ妥協しちゃってたんです。必要以上に顔色を伺って忖度してしまっていましたね。

ー エンジニアの顔色を伺ってしまう...とくにPM1年目は陥りやすいですよね。そのままリリースまで突っ走ってしまうケースもよく聞きますが、飯沼さんの場合はどうでしたか?

私の場合はリリース前に、一回立ち止まったんです。

きっかけは、ある重要な機能についてのエンジニアからのひと言でした。「この機能は工数がかかる。このままだと、リリースに間に合わない」。こう言われて、私は「わかった。じゃあ、その機能は止めよう」と言ってしまったんです。早くリリースしなきゃと焦って、ちょっとやけくそになっていたところもあったと思います。

でも、数日経って冷静になったときに、改めて考え直して。本当にこのまま、プロダクトを世の中に出して、なんのインパクトがあるんだっけ?と自問自答しました。

もともと実現したかったことに立ち返ってみると、私が削ろうとしていたのは本来コアとなる機能のひとつで、やはりこれがないとダメだと思い、エンジニアに改めて相談して実装することにしました。結果的にプロダクトは無事にリリースでき、想定以上に反響も貰うことができました。

転職先でぶち当たった「ビルドトラップ」

ー 続いて2社目のアパレルメーカーでPMをしていたときのお話もぜひ詳しく伺いたいです。当時は、どんなお仕事をされていたんですか?

アパレルブランドが提供している公式アプリの企画・運用を担当していました。主にお客様の来店促進を目的としたO2Oの一貫として提供していたアプリで、店舗での提供価値をいかにあげるかについて考えていました。

その他にも、新規事業としてリリースしたTシャツ作成アプリの立ち上げ、アプリのやサービスの海外展開やEC運用などプロジェクトマネージャーの役割も経験しました。

ー O2OやEC、海外展開...業務が多岐に渡っていて、非常に興味深いです。社内にプロダクトチームが存在しているんですか?

私が転職した会社はもともと開発パートナーに外注していて、社内にプロダクトチームがない状態でした。

私が入社したタイミングは、より一層アプリを強化していくために内製化していくフェーズで。最初の仕事はアプリの企画を担当していた外部パートナーから引き継いで、プロダクトチームを立ち上げていくところからのスタートでした。

ただ、トップダウンで機能リクエストと期限が決められていた従来の進め方は、内製化してもほとんど変わらず...。PMに権限はない状態がしばらく続きましたね。

当時はアプリの登録会員数を伸ばすことが私のミッションで。「どの施策があたるかわからないから、月に1回必ず新しい機能をリリースしてみて」というのが上司からのオーダーだったんです。

入社した当初はひとつひとつ機能を開発する前に、ユーザーリサーチをしたり、店舗でヒアリングをしたりしていたんですけど、だんだん「こんなことしてたら、月に1回のペースに間に合わない!」となってしまって...。期限内にリリースすることが最優先になるという、典型的な「ビルドトラップ」に陥っていました。

海外の現地スタッフに気づかされた「お客様が本当に求めていること」

ー ビルドトラップに陥った状態からどう抜け出していったんですか?

しばらくは同じ状態が続いていたんですけど、ターニングポイントとなる出来事がありました。

いままで日本向けに提供していたアプリを、海外に展開していくプロジェクトにアサインされたときのことです。海外のオフィスや店舗で勤務している現地のスタッフとやりとりするなかで、「飯沼さん、このアプリ出しても、全然意味ないと思う」と、率直なフィードバックを貰ったんです。

「店舗の売り上げを補完するためにEコマースでの機能を充実させてほしい」とか「この機能は、お客様に全然求められていないと思う」とか。現地でビジネスを成功させるためにみんな真剣に考え抜いているのをひしひしと感じて。私自身、「PMとしてリリースだけしてたらダメだ、変わらなきゃ」とハッと目が覚めたんですよね。

私自身がちゃんとプロダクトと向き合えるかどうかで、お客様はもちろんのこと現地で頑張っている社員たちの売り上げにも大きく影響する。海外では店舗数がまだ少なくブランドの知名度も日本ほど高くないからこそ、このアプリによってビジネスの成功が左右されるんだと背筋が伸びました。

ー PMとして意識が変わったことで、行動にも変化は生まれましたか?

とくに上司とのコミュニケーションの取り方が大きく変わったと思います。

いままでだと、言われた機能を期限通りにつくることがゴールになっていて、何をつくるのか、なぜつくるのかの部分を深く議論してこなかったんです。

そこから、海外の現地スタッフへのヒアリングを通じて、自分自身もビジネスインパクトについて改めて考えるようになり、「当初この機能を予定していたけれど、じつはこっちの機能のほうが優先度高いと思うんです」と意思を伝えるようになりました。

また、上司とのコミュニケーションで心がけていたのは、「データを使いながら、感情に訴え掛けること」

たとえば、「月に1回、新しい機能をリリースする」というルールも、「これってやってて本当に意味あるんでしたっけ?」と言っても、相手には全然伝わりません。

でも、アプリのダウンロード数とアンインストール数のデータを見せながら、「実際に毎月1回新しい機能のリリースを実施するなかで、ダウンロード数は増えている一方、アンインストールも増加しています。ユーザーの行動データを見ても、従来とあまり変化が無く、新しくリリースした機能が使われているわけでもない。リリースを見直したほうがいいのではないか」と伝えることで、「たしかに...」と納得度合いが全然変わってきます。

プロダクトをより良くしていくために、社内のステークホルダーとのコミュニケーションを工夫してみる。いろいろなアプローチがあるので、まずは小さな一歩を踏み出してみることが大切だと感じています。

>>> 後編に つづく(後日公開予定)


取材 / 文 = 野村愛


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