2021.11.17
PM初挑戦の私が、1年でサービス利用者数を「10倍」にするまでにやった全記録|Ubie 敷地 琢也

PM初挑戦の私が、1年でサービス利用者数を「10倍」にするまでにやった全記録|Ubie 敷地 琢也

具合がわるい時、サイト上の質問に答えていくだけで「参考病名」や、適切な「医療機関」が出てくる『ユビーAI受診相談』。リリース約1年半で月間利用者数は300万人を突破。サービス成長を牽引したのがプロダクトマネジメント・プロダクトオーナー初挑戦の敷地琢也さん。彼がこの1年でやったこととは?

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▼Ubieについて
累計調達額44.8億円、躍進を続けるヘルステックスタートアップ「Ubie」。「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションに掲げる。主要サービスは、医療現場(toB)の業務効率化を支援する『ユビーAI問診』、リリース2年半で300以上の医療機関に導入されている。2020年4月より生活者(toC)向け『ユビーAI受診相談』をリリースし、2021年9月には月間利用者数は300万人を突破した。
※Ubieにおけるプロダクト開発/ 事業開発は専任組織「Ubie Discovery」が担う。

突然のチーム異動でプロダクトオーナーに

まずはじめに、担当している『ユビーAI受診相談』についてご紹介させてください。具合がわるい時など、20問ほどの質問に答えていくだけで「参考病名」や、適切な「医療機関」が出てくるシンプルなサービスです。2021年7月にはアプリもリリースし、順調にユーザー数を増やしています。

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▼『ユビーAI受診相談
1100以上の病名に対応し、全国の医療機関を掲載。医療機関での受診を前提にしており、「かかりつけ医」など地域の医療機関、救急車対応(#7119等)、厚生労働省など公的な電話相談窓口への適切な受診行動を支援している。回答結果を医療機関に事前送信し、スムーズな診察をサポートする新機能「ユビーリンク」を開始している。

じつはUbieに入って3年間、ずっと病院向けのプロダクト『ユビーAI問診』をエンジニアとして開発してきたのですが、2020年10月から『ユビーAI受診相談』開発チームに異動することに。コロナ禍で『ユビーAI受診相談』のニーズはあるものの、それまで病院向けのプロダクトをメイン事業としてきたため、開発リソースが当てられていませんでした。

また、スピーディーに開発されたこともあり、いろいろと課題も見えてきた。もともとエンジニアとして開発に入る予定だったのですが、もっと目標設定や施策を考えることにコミットしたいと思うようになりプロダクトオーナー(PO)として動くことになりました。

「コアな価値」が不明瞭だった

私が加わったのは、サービスリリースから半年が経たった頃(2020年10月)。当時の月間利用者数は20万人くらい。NPS(顧客満足度)をとっており、満足度もそこそこ高い。ただ、利用者数は毎月微増で、いまいち伸び悩んでいる、といった状況でした。

POとして参加し、まずやったことは半年分のドキュメントを遡り、チーム全員(当時、エンジニア3名、デザイナー1名)にヒアリングしながら状況を把握すること。そこで、改めていくつかの課題が見えてきました。

ざっくり洗い出すと、

・サービスの「コアな価値」が不明瞭だった
・打った施策に対する効果が不明&検証不足だった
・マーケットの反応がわかる情報が不足していた

といったところが課題だと感じました。

どうしても、検索から使ってもらう『ユビーAI受診相談』のようなC向けサービスだと「カジュアルに使ってみた」というユーザーさんも多くなります。すると、真に届けたいユーザー、とらえたいインサイト、コアな価値が不明瞭になりがち。また、新しい機能を開発したとしても、どれだけユーザーに受け入れられたか、検証ができていない状態でもありました。

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ユーザーを定量・定性で知る

エンジニアをはじめ、とにかく「マーケットの反応がわかる情報が足りてない」が根本にあった。そこで、そもそも、

・ユーザーにはどういった人たちがいるのか
・サービスにおいてどういう行動してるのか
・どんなユーザーをコアターゲットとするか
・サービスを通じ、どう行動してほしいか(コンセプト)
・そのために、どの数字を見ていくか

これらを見える化し、整理していきました。

まず既存のNPS・顧客満足度は取れていたので、いろいろなセグメントを分析し、さらにカスタマージャーニーマップをつくったり、定性インタビューをしたり、コアターゲットと重要指標、このプロセスと並行して、サービスを通じ、どう行動してほしいか(コンセプト)も言語化していった部分でした。

Before:
ターゲット:全ユーザー
指標:NPS(顧客満足度)

After:
ターゲット:年齢が高い人かつ、症状の重症度が高い人
指標:医療機関の表示率、医療機関の詳細表示率

Concept
・病院に行こうか迷ってる人を後押しする
・病院に早めに行ってよかったと思ってもらう
・要医療の人が、最適な医療機関に行くのをサポートする

こうして「重要指標」も定義できたので、その最新データをダッシュボードで見えるようにしていきました。

Redashダッシュボードの作成

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月50ペースでリリースを。効果もデータで可視化

そこからとっていった動きは、とにかく小さく施策をまわしていく。私自身、エンジニアだったのでよくわかるんですけど、やったほうがいい開発、施策って日々大量に溢れていて。「直してください」的な要望も多い。なので、やらなくていいこと、やった方がいいことのラインも明確にしていきました。

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もうひとつ、振り返って重要だったと思うのが、検証結果が可視化できるようにしたこと。何のための開発か、どの数値を検証するのか、毎回設定して検証する。検証が漏れた時も、自分で積極的にSQLを書いて、チームに共有する。そうすることで、チームで検証結果を振り返ることが当たり前の空気にしていきました。

その他にも「ABテストの結果を共有するSlackのチャンネル」「スタンプを押すと施策アイデアが集まるSlackチャンネル」を作るなどし、その結果“データをもとにした施策”が自発的に生まれるようになったと思います。

データの見える化ってそれだけではあまり意味がありません。そこからどんな示唆を得るか。どういうインサイトがあるか。良質な情報をチームに浸透させていく。そこからアイデアが生まれやすくなるのかなと思っています。

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「コアな価値」を考え続けて視えたPMF

こうして2020年10月から2021年9月で、約30万人だったユーザー数は300万人となり、約10倍に増やすことができました。

やったことはコアな価値を考え続け、小さく施策をたくさんまわす。その効果を見える化する。自発的にみんなが分析し、次の施策につなげる、というシンプルなこと。

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その結果でもあるのですが、他社さんにはない「コアな価値」がより明確になり、PMFにつながっていったと思っています。それは、ユーザーさん自身が「自分の状態を正しく理解した状態=自分の状態に腹落ちする」ことです。

もともと「参考病名を表示する機能」があり、その先のステップとして「病院を探す機能」を強化したものの、ほとんどのユーザーさんは参考病名だけ見て満足し、離脱していました。

いろいろな角度から施策をやりつづけていくなかで、薄っすらと見えてきたのが「自分の状態に納得できること」が、どうやら求められていることのようだ、と。

「症状に関連する病名が表示される理由」、適切な「医療機関とその理由」など、“腹落ち”を促していく。そういった施策を大量にまわしていくなかで、法則性が見え、検証していくために定性インタビュー、定量モニタリングを繰り返していきました。

こうして「ユーザーさんは病名や病院だけを知りたいわけじゃない。自分の状態への“腹落ち”を求めていたのだ」というコアな価値に気づくことができました。

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はじめの半年は、葛藤の連続だった

ここまでの1年、かなり順調だったように見えますが、決してそんなことはありません。とくに最初の半年は閉塞感という、何をやっても思うように数字が伸びない、といった時期がありました。ちゃんと前に進んでるのか、自分はプロダクトオーナーに向いているのか、いろいろと考えてしまいました。プロダクトマネジメントも自己流でやったところもあったりして。

ただ、創業初期から会社にいるので、スクラムマスターとしてチーム運営をしたり、直接ユーザーにヒアリングしにいったりもよくしており、そこは活かせた部分だったと思います。

自分で言うのは恥ずかしいですけど、まわりに「プロダクトマネジメントが向いてると思う」と言ってもらえて自信にもなりました(笑)多少は客観的に自分の得意なところが見えてきた。サービスの本質理解に努め、そこに対し、検証を小さく回していける。情報を収集しながら、取捨選択し、意思決定と検証を高速にやっていく。ここは得意なところかなと思います。

一方で苦手なところでいうと、思考を整理してアウトプットすること。プロダクトにおけるビジョンを掲げ、伝えていく。そしてメンバーと同じ方向を向く。このあたりまだまだ出来ておらず、課題だと感じていて。なので、slackで自分の思考を垂れ流して行くチャンネルをつくってみたり、定期的にプロダクトビジョンを語る会を設定したりと、いろいろとトライしてるところです。

誰もが自分に合う医療にアクセスできる社会へ

最後に、この1年、C向けプロダクトに携わり、重要だと感じたところについてお話できればと思います。まずテクノロジーオリエンテッドなプロダクトを触る時は、より事業ドメインを深く理解していくことが欠かせない、ということです。当然、私たちであれば、PM・PO自身が医療知識が求められ、医師との連携も非常に重要になります。それらを踏まえてプロダクトに落とし込めるか。また、C向けのプロダクトは「不便なら不満を言わず、シンプルに使われないだけ」というシビアさがある。だからこそ、深くまでユーザーの心理を理解していく必要があるなと思いました。

もうひとつ、自社がどういった技術、データなどのアセットを持っていて、競合に対し、どう優位になれるか、強く意識していくべき。自分たちのサービスが使われる必然性を追求していくことが大切だと改めて実感しました。

今回はC向けプロダクトについてお話しましたが、Ubieとしてやりたいことは、情報をシームレスにつなぎ、自分にあった医療にいつでもアクセスできる体験づくりです。

C向けである『ユビーAI受診相談』にしてもまだ「具合がわるくなった」など“入り口”のタイミングで使われることがほとんど。ゴールは「最適な医療機関に行くのをサポートする」といった行動変容です。そこに関しては、まだまだこれから。課題もたくさんあります。究極的には「具合がよくなる」ところ、さらに経過や継続的な健康管理にまで寄り添っていきたい。ここをテクノロジーの力を使って実現していければと思います。


取材 / 文 = 白石勝也


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