ユーザー数1000万人を突破した「家族アルバム みてね(以下、みてね) / FamilyAlbum」。7言語・150ヶ国以上で展開され、グローバルで愛用されるサービスを目指す。ミクシィ笠原健治さんが、サービスの立ち上げからこれまでを振り返りつつ、プロダクトづくりに共通する「大切だと思うこと」を語ってくれた。
※2021年10月26日に開催された【Product Manager Conference 2021】より、株式会社ミクシィ 取締役ファウンダー 笠原 健治さんのセッション「「みてね」のこれまでとプロダクト作り」をピックアップ。書き起こし形式で編集したものをお届けします。
・前編「ミクシィ 笠原健治さんが語る「みてね」誕生と成長のウラ側」
・後編「ミクシィ 笠原健治さんが語る「新規事業」の見つけ方」
もともと「みてね」を始めたきっかけは、私自身に子どもが生まれたことでした。今は小学生になったのですが、産まれて1週間くらい経って「こんなに写真や動画をたくさん撮るんだな」と驚きました。とにかく子どもの一挙手一投足、忘れたくない。記憶、記録に残しておきたいと気づいたらたくさん撮っていました。いずれ子どもにも見せたいし、これから妻が撮っていく写真・動画も全て見たい、両親や家族にも共有したいと思いました。
ただ、いろいろなサービスを使ってみたのですが、どれも専門に作ってないせいか、意外と共有や、きれいに整理、保存されたものを見返すことができず、少しストレスを抱えていました。
それであれば、自分たちで特化したサービスを作ることもアリかと思い始めるわけです。一方で、独りよがりなニーズではないか、万人が困っていることか、確認しなきゃいけない、と思いました。
社内で共感して、集まってくれた人たちもいて。そこから少しずつ、まわりに話を聞いたり、アンケートやインタビューをやり始めました。すると少なからず、多くの人たちが抱えている課題だと見えてきた。それであれば、ということで、正式なプロジェクトとしてやっていくことになりました。
コンセプトとしては、今日撮った子どものかわいい写真、おもしろい動画などを共有し、気が付くと、熱量の高い履歴が残っているというものでした。
そして、その子の人生が丸ごと残せる家族アルバムを作る。世界中の家族のこころのインフラ、こころのよりどころ、支え、安心できる場所を作れればとスタートしました。
はじめた時点で、いくつかの教訓、得ることがありました。
1つ目が、サービスをはじめる2ヶ月くらい前のこと。アプリが出来てきて、はじめに0歳児のママ20人ほどに協力いただき、2~3週間、本当に家族に共有して使ってもらいました。結果としては、思ったよりも不評。満足度が低い結果に。最もネックになったのが、写真・動画をアップロードする画面のUIでした。
じつは当時、Tinderが出始めだったこともあり「TinderライクなUIがカッコいいよね」と参考にしました。「生まれてからを丸ごと残す」がコンセプトだったので、登録した誕生日から写真・動画をスワイプしながら、毎日「共有する」「共有しない」と選べれば「丸ごと残す」ができるんじゃないか、と。
LINEとの差別化を考えても、そのUIがすごくいいと思っていました。ただ、あがってきたのは「今日撮った写真を共有したかったけどすごく大変でした」「整理するのがめんどくさかった」「結局、今日撮った分までたどり着けませんでした」などの声。
良かれと思ってつくったUIだったのですが、ユーザーの感覚とミスマッチでした。結果として、リスト形式で最新の写真・動画が並び、上からポチポチと選んで共有できるUIに変えていきました。
そうすることで、共有するアプリとしてすごく使いやすくなって。順番としては、今日撮ったかわいい写真、おもしろい動画を共有する。そこからまだアップしていない昔の写真・動画もあげていこう、全部あげていこうという流れができあがっていく。その順番が正しいんだなという気づきでした。
(TinderのようなUIに関して)割と自信を持って出したわけですが、やはり実際に使ってみてもらうと大きく違うことがある、そう実感しました。
とくに新規事業は、はじめの頃、ほとんどユーザーがいないため、ユーザーの全体像が見えません。そういったなか、尖ったカタチ、自分たちの思いで始めるのは大事ですが、実際に使ってもらうプロセスを踏むことでユーザー像を掴むきっかけになったと思います。
続けて、立ち上げ直後、初公開のグラフをお見せできればと思います。
1日あたりの国内家族登録数
2015年4月に「みてね」はプレスリリースを出しており、公式オープンとされています。
ただ、じつはその4ヶ月ほど前にストア公開をしていました。いわゆるステルスですが、この4ヶ月間も大事な期間だったと思います。オーガニックで入ってきたユーザーたちは、どういった不満、要望、ニーズを持つのか。その前に行っていたユーザーインタビューでは見えなかった部分も問い合わせ、データなどを通じて見えてきました。
さらに、少額で広告も出し、どういうメッセージであれば刺さるか見極め、LP、ストアのテキストもチューニングできました。また「1秒動画」などオリジナルの機能の作り込みも行うことができました。
もちろん、はじめからプレスリリースを出し、派手にいくのもいいと思います。ですが、そのあとにダラダラと下がることも。そういった意味で、「みてね」は割と順調にプレスリリース後も成長し、ステップを踏めたと思っています。
ちなみに資料にある「鈴木おさむさんのブログ露出」は、広告ではなく、たまたま鈴木おさむさんに「みてね」を知っていただける機会があり、奥さん含めて使ってみたところ、すごく使いやすかった、と。自然とブログに書いていただけて、ここはドンと数字があがり、その後も成長カーブを描いていくことができました。
現在も、だいたい日々2015年当時の10~20倍規模登録いただいています。ステルスの4ヶ月間と比べれば、100倍以上になるかと思います。
新規事業ですが、リリース直後、あまりにユーザー数が少なく、がっかりされる方も多いと思うのですが、ユーザーの認知をとっていったり、ブランド力ができてきたり、満足できるものを作っていくと10倍、20倍、100倍と伸びていく世界だと思うので参考にしていただければと思います。
あとは、いつ、どこでドカン…というほどでもないですが、伸びていくポイントがつくれるか。ここが新規事業の難しいところだと思います。ストアに公開し、徐々に数字が上がっていったのですが、チームメンバーのなかには「まだステルスでやり続けたほうがいいのではないか」「火がつくことを待ったほうがいいのではないか」という意見もありました。結果から言うと、どちらも正しかったと思います。ただ、私としては完成度が一定レベルになったと思ったので、そこでプレスリリースを出したほうがいいだろうと考えました。
もうひとつ、「みてね」が立ち上げ当時からすごく大事にしている指標が「家族とのつながり率」です。
「みてね」は子どもの写真・動画を、家族と共有するサービスでさまざまな機能を用意しています。つながって使ってもらえたほうが、機能をフルで楽しめます。その結果は週次アクティブ率にも如実に表れています。
具体的には「夫婦&祖父母と繋がった家族」だと86%が安定して毎週使ってもらえています。サービスを開始し、7年ほど経っていることを考えるとすごく高い数字ですし、圧倒的に重要な指標。一方で「誰とも繋がっていない」方だと、週次アクティブ率は「3%」となり、圧倒的な差があります。もちろん月次で見ると多少は高い数字になると思うのですが、あくまで「アクティブに使ってもらえているか」で見ると差があると思っています。
また、マクロ的な視点で見て、2015年以降、祖父母世代がスマホを持つようになったことも大きな後押しになりました。
はじめの頃、これも少しミスだったと思うところですが、祖父母世代にはPCにせよ、スマホにせよ、ブラウザ版で使ってもらう前提で考えていました。まだまだガラケー世代が多く、アプリは早いのでは?と。ですが、フタを開けてみると最も多かったご要望が「おじいちゃん、おばあちゃんにもアプリから使えるUIがほしい」という声でした。初年度、一番開発した部分もそこです。
あとは、おじいちゃん、おばあちゃんなので「娘の家族、息子の家族、それぞれの家族に参加したい」という声も多く寄せられるようになり、「複数のアルバム」に参加できる機能も作り、ニーズに応えていきました。
あと嬉しかったことで言うと「「みてね」を使いたいので、おじいちゃん、おばあちゃんがスマホに変えます」というもの。逆に「スマホに変えたので「みてね」を使ってみる」というご家族の方もいらっしゃいました。
ユーザー数は現在、順調に増えて1000万人を突破しました。海外展開、多言語化は2017年からやっています。実際、海外ユーザーも増えてきている状況です。
もともとチームメンバーみんなで「海外展開はロマンとしてもやりたい」「やろうよ」という感じで始まりました。ただ、FacebookやTwitterを見てもわかるように、SNSにおいて勝っていくためには、「グローバルで覇者になる」と圧倒的に強いわけですよね。
仮に薄利というか、ARPU(1ユーザーあたりの平均的売上「Average Revenue Per User」)が低くても、グローバルでユーザー数を抱えると、薄利 × たくさんのユーザーで大きなビジネスモデルを作ることができます。また、そういった事業者が現れた時は、いくらローカルで勝者になっていたとしても、グローバルの勝者に負けてしまう。それであれば、海外では「FamilyAlbum」という名前でやっていますが、「みてね」もグローバルで勝てる存在になっていきたいと、早くから多言語展開しています。
やってみて思うのは、今はすごく簡単にグローバル化できる時代だということ。アプリ、ストアの仕組みも、ポチポチ設定していけば難しくありません。Facebook、Googleなど広告プラットフォームも、翻訳も、ユーザーテスト、インタビューも遠隔でできる仕組みがあります。これだけリモートワークが進んだ時代ですので、グローバルで人も採用できる状況になりました。余裕があるチームの人たちは、ぜひグローバルにチャレンジしていってもらえると嬉しいですし、既にやっている方々は、ぜひ情報交換させてもらえると嬉しいです。
日本と海外、主に欧米ですが、ユーザーの違いもあると思っています。
まず、この濃い青が、ユーザーかいる国になっています。
基本となる部分は日本と似てるところもあります。たとえば、レビューを見ていても「子どもが生まれて嬉しい」は万国共通ですし、「子どもの成長を家族みんなで見守りたい」「たくさん写真、動画を撮り過ぎちゃう」「家族にも共有したい」「きれいに整理・保存しておきたい」「子どもも「FamilyAlbum」を見るのが好き」こういった部分は、世界共通だと感じるところです。
一方で「家族」の概念がより広く、多様で、多くの人と繋がりたいというニーズは、グローバルのほうがあると思っています。
もともと「みてね」は、つながれる家族の人数として10人までの制限がありました。ただ、海外ユーザーの要望があり、20人、30人…と増やし、現在は50人まで繋がれるようになっています。それでも上限に達しているのは100%海外ユーザーたちですし、さらに増やしてほしいと言われることも。
グローバルだと「私たち、家族だよね」と対象になる人が多くいて、子どもの成長を日常的に見せたいニーズがあり、みんなで祝う感じなのかもしれません。あるいは、日本だと、お父さんがいて、お母さんがいて、おじいちゃんがいて、おばあちゃんがいて…といった感じですが、グローバルだと家族のあり方が多様なところもある。「みてね」だと立場名を選択する必要があるのですが、より柔軟に、自由に書けるようにするなど海外展開がきっかけでやってきた部分もあります。
その他、コメントも欧米の方が多い印象もあります。カジュアルに、何か言い合っている感覚があり、コミュニケーションに対するあり方も少し違うんだなと感じました。
嬉しい話としては「みてねプレミアム」という月額課金サービスや、写真プリント、高級版のフォトブックなどは欧米のほうが購入率が高い。このあたりはビジネス的にもチャンスがある部分かなと思います。
開発スタイルについてざっくり言うと、ユーザーの声をしっかりベースにしながら作っているチームかなと思っています。
初期は、1年半ぐらい自分メインでCSも行っていました。もちろん問い合わせについてはチームに共有しながらやっていたわけですが、電話でお叱りを受けたり、実際に訪問して「こういったご家族が使っているんだ」と実感したり。これらは網羅的なユーザー像を掴む上で大事な経験でした。いくら思い入れがあっても、私自身が全員のペルソナにはなれません。なので、課題の濃淡を実感しつつ、濃いところから改善していく。そう言った意味で、CSの経験は大きな意味がありました。問い合わせにしても背景から書いてくださったり、熱量を込めていただけるケースもあったり。その熱量に動かされ、背景まで理解した上で、要望に対する開発へと進んでいくことが出来ました。
その文化は今でもやはり大事にしたいですし、問い合わせ、気になったことに関してはCSメンバーにSlackのチャンネルで共有してもらいながら、みんなであーだこーだ言いながらやっていたりもします。あとはレビューやSNSの声が流れてくるチャンネルもあり、みんなで見ながら開発を進めていますね。
開発体制としても、デザイナー、エンジニア、CS、マーケティング、みんなが一体となり、進めていくことが多いと思います。
たとえば、「CSとして思ってもない機能が出来る」とか、「エンジニアとして思ってもない仕様が出来上がる」とか、そういうことはほとんど無く、しっかりコミュニケーションしながら進めていると思います。
開発の途中段階でも、社内にもたくさんユーザーたちがいるため、気軽に機能を試してもらったり、感想やフィードバックをもらったり、よく見かける光景かと思います。
一方で、「ユーザーの声」からは出ない機能もあると思います。そこはそこですごく大事ですし、満足度を上げていくために、むしろ大事な機能になることが多いと思います。
たとえば、「みてね」で言うと「1秒動画」はそれにあたると思います。アップロードされている動画から少しずつ切り抜き、コンピレーション動画が作られるもの。「3ヶ月に1回」や「1年に1回」などお届けし、ユーザーからしたら急に動画がもらえるので、成長を振り返ることができて嬉しい。自分たちから発案していった機能になります。また、「月別のアルバム」が整理されるUI、最近だと「ウィジェット機能」として“何年前の今日”がスマホのホーム画面に出てきて「みてね」に飛ぶと、当時の同じ時期周辺の写真を見ることができる機能も作りました。
潜在的なニーズ、と言いますか、自分たち自身のユーザー体験をもとに「こういうのがあったらおもしろいね」と「こうなったらみんな驚くよね、嬉しいよね」と潜在的に何が大切か、考えながら作っていくことも大事だと思います。
ですので「顕在化しているニーズ」と「潜在的なニーズ」のバランスをとりながら、今後もやっていきたい。そうすることで時々ジャンプアップするサービスができるのではないかなと思っています。
今後の展望、目標としては、世界中の家族のこころのインフラ、支え、心の拠りどころとなる場所を作っていきたいと思っています。
「みてね」は家族の絆をより深め、子どもへの愛情を注ぐ場です。親から子どもへ、あるいは、おじいちゃん、おばあちゃん、ひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんまで、世代を超え、愛情がしっかり伝わる。そういう場所になっていけばいいなと思っています。
そういった意味でも、規模的にいえば、10倍の1億人規模を目指したい。世界で使われることはもちろん、子どもの成長に合わせ、必要となるサービスもさまざま展開したいと考えています。自分自身の子どももだんだん大きくなってくると「こういうのがあればいいな」「このあたりにはイケてるサービスがないな」と思うことが多々あって。もちろん全てはできませんが、「みてね」の中にあっても違和感がない、自然と使ってもらえるような機能、サービス、課題解決になるものを出していきたいと思っています。
こういった機能を提供しつつ、子どもの成長に合わせ、家族の人たちが喜んでくれるサービスを展開したい。それも、単なる広告ビジネス、単なるストレージ課金というより、付加価値、あって嬉しいサービスを追加することで売上も増えていくといいなと思っています。
売上規模として、まだざっくりですが、国内200億円以上、海外展開している国だけでも日本の10倍くらい子どもはいるので、理論的には、2000億円ぐらいいけるんじゃないかと、目指すところとして書いています。
あと「みてね基金」という取り組みも2020年4月から始まりました。「みてね」自身も、子育てにおける課題を解決しているところはあると思いますが、世の中には子育てしていく上で、子どもと、家族が抱える課題はたくさんあって。いろいろなNPOの方が活動されているので、そういった方々と組んで、あるいは後方支援させていただき、一緒に取り組み、たくさんの社会的な課題を解決していければと思っています。
(つづく)
・前編「ミクシィ 笠原健治さんが語る「みてね」誕生と成長のウラ側」
・後編「ミクシィ 笠原健治さんが語る「新規事業」の見つけ方」
編集 = 白石勝也
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