ミクシィでUIデザイナーとして働く渡辺直也さん。じつは第一子誕生をきっかけにフリーランスをやめ、再び会社員として働く選択をした。フリーのほうが働く時間帯など制約も少なく、融通も利きそうだが…なぜ? そこには「思いを込めてサービスをつくり、育てたい」という思いがあった。
2015年にリリースされ、順調にファンを増やしてきた『家族アルバム みてね(以下みてね)』。ミクシィ会長である笠原健治さんが、自身が子育てにおいて感じた課題から生まれたサービスだ。
GOOD DESIGN AWARD 2016 BEST100 や Google Play BEST APP 2016などを受賞しており、ご存知の方も多いだろう。
そんな『みてね』がユニークなのは、開発に子育て世代のエンジニアやデザイナーが多く携わっているということ。
今回はアプリの立ち上げより携わってきたUIデザイナー、渡辺直也さんにスポットをあてていこう。
渡辺直也さんは1999年にデザイナーとしてのキャリアをスタート。そこからWeb制作会社での勤務、個人事業主(法人化)・フリーランスとして約3年間働いた。
そして、2013年6月に再び会社員へ。ミクシィで働きはじめ、『みてね』の立ち上げに携わったという。
渡辺さんは何を思い、フリーランスから再び会社員になったのだろう?
きっかけは結婚・子育てというライフステージの変化。そこには、一人のデザイナーとして「思いを込められるサービスに携わっていきたい」という思いがあった。
― 最近だとよく会社員から独立される方のブロクエントリーがあったりもします。逆に、渡辺さんはフリーから会社員へと戻られた、と。
そうですね。僕にとって「子どもができた」というのが大きかったです。ちょうど独立して3年という節目だったのですが、フリーとしてやっていくなら事業を大きくしていくのか、領域を広げていくのか。将来を考えると、何かしらやらないといけないと考えていた時期だったんです。このまま同じようにやり続けるのは違うな、と。
3年もやってきたので、そろそろ違う事をしたくなったというのもありまして。
もちろんフリーであることのメリットはあります。時間の配分が自由だったり、会社を横断した仕事が見れたり。なにより"なんとかなる"という気持ちを持てるようになりました(笑)
ただ、フリーだと「作る以外のこと」を考える時間も多い。デザインワークに専念できないことに悩んでいたこともあり、また会社で働こうと考えました。
― その中でも、なぜミクシィを選択したのでしょう?
せっかくやるなら、今までやったことのない領域にチャレンジしたかったんです。
それまでは、ほとんどがウェブの受託制作だったので、モバイルアプリにチャレンジできる事業会社を探しました。
ちょうど2013年~2014年にかけてミクシィがモバイルアプリにフォーカスした新規事業をたくさん立ち上げていくタイミングだったのが大きな理由です。
― 事業会社で働くのは初ですよね。働いてみて感じたこととは?
受託制作だとどうしても「作ったら次へ」というケースが多くなります。もし次やるなら、継続して自分でデザインした物をちゃんと見守っていきたいという思いもありました。
その点、事業会社の場合、一つのプロダクトを長く育てていく部分がありますよね。実際にユーザーの声を聞くことができるので、作り手の思いが届いていることがわかるし、ユーザーが喜んでくれるのはめちゃくちゃ嬉しい。逆に言うと、そのサービスを愛していなければいけないと感じました。
― 「会社員」か「フリーランス」か、この対立で語られることも多いです。ただ、そうではなく、自身が何を実現したいか、ここが大切であると。
そうかもしれないですね。僕の場合、収入や安定性についてもちろん考えましたが、どちらかというと「新しいことにチャレンジしたかった」というのがありました。
― デザイナーとしてスキルを高めていこうと考えたとき、制作会社か、事業会社か。ここもテーマになります。
どっちの仕事がやりたいか? 自身がどういうタイプか? ここに尽きると思います。
過去の経験から言えることとして、制作会社で働くメリットは、実践でつかえる制作力が上がるということです。ただ、わりと忙しかったので、新しい事を学びたいときに、時間をつくりづらかったのは正直あります。まぁ…僕が単にできなかっただけですけどね(笑)
一方、事業会社の場合、ミクシィだけでしか働いたことがないので、その前提での話ですが、周りからの刺激を受けられる環境があるのと、新しいことにチャレンジする時間がつくれるというのがあります。
仕事の考え方については、エンジニアからすごく刺激を受けています。
たとえば、エンジニアは「同じ事は2回したくない」みたいな人たちが多くいて、効率化を図れる部分は徹底的に追求していたり、勉強会を定期開催するなど学習が習慣として定着していたり、見習うべき部分がたくさんありました。
その影響もあり、ここ2~3年で本格的にエンジニアリングやプログラミングの勉強を続けています。
自分的にはエンジニアは未知なものに対して調査・実装していく能力がすごく高いなと感じていて、そこはデザインする場面においても活用できるのではと思っています。
― 実際、『みてね』をデザインに落としていくタイミングで、ご自身の子育て体験は活きましたか?
どう『みてね』に赤ちゃんの写真や動画が入っていけば家族が喜んでくれるか。嬉しい気持ちになってくれるか。ここはすごくイメージができました。
なにより、ITリテラシーが高くないユーザー、妻や自分の親が普通にアプリを使えるかどうか。「みんなが普通に使えるように」といったイメージが具体的に持てたのはかなり大きかったと思います。
『みてね』は横スワイプをすることで1カ月単位の写真や動画をさかのぼって見ることができるのですが、これは月単位での成長が比較しやすく、さらにスマートフォンのアルバム機能で見るよりも写真が整理されて見えるように設計されています。さらにいうとアルバム上部の表紙の部分はめくる度にランダムで切り替わるようになっていて、思いかけず「思い出」と出会うきっかけを提供しています。
ママが隙間時間にスッスッと使える手軽さ、おじいちゃん・おばあちゃんが考えなくても使える簡単さに加え、ユーザーの1つの動作に対してより多くのフィードバックが得られるようにする、というのはみてねチームで大事にしている考え方だと思います。
― おじいちゃん、おばあちゃんのほうが世代的にも慣れていないから、使ってもらうまでにハードルが高い印象も…。
それはありますね。実際に使ってもらって、どんな風に操作をするか見ていきました。たとえば、ものすごく細かいところですが、アプリのUIをみてもらって、上のほうを見ると何月か「◯」で囲ってあるんです。
ここって3ヶ月を跨ぐと、それ以降は真ん中に「◯」が固定されるようになっているんです。もともとは「1月」「2月」「3月」「4月」「5月」と来て、次の月が見えなかったんです。そうするとおじいちゃん、おばあちゃんは「ここまでしかないのか」と思い込んでしまう。だから、真ん中で「◯」を固定し、「月」が送られるように変えたんです。
― かなり細かいところまで見ているんですね。
そうですね。たとえば、おじいちゃん、おばあちゃんと使っているスマホがバラバラなケースもあると思います。
電話越しに「このボタンだよ」と教えても、OSごとにUIが違うと説明が伝わらない。なので、そうならないようにiOSとAndroidでほぼ同じUIになるように作っています。
やっぱり大切なのは「利用するシーン」ですね。どういう人たちが使うんだろう、と深く考えます。特にウェブの世界にいると当たり前の様にやれることでも、ITに詳しくない人が操作した場合にできない事のギャップが生まれます。それをどう埋めていけるかは大事なポイントだと思います。
― ここまで伺ってきて『みてね』の立ち上げ・成長と、お子さんの成長がちょうどリンクしているともいえますね。
たしかに『みてね』をどう使いたいか、自分がユーザーだからわかるんですよね。「このくらいの子どもを持つ親だったら、こういうのが欲しいはず」と。実際、子どもって1歳くらいまではあまり動かないから写真の共有がメインで。動きわまるようになると動画にシフトしていく。こういった視点は活きていると思います。
― 最後に伺わせてください。お子さんが生まれたと同時に転職もされたわけですが、子育てを経て、ご自身に変化などもありましたか?
気持ち的にも安定したというか、家族がいるっていうのはすごく心強いです。あとは子どもって思い通りにいかない存在…だからということはないですが、大抵のことは許容できるようになりました(笑)
仕事の面で言うと「恥ずかしくない仕事がしたい」と思ったかもしれません。デザイン案も「キレイだからまぁ良いか」で出すのではなく、ちゃんとすべて試した上で「これが一番いいものなんだ」と自信を持って世に送り出す。ユーザーが手にした時にあたたかい気持ちになったり、ユーザーの予想を超えるものにしたい。「これってすごく良いものです」っていう気持ちで送り出したい。そうしないとすごく失礼な気がするんですよね。
― 期待どおりではなく、期待を超えていく。その繰り返しがよいサービスにつながっていくのかもしれませんね。プライベートなお話に絡めサービス開発にとって大切なことも伺うことができました。これからの『みてね』も楽しみにしています。本日はありがとうございました!
文 = 白石勝也
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