2013.11.18
ミクシィ イノベーションセンターにみる、エンジニアが“イントレプレナー”になる可能性。

ミクシィ イノベーションセンターにみる、エンジニアが“イントレプレナー”になる可能性。

ニワカに注目を集める社内起業家「イントレプレナー」の存在。今回伺ったミクシィが設置したのは、SNS「mixi」を超える規模の新規事業創出を目的にした『イノベーションセンター』だ。同センター長に、設立背景と、イントレプレナーを育成・輩出する意図や狙いに迫った。

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イントレプレナー(社内起業家)という存在

“スタートアップバブル”と一部で称されるのも納得がいくほど、大型資金調達や大企業による買収のニュースが飛び交っている。国内のスタートアップを取り巻く環境は数年前と比べても激変している。

しかし、新しい事業・サービスを生み出すのは、もちろん新興のスタートアップだけではない。CAREER HACKが注目したのは、イントレプレナーという存在だ。

今回、取材に伺ったのは、株式会社ミクシィが昨年設立した『イノベーションセンター(以下、イノセン※ミクシィ社内呼称)』。社内の新規事業を育成・支援 (インキュベート)し 、mixiやFind Job!とは別軸の発想で、新規事業を立ち上げたり、リサーチを行なっているという。

これまでに、イノセン発でローンチされたサービス、毎月1冊無料でフォトブックがもらえるアプリ・ノハナやワイヤレスでAndroid開発を可能にするDeployGateなどは、特に注目を集めている。

ミクシィがイノセンを設立し、イントレプレナーを育成・輩出する意図や狙いはどこにあるのか。そして、エンジニアがイントレプレナーとして活躍する相性と可能性は?まずはイノベーションセンター長・石井瞬さんへのインタビューからその答えを探る。

“リーン”/“エンジニアドリブン”/“明確な制度設計”

― まずはじめに、新規事業を生むため、ミクシィがイノセンを設立した背景を伺えますか?


創業期のミクシィは、Find Job!やmixiなどのサービスを立て続け生み出し、凄まじいスピードで成長してきました。そのため社内のリソースを、既存のサービスに注力してきたんですね。それは正しい経営判断だったと思います。

昨年5月、当時の社長室室長であり、現社長の朝倉から新規事業の創出についての話があったのが、イノセン設立の始まりです。

そこから3ヶ月間、ただ新しい部署を立ち上げるというよりは、様々な企業の事例や社内ヒアリングを行ない、公募型の社内ベンチャー制度設計、ルール作りをしました。

イメージしたのは、シリコンバレー。

まずは、リーンスタートアップですね。私はもうバズワードっぽくて使いたくないんですけど(笑)。企画選考段階でも、プロジェクトが走りだしてからも、最低限のコストと短いサイクルで仮説の構築と検証を繰り返しながら、市場やユーザーのニーズを探り当てていくこと。


石井瞬さん


そして、ミクシィに在籍するエンジニアに期待していた部分が、エンジニアドリブンなサービスづくりです。国内でも有数の優秀なエンジニアがいるミクシィですので、そのメリットを最大限生かして、プロジェクトを進めたいという思いがありました。


― ミクシィとして、社員に新規事業への参加を促したりしたのでしょうか?


いえ。応募を促進するようなことはしていませんね。ユーザーニーズの有無、市場の規模感から事業計画、短期的なマイルストーンの設定は、応募メンバーと詰めに詰めた上でプロジェクトはスタートさせていますが、何より重要視したのは、「何が何でもやりたいんだ」というパッションと根性です。

ここで想定したのは、独立してやっているスタートアップと本気で戦えるか、という点。外のベンチャーは何かしらの覚悟を決めて起業している。死ぬ気、必死なわけです。そんな企業相手にどう戦うか、私も必死に考えました。

その一つの答えがどんな過酷な状況でもあきらめないで、やり切る状況を作ること。イノセンに採択されたら、通常業務からは外れて新規事業一本にコミットさせる。片手間で新規事業などさせず、全力で打ち込める環境を作りました。

また、インセンティブを一致させることにもこだわりました。外部のスタートアップの行き着くところは、IPO や M&A EXIT…何かしらの巨額な創業者利益がありますよね。同じ土俵で戦うからこそ、それと同程度…という訳にはいきませんが、それなりの体制とインセンティブは用意しました。

新規事業の創出で得た手応え

― イノセンの設立から1年以上経て得られた手応えや、株式会社ミクシィとしてのメリットは?


今の段階で見えてきている成果は2つですね。一つはミクシィという会社全体を「新しいことをやっていこう」という雰囲気に巻き込めたこと。実はイノベーションセンター発ではない新規事業も生まれてきているんです。例えばモンスターストライクというネイティブゲームアプリ。特に住み分けをしているわけではないのですが、所属部署でできる“新しいこと”は、所属部署で提案して実現させることが可能です。それ以外の、全く新しいことはイノセンで、というかたちができ始めてきました。

もう一つは、成功の芽が見える事業が生まれていること。それは子会社化したノハナであったり、DeployGateであったり。


― イノセンの目指す“成功”とは?


目標としているのはmixiを超えるサービスですね。3年で営業利益が12億というmixiの規模を超えてほしい。非常に高い目標でありますが、それを達成するために、どのチームも細かくマイルストーンを設定しクリアしていくよう動いています。


― 確率高くヒットを狙うのではなく、ホームランを狙うと。


その通りです。イノセンの設立目的は次の事業の“柱”、つまり収益源になるレベルですので。一方でどんな大きなサービスでも必ず通るステップがありますよね。そこをきちんと刻んで成長させていこうと。


石井瞬さん


エンジニアのみのメンバーだからこそ成長を続けるDeployGate

― 先ほど、エンジニアに期待していた部分があったというお話がありました。エンジニア発案のサービスは?


DeployGateがまさにエンジニア発案のもの。Android開発ツールをサービスにするなんて、エンジニアならではですよね(笑)。いまでもメンバーは全員エンジニアです。

ノハナほどの一般的にポピュラーなサービスインパクトはないですが、非常に堅調に伸びています。何よりユーザーの満足度が異常に高いんです。当然、リピート利用率も高い。やはり、サービス享受者が自分と同じ立場だからでしょうか、私たちが期待した通り、エンジニア発案サービスが成功をつかもうとしています。

なぜ彼らは、ここまでサービスを成長させることができているかを考えてみると、その答えは、通常の“エンジニア”としての仕事の殻を自ら壊しているからだと思います。


― と言いますと?


イントレプレナーになるということは、エンジニアといってもプロダクトだけ考えている訳にはいかないんですね。彼らはサービスのプロモーション施策として、自分たちでDeployGateの紹介ムービーまで作成しています。



リリースの際は広報に、権利関係は法務に、その他は人事など、これまでなかなか関り合いを持たなかったバックオフィスとのコミュニケーションが発生します。

その際、やっぱりお互いが話す言語が違うワケです。そこで、きちんと筋を通してプロジェクトを進められることが求められる。

ただいいサービスを作るだけではなく、事業として成立するように細かい部分にも丁寧に手掛ける。ココが肝と言ってもいいかもしれませんね。

その他に、エンジニアがイントレプレナーとなった例で言うと、子会社化したノハナも当てはまります。ぜひ直接、話を聞いてみてください。


(つづく)
▼ミクシィ イノベーションセンター出身・ノハナ エンジニア 田中和紀さんのインタビュー
エンジニアのイントレプレナー挑戦は、キャリアにどう影響を与えたのか?|ノハナ 田中和紀氏に訊く。


[取材・文] 松尾彰大 [撮影]城戸内大介



編集 = 松尾彰大


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