WEB・IT・ゲーム業界で活躍する女性クリエイター・エンジニアの仕事観やキャリアビジョンを伺う、HACK GIRL企画。今回はチームラボでカタリストとして活躍中の長島みのり さんを直撃。「仕事とプライベートを分けない」理由とは?
WEB・IT・ゲーム業界で輝き続ける、女性クリエイター・エンジニアを応援する企画“HACK GIRL”第7弾は、ウルトラテクノロジスト集団・チームラボのカタリスト、長島みのりさんをご紹介。
彼女は、東京藝術大学音楽学部を卒業後、慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科にて、「都市と音楽の関わりについて」研究しながら、インタラクティブ作品の国際コンテストであるIVRC(国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト)に「音」をテーマにした作品を出展、数々の賞を受賞したという経歴の持ち主。
現在は、その感性を活かしつつ「チームラボ、学ぶ!未来の遊園地」展のディレクションなどを行なっているという。「休みはいらない」「仕事をする上で男性・女性は関係ない」「誰かに負けるのはいや」と言い切るアグレッシブな彼女は、どんなキャリアを描いているのだろうか?
― 芸大で音楽学部にいらっしゃったということですが、芸大の方って留学したりアーティストになる方もいらっしゃいますよね?なぜ慶應義塾大学の大学院へ進学されたのでしょうか?
はい。私は、アートとしての音楽より商業音楽に興味があったんですよ。芸大はとても楽しかったんですが、どうしても「作品を作って発表して終わり」っていうのが多くなってしまうんですよね。そんな時に、慶應のメディアデザイン研究科を見つけて。社会とコミットしようという方針が魅力的でした。それに、何でもやらせてもらえそうな学科でしたし。
― 音楽専門の学科じゃないようですが…。
はい。なので「音楽やっていいですか?」って教授に直接聞きに行きました。そうしたら、「やってもいいよー」って言ってくださって(笑)。
― すごい(笑)それで大学院ではどんなことを?
「音楽と都市の関わり」の研究ですね。具体的には、人が通るとBGMの音が変わるシステムをつくって、とある商業施設に導入したんです。芸大時代の友だちに協力してもらって音を作ったり、プログラムを自分で書いたり、導入作業したり…。ディレクションもしつつ、プロデューサーとしてプロジェクトのマネジメントも行ないました。
あとは、大学院での友人とスピーカーと筐体を使って、音と触覚を感じる「Sound Forest」という作品をつくりました。なんとなく出展してみたら、「IVRC(国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト)」や「DIGITAL CONTENT EXPO」、「LAVAL VIRTUAL」、「アジアデジタルアート大賞展」なんかで賞をいただくことができて(笑)。
― プロジェクトも忙しいのに、コンテストにも出展ってすごいパワーですよね。
大学院行った時に、芸大の仲間たちに「負けてる感」があったんですよ。芸大の仲間は芸大の大学院に行ったり、留学したり、もしくは独立してアーティストになったりしていて…。自分で慶應の大学院を選んだのですが、“長島は音楽クリエイターを辞めて、プロデューサーになったんだ”って思われるたくなかったんですよね。「芸大の仲間たちには絶対負けたくない」って思って、とにかく実績をつくろうとしていたのかもしれません。
― 大学院を卒業したら、音楽の道に残ろうとは思わなかったんでしょうか?
とても悩みましたね。でも、新卒って1回しかないわけじゃないですか。だから、とりあえず新卒やってみよう、と。で、音楽関係で就活をしていたんですが、レコード会社に応募した時に、ふと思ったんです。確かに音楽には触れられるかもしれないけど、作り手にはなれないのかもって。でも、まだ作り手側にいたかったんですよね。だから、少しでも作り手でいられる選択をしようって思ったんです。それでアートに力を入れていて、知り合いもいたチームラボが一番作るってことを続けていけそうだな、と。ただ、当時は“音楽”を取り入れたものが少なかったので、ちょっとした賭けでしたけどね(笑)。
― 入社後は、どんなプロジェクトをやってこられたのでしょうか?
入社してすぐに担当したのは、パソナ大阪さんに導入した「瀧心図」という書家の紫舟さんとのコラボアート作品ですね。瀧の映像があって、近づくと紫舟さんの書が浮かんでくるんです。
他にも、「Dラボフック」というプロダクトもやりました。あとは、“なんか面白いことしたい!”と問い合わせをいただいたクライアントにひたすら提案をしてますね。今は、「チームラボ、学ぶ!未来の遊園地」展という、子供向けの遊んで学べる施設のプロジェクトでカタリストをやっています。
― カタリストというと、プロジェクトマネジメントがメインになるんですか?作り手とはちょっと立ち位置が違うような感じがします。
最近は自分で音を作ったりもしてるんですよ。「これ、効果音付けたほうがいいですよ!」みたいな提案をしたりして(笑)。プロジェクトマネジメントやディレクションの方が比重は大きいんですけど、徐々に音作りも取り入れています。
― やっぱり、作りたいって気持ちが大きい、と。
作りたい気持ちはまだありますね。でも、両立できたら一番ベストかな、と。私、作ってるだけの人も嫌だし、自分は作らないのにマネジメントだけしたり、スケジュールだけ切るって人も嫌なんですよね。だからバランスよくやっていきたいと思います。
― 音作りのために何か取り組みをされているんですか?
はい。バンドでキーボードをやってて、ライブや作曲をやっています。正直、忙しかったり大変なことも多いんですけど、土日で空いた時間に詰め込んでます。最近はちょっと詰め込みすぎかな…と思いますけど、それがちょうどいいかなって。よく、「○○○を始めるのに遅いことはない」って言うじゃないですか。でも私は賞味期限ってある気がするんです。ライブもステージに立てる年齢って限りがあると思いますし、仕事でも体力落ちたら出来ないこともあるかもしれないですし。だから、いまやりたいことを全部やっておくぐらいがちょうどいいかな、って。
― とは言え、時間的制限があると音作りのクオリティを保つのって難しいのでは?
全部やってどっちつかずで、クオリティが下がるのは絶対に嫌なので、自分のキャパだけはきちんと把握しています。クリエイターって、「時間がない」とか「寝てない」を絶対理由にしちゃいけない。それに、追いこまれるからこそクオリティは高められると思いますし。例えば、いまチームラボを辞めて、音楽だけやり続けられる状況になったとして、本当に100%で音楽に取り組むのかなっていうのは考えちゃいますね。忙しくしてて、土日しか時間がなくて、っていう状況で両立したからこその上手さもあるんじゃないかなぁ、と。いま実験中です!
― 疲れたり、立ち止まったりしたくはならないんでしょうか。
逆に一回休んじゃうと戻すのが大変なんで。土曜日にちょっとだけ休んじゃったりすると、調子出ないですもん。私にとっては休みがない方がベストだと思います。あとは身体さえ鍛えて、体力つければどうにかなるんじゃないかと思います(笑)。
― パワフルな毎日を送られてる長島さんですが、女性だからこそ活かせている感性や視点を感じることはありますか?
あまり女性だから、男性だからって考えたことないですね。能力って性別とかじゃなくて、個人じゃないですか。男性でも女性でも、デキる人はデキルし、デキない人はデキない。クリエイターとしても、一般生活でも男女分けて考えたことが無いかもしれないですね。負けず嫌いなだけかもしれないですけど、駆けっこも負けたくないです(笑)。
― 体力的な面とかで差を感じたりしません?
差を感じたら鍛えますもん(笑)。そこで負けるのは嫌ですね。妥協しちゃダメだと思いますし。体力もそうだし、作るものも負けたくないんで、自分で納得いくクオリティを出せるまでやり続けます。
― そのストイックさ、素晴らしいですね!
いや、全然ストイックじゃないですよ。ただの負けず嫌いな気がします(笑)。でも、負けていい理由ってないじゃないですか。同じフィールドに立っているなら、自分のほうがより出来たほうがいいし、負けたら悲しいし。それなら、できることはやったほうがいいかなって。
― かっこいい!仕事にプライベートに全力ですね。
うーん…どうなんでしょうか。実は、“仕事とプライベート”っていう言い方があまり好きじゃないんですよ。仕事もプライベートも、自分の人生の一部だと思ってますから。
分けてしまったら、なんか負けて…また負けてるって言っちゃいますけど(笑)、
諦めることになるんじゃないかって思うんです。そこは線を引いてなくて、自分のスキルをつけるって意味で捉えているので、全部同時進行でやりたいんですよね。
― 長島さんが「こんな風になりたい」、という目標にしてる人ってとても気になります。
同じ業界では…正直、いないですね。あえて設定していないというか。それ以外でしたら、歌手のマドンナは尊敬しています。彼女ってすごくストイックで、完璧なんですよ。
例えば、次の日やることを前日に全てメモに書き出して管理するらしいんですね。そういう、セルフマネジメント能力を身につけたいですね。仕事やそれ以外も全て完璧にこなしている、という点でも尊敬出来ますし。
― なるほど。そのマドンナに負けず劣らず、長島さんもいろんなことを全力でやってらっしゃると思うんですが、日々意識してることってありますか?
できるだけ、仕事だけを淡々とやらないようにしています。朝から会社で働いて、本当は寝たいけど音楽の時間もちゃんと確保する、っていうスタンスをとっていたら、自分の中でバランス取れたっていうのがあって。今はやっぱり両方やっていたいんですよね。だからやり切るしかない。きっと単純に仕事だけやっている人とか、単純に音楽だけやっている人とかに、負けたくないんでしょうね、私。そこで負けちゃったら、「やっぱりどっちか辞めるしかなかったんじゃん、あなたの選んだ道は間違ってた」って言われちゃいますから。それを乗り越えなきゃいけないと思います。
― では最後に、同世代のクリエイターの方に一言お願いします。
お互いがんばりましょう!(笑)やりたいことは我慢しないで、やった方がいいと思います。私も我慢していた時期とかあったんですけど、そうすると他のこともうまくいかなくなったりしましたし、諦めずにやったほうがいいって気付きました。
私のやり方は正しいかわからないし、とりあえず突き進んでいるだけかもしれないですけど、やりたいことを我慢せずにやるからには誰にも負けたくないし、やるといったからには、何よりも自分に負けちゃいけないんだなと思います。
― やりたいことを妥協せず、走り続けよう!という気持ちになりました。これからも、頑張ってください!本日はありがとうございました。
(おわり)
[取材] 梁取義宣 [文]高橋梓
編集 = CAREER HACK
4月から新社会人となるみなさんに、仕事にとって大切なこと、役立つ体験談などをお届けします。どんなに活躍している人もはじめはみんな新人。新たなスタートラインに立つ時、壁にぶつかったとき、ぜひこれらの記事を参考にしてみてください!
経営者たちの「現在に至るまでの困難=ハードシングス」をテーマにした連載特集。HARD THINGS STORY(リーダーたちの迷いと決断)と題し、経営者たちが経験したさまざまな壁、困難、そして試練に迫ります。
Notionナシでは生きられない!そんなNotionを愛する人々、チームのケースをお届け。