エンジニアの9割が販売員出身だというハンズラボ。彼らはなぜ素人を育てるのか。そこにどんなメリットがあるのか。代表の長谷川秀樹氏、そして販売員からエンジニアになった浅田茂太氏にも話を伺いながら、SIerで活躍するエンジニアの未来も考えていく、ハンズラボ・インタビュー第二弾。
▼ハンズラボ・インタビュー第1弾
エンタープライズ業界は危機感を抱くべし。―長谷川秀樹に訊く、ハンズラボの設立背景[前編]
システム受託業務・クラウドコンピューティングを利用したサービスを提供するハンズラボ。エンタープライズ業界が抱える問題を提起し、リテール分野においてフルスクラッチ開発で度重なる仕様変更にも柔軟に対応する納品を実現している。
驚くべきは、エンジニアの9割が東急ハンズの元販売員だったこと。実際に現場店舗で業務に携わった経験を、システムの開発に活かしているという。同社はなぜ、素人をイチから育てる選択をとったのか?ハンズラボ代表の長谷川秀樹氏とエンジニアの浅田茂太氏に話を伺った。
― ハンズラボのエンジニアは、90%が元販売員だと伺っています。育成を含めて、相当な苦労があったのではないですか?
長谷川:
驚いていただくことが非常に多いんですが、確かにウチのエンジニアは、9割が全くの未経験からスタート。前職は何かというと、販売員ばっかりです。言ってしまえば“ド素人軍団”ですね(笑)。
でも育成が難しかったかというと…。結局、業務を知っている、現場を理解している人間の方が早いんですよ。そういう人たちをエンジニアにしてシステム開発したほうが、スピードにおいても中身においても、上手くいくんです。だからこそ、ウチの会社が上手く回っているわけで。
― 素人を育てながらでも、やれるという確信があったんですか?
長谷川:
確信…まではいかないけれど、やれるという自信はありましたね。なにしろ自分たちでやりたかった。
ただ、最初からできることなどないので、仮にストップしても大きな支障がでない帳票分析などから始めました。この彼と一緒に。
浅田:
僕は店舗でバラエティグッズなどを売っていました。ある日異動通知を受けて、行ってみたら初日に「お前ら、自社開発やるからな」ってプログラミングの教本を渡されたんです(笑)。
― イチからどころか、ゼロからスタートですね(笑)
浅田:
本当に(笑)。けど、やってみると意外にできるんですよ。システム・プログラムに関しては当然勉強が必要でしたが、現場の業務を理解してるので全体の仕組みやどうすればいいのか?ということが身にしみてわかっているんですね。
いくらか仕事に慣れてくると、このバッチは自分たちで作った方が早いんじゃないか、なんで外に出すとこんなに時間がかかるんだ?って思うようになって。
内製化の決定打になったのは、外注先に頼んでいたシステムに大きな問題が起こった時でした。店舗の出店ラッシュ時にトランザクションがすごく増えて、ある日システムが完全にストップしたんです。
店舗からはひっきりなしに電話がかかってくる。ベンダーに問い合わせると、最低でも3時間はかかるっていわれる。けど、僕らなら20分でできるって思えたんですよ。まだまだ素人だったのに(笑)。
長谷川:
ド素人が、「自分たちでやっちまおう!」とかいってるわけですよ。僕が命令したわけでもないのに。イケるな、これは。と確信を抱くようになっていきましたね。
― 現場を知っていることが上手く活きたんですね。浅田さんはエンジニアとなった今でも、現場の意見を吸い上げたりなさっているんですか?
浅田:
年末などの繁忙期には店舗に応援に行きますね。そして実感するんです。ああ、現場ってこんな感じだなって。応援に行くと、仕事帰りに飲みにいくことよくあるんです。そういう場だと、本当に現場が不満に思っていること、そしてシステムで解決できる問題がどんどん出てくるんですよ。
四半期に一回とかの頻度で、意見を吸い上げる場を設けても、なかなか生きた意見は拾えない。会議みたいな形でコミュニケーションしていても、形式張ってしまう。
僕は生きた意見を吸い上げて、現場に尽くしたいと心から思っています。それも、自分が現場を知っているからでしょうね。
長谷川:
素人の彼らを育てるにあたり、僕がこだわっていることがあります。それは、保守・運用などをやらせつつもエンジニアとして、開発の仕事も任せること。
エンジニアは、やっぱり全工程を担当させることが一番いい。分業・専業が当たり前という風潮はやっぱりおかしいと思う。WEB系エンジニアがいい例ですよね。彼らは何でもやっている。
それに、UNIXのオープン化前なんて、一人のエンジニアが全工程を担当することは当たり前だったはずなんです。
― とはいえ、「プロジェクト規模によっては、分業・専業も仕方ない」という意見も根強くありますよね。
そんなことはないですよ。この仕事は人月単価の商売だから、予算が先にあって、その後に人数が決まってしまう。だから規模が大きくなるだけ。確かにトランザクションなどの問題はあるでしょう。ですが、リテールのシステムに関して言えば、ファンクションが同じなのにとんでもない違いが生まれるなんてあり得ないと思います。「規模が大きくなれば分業は当たり前」という考えは思い込みではないでしょうか。
長谷川:
僕は、エンタープライズ業界に危機感を抱いているけど、中小企業はまだいいと思うんですよ。
以前、IPAのディスカッションに参加したんですが、その時のテーマが、大規模・中小規模・WEB系のエンジニア、それぞれに必要なスキルのガイドライン作りだったんですね。すると、やたらとWEB系と中小規模のエンジニアが必要としているスキルが多い。対して大規模はあんまり多くない。
そこで、言ったんですよ。「これって、まとめると…中小のエンジニアが優秀で、大規模エンジニアはもうノ―フューチャーってことですよね?」って。そしたら、会場がシーンとなって(笑)。彼らも分かってるんですよ。あまりにも分業・専業していたら未来はないってことを。
個人的な話になりますが、僕の兄もエンジニアで、僕は一つ遅れてエンジニアになったんですね。けど僕も猛勉強したから、数年で兄を追いこしたと思ってたんです。けど、話をしてみると大きな隔たりがあった。
僕は、いわゆる分業型で、兄は中小企業でなんでも幅広くやっていて。できること・スキル・考え方…全てにおいて圧倒的な差を見せつけられた、という感じだったんです。追いつけていない部分が明確にあった。だから、このままじゃヤバいという危機感と、後悔があったんですよね。
たとえば、いま分業型で進むプロジェクトや、そういった会社にいたとしても、手をあげて小さなプロジェクトにアサインされたほうがいい。社内で知見を深めたり、スキルを磨くなら、それしか道はないと思いますね。
― 課題の多いエンタープライズ業界ですが、ハンズラボが業界にどのようなインパクトを与えていくか非常に楽しみです。最後に、これからハンズラボが目指していくところを教えてください。
長谷川:
僕らが目指すのは、SI企業、ユーザー企業、現場、三方良しのシステム開発ですね。そのためにも現場の意見はきちんと吸い上げていく。だからこそ、販売員をエンジニアとして育てることも続けていきます。
僕たちが特化しているのは、リテールという領域。ゆくゆくは流通・小売業界においてプロ中のプロになっていきたいんです。そのノウハウや技術は、きっと他業界にも応用可能だと思いますし、業界の活性化に貢献していければいいですね。
― 業界・エンジニアの可能性まで考えられる貴重なインタビューになりました。ありがとうございました。
(おわり)
[取材] 松尾彰大 [文] 梶谷竜也
今回お話を伺ったハンズラボが、エンジニア職の募集を行なっています!
ハンズラボでは元販売員をエンジニアとして育成する一方、会社設立から業務を拡大する中で、経験の浅い分野を担うエンジニアの募集も行なっているとのこと。業界の中で新しい取り組みを行なっている同社だからこそ得られる経験も多いはず。ユニケージやAWS、リテールに興味のある方、もしくは幅広い業務を自身で手がけてみたい方、ぜひチェックしてみてはいかがでしょうか?
編集 = 松尾彰大
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