デザイン的なアプローチで被災地支援や地域振興に挑むなど、ジャンルに縛られない活動で注目を集めるデザイン集団《NOSIGNER》。代表の太刀川英輔さんへのインタビュー後編では、デザインの応用性や社会的意義といったマクロな話から、WEBデザインへの問題提起といったミクロな話まで大いに語ってもらった。
― 今あらゆるところで「デザイン」が語られるようになっています。それってきっと、デザイン的な思考プロセスや方法論が、デザイナー以外の人にも役立つということではないかと思うんです。
そう思います。例えば IDEO という会社があって、うちの元スタッフだった子もいるんですけど、彼らはデザインの背景にある考え方をワークショップ化してシェアしたりしています。
デザイン的な考え方や思考プロセスを外在化することはできないと考える人も少なくないですが、もしそれをアウトプットして共有する方法が見つかれば、ひょっとしたらデザインの文法みたいなものが出来るのかもしれない。僕は、その可能性を強く信じています。
― 太刀川さんはデザインを「問いの追求」と「答えの導出」と捉えておられるとのことでしたが、その定義でいくと、デザイナーに限らずほぼあらゆる人が日常で無意識のうちにデザイン的な行為を行なっているとも言えますか?
ええ、まったくその通りだと思います。別に言葉のプロでなくても文章が書けるのと同じように、少なからず全ての人が何らかを発見したり創造する力をもっていると思う。みんながそもそも持っている力、日常的に行なっていることを、我々は意識的にデザインとしてやってるだけだと思います。だから、「みんなでデザインする」というか「集合知としてのデザイン」のようなものも存在し得るのかもしれません。
もうデザインを、専門家のみが持つスキルではなく、“タグ”みたいなものだと捉えるべきかもしれませんね。「インテル入ってる?」じゃないけど、「デザイン入ってる?」みたいな。デザイン的な歯医者さんやデザイン的な居酒屋の店長さんのような人たちが世の中には必ずいて、そういう人がきっと歯医者さんを変えていくし居酒屋を変えていくんだと思います。
僕はそのデザインの“応用”にこそ興味があります。デザインの持つ機能とはなんなのか、デザインは何に応用できてどんなことができるのか、その可能性が見たい。どうやってデザイン的な考え方を共有知化するか、誰でもリファレンスできる一般的な考え方に落とし込めるかというのは、課題ですよね。すごく面白い課題だと思います。
― いま世の中を見渡して、デザインの力で変えられると思う分野はありますか?
ひとつは「福祉」です。そもそも福祉を受ける方の人生を豊かにするはずのものが、いまは残念ながら介護者など福祉の供給者側の視点でしかデザインされておらず、それが結果的に福祉を受ける人たちのライフスタイルを壊してしまっています。
単純にスロープや手すりにしてもそうですが、生活が醜くなるようなものがたくさんあるんです。おそらくそれを、ユーザー自身も感じているはずで。もっとデザインされてしかるべき領域だと思いますね。
それから、「伝統工芸」の衰退というのは、おそらく皆さんが思っておられる以上のスピードで進んでいます。いま一番ウデのいい職人さんが70代くらいになっていて、その技術を誰にも継承できていない状況が各地でたくさん起こっているんですね。
だからデザインの力で、伝統工芸へのニーズを、今のうちからできる限り作っておきたい。伝統工芸がなくなることは、ある意味、日本のアイデンティティがなくなってしまうことに等しいと言えます。僕らデザイナーが、何とかしなければならない課題だと思いますね。
あとは、シリコンバレーのように「クリエイティビティ」が「資本」を動かすような状況が、日本でももっと起きるといいですね。シリコンバレーで優れたプロダクトやサービスが続々と生まれているのは、当然ですが投資の大きさと表裏一体になっていて。優れたクリエイティビティに対して出資をする人たちのネットワークが確立していて、アイデアや技術が世の中に出るまでしっかりサポートしてくれているわけです。
こうした動きが、日本ではまだすごく少ない。もっといろんなところで立ち上がってくれば、めちゃくちゃ面白くなる気がします。
― いまのお話は「社会的な問題」という言葉でくくれるような気がします。太刀川さんは被災地の復興支援にも関わっておられますよね?
東北の復興支援と、いまお話しした「伝統産業」「観光資源」の話は、実は僕にとってすべて同じ問いなんです。東北は今、たくさんの田舎の集合に戻りつつあります。そしてその田舎の一つひとつが、震災からの復興と、その場所から発信するものの価値の向上と、それをより良く伝えるためのコミュニケーションデザインのところと、それぞれに課題を抱えている。
僕は今回の震災を通じて東北には大きな縁を感じていて、今後もずっと何らかのプロジェクトを続けていくつもりなのですが、それは東北のプロジェクトということではなくて、例えば石巻の牡鹿という土地のプロジェクトだったり、大槌という土地のプロジェクトだったり。よりミクロな、各土地との関わりの中で生まれてくるものに、どんどんシフトしているような気がしています。
― ただ震災被害だけを見るのではなく、各地域が本来かかえていた課題から解決していかなければならないと。
そう、例えば東北各地で堤防を高くしようという話があがっていますけど、いま若い人たちがいなくなってしまっている中で、そこに高い堤防だけあっても実際のところうまくはいかないんです。
だから少し大きく見たときに何が解決になるのか、本質的な問いを見つけなきゃいけないし、その問いを解決できる仮説が見つかったら、次はその仮説をみんなで“納得”しなきゃいけない。納得のプロセスがなければ、結局はうまくいきません。場所は人に紐づいているから。
だからこそ今、地域の人たちが集まって「集合知」としてその場所を高めていける仕掛けを作ること、いわば「集合知的なデザインの手法」が求められているんだと思います。僕らが震災直後に立ち上げた《OLIVE》というWEBサイト(被災地での生活を助けるデザインやアイデアを集めるデータベースwiki。誰もが自由に投稿することができる)は、まさにその試みの一つ。「あらゆる人がデザインする力を持っている」という仮説と、「デザイナーの頭の中にある方法論は共有知化することができる」という仮説とを掛けあわせた、僕にとっても最も重要な課題の一つです。
― 最後に、少しミクロな話になるのですが、今の「WEBデザイン」に関して何か思ってらっしゃることがあれば教えていただけますか?
僕もWEBのデザインやりますけど、今ってものすごく過渡期じゃないですか。Flashが一気に否定されたことによって、Javascript祭り・JQuery祭りみたいな状況になっている。限定された範囲の中での表現を競い合うから画一化してきますよね。
なかなか上手く言えないので僕らのWEBの話をすると、最近 NOSIGNER のWEBサイトをアップデートしたんですよ。僕らは情報整理の手法として「コンセプトメイキング」と、そのための「リサーチ」がすごく大事だと考えているのですが、その考えにもとづいて、WEBサイト上の情報を「リサーチ」「コンセプト」「デザイン」という3つのカテゴリーに分けて整理することにしたんです。Javascriptでできる表現を追求するとかそういうことではなくて、どういった方法論を用いたらシンプルに情報をまとめられるのかという大きなストラクチャーを持てたことで、僕らのWEBサイトは以前に比べて一気に分かりやすくなった。
それと同じことが、いろんなWEBサイトにも言えると思います。もっとストラクチャーの部分で勝負するようなWEBデザインがトレンドになってもいいのではと思います。
僕らは NOSIGNER のWEBサイトを「ユーザーがツールとして使える辞書的なもの」にしたいと考えています。僕らのポートフォリオだけでなく、リサーチしたことや思ったこと、あるいは一般的なデザイン用語集のようなものも入れていく。そうすることで、今まで NOSIGNER に興味のある人にしか見てもらえなかったWEBサイトが、誰かにとっての道具になりうるはず。高齢化について調べていたら、偶然 NOSIGNER のサイトにある資料にたどり着いたとか。僕らが作ったインフォグラフィックを、欲しい人が自由にダウンロードして使えるようにしたりとか。
― 「デザイナーの頭の中にあるものを共有知化する」というお話にも繋がってきますね。
そうですね。やっぱり僕はデザインが大好きで、その力や応用可能性を信じているんです。デザインはもっと世の中を豊かにできるはずだし、もっといろんな人たちにとって、デザインが特別なものでなくなればいいと思っています。
(おわり)
文 = 松尾彰大
編集 = CAREER HACK
4月から新社会人となるみなさんに、仕事にとって大切なこと、役立つ体験談などをお届けします。どんなに活躍している人もはじめはみんな新人。新たなスタートラインに立つ時、壁にぶつかったとき、ぜひこれらの記事を参考にしてみてください!
経営者たちの「現在に至るまでの困難=ハードシングス」をテーマにした連載特集。HARD THINGS STORY(リーダーたちの迷いと決断)と題し、経営者たちが経験したさまざまな壁、困難、そして試練に迫ります。
Notionナシでは生きられない!そんなNotionを愛する人々、チームのケースをお届け。