オールアバウト、nanapiなどのIT企業や、様々な制作会社をさすらってきた「さすらいのデザイナー」佐々木恒平さん。彼はなぜ数々の会社を渡り歩けてきたのか?キャリアの選択軸とは?10年前は超エゴイストだったという佐々木さんが、いかにスキルの幅を広げてきたか。これまでのキャリアに迫ります!
【プロフィール】佐々木恒平
倉敷芸術科学大学を卒業後、様々なアルバイトをしながらデザイナーのキャリアをスタート。国内外を問わずに、数多くのデザイン設計を手がけ、デザイナー、ディレクター、グロースハッカーなどプロジェクトに応じ、職種の壁を超えて活躍。2015年春、クリエイティブコンサルティングを中心とした自身の会社、「株式会社ウルトラ」を設立した。
― まずデザイナーを志したきっかけから伺ってもよろしいでしょうか?
学生時代からWEBサイトのいろんな手伝いをしていて、Perlで掲示板つくったり、コーディングしたり、そういう経験があったので、デザイナーをやっていこうかなと。ただ、上京したての頃はカフェのバリスタからコンサルタントのアシスタントまで、いろいろバイトしながら就職口を探していました。第二新卒で制作会社に入社したのがキャリアのスタートですね。
当時の自分をふりかえると、本当にひどいデザイナーでしたね。アプリケーションの使い方もろくにわからず、フォトショのパスの抜き方も知らないレベル・・・にも、関わらず「とにかく派手な動きがしたい!」って理由で、Flashのサイトばかり作ろうとしていて。いわゆる「手段が目的化」しちゃってるタイプ・・・超エゴイストでした。
― 最初はダメなデザイナーだったんですね(笑)
そうなんですよ。本当にダメなデザイナーですよ。ターニングポイントとして、最初に入社した制作会社の厳しい先輩に「お前、こんなんじゃダメだ!」と徹底的にしごいてもらったことですね。
半年間は土日は先輩の下で、WEB標準とか、特殊な分野ですが、視覚障害者に向けたコーディングの仕事とか、ユーザビリティとか、アクセシビリティとか、本質的なことも含め、いろいろと学ばせてもらいました。それだけ散々に怒られた経験があったおかげで、どこでもやっていける軸ができたような気がしてますね。まぁ先輩ってのは、めちゃくちゃ怖い人しかいない気もしてますが(笑)
― そこからオールアバウトへの入社で、さらにスキルの幅を広げていったわけですね。
そうですね。今はまた変わっているかもしれないですけど、当時はサービスの設計からゴールまでを、ワイヤーフレームでみんなで考えようというスタイル。ディスカッションしながらデザインする、現場にもっとも重要なスピード感を学ぶことができました。自分が作成したデザインである必然性を説明するなどのスキルも得られました。なにより実装したデザインが、数字という形で、すぐに反映されるライブ感が味わえました。その体験は現在の自分の根幹になっていると思います。
― その後、オールアバウトを退職され、海外で仕事もしていますよね。
そうですね。とはいえ「海外」って聞くと、イメージで「チームメンバー全員が凄い人」みたいに聞こえますが、たしかにみんな優秀ですけど、スキルなどは日本と変わらないと思いました。むしろ日本の方が、デザイナーの教養面での平均点は優れてるんじゃないかなと、個人的には思っています。ただ、14歳のエンジニアとか、おじいちゃんのハッカーとか、そういう懐の深さは海外にはありますね。あと、どこに言っても「ジャパニーズデザイナー」と言われたのが印象的で。日本人のもつ、クリエイティブのミニマリズムとか、デザインや仕事の平均点を知っていれば、必ず活躍できると思ってます。
― 国内外含めてIT企業、制作会社とさまざまな会社で経験を積まれてきた佐々木さんですが、「これからのデザイナー」の役割はどうなっていくと思いますか?
日本だとデザイナーってどうしても「見た目を何とかする人」というイメージがあるのですが、デザイナーはもっと「問題を見る人、解決する人」になっていくと思います。問題を注視できれば、ファシリテーターとして振る舞うこともアリだし、何をやってもいい。「デザインは変えないで、このままいきましょう」と判断することもデザイナーの仕事ですし。…ある意味で「仕事はしません!」って断言しているみたいで勇気がいりますけど(笑)
デザイナーってかわいそうなポジションなんですよ(笑)我が子のようなデザインに色んな人から文句を言われたり、さも簡単に「ちょっと変えてよ」って言われたりしてますが、実際は泥臭い仕事。インターフェースのアイコンひとつでユーザーの行動が変わる時もあるし、数字を大きく左右するから責任は重大で。それにも関わらず、未だにデジタル領域のデザイナーは色眼鏡で見られることがあるし、給与も他の職種に比べると、往々にして低い場合が多い。
私自身、ディレクターにならないと、給与を上げれないと言われたこともあります。そんな人たちのステータスを引き上げていきたいし、私自身もイベントなどを企画したりしてます。もちろん各々が努力することも大事なことで。
たとえば、その一例として「徹底的に考えるだけの日」を持ってもいいのかもしれません。PhotoshopやIllustratorを触らず、プロジェクトを真摯に見つめて、仕組みを考えたり、そもそも社会に対してどうアプローチしたら良いんだっけ?とか、ソーシャルグッドなデザインってなんだろう?とか、多角的に考えてみる。その先で、何でもいいからガツガツとアウトプットしていく。プロトタイプをスピーディーに作って、関係者からの「意見」をどれだけ早いタイミングで引き出せるか。当然、今も昔も「安い、早い、巧い」といったマインドはずっと重要だと思っていて、そのプロセスや捉え方が変化するものなのかもしれませんね。
― ちなみにどのような判断軸でキャリアの選択されてきたのか、すごく気になる部分でもあるのですが。
僕の場合は、まぁ…流石にこんだけ転職してるので職歴の多さは気にしないんですが…そうですねぇ…誰でも基本的には「カッコいい自分」を求めるものですから、その職場に残って踏ん張った方が「カッコいい」と思えば残るし、次に移った方が「カッコいい」自分がイメージできれば移る感じですね。
デザイナーってメンタルがすごく大事なんですよ。失恋した後のデザインとか、すぐに分かりますもん。「なんかコレは暗いな」って(笑)なので、他の職種の人に比べると、引きずらないで気楽に転職をすることが大事なんじゃないですかね。けど、実際にはナイーブなデザイナーって多いですけどね(笑)
― カッコいい自分がイメージできるかどうか?ここを軸に「さすらい」を続けてきたんですね。「さすらう」ことの具体的なメリットとは?
インプットの量が増えることかと思います。自分の場合は、転職が多かったことでさまざまなスタイルを学ぶことができましたし、さまざまなデザイナーと出会えた。デザイン全体の考え方も学ぶことができたと思います。とはいえ、最近はひとつの会社にいても、学ぶべきことが次から次にやってくるので、デザイナーも転職する必要ってないかもしれないですね。とりあえず、この記事を読んでる人はまともな人が多いと思うので、ジョブホッパーになるのは、オススメしません(笑)
― いよいよご自身のデザイン会社「ウルトラ」を設立されましたが。
正直に言うと、親の介護などを考えた時に、起業の方が自由に働けるかなと思って立ち上げたので、起業家がよく言うアントレプレナーシップみたいなのは、特に無いです。また、これがデザイナーのキャリアの集大成とは全く思ってないです。むしろ、これまで学んでこなかったことを、これから知りにいくという感覚ですね。
「ウルトラ」って名前については、デザインで問題解決するとか、これもうヒーローじゃないですか。形容詞って意味では「過激」とか「やり過ぎ」とか悪い意味もあります。実はそんなにいい言葉じゃないんですよね。そこも可愛げがあっていいなぁと思いました。なんかキャッチーで、レトロで、可愛くて、少しだけ悪そうじゃないですか(笑)
― そういった意味が込められていたんですね。まさに「ウルトラ」な新しいデザイン、そして今後のご活躍に期待しています。ありがとうございました。
[取材・文] 鈴木 健介
編集 = 鈴木健介
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