カップル専用アプリ「Pairy」を運営するTIMERS、CEOの高橋才将さんはデザイナーを兼務する珍しい社長だ。なぜ「デザイナー社長」にこだわるのか?その背景には「現代のブランド構築」に関する考え、世界標準を目指すスタンスがあった。
カップル専用アプリ「Pairy」や子育て家族アプリ「Famm(ファム)」をご存知だろうか?
いずれもApp Storeで星平均「5.0」と高評価(2015年5月20日段階※編集部調べ)を獲得するクローズドSNS。運営元は2012年に立ち上がったスタートアップ、TIMERSだ。
この高評価と、CEOである高橋才将さんが、デザイナーを兼ねていることは決して無関係ではない。驚くべきは高橋さんが独学でデザインを学び、CEOとデザイナーを兼務し続けてきたこと。
そんな独自のスタンスの裏側には「理屈では説明できない “体験”をデザインし、世界標準を狙う」といった思いがあった。
― まず起業のきっかけから伺ってもよろしいでしょうか?
学生時代に一度起業したのですが、もう一度、「自分なりに誇りを持てる事業をやってみたい」という思いがあったからですね。
新卒で博報堂に入社し、2年ほど営業として働いていたのですが、さまざまな企業と接するなかで「哲学がある会社とない会社」の違いを目の当たりにしました。「儲かるから」ではなく、世界をどう良くするか。
その中でも自身が起業するにあたって、クローズドのSNSに可能性があると感じました。たとえば、一人なら牛丼屋でご飯を済ませますが、恋人同士なら思い出に残るカフェに1000円、2000円と払って行きますよね。恋人や家族など“より深い関係構築”は人間の根源的なエネルギーですし、支えていく意義がある。ビジネスとしても面白いですよね。
― その事業展開において、なぜCEOとデザイナーを兼務されているのでしょう?かなり珍しいスタイルですよね。
もちろん、CEOとして事業計画やファイナンスは凄く重要ですが、今はプロダクトを最重視していて、何より「デザイン」と「体験」を両立させることで“今の時代の新しいブランド”をつくりたいと考えているからです。
広告の営業をしていた時代、スターバックスさんを担当したことがあり、すごく印象に残っています。店舗で働くほとんどのメンバーはアルバイト。時給が高いわけでもないのに、みんなスターバックスの哲学を信じて、高いモチベーションで働いている。「自分たちのやっていることがいかに人々の生活を豊かにしているか」を理解しています。しかも、そんな場所が世界中にあるなんてすごいですよね。自分がやるならこういう事業がやりたいな、と。
スターバックスは「現代における300円のブランド」だと考えています。少し前までは高価なものでないと「ブランド」として成立させるのは難しかった。ただ、今は「デザイン」と「体験」を両立させることで、たとえ300円でも世界で通用するブランドになり得ます。こんな考えが「デザイン」を重視する理由ですね。
― 前職が営業ということは、デザインに関しては素人だったということでしょうか。どのように勉強したのでしょう?
起業にあたってPhotoshopを買って、ひたすら自分でいじって、わからなければググるという地道な方法で学んでいきました。真似して作ってみたり、ひたすらいろいろなパターンを出したり。師匠がいないので教えてもらえないし、無駄も多かったと思います。はじめはオフィスもないので、ひたすらマクドナルドにこもってデザインに没頭して。ハンバーガーがちょっと苦手になるくらいマクドナルドに入り浸っていましたね(笑)。
― 逆に、遠回りしたことで良かったことなどはありますか?
必ずしも教科書通りのデザインじゃなくてもいい、こう考えられるようになりました。いい意味で、「例外」や「無駄」を許容できるというか。
WEBデザインの世界は、突き詰めていくとロジックに寄りすぎて、平坦でどれも同じようなデザインになってしまう恐れがあります。でも、僕らがやろうとしているのはソフトウェアでブランドを作ること。ブランドを作るときは、どこかに無駄を許せた方がいいというのが持論です。もし自分がウェブデザインのど真ん中からいっていたら、そういう発想は生まれなかったかもしれませんね。
— 「無駄を許容する」というのはアプリにも反映されているのでしょうか?
そうですね。僕らが開発した「Pairy」でいえば、教科書的にはダメなデザインだとしても、「こっちのほうがカップルにとって嬉しいよね」となれば、そっちを選ぶ。ロジックだけを追い求めてもしょうがないと思っています。ロジックを排除しないと僕らの思うブランドも、体験も、作れないと思うんです。課題を解決するとかじゃなくて、単純に「恋人同士、二人の思い出をもっとよくする」というもの。そもそも二人が付き合っていることにロジックなんてありませんよね。
― 前職がインターネットの世界ではなく、広告の世界から入ったからこその視点かもしれませんね。
それはあると思います。広告代理店での仕事って抽象的な話をちゃんと突き詰めて議論する、ということをやるんですよ。グラフィックデザインが最たる例ですけど、「シズル感がどうだ」「どう感情が動くか」「心に刺さるか」「イケてるイケてない」で延々と会議をしたり。
最初は戸惑うのですが、議論を繰り返すとチームに共通言語が生まれ、抽象度の高い意見でも互いに理解し合い、ブラッシュアップできるようになります。
今も「なぜそれがいいのか」をディスカッションし、深掘りするのが当たり前になっていますし、ランチの時間など、みんなで他社のアプリを使ってみて、肌触り、感覚的な部分、どう感じられるか?など話すようにしています。
WEBの世界は直近の業務タスクだけ見て、どうしてもロジックと数字に寄ったものになりがち。同時に「感覚値」をすり合わせることも非常に重要だと思っています。
― まだまだ日本では少ない「デザイナー社長」ですが、経営者はデザインを知るべき、もっといえばやってみるべきだと思いますか?
経営者として何を大切にするか?哲学や価値観、事業における優先順位によって様々だと思います。ただ、「デザイン」を勉強することで必ず見えることはあるはずです。
本来、モノづくりにおいて「こだわる」って最も楽しいことですよね。なのに「数字に影響しないからやる必要ないでしょ」と切り捨てるのはもったいない。
僕らとしては、せっかく「恋人」や「家族」という世界共通のテーマでやっているので、グローバルに使ってほしい。そのためにデザインは最も必要なものの一つですし、課題でもあると考えています。
どうしても経営の現場で「デザイン」は軽視されがちですが、少しの妥協の積み重ねが”なんとなくダサい雰囲気”を生み、サービスに対するエンゲージメントを下げる原因にもなりかねません。
日本の基準で「まあコレでいいか」で済ましてしまうと世界標準のサービスにあっという間に抜かれてしまう。技術やマーケティングで差別化ができなくなった時、体験を含むデザインでの差別化はより求められるはずです。
もっといえば、日本を「デザインのダサいサービスを生み出す孤立した国」にしたくないんです。「日本出身のデザイナー」の地位もあげたい。
そういう意味でも、トップがデザイナーの会社って、集まる人材も、作れる事業も、とても面白いと思っています。経営者としては「デザイン」というものが「TIMERSで働きたい」と思ってもらえる理由になったらいいなと。
単なるモノマネアプリで稼ぐんだったら、僕らじゃなくてもいい。せっかくなら他とは全く違うチームにしたい。自分たちにしかできない事業にしたい。それも僕が「デザイナー社長」として、ここにいる意味だとも思います。
何より、エンジニアだろうが、ディレクターだろうが、コーポレートだろうが、自分が働いている会社のサービスがいいデザインの方が気持ちがいいですよね。そういった「一緒に働くメンバーがどう感じるか」も大切にしていきたいです。
― 「デザイナー社長が旗を振る会社」として、組織面でもチャレンジしている最中ということですね。今後のさらなる組織拡大、そして展開を楽しみにしています。本日はありがとうございました!
[取材・構成]白石勝也 [文]柳澤明郁
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