2015.05.13
はてな 松木雅幸の挑戦 「コードを書き続けるエンジニアが苦労しない働き方を示したい」

はてな 松木雅幸の挑戦 「コードを書き続けるエンジニアが苦労しない働き方を示したい」

「コードを書き続けたい」。こんな想いを胸にはてなへ入社したのが、松木雅幸さんだ。コードを書き続けるよりも、マネジメントラインへキャリアアップが一般的なエンジニアという職種。にも関わらず、なぜ彼は「コードを書き続ける」という選択をしたのか?決断の背景、エンジニアという仕事への想いを聞く。

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コードを書き続けるという働き方。

WEB・IT業界のキャリアプランを語るうえで欠かせないのが、マネジメントラインでの活躍。エンジニアとして培った知識・スキル・経験をベースにプロジェクトを成功させるための旗振り役としての活躍が期待され、評価されるのが実情だ。

「エンジニアとしてコードを書き続けるにはどうすればいいのか」

こんな問いを、2014年9月にはてなへ入社した松木雅幸氏に投げかけてみた。元々カヤックで活躍していた彼は、「コードを書き続けたい」という想いのもと、はてなへ入社した。では、なぜ彼ははてなを選んだのか。チーフエンジニアとして、実務に加え、メンバーのメンタリングを手がける彼の目指す姿とは。話を聞くことで、エンジニアがコードを書き続けるための道しるべが見えてきた。


【Profile】
松木 雅幸 Masayuki MATSUKI (はてなID id:Songmu/Twitter @songmu

株式会社はてな チーフエンジニア
慶應義塾大学環境情報学部で中国語と機械翻訳の研究に注力。卒業後中国へ渡り、ITベンチャーの立ち上げに関わる。その後に帰国し、印刷系SIerでの業務、カヤックでソーシャルゲーム開発のリードエンジニアなどの経験を経て、2014年9月にはてなに入社。東京オフィスでチーフエンジニアを務める。

コードを書き続けるための転職。

― まず、松木さんご自身がカヤックへ入社した経緯と、はてなへ移ることになったきっかけから教えてください。


元々SIerに在籍していたのですが、立場がPL、PMへと上がっていくと、コードを書く時間は減ってくるわけです。それで、「コードを書き続けられる環境を」と考え、カヤックへ移りました。で、カヤックで結構大きいプロジェクトを任せてもらって、それが一段落したことと、しばらく休業の時間が欲しかったことから、退職しました。


ブログの“FA宣言”も話題になりましたね。20社くらいからオファーを受けたとのことですが、そのなかでもはてなを選んだ経緯を教えてください。


“成長できそうなところ”と“必要としてくれているところ”というのは軸として大きかったと思います。あとは何と言っても、“コードを書き続けられるところ”ですね。はてなはPerlを多く利用している会社なので、そこに対して僕自身が過去培ったPerlでの強みが活かせると思っていました。また、今はてなではScalaやGoなどのパラダイムの違う言語での開発もしていて、新しい挑戦ができる点も魅力でした。

オファーはCTOの田中慎司からもらったんですけど、「東京でリーダーシップをとれるエンジニアがほしい」という話を聞いて、はてなに興味を抱きました。はてなにとっては、京都・東京の二拠点制になってから、東京にエンジニアを設置するのは初の試みで、会社自体が変わろうとしているタイミングだったんです。元々成長意欲は強いほうだと思うので、会社の成長と自分の成長をマッチさせていくことができれば面白いな、と。


― ご入社されてからギャップに感じることはなかったですか?


はてなのエンジニアってガチ理系の人が多いんです。僕はどちらかといえば文系ヨリの学部を卒業して、現場で学んでここまでやってきたので、コンピュータサイエンスの知識などは足りない部分があると思いました。でも、そういう人たちと一緒に働けるのはすごくイイと思っていたし、「だからこそ来た!」みたいな部分もあったんで、ネガティブな感情はなかったですね。

はてな エンジニア 松木雅幸 id:Songmu

コードを書き続けるために選んだ、「はてなのチーフエンジニア」。

― 2014年9月。34歳で入社して、2015年2月にチーフエンジニアへの就任が決まったわけですよね。少なからずマネジメントに携わることでコードを書き続ける機会は減ると思うのですが…。


前提として、はてなのチーフエンジニアはマネジメントラインに立つというより、実務と並行して他のエンジニアのメンタリングをするような立場なので、全然コードを書かないというわけではないんです。

他のエンジニアとの差は感じながらも、チーフエンジニアとしての役割を要請されたからには期待に応えようと思いましたね。基本的に仕事は断らないので。会社や自社エンジニアのプレゼンスを上げることに貢献したり、自分のこれまでの経験を若手に伝えたり、に貢献できればいいな、と。

自分の力量以上のミッションを託されることってスキルを伸ばすチャンスだと思うんです。チーフにならないとチーフのスキルって強化されないじゃないですか。自分にとって必要なキャリアだと思ったから、ジレンマはありませんでしたね。


― コードを書き続けつつ、新しいチャレンジをスタートしたということですね。実際にやってみて、心境の変化はありましたか?


今は職務上はMackerel(マカレル)というサーバー管理・監視SaaSのディレクターを担当していて、コードを書く量は少なめになっているのですが、今の仕事は今の仕事で楽しいので、これでいいのかな、と思っています。Mackerelはエンジニアに向けたサービスなので、エンジニアである自分たちも使えるサービスのディレクションに携われるのは楽しいですね。また、最近他のチーフエンジニアが別のチームに移ってコードを書いているんですね。会社として今後ジョブローテーションみたいなのを積極的にやっていこうという考えがあるし、自分はそういうのを促進していく立場にあるので。今はコードを書くことだけをやっているわけではないんですが、それに対する不満はありません。

あと、目の前のコードだけを追いかけていっても、将来どうなるのかって未知数じゃないですか。なんだかんだお金を稼げないといけないので、誰かが仕事を取ってきてくれてそれをこなすだけだと、ちょっと不安定だな、と。ちゃんと自分で事業なり、サービスなりを生み出して、お金を稼ぐというその過程でコードを書くというサイクルが回せるといいなと思っています。


― 将来の話が出ましたが、チーフエンジニアとしてのビジョンってあるんですか?


そういったものはあんまりないですね。ただ、コードを書きたいし、コードを書き続けた先にちゃんと未来があるということは示していきたいと考えています。若いエンジニアは特にそうだと思うんですけど、コードを書けなくなったあとのキャリアとか考えたくないはずなんですよ。僕自身はそれでいいと思っていて、今後そういう生き方をするエンジニアは増えると思うので、そのなかの一人になれればいいなと思っています。


― コードを書き続けることにそこまでこだわれるのって何か理由があるんですか?


たぶん僕はコードを書くのがそんなに向いていないんです。どうしてもマネジメント側の視点で考えがちで、いつまでもコードを書き続けられないんじゃないか、と思っている部分も心のどこかであって。でも、エンジニアである以上コードは書き続けられる存在でありたいし、「コードがニガテだからマネジメントで」みたいな逃げ方はしたくなくて。偉くなってコードは書かないという感じになっちゃうと、若手に夢を与えられないので。そうじゃない姿を見せ続けたいとは思っていますね。

はてな エンジニア 松木雅幸 id:Songmu

エンジニアを夢のある職業に。

― コードを書き続けたいと考える若手はどうすればいいでしょうか?


僕は楽しく働きたくて、「自分は自分がやりたいことをやっているんだ」ということを実感したいんですよ。なので、どんな状況でもどうすれば楽しく働けるかとか、どうすれば自分のやりたいように持っていけるか、を考え続けることが大事だと思っています。

たとえば、自分がコードを書き続けたいって思うのなら、コードを書くためにどう周りを巻き込んでいくのか、どうやって周りにコードを書いてもらいたいと思わせるのかみたいなところが、大事なんじゃないかと。まぁ、普通の話なんですけど(笑)。


― 最後に、エンジニアのキャリアについて考えがあればお聞かせください。


キャリアは、結構楽観的に考えています。楽観的に考えるようにしているというのが正しいんですけど、何とかなるだろうな、と思ってますね。

エンジニアのキャリアって、ある程度スポーツ選手のキャリアと似ている部分もあると思っていて、基本的には、スポーツ選手も現役バリバリのときに引退後のことって考えないと思うんですよ。エンジニアもそれでいいと思うし、みんなが同じように「いけるところまでいこう」と思えるような世界にしていけたらいいな、と。あと、スポーツ選手はハイリスク・ハイリターンですが、エンジニアは割とミドルリスク・ミドルリターンで、割といい職業だなと思っています(笑)。なので、ちゃんと夢のある職業にしていきたいですね。

ちょっと違う話なんですけど、最近はてなでは、社員が長く働ける会社にしたいと言っていて。今の時代、しかもWebの会社がそういうメッセージを発信するのって、逆に新しいじゃないですか(笑)。だから、そういったところにも貢献できるような存在でありたいと思っていますね。ちゃんと年齢を重ねてもエンジニアとして働いて、生きるのに苦労していない感じを出していきたいと思います。


― 世の中のエンジニアには、松木さんと一緒に働きたいと考える方が多くいらっしゃるかもしれませんね。松木さんの考えが業界全体に広がっていくことを心より願っています。本日はありがとうございました!


[取材・文] 田中嘉人


文 = 田中嘉人


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