2016.01.13
2030年を想像するときに知っておきたい6つのキーワード|TWDW2015

2030年を想像するときに知っておきたい6つのキーワード|TWDW2015

2030年。近いようで遠い、遠いようで近い未来を想像したことはありますか?TWDW2015の千秋楽のテーマは「都市×働き方」。セッションのなかで紹介された「2030年の都市と働き方」を考えるうえで知っておきたいキーワードとは?

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2030年、私たちはどんな働き方をしているんだろう。

2020年のさらに10年後。2030年という未来を想像したことはありますか?

TOKYO WORK DESIGN WEEK 2015(以下、TWDW2015)の最終日に開催されたプログラムでは、博報堂とアルスエレクトロニカの共同事業 FUTURE CATALYSTSから掲げられた『”POST CITY” のFuture Work~2030年、私たちはどのような働き方をしているのか~』というテーマでトークセッションが行なわれました。

「これから都市×これからの働き方」という、これまでのTWDW2015のプログラムとは少し毛色の違う今回のテーマ。今回CAREER HACKでは、登壇者の中の二人、カフェ・カンパニー 楠本さん、Ars Electronica Futurelab(アルスエレクトロニカ フューチャーラボ)小川さんのプレゼンテーションに出てきた

【1】優柔不断バンザイ
【2】感情労働
【3】辺境の力
【4】インダストーリー
【5】ロボティ二ティ
【6】生命感


という6つのキーワードをピックアップしてご紹介します。果たして、どういうことなのか。そして、2030年、私たちはどこで、誰と、どのような働き方をしているのでしょうか。

未来のことは過去を振ってみると考えやすい。

起業家、経営者としてご活躍中のカフェ・カンパニーの楠本さんは、「10年後の都市と働き方を考えるための視点」についてお話しくださいました。

都市と働き方ということで10年後ぐらいを考えようという話なんですけど、「10年後なんて考えられねぇよ」「どうなるんだろう」みたいな話はあると思うんですね。で、一番手っ取り早いのは10年前を考えることなんです。10年前の記憶を思い出して、今を客観視する。

どうですか?当時は考えられなかったことが現在は結構起きちゃってますよね。iPhoneとか。10年前を考えると10年後ってわりと想像しやすくなりません?個人的なイメージで言いますと、スーツはなくなってると思います。具体的には「仕事だからスーツ」みたいなものは多分なくなって、スーツを"楽しむ”文化になると思うんです。実際に今でも「俺ホワイトカラーだ」なんて言っているウォール街のお偉いさんたちは、どこか行っちゃって、西海岸のサードウェーブだったり、あるいはオルタナティブな人たちがもうA面になっちゃってますから。そうなると、これから10年後ってすごいですよね。なんかいろんなことが起きそうです。


カフェ・カンパニー株式会社_楠本さん

カフェ・カンパニー株式会社 楠本さん


勝手に10年後のキーワードだけ言いますと、1つは「優柔不断バンザイ」ってことですね。決断力こそ経営の要であるみたいことはありますし、僕も経営者なんで決めなきゃいけないことはいっぱいあります。AかBか二者択一でどっちだ?って。でも、これからはどちらかを決めるのではなくて、AもBも包括的に理解して、どっちもやる。全体のバランスを見る力、あるいは余白力って言ってるんですけど、要するに規制とかじゃなくて、もうちょっとゆとりを持つとか、揺らぎをつくるとか、かわすとか…そういった”柳”のような力が求められるんじゃないかと思います。

2つ目は感情労働です。僕はホスピタリティ事業をやっているので社員にもよく言うんですけど、10年後の未来の話になるときって大体ロボットの話やビッグデータの話になりますね。でも、データって全部過去のものですよ。尊敬の意味を込めてあえて言いますけど、未来をつくってきたのは"バカタレども”の想像力とクレイジーなデザイン力。本田宗一郎さんだって別にマーケティングから入ってないでしょ。「つくりたい」という気持ち。だから、POSデータとかビッグデータとか、過去解析から未来を見るのだけでは僕は不充分だと思うんですよ。否定してるわけじゃないですよ。ビッグデータは人間の暮らしにとって必要です。しかしながら、未来を生み出すのはバカタレたちですから。感情労働っていうのはそういう意味です。

3つ目は、辺境の力みたいなものだと思うんですね。わかりやすいのが、英国の情報誌『モノクル』の都市ランキング。モノクルは要するに旅人目線、もしくはクリエイティブパーソン目線なんですよ。モノクルだと日本の都市が東京、京都、福岡3都市入ってます。要するに誰のための都市なのかをステレオタイプで考えないで、何のどういう人たちに集まってほしい都市なのかという意思を持つことも結構POST CITYだと思います。

クリエイティブシティ、「リンツ」から見えてきたPOST CITYのキーワード。

アルスエレクトロニカ フューチャーラボの小川さんは、なんとオーストリアのリンツからSkype参加。アルスエレクトロニカのあるリンツの事例を中心にお話しいただきました。

今日、僕はオーストリアのリンツにあるアルスエレクトロニカ フューチャーラボってとこにいます。2007年にオーストリアのリンツに移住して、当初1年間の滞在予定でしたが、今8年が経過して現在は税金もこちらで払っていまして、東京からだと約9500キロ離れてるんですけど、僕なりにPOST CITYや2030年の働き方について話をしたいと思います。

ちょっと簡単に自己紹介しますね。僕はもともとアーティストとして活動していて、アルスエレクトロニカでもアーティストとして働きはじめました。センス・ザ・インビジブルというテーマで、目に見えないことを知覚するような作品をいろいろつくっていきました。テクノロジーの進化で変わっていくこと、変わっていかないことを可視化したり体験できたりする作品を制作してきました。今はアーティストとしての仕事だけではなくてアルスエレクトロニカ フューチャーラボでキュレーションや研究開発、企業コンサルタントとしても働いています。自分だけのユニークな職名、クリエイティブ・カタリストとして、創造的な化学反応を起こす役割を担っています。

僕の住んでいるリンツはウィーンとザルツブルグの間に位置する町で、ヨーロッパのちょうど中間点的な場所にあります。ドナウ川のその落ち着いた街並みで、人口19万人のコンパクトシティです。もともとは産業の拠点で工業都市として知られていましたが、1970年代にどうやって新しい文化都市をつくっていくのかという議論が起こり、1979年にはじめて、アルスエレクトロニカフェスティバルというメディアアートのフェスティバルが行なわれました。以来、アルスエレクトロニカというリンツの触発機関はフェスティバルを運営するだけでなく、プリアルスエレクトロニカ(コンペティション)、センター(美術館、エデュケーションセンター)、そしてフューチャーラボ(研究開発部門)の創設に至るまでに変化・成長し、その成長とともに、リンツは今やヨーロッパを代表するクリエイティブシティとして知られています。

アルスエレクトロニカが1979年当時からずっと掲げているのが「アート、テクノロジー、ソサイティ」というスローガンなんですけど、常に新しいことに挑戦していく姿勢として、”何とかアート”のようなカテゴリーを決めなかったのは非常にスマートだと思っています。今の時代のコア・テクノロジーってコンピューターとかロボットとかいろいろあると思うんですけど、50年後には変わってると思うんですね。

Ars Electronia Futurelab 小川さん(Skypeで参加)

Ars Electronia Futurelab 小川さん(Skypeで参加)


テクノロジーの観点から見た働き方の未来という話ですと、21世紀の"働く”を揺るがすキーワードがいくつかあって、テクノロジーの変遷と働き方はすごく密接につながってます。

そのなかで3つ挙げるとすると、1つ目はインダストーリー(InduStory)。これ実は僕タイプミスから生まれた造語なんですけど、新しい産業革命がもたらす働き方、モノづくり、生活の変化が「どのような社会的な物語を生み出していくか」という問いです。

普通、産業があって人が働くのが通説だと思うんですけども、今ヨーロッパも日本も産業のオートメーションに変化が起こっていて、そのプロセスをどう透明化し、物語化できるか、というのが重要になってきています。ロジスティックスも含め、テクノロジーの進化で、工場での大量生産から、個人の欲しいものが作れるようになり、「メーカーズ(Makers)」の指す意味が「会社」から「人々」に変わっているのもそのひとつなんじゃないかと。歴史的に見ても、産業革命が起きたときにちょうど市民革命が起きてたりするんですよね。そう考えると、この新しい産業革命も、働き方にすごく変化を与えるんじゃないかと思っています。

2つ目は、ロボティニティ(Robotinity)です。これもまたアルスエレクトロニカが生み出した造語で「ロボットらしさとは何か」という意味なんですけど、テクノロジーの進化のなかで「人らしさとは何か」という問いも含んでいます。僕も今Skypeで話してますけど、自分のプレゼンスを遠隔で伝えるってすごく難しいと思うんです。人の技能をどう保存するか、人間の労働をロボットに置き換える作業も、AIに関してやシンギュラリティの話も含めていろいろ揺らいでいる。自動運転の車が開発されていますが、要するに移動するロボットと、これまでの移動しないロボットとは社会風景に与えるインパクトが全く違います。また、人の身体拡張として身体が不自由に人をサポートするロボットの開発も進んでいる。ロボットと人の関わり方っていうのも大きく変化していくでしょう。

一方で、ロボットを労働力として捉えると従来の仕事はなくなっていく部分もあるんで、そのなかで人間は一体何をしているのかっていうのは常に議論のポイントだと思います。

3つ目は、新しい生命感です。最近は病気を薬で治療するだけではなく、自分のDNAを解析することで、病リスクをマネージメントをできるような予防医療キットなどの開発も進んでいます。一方、合成生物学が発達していったときには、新しい種をつくることもできてしまう。このように、生命科学を軸に「自分とは何か」が揺さぶられる議論が増えてゆくでしょう。そういった技術が発達していったときに、働くこと以前に「生きていることとは何か」という問いとどう向き合っていくのかは課題になってくるだろうな、と思います。

最後に先ほどの産業革命の話に戻りますが、過去に産業革命が起きた結果、世界中で資源の競争が起こりましたよね。だけど21世紀の競争対象はおそらくクリエイティブリソースで、人的資源の獲得をいろんな人たちが企ててくるし、クリエイティブな人たちがいろんな国境とか越えて移動してくる時代になると思います。そういう意味で、ヨーロッパと比べて外的影響を受けづらい日本の場合、国ではなく都市が豊かにするという点ではとてもアドバンテージがある気がしていています。自然資源も豊富ですし。それから、僕はリンツにものすごくインスパイア(影響)されていて、そう考えるとメイドインリンツということだけでなく、インスパイアを与える町というのが価値を持っていると感じる。これからの自分たちの住処はどこか?どこで働くか?を考える時、自分たちが影響を与え、影響を与えられる、インスピレーションのソースとして街を捉えることが大事なんじゃないかと思います。そうやって自分たちらしく生きられる場所がどんどんできていくことに期待しています。


文 = 田中嘉人


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