プロジェクト管理ツール《Backlog》はリリース以降最大規模のリニューアルを実施した。より愛されるサービスを目指していくうえで、プロダクトマネージャーの縣俊貴さん、開発者の藤田正訓さんは一体何をしたのか。お二人のお話から、ヌーラボの“ユーザーとの向き合い方”が見えてきた。
導入企業数は4,900社以上。ヌーラボの手がけるプロジェクト管理ツール《Backlog》は、エンジニアを中心に多くのユーザーに愛されている。
《Backlog》は、ヌーラボが2004年の創業当初から開発を進めていたサービスであり、同社の成長を支えてきた存在といっても過言ではない。地道にコツコツと開発と運用を続けてきた成果こそが、まさに《Backlog》なのだ。
2016年12月、社内外から愛される《Backlog》が、リリースから10年目にして最大規模の大幅なリニューアルを実施。この思い切った決断を知ったユーザーからは、さまざまな意見が挙がった。
backlogのUIがリニューアルされた!カッコイイ!
— kkkzzz (@keizokeizo3) 2016年9月29日
新しいのかわいい|本日正式リリース!Backlogの画面が全面リニューアル、スッキリ・シンプルな新UIに。 - ヌーラボ [Nulab Inc.] https://t.co/huMcWYeZ5R
— あいぴょん (@aipppyon) 2016年9月29日
賞賛の声が多くあった一方で、「使いづらい」「慣れない」といった批判的な意見も少なからずあった。こういった意見は当然想定できたはず。では、なぜ《Backlog》は過去最大規模のリニューアルを行なうことにしたのだろうか?
今回、《Backlog》リニューアルの中心メンバーであるプロダクトマネージャーの縣(あがた)俊貴さん、ソフトウェアエンジニアの藤田正訓さんにリニューアルの舞台裏を伺った。インタビューを通して見えてきたのは、愛されるサービスをつくっていくためのプロダクトマネージャーの在るべき姿だった。
― 2006年にリリースされた《Backlog》が、2016年12月に大幅なリニューアルを実施しました。そのキッカケについて教えてください。
縣:
約10年間走り続けてきて、技術的な負債が溜まっていたという点は大きいです。
立ち上げ当初の《Backlog》はメンバーが好き勝手に機能を追加していて。ユーザーテストを行なって、ニーズが高ければプロトタイプをつくる…みたいな流れで、新しい機能を立て続けに実装していました。
たとえば、請求書の発行。特別な機能を組み込んで、何とかやりくりしてるような状態だったんです。実際、機能追加によって売上が2倍になったり、ユーザー数が増えたり、と、それなりに効果はありました。サービスとしては良かったのかもしれませんが、開発者の立場としては、途中からつくり直したい想いも出てきて……。
特にUIに関しては、今後さらに成長させていくうえでの足枷になってきているようにも感じていて。10年頑張ってきて、ここから先の10年でさらに改善していくうえでの下地になれるようなものをつくりたいと思いましたね。
― 《Backlog》にはたくさんのファンがいます。思い切ったリニューアルに不安はなかったですか?
縣:
「不安がなかった」と言えば、ウソになります。ただ、このまま変化しなければサービスとして緩やかに死んでいく。その危機感が不安をまさったので、勇気を持って進めていくことを決断しました。
― 具体的に、どういうことをしたんですか?
藤田:
2ヶ月くらいテスト期間を設け、新バージョンのβ版と旧バージョンの両方を使えるようにしました。ユーザーが意見を投稿できる場所も用意して。
縣:
リニューアルを成功させるうえで、既存ユーザーの驚きを最小化することが何より重要だと思ったんです。出社したらまず《Backlog》を立ち上げるというユーザーも少なくない。突然新バージョンに切り替わってしまったら、仕事を始める前に使い方に慣れなければいけなくなり、ものすごく学習コストがかかってしまう。そうならないために、リニューアル前後のバージョンを使えるようにして、少しずつ慣れてもらえる環境をつくりました。
― 実際にリニューアル後の《Backlog》を使用したユーザーの反応はどうだったんですか?
藤田:
最初の1ヶ月は、新バージョンを全然使ってもらえなくて、使用率は10%くらいでした。「このままではヤバい」ということで、目立つダイアログボックスをつくって、新バージョンのお知らせが表示されるようにしたんです。一気に使ってもらえるようになったのですが、比例して厳しい意見も多く届くようになりましたね。
縣:
ヘビーユーザーから「これは使えない」ときつい文体でフィードバックされるのは苦しかったですね。ただ、意見に関しては、単に慣れの問題なのか、構造的に問題があるのか、対応すべき問題なのかを、冷静に一つひとつ吟味することを心がけました。
代表的な例を挙げると、β版リリース当初から「文字の色が薄くて読めない」という意見をたくさんの方にいただいていました。リリースのたびに調整を重ねて改善していったのですが、それでもまだ色味についての要望がなくならない。どうしたものかと考えていたときに「○○というディスプレイを使ってるんですけど…」という、具体的な書き込みがあって。実際に同じメーカーのディスプレイで試してみたら、こちらが意図したのと全く違う色になっていて、確かに読みづらいんです。クリティカルな問題だと思ったので、東京オフィスと福岡オフィスにあったディスプレイを、デザイナーのいる京都オフィスへすぐに送って。そこからデザイナーが必死で妥協点を探って修正していきました。
その一方で、ダッシュボードUIの変更は判断が難しかったですね。最終的には昔のUIに戻したのですが、新しいUIが良いという人もいて……。
藤田:
あまり見ない情報はタブのなかに隠してしまう。自分がいつも使うところを集中して見れるようにしたのですが、「戻してほしい」という声が多かった。結果、メンバーで話し合って戻すことにしたんです。ただ、そのまま戻すのもつまらないので、見ない要素は折りたためるようにプラスアルファの機能を追加しました。
― ユーザーの意見に対して、対応するかどうかの判断基準はどのように設けていたのでしょうか?
縣:
大きな話をすると、経験とそれによって培われた想像力による部分はあります。慣れの問題なのか、それとも違った問題なのかが判断できるようになっていたのかもしれません。
具体的な話だと、ユーザーからの意見に対し、別のユーザーが投票できる仕様になっていたのは大きかったと思います。投票数はけっこうチェックしていましたね。5票ぐらいしか投票されていない要望もあれば、100票を超える要望もある。100票を超える要望は、対応すべき課題である可能性が高いわけです。一方で、書いてあることを鵜呑みにするのではなく、根本的な問題点はどこにあって、その解決策が妥当なのかは深く考えていました。
― 試行錯誤を経てリリースされた《Backlog》。あらためて、どのように感じますか?
縣:
フィードバッグのおかげでたくさんのことに気づけましたし、良いプロダクトができたと思っています。
自分たちが使った感想、ユーザーからのフィードバックをもとに、どこかで要件定義した方がプロジェクトとしては進めやすかったと思うのですが、最後の最後まであきらめずに修正を繰り返していたのが良かったかもしれないですね。
実はリニューアル前後のバージョンを切り替えられる状態って、当初は1ヶ月間を予定していたんですけど、β版をリリースする直前にその期間を2ヶ月に変更したんです。結果としては、それがよかったのかな、と。
藤田:
ユーザーからの意見をもとに《Backlog》の画面が2週間ごとにどんどん進化していく。それがおもしろくて好きになってくれた人もいたのではないでしょうか。
― プロダクトマネージャーとして、今回のリニューアルを振り返ってみて感じることはありますか?
縣:
ユーザーの日々の問題や仕事のやり方には、常に関心を持ち続けなければならないと感じました。《Backlog》は自分たちも使う製品なので、どこかで「一番のユーザーは自分たちだ」と思っていたのですが、全然そんなことはない。ドッグフーディングしているだけでは、良いものはできないんですよね。
ただ、何か特別なことをやらなきゃいけないというわけでもない。
ディスプレイの件もそうですが、ユーザーはいろんな環境のもとで《Backlog》を使っています。多角的な視点から物事を考えていかないと、ユーザーファーストなプロダクトをつくることはできない。プロダクトマネージャーはいくつもアンテナを張って、ユーザーの意見を収集するべきだと思います。
批判的な意見って好意的な意見を発信するよりも気力や体力を使うんですよね。だから、そこには何かしらの課題が あり、開発のヒントが隠れている。正直目をそむけたくなることもありますが、だからこそ意識すべき。すべての意見に開発のアイデアがあると思って、一つずつ丁寧に確認する作業をしていくことが大切だと思っています。
― 最後に、お二人にとって“ヌーラボらしさ”とは何か、お聞かせください。
藤田:
真面目、ですね。一気にゴールを目指そうとするのではなく、小さなことをコツコツと積み上げていく。そういう価値観の人が多い気がします。
縣:
それに加えて、楽しい、嬉しいといった感情面を大事にしている人は多いです。
たとえば、ユーザーからの「《Backlog》のゴリラにバナナをあげたい」という投稿に対し、社内の誰かが「ありがとうございます!!ゴリラに伝えたところ、大変喜んでました」と回答したら、ものすごく盛り上がったんです。これは特徴的な例かなと思います。
たぶん、真面目な人たちだけでは、すごく真面目なプロダクトができて終わってしまう。《Backlog》は働く人のモチベーションを上げていくことが目的のプロダクト。“どうしたら働く人は楽しくなるか”を考えています。その“ヌーラボらしさ”がもっともっとプロダクトから伝わるようにしていきたいですね。
― ユーザーと真摯に向き合う。その姿勢がプロダクトマネージャーに求められるものであり、サービスのファンを増やすことにつながるのだな、と思いました。今日はありがとうございました!
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