Googleとソニーの出身者によるスタートアップ『モティファイ』。従業員のモチベーション管理サービスを開発し、HRTech領域で注目される。ユニークなのは、CEOであるドリー・グスタボさんの経歴だ。ソニー、リクルートでデザイナーを経て起業。彼が「日本はどんどん失敗できるとても良い環境」と語った。
※DMMで開催された2018年2月に開催された「Creative X #1 今あるデザイナの危機に立ち向かう知識」よりレポートをお届け。語られたテーマはデザイナーにおける「ジョブチェンジ」と「スタートアップ」について。セッションは株式会社DMM.comラボ クリエイティブディレクタ 光岡いさおさんとの対談形式で行われました。本レポートではドリー・グスタボさんのコメントを一部抜粋、編集記事としてお届けいたします。
HRTechの領域で集めるスタートアップ『モティファイ』。率いるのはGoogleとソニーの出身者。現在、12名でオンボーディング(採用した人材の定着化・早期戦力化・離職予防)を実現するプラットフォーム『Motify』の開発を行う。それぞれが遠隔から作業したり、ミーティングに参加したりする、グローバルチームだ。
とくにユニークなのが、CEOドリー・グスタボさんの経歴とその考え方。ソニー、リクルートキャリアでデザイナーとして活躍。そこからモティファイを起業し、CEOに就任した。日本ではまだまだデザイナー出身者の起業家は多くない。こういった現状についてドリーさんはこう語る。
「デザイナーのなかにはずっとモノを作り、生きていきたい人も多いと思います。それであれば起業も選択肢になるはず。モノをつくるとき、自ら手を動かすだけではないですよね。つくれる人たちとチームをつくれば、もっとたくさんつくれるかもしれない。なので、UXデザイナーとCEOって本質的には何も変わらないと思います」
自らが理想とするチームや働きやすい環境を自らつくっていく。そんなドリーさんが大切にする生き方に迫ってみよう。
はじめにドリーさんが語ったのは、仕事選びの軸について。そこにはいつも「理想のライフスタイル」があったという。
仕事選びにおいて、どういった場所、文化に身を置くか、すごく大切な軸ですよね。ぼくの場合、性格的にも1つの場所に縛られるのは向いてない。じつは昔、バックパッカーだったこともあり、自由人でいたいと思っていました(笑)
たとえば、旅をしながら仕事ができるのが理想。ただ、ソニーで働いていたときにはプロダクトデザイナーだったのですが、なかなか自由な場所で働くことができませんでした。その時は年功序列もあったし、好きな働き方をするまで、出世を待っていられない。
その点、ウェブやアプリの世界での仕事って「場」に縛られることはあまりない。そう思ってウェブの業界での仕事を探し始めました。同時にビジネス戦略やユーザー体験にも興味があったので、リクルートのUXチームで4年ほどお世話になりました。
リクルートではかなり自由に働くことができたのですが、それだけでは満足ができなくなってしまったんですね(笑)なんだか日本人はみんな、あまり楽しそうに働いていない。とにかくみんなが楽しそうに働いているチームを、自分でつくりたいと思うようになりました。
ただ、いきなり起業するのはリスクも。そこでドリーさんは毎日仕事終わりの時間で、サービスの準備を進めていったそうだ。
「起業をしよう」と決めてから、仕事終わりの3時間で新サービスの準備を進めていました。すごく熱中できたのですが、本当に自分がやりたいことだったからだと思います。
準備をするなかで、大事だったのが事業ドメインとして何を選択するか。ぼくがいつも不思議に思っていたのが、どうして日本人は楽しく働いていないんだろうということ。
だからやるべきは「仕事を楽しむ人を増やす」ということ。ようやく自分が課題だと感じいていることをサービスへと落とし込める。そういった使命感のようなものに突き動かされていました。
事業に対する思い入れが強いと「早く実現したい」と思いも強くなるもの。ぼくたちは事前ヒアリングからプロトタイプ、ユーザーヒアリングまでのサイクルを高速でやっていきました。
続いてドリーさんが語ったのが、理想のチームについて。
日本企業だと「個人の活動に制限をかける」ということがよくあると思います。ただ、それは本当にもったいないこと。社員が個人活動をし、外で得てきたトライアル&エラーは会社全体のナレッジにできますよね。
モティファイだと、いま12人が所属しているのですが…じつは何も管理しません(笑)場所、時間、休み、すべて自由です。大人なんだから自分で考えて行動してね、と。
ただ、みんなの共通認識として持っていてほしいのが「責任」についてです。プロダクトがうまくいっていない時も、会社が潰れる時も、誰かのせいにはしない。みんなで責任を取り合っていく。
そのためにも、いま会社にどれくらのお金があるか。どのくらい儲けることができているか。全てオープンにするようにしています。情報を共有し、みんなで取り組んでいこうという風にしてから、あまり問題も起こらなくなったように感じています。
ここでひとつ、Facebook社におもしろい制度があるそうなので、ぜひ紹介させてください。たとえば、デザイナーやエンジニアが新しいサービスをつくるとき、ユーザーが10万人になるまで、マネージャーにOKをもらわなくてもいいのだといいます。つまり勝手に商品を出してもいい。それがルール化されているのだとか。
あとはデータを見ながらブラッシュアップし、もし上手くいったら、マネージャーに「僕が1人でやっちゃった。もっと拡大しましょう」といえばいい。仮に失敗したら「やったんだけど上手かなかった。別のところに同じ失敗をしないようにシェアしたい」と伝えていく。それも自分がプロダクトを見ていく責任ですよね。
最後に紹介したいのが、ドリーさんの「起業」に対する捉え方について。
ぼくは日本ってすごく失敗し放題だと思うんですよ。たとえば「就職」なんかがそうですよね。大卒だけみると就職率は90%以上。すごく強いセーフティーネットがあるといっていいと思います。世界でもトップクラス。そう考えると、一回失敗してダメだったとしても、もう一回トライしてみればいいと思います。
ぼくも失敗を恐れてモヤモヤしていた時があったのですが、尊敬している社長さんにいわれたのですが、「事業をやる人とやらない人の違い、それは、やるかやらないか」。ものすごくシンプルで、肩の荷がおりた感じがしました。
で、自分の預金残高を見てみたら「このお金だったら、1年ぐらい仕事しなくても生きていけるかな」と思って起業しました(笑)
もちろんこわいはこわい。だって、スタートアップってパラシュートをもたずに空に飛び込むようなモノだから。ただ、飛び込んでから、どうやって降りるか考えたらどうにかなると思います。だからとりあえず飛び込んでみる。降りる途中で、どれだけ学べるか。ここのほうが重要になってくるはずです。
(おわり)
文 = CAREER HACK
編集 = まっさん
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