2018.10.04
「勝てないと分かってからが勝負」タカヤ・オオタのポジション取り

「勝てないと分かってからが勝負」タカヤ・オオタのポジション取り

家入一真さんは「ロゴ制作は、彼以外に考えられない」という。CIデザイナーとして活躍する、タカヤ・オオタさん。経営者と対話を重ね、企業の歴史やストーリーを「ロゴ」へと転換する。同世代と自分を比べ、自信がもてなかった新人時代。彼が選んだのは、才能のない自分を受け入れ、勝ち方を考え抜くことだったーー。

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【連載】ぼくらの新人時代
「新人時代をどう過ごしていましたか?」テック業界のトップランナーたちに、こんな質問を投げかけてみる新企画がスタート。その名も、「ぼくらの新人時代」。知識もスキルも経験も、なにもない新人時代。彼ら彼女らは”何者でもない自分”とどう向き合い、いかにして自分の現状と未来を定め、どんなスタンスで学んできたのか。そこには私たちにとって重要な学びが詰まっていた。

「スタークリエイターたちに勝てる気がしなかった」

「デザイナーとして自分には何の才能もないって、ずっと悩んでいました」


彼からこの言葉が出てきたとき、なんだか少し気持ちが救われた気がした。売れっ子の彼にも、自信が持てず、何者でもない自分に頭を抱えたことがあったなんて。

お話を伺ったのは、デザイナーのオオタ・タカヤ (@198Q) さん。企業やプロダクトのブランドを体現していく「CIデザイン」の領域で数々の実績を残している。

スタートアップの経営者たちと1ヶ月以上もの対話を重ね、思考を深める。そして企業やプロダクトの思想や背景を、一貫した世界観やビジュアルへと落とし込んでいく。企業の「アイデンティティ」の土台をデザインしていく存在といってもいい。

2018年5月には女性向けコスメアプリ『LIPS』のリブランディング、6月には家入一真さんが率いるベンチャーキャピタル『NOW』のCIデザインを担当。「ロゴをお願いするなら、タカヤ・オオタさん」と、家入さんから直々にオファーがあった。


しかし、「デザイナー / アートディレクター」として芽が出るまで、自身のことを「平凡で、なんの取り柄もなかった」と振り返る。


「僕がデザイナーになったとき、周りを見渡せばスタープレーヤーはたくさんいました。めちゃくちゃウェブデザインがうまい人、ウェブも実装もできる人、UIに特化したスキルを持っている人。一方、僕にはこれといった強みは一切ない。彼らのことがとにかくうらやましかった」


オオタさんが選んだのは、空いている土俵を探して、自分ならではの戦い方を考え抜くこと。自信がなくてもいい。武器がわからなくてもいい。ニガテなことがあってもいい。唯一無二の「オオタ・タカヤ」という存在をつくれたのか。彼の新人時代に迫る。

タカヤ・オオタさんの写真

【プロフィール】タカヤ・オオタ デザイナー/アートディレクター
沖縄県沖縄市生まれ。立教大学経営学部卒業。ストーリー&コンセプトを重視し, CIを起点としたデザインを得意とする。ロゴはそれ自体がアイデンティティを有するのみならず, 周辺のクリエーティブと合わさることで総体として成り立つことを念頭に置いて設計を行う。ポートフォリオサイト : TAKAYAOHTA.com

[関連記事]「MERYらしさ」をデザインする。タカヤ・オオタが開拓する、CIデザイナーという生き方

一通りできるけど、コレといった強みがなかった

デザイナーとして仕事をはじめた当初、僕はmonopoというデザインファームに所属していました。ウェブも、UIも、広告も、幅広くデザインを担当していました。

一通りできるけど、デザイナーとして「これなら任せてください!」と言えるものがなくて...。自分に「強み」や「武器」がないことが、ずっとコンプレックスでした。他にも、めちゃくちゃウェブデザインがうまい人はいるし、デザインも実装もできる人もいる。TwitterやFacebookのタイムラインには、同世代デザイナーの輝かしい実績が溢れていました。彼らと自分を比べて、自分には才能ないな、何の取り柄もないなと...悔しさと憤りが入り混じった感情が胸の奥にありました。

もともと文系大学出身だったこともあって、どこか美大出身の人たちには敵わない...と負い目を感じていたんです。美術が得意だったわけでも、造形をつくるのが得意なわけでも、スケッチが上手なわけでもない。これから努力や経験を積んだところで、すでに活躍している彼らには到底勝負できないって。

タカヤ・オオタさんの写真

たどり着いたのは、「CIデザイナー」というポジション

でも、なによりもデザインの仕事が好きだし、 デザイナーとして生きていく以上、他の人よりも良いものがつくれるようになりたい。

なので、「どの領域なら自分に依頼してもらえるだろう?」と考えていました。いろいろと仕事を担当するなかで、あるとき企業のロゴ制作を担当することになって。そのとき、はじめて「CIデザイン」という領域があることを知りました。

どういう論理、筋道を立てて、ストーリーを作っていくのか。経営者と一緒に企業のビジョンやブランドの思想を一貫したビジュアルに落とし込んでいく。対話を丁寧に重ね、論理性と感性のバランスを意識して制作していくデザインは、僕に向いているんじゃないかなと思ったんです。

それに、スタートアップの領域だとまだCIデザインに特化してデザインをやっている人が少ない。打算的かもしれないけど、市場的にポジションが空いていたので、ここを極めたら勝負できるかもしれないって。同時に、自分が熱量を持ってやれると思ったので、ロゴ制作をはじめ、CIに関する仕事を積極的に担当するようにしました。

タカヤ・オオタさんの写真

失敗から学んだ、妥協しない仕事の作法

CIデザインをしているなかで、実は上手くいかないこともありました。期待していただいたアウトプットを出せなかったり、スケジュール的に余裕がなくなってしまったり...。なぜ失敗したのかを振り返ってみると、制作における「密度」という言葉に全てが集約されます。

例えば、「時間の密度」。最初は、なるべく沢山案件を受けようとしてしまって、ひとつひとつの制作において、十分に向き合いきれなかったことがありました。クライアントから「2日で作って欲しい」と依頼され、ちょっと厳しいなと思いつつも、「やります」って言ってしまったり...。「頑張るぞ」と気合いをいれても、現実的に1日でコンセプトを考え、1日でデザインをするのは、どこかで妥協が生じてしまう。厳しい時間内でやらないといけないというのは、自分への精神的な負荷もあるし、どんどん負のサイクルになる訳ですよね。

しっかりとリサーチをして、コンセプトを熟考して、ディティールまで仕上げるには、時間的な密度が必要なんだと、失敗から学びました。

あとは、「クライアントとの関係性の密度」ですね。ただの受発注の関係にしないこと。やっぱり自分達は制作会社で、いわゆる下請けだから、クライアントに歯向かってはいけないとか、何かおかしいと思う事があっても耐えなければいけない、みたいな風潮ってまだ少なくない。

もちろんお仕事をくれるのはクライアントだけど、僕はその代わりにアウトプットでお返しをしている訳ですから、立場に違いはないという姿勢でやっています。違和感があればうやむやにせずに議論を尽くして制作をする。相手がやりたいと言っていても、アウトプットのためにやらない方が良い事なら専門家の観点から説明することを心がけています。分かりやすく「クライアント」という表現を用いていますが、自分の中では、「パートナー」という感覚で臨んでいます。

タカヤ・オオタさんの写真

打ち合わせ以外の側面からも、相手を知ろうとすること

とくにCIデザインは、デザイナーも、クライアントも、そのテーマに対してどれだけ向き合ったかによってアウトプットが変わってきます。だからこそ、「コミュニケーション」の質が問われる。

ただ、僕はもともとコミュニケーションが得意なわけではなくて。言葉にできないこと、説明足らずに終わってしまうこと、相手の意図を汲み取りきれないこともたくさんあります。

本当は何が言いたかったんだろうとか、ああいうこと言ってたけど、それって実はこういうことが言いたかったことの上手く僕が引き出せなかった結果こういう表現だったのかもしれないとか...。

なので、打ち合わせ以外の側面からも、相手の考えていることを知ろうとするようにしています。あとはTwitterで普段どういう言動をしているのか、他の媒体ではどういうことを言っていたのかとか、そういうところを見て補う。

打ち合わせが点だとしたら、他の点を探って線にして繋いで、相手の思考をなるべく探るようにしています。あえて簡単な会話も、積極的にするようにしていて。なにげない一言からわかることもありますよね。

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クライアントとセッションをする

最近すごいハッて気付かされた言葉があって、僕がすごくお世話になってる人が僕の仕事は「セッションだ」と表現なさってたんです。それがとても腑に落ちたんですよね。

ただ単にクライアントから言われたことをするのではなく、自分自身でリサーチをして、分析、咀嚼する。その上でベストなものをご提案する。すると、相手との対等な関係が生まれていきます。

CIデザインの仕事は、自分自身だけでは成立しません。僕が単にデザイナーとして、かっこいいと思うから表現するだけでは作れない。クライアントも僕とお仕事させていただくことで、他の人とやっても生まれ得なかったデザインが生まれる。一緒にセッションしていくような制作をこれからも目指していきたいです。

タカヤ・オオタさんの写真


文 = 野村愛


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