2018.11.28
賛否両論を経て。「LINEメッセージ取り消し機能」実装の真相

賛否両論を経て。「LINEメッセージ取り消し機能」実装の真相

「LINEメッセージ取り消し機能はユーザーのためになるのか?」実装した際、社内では賛否両論があった。語ってくれたのは、LINEメッセンジャーのPM 入江和孝さん。そこには「誤爆後のトラブルを回避したい」というユーザーニーズに応えるスタンスがあった。

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LINEメッセージ取り消し機能のウラ側

※2018年11月6日に開催された「プロダクトマネージャー・カンファレンス2018」よりレポート記事をお届けします。

東日本大震災をきっかけに開発されたLINE。ローンチから8年目を迎える同プロダクトは、今や一部の国では生活インフラといっても過言ではないサービスに成長した。そんな世界的なプロダクトを支えている人物の一人が、入江和孝さんだ。

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入江さんはプロダクトマネージャーとして、LINEの「メッセージ送信取り消し機能」の開発を手がけた。

これは、誤って送信したメッセージを取り消せる機能。例えば、友人に誤ったメッセージを送信したりしてしまった場合、メッセージを取り消すことができる。

機能追加にあたって、社内では賛否両論があったそうだ。入江さんは当時をこう振り返る。

「このプロジェクト、私が入社してから最大級にもめた案件なんです。LINEは日本を含めた一部の国で生活インフラとして根付いている。そのため、“大切な約束が反故にされたらどうするんですか”とか、“いじめや犯罪の証拠が隠滅されたらどうするんですか”などという不安の声があがりました」

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一方で、誤送信をしてしまった人たちの「トラブルになる前にメッセージを削除したい」というニーズにも応えたい。

賛否両論が議論される中、どのように最終的な仕様に落とし込んでいったのか。入江さんは以下2つのテーマについて検討していったという。

・いつまでもトークが取り消せていいのか
・完全にトークが取り消せていいのか

「LINEメッセージ取り消し機能」意思決定のウラ側に迫る。

1分?48時間?取り消せるリミットはいつまで?

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まず「いつまでもトークが取り消せていいのか」について、どんな議論がなされたのだろうか。

社内会議では次のような意見がでてきた。

・「間違えたらすぐ気づくし1分とかで良いでしょ」
・「未読の間だけ消せるようにしよう」
・「他のサービスを参考にしよう」

でてきた意見に対し、入江さんはひとつひとつ検討をした。

・間違えたらすぐ気づくし1分とかでいいでしょ派に対する見解

「SNSでの失言は酔っているときにやりがち。消せる時間が1分しかないと、翌朝失言に気がついたときにメッセージを消せなくて困る。他にも、メッセージを送信した2時間後に自分が失言していたことに気づくケースもある。そう考えると、1分では足りないと思いました」

・未読の間だけ消せるようにしよう派に対する見解

「メッセージを消そうとしているときに既読になってしまったらどうするのか。また、“LINEグループのトークルームだと誰か一人でも既読なった場合はにするとメッセージを消せなくなってしまうのか。などのシーンを考えました。また、“絶対にみられたくないトークもあることでしょう。被害の拡大を抑えるために既読になってからでも消せるようにするべき”と考えました」

・他のサービスを参考にしよう派に対する見解

「メッセージを送信してからいつまで取り消すことができるのか、各社の仕様は公開されていませんでした。そこで、他のアプリだと送信してからいつまでメッセージを取り消すことができるのか実際に使ってみて確認したんです。その結果、アプリAは2分、アプリBは7分、アプリCは48時間であることがわかりました。しかし様々なユースケースを考慮すると2分や7分では短すぎ、48時間は長すぎると考えました」

「LINEの信用に関わる問題」消した痕跡は残すべき?

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では、もう一つの論点である「完全にトークを取り消せていいのか」に関してはどのような議論がなされたのだろうか。入江さんは続ける。

「結論からいうと、“○○さんがメッセージを取り消しました”という消去履歴が残る仕様にしました。これは誤爆した人のための機能です。ただ、検討していた当初は“跡形もなく消すべき”という意見と、“勝手に消えるのは気持ち悪いので消した痕跡を残しましょう”という2つの意見が社内会議でありました」

この2つの意見に対して、検討をおこなった。

・跡形もなく消すべき派に対する見解

「“誤爆した人は失言したことに気づかれたくない。だから、メッセージを消した痕跡を残したくない”という意見。こちらは送った人の気持ちを優先する主張です」

・消した痕跡を残すべき派に対する見解

「これはメッセージをうけとった人の気持ちを優先する主張で、同時にLINEの信頼にも関わる問題です。送信者の意図でメッセージを消したことを明示しなければ、LINEの不具合で消えたと誤解される可能性もあります。

“LINEっていつの間にかメッセージが消されちゃうから信用できないよね”、という不信感は避けたいです。」

「答えが出ない」意思決定に迷ったら初心に立ち返る

「いつまでもトークが取り消せていいのか」、「完全にトークを取り消せていいのか」について検討を重ねたが、どちらかだけでは最善の策はみつからなかった。そこで、この2つを組み合わせた仕様も検証したという。

例えば、「未読の間だけ消せる代わりに痕跡は残さない」「いつでも消せる代わりに痕跡は残す」などを検討した。

それでも、全てを満足させる仕様はないという結論にいたったという。そこで、入江さんは取り消し機能を追加する理由に立ち返ったそうだ。

「あらためて、取り消し機能を追加する理由を徹底的に突き詰めました。これまで、“送信相手を間違えて人間関係が壊れた”、“社外秘の資料を社外に誤送信してビジネス上のトラブルになった”というお問い合わせがありました。まずはメッセージ取り消し機能によって、そのような深刻な問題に対処する必要があると思ったんです」

「同時に、LINEをどのように使ってほしいのかを突き詰めて考えました。なんでもかんでも送信したメッセージを消してほしいわけではありません。LINEの信頼性を損なうことなく、絶対に消さなければならない失言だけ消せればいい。こうしたことを総合的に判断していきました」

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上記のような議論と思考を経て、

・送ったトークを取り消すことができる
・取り消した場合は痕跡がトークルームに残る
・24時間を越えると取り消しできなくなる

という今の仕様にLINEはたどり着いた。

リリース後は新たな送信取り消し機能を「使えない」と評するメディアもあった。しかし、「それは想定通りで、あえて頻繁に使えないと思われることを意図した」と入江さんはいう。

「いたずらや遊び目的で送信取り消し機能を使ってほしくありません。送信したメッセージを取り消したいというユーザーニーズは昔からありましたが、社内でも賛否両論あり、色々な意見が出ました。“24時間しか消せない”、“消したら痕跡が残ってしまう”など、誤爆した人にとっては不十分に感じられる機能かもしれません。送信取り消しはそれでもどうしても消さなければならない誤爆に対してだけ対応する機能です。それこそが、メッセージ取り消し機能の本質だと考えています」


文 = 田尻亨太
編集 = 大塚康平


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